442 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(4) 1/62016/01/19(火) 23:03:13.83 ID:kuoOGZrj0

ラクスのコンサート会場に来ていたキラは、観客の避難が終わるまでコンサート会場を守っていた。
「どう、ラクス。みんな逃げられたかな?」
「ありがとうございました、皆さま無事に避難できたようです。キラも早く…」
「うん。でも、ほかに人がいないか見てくるよ」
ラクスからの通信を切って、会場の近くを飛ぶ。人の反応は見受けられない。どうやら全員逃げられたようだ。
「さて…」
「ふ、観客を全員逃がしたか。見上げた志だ」
「誰?」
飛んできたのは"竜剣豪"なる奇天烈な文字がペイントされたアビゴルだった。
(やばい、この人ドモン兄さんの同類だ)
少なくともまともな人ではない気がする。特に根拠はなかったが、キラはそう直感した。
「私はゴッドワルド。この会場の制圧を依頼されていたのだが…君のおかげで逃げられてしまったようだ」
「なんだって?」
「まあいい、ガンダムの首があれば納得するだろう。…ガンダム殿、一手お願い致そう!」
「コンサートを台無しにしておいて、そんなふざけたこと…!」
やたらと豪華な装飾がされたビーム・サーベルを手にして襲い掛かるアビゴルから距離をとってスーパードラグーンを展開、一斉射撃をかける。
ミーティアと合体して放つハイマット・フルバーストほどではないが、弾幕の濃さは普通のMSとは比較にならない。
アビゴルの巨体では避けることは不可能なはずだった。
「甘い!」
それをゴッドワルドは一言で断じ、アビゴルはその巨体からは考えられない機動ですべて避け切った。
「なっ!?」
「武道の奥義、"見切り"。これにより、私はどんなビームも避けることができる」
「はあ!?」
そんなインチキ技でこの弾幕を避けられてはたまったものではない。当たってほしくない予感が的中した瞬間だった。
「そして、どれだけ距離をとられようとも…烈光飛翔斬!」
何もないところで相手がサーベルを振るう。身構えると、何かが飛んできた。――ビーム・サーベルのビーム部分だ。
「ほう、よく避けたものだ」
「なんなのさそれは!?」
「烈光飛翔斬…サーベルのビームを飛ばす、我が奥義が一つ!」
滅茶苦茶な相手だ。次は何が来るかわかったものじゃない。この状況でミーティアは呼べない。スーパードラグーンで弾幕を張る。
相手の言う通り避けられるだけかもしれないが、これで攪乱してビーム・サーベルで一撃を入れてやればいい。
「子供騙しの技は通じん!」
やはりすべて避けられたが、近づくことはできた。
「遅いぞ!」
相手が先をとることはわかっていた。シールドで防御する。いや、防御したはずだった。

443 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(4) 2/52016/01/19(火) 23:03:58.35 ID:kuoOGZrj0
「え…」
シールドが切られた上で、シールドで防御していたはずの左腕部分が落ちていた。
「私は一度の攻撃で剣を二度振るうことができる。これぞ我がさらなる奥義、疾風二連斬り!」
意味が分からなかった。想定外の出来事に行動が遅れ、それがあだとなる。気付けば相手は二回目の攻撃に移っていた。
「これで終わりだ!」
かわせない。こちらは運動性確保のために装甲を徹底的に削っているストライクフリーダム。一撃でも受ければ致命的だ。
「(やられる――!)」
死を覚悟したその瞬間、キラの頭で何かがはじけた。
「むうッ!?」
確実にとらえたはずの一撃がかわされ、ゴッドワルドは驚愕した。
「まさか貴様、ニュータイプ…!」
滅茶苦茶な技の連打によって乱れた意識が収束し、感覚が研ぎ澄まされていく。
「でええい!」
第二打が来るが、これも紙一重でかわす。
「二度も私の攻撃をかわすとは、やはり!」
「くっ…」
片腕で戦うのは正直辛い。しかし、ラクスのコンサートを滅茶苦茶にしたこの男は許せない。その憤りがキラの闘争心を燃やしていた。


意味不明な原理の技で強引に攻めるアビゴルと、その攻撃を避けながらチャンスを伺うストライクフリーダム。
下手に受けては先ほどの二の舞になるから、確実に回避するため大きく神経を使う。
「(これ以上長引くのはまずい…)」
極限の状態で相手の攻撃を避け続けなければならないストレスは大きな疲労となってキラを襲う。
ただでさえキラのコンディションに左右されやすいストライクフリーダムである。少しでも集中力を失うだけでもその影響は大きい。
これ以上避け続けても倒れるのは自分。そう判断したキラは勝負に出た。
「なにっ!?」
回避行動を中断。敵の攻撃に合わせ、致命傷にならない程度に機体を移動。
攻撃を受けた左肩から左足にかけ大きな損傷をうけたが、ブースターを使って体勢を維持しつつ突撃。
「たあああああ!」
アビゴルの胴体を、ビーム・サーベルが貫いた。
「肉を切らせて骨を断つか…見事! このような敵に巡り合わせてくれたこと、感謝するぞクラ――」
言葉は途切れ、ゴッドワルドのアビゴルが爆散。ストライクフリーダムはバランスを崩して地面に落下した。
コックピットのキラはそのまま荒い息を吐いていたが、しばらくしてようやく落ち着いた。
「し、死んじゃった…の…!?」
必死だったとはいえ、相手のことなどまったく考えていなかった。殺してしまったのか。キラの顔から血の気がひく。
MSから降りて残骸をあさる。まだ爆発してから時間が浅かったこともあり、相当の熱を持っていたがそんなことなど気にしていられない。
しばらくして、見つけた。コックピット付近の残骸だ。
「あ…」

444 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(4) 3/52016/01/19(火) 23:04:28.04 ID:kuoOGZrj0
刻印されていたのは、クラインカンパニーのロゴ。そして"あらゆる攻撃から身を守る、セーフティシャッター"の文字。
コックピットはこれで守られていた。これなら安心だ。キラは安堵のため息をついたが、すぐに町へ向き直る。
先ほどから減ってはいるものの、爆発音はまだ鳴り響いていた。
「のんびり、してられないよね…」
キラは半壊してしまったストライクフリーダムに乗り込んだ。家までだいぶ距離がある。
修理用の設備があるかはわからないが、とりあえず最寄りのシェルターへと向かうことにした。


――避難用シェルター付近。警官隊と有志のMSが守りを固めている。
突然の襲撃を受けた彼らは急いでシェルターの安全確保に向かったのである。
有志のMSのうちの一機スターゲイザーが、やってくるストライクフリーダムに気が付いた。
「キラ、無事…ってわけでもなさそうね。大丈夫?」
ボロボロのストライクフリーダムを見て、セレーネが言った。
「ちょっとやられちゃった。ストライクを取りに行こうと思ったんだけど…」
「あー、やめときなさい。この状況を片腕で乗り切るのは無茶だと思うわ。その様子だと、本当に守りたいものは守れたみたいだし?」
「う…」
いつも通りオタク向けショップを巡ってくると告げて出て行ったのだが、コンサートに行っていたことは見抜かれていたようだ。
「ね、姉さんこそD.S.S.Dは…」
「スウェン達がいるから問題ないでしょ」
「キラ! 今まで一体どこにいたの? それにガンダムが…」
聞いてきたのはNT-1でシェルターを守っていたクリスだった。
「ちょっとやられちゃってさ。修理とかできないかな」
「技術者の人もいるし、できないこともないだろうけど…」
「大丈夫よ。ここはいくらか攻撃が緩いみたいだし、私たちのほかにも守ってる人がいるから。
 ここはお姉さんに任せて、あなたはシェルターでいつも通り引きこもってなさい」
「でも…」
「デモもストもないの。あんたたちにもしものことがあったらみんな悲しむんだから。あんたのアイドルだって心細い思いしてるんじゃない?
 そばに行って励ましてきなさいよ。自称親衛隊の三人組がまとわりついてて鬱陶しいことになってるみたいだから」
「あの三人が…わかった、行ってくる」
珍しく姉モードになったセレーネに諭されて、キラはシェルター内へと移動した。

(アル、俺…完全に蚊帳の外だよ…)
ちなみに、バーニィもそのそばで戦っていた。クリスと共闘し助け助けられて深まる絆…などというものを少なからず期待していたのだが
肝心のクリスがセレーネと話してばかりで入り込めず、わずかに肩を落としていた。

445 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(4) 4/52016/01/19(火) 23:05:30.47 ID:kuoOGZrj0
――ソロモン幼稚園ではビグ・ザムが迫る敵の大軍を蹴散らしていた。
その近くに展開したガトーを除くデラーズ・フリートの面々とユニコーンガンダムは攻撃を逃れた敵を撃墜する。
「やらせはせん、やらせはせんぞォ!」
「すごいな、相変わらず…」
かつて"白い悪魔"アムロをも恐怖させたと伝えられるほどの気迫とビグ・ザムの威容にバナージが慄く。
そんなバナージをじろりと睨んで(バナージの側からも雰囲気でなんとなくわかった)ドズルが口を開く。
「小僧が、媚びでも売りにきたか。言っておくが俺はミネバがそんな軟弱な男と関わることを認める気はないぞ」
「そんなことのために来たんじゃありませんよ」
ドズルの嫌味をバナージは真っ向から否定した。ここに来たのは刹那が宇宙港に行っていたからだった。
弟の代わりにマリナと子供たちを守る。バナージはそのためにやってきたのだ。
「これでも兄貴なんです。弟が守れない時、代わりに守ってやるくらいはしてやらないと」
その言葉に、同じく弟を持つドズルも共感するものがあった。先入観に呑まれて嫌味を言ったことを恥じた。
「…その意気だけは褒めてやる。ミネバはやらんがな!」
「いつか認めさせてみせますよ!」
「言ったな、小僧!」
ナヨナヨしているように見えて、意外と骨のある男かもしれない。この日、ドズルはほんの少しだけバナージを見直した。


――日登商店街。
「…帰っていいかな、僕」
ボヤいたのはフリットだ。マリナを助けるべくM&Sにやってきたのだが、当のマリナは幼稚園のほうに居たためこちらにいなかったのだ。
「せっかく来たんだから最後まで付き合えよ、坊主!」
「ここで戦わずに何が男だ。逃げたら二度と整備してやらねえぞ!」
バーンズとバルガスが活を入れる。強力な日登商店街連合組合の活躍もあって、今のところ商店街に大きな被害は出ていなかった。
「そう言うけどさ…」

「貴様らのせいでお客様が来ない! せっかく作った菓子が売れない! 私の菓子が! 売れないんだ! どうしてくれるぅぅぅぅ!」
「これだけの数が居てわしにかすり傷の一つも負わせられないとは情けない奴らよ!」
「より取り見取り…なんて言うとでも思ったか、あたしとコウのデートをよくも!
「シーマさんから解放されて嬉しいような、喜ぶべきじゃないような…うう、とりあえず殲滅だああああ!」
「おめーら、シーマさまと未来の旦那に続けえ!」
「「おおーう!」」
「まさか本当にテロリストの相手をすることになろうとは…」
「MWで戦うことを…強いられているんだ!」

446 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(4) 5/52016/01/19(火) 23:07:26.60 ID:kuoOGZrj0
「そんなもん使うくらいなら隠れてろ、バイト!」
先陣を切って大暴れするウォルターガンダムとマスターガンダム。残った敵は他の組合員が殲滅する。
拠点は無傷で戦力的にも十分に見え、自分が出る必要はないのではないかと思うフリットだった。

「な、ん、で、じゃああああああ!」
一方ガンダム家では、ベルリのG-セルフが一人ぼっちの防衛戦を強いられていた。思わず集中線を出すくらい。
例によってドモンに山登りという名の修行に付き合わされた疲れから、ベルリはずっと部屋で眠っていたのである。
家人不在でこんな意味の分からない状況に放り込まれたためにベルリはほとんど半泣きの状態だった。
「この、寄るな、寄るなっての!」
ほかの目立つ施設に集中しているので、来る敵の数はそれほど多くない。
ヒイロと刹那が仕掛けた対変態(inMS)用トラップの助けも借りて、家の損害を最低限に抑えていた。しかしベルリは心細さと不安で涙目だ。
「なんでこんなことに、なんでこんなことに!」
そんな時、レーダーに反応があった。
「誰か帰ってきたの!?」
「ふはははは! 苦戦しているようだなあ、小僧!」
やってきたのはターンXだった。独りでなくなって嬉しいことには嬉しいのだが――ベルリはなんだか微妙な気持ちに襲われた。
「…月にいたんじゃなかったんですか。ていうかなんでここに」
「夕飯を馳走になろうと地上にいたらこうなっていた! 何が起きたのか小生にもわからんが、存分に戦えることに違いはない!」
「そーですか…」
「しかぁし! この家が攻撃されて吹っ飛びでもしたらローラの飯が食えなくなってしまう! だから守りに来てやったのだ! 感謝しろ!」
ベルリを心配しにきてくれたわけではないようだ。
「ありがとーございます」
棒読みになっているのが自分でもわかったが、助かることには違いない。
「小生が来たからにはこの家に手出しなどさせん! 行くぞ、小僧!」
「ベルリです、ベルリ!」
訂正し、ベルリとギンガナムは再び家の防衛に戻る。家族の帰る場所を守るために。


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最終更新:2017年05月24日 21:06