8クリーニング屋決戦編+α 1/112017/09/12(火) 19:25:09.86ID:7cjsK/PU0
前スレ816の続きでアルレットネタ。長くなったので連投規制もらうかも

一晩中大暴れしたアムロとシャアは明け方にガンダム兄弟や警察の襲撃を受け沈黙。
二人はまとめて拘束された。もはや天災に近い扱いをしている古参の人間はさして驚くようなことはなかったのだが、新参者のアルレットは違った。
出動後のロラン達をねぎらった後、彼女は仕事に行くといって家を出て――大急ぎで、ダントンクリーニング店へと駆け込んだ。


まだ開業すらしていないはずの仕事場に知人の姿を見つけ、店主ダントン・ハイレッグは顔をしかめた。
「なんでお前がいるんだ?」
「ダントン…」
知り合い――アルレットはダントンを視認すると、沈痛な面持ちで事情を説明しはじめた。
アムロびいきだと思われる家族の話と、自分がネオジオン社員であり、アムロよりシャアの味方ということなど。
その説明はアルレットの想像で構築された部分も多かったのだが、そもそもガンダム家の面々を知らないダントンにはわからない。
「仕方ないじゃない…私がサザビーを調整しました、なんて言ったら弟たちからどんな目で見られるか…」
弟妹達が家族として、身内であるアムロの勝利を願うのは当然のはずだ。しかし自分がネオジオン社員つまりシャアの味方で、しかもサザビーを調整した本人と知られれば。
とんでもなく居心地の悪い雰囲気になるのは確実。少なくともアルレットはそう思っていた。
実際は家族のほとんどはアムロの勝敗についてそれほど気にしていないのだが、そこは帰ったばかりのアルレット。
面識のなかった弟たちの顔と名前を一致させるのも苦労している身である。性格や思考まで完全に把握できていなかった。


「しょうもねえ」
そんなアルレットの悩みを、ダントンは一言で切って捨てた。
「そんなこと言ってたら役者はどうなる。悪役やってたらそいつは嫌われんのか。仕事は仕事、家族は家族だろ」
「でもせめて印象はよくしたいじゃない…」
アルレットも、突然できた弟妹に対しどういう態度で接すればいいのか計りかねていた。
アムロやセレーネは昔通りでいいのかもしれないが、ほかの兄弟はどう扱っていいものかわからない。とりあえずいい印象は与えておこうと思っていた。
「だからって、なんでうちで働いてることにするかね…」
「前から手伝うつもりだったから、別にいいかなって」
ダントンは昔からいろいろとややこしい事情を抱えたアルレットの面倒をよく見てくれていたので、少しは手伝いをしたいと思っていた。
「よくねえよ。お前には引っ越しの時に手伝ってもらっただけで十分だっての。あの時だって近所の兄ちゃんに余計なことをいろいろ話してたみたいだけどな
 お前は家族とのんびり暮らすべきだ」
「でも心配じゃない」
「ガキじゃあるまいし、心配しすぎなんだよ。そんなことよりお前が地下に隠してるアレ、いい加減引き取ってくれ」
このクリーニング店の地下には広大な空間がある。将来駐機場にでもしようかと考えているのだが、今はあるMAとテスト用のMSが置いてある。

12クリーニング屋決戦編+α 2/112017/09/12(火) 19:33:28.16ID:7cjsK/PU0

「その話なんだけど…もうしばらく場所貸してほしいなーって」
「なんで。身の回りを整理する少しの間だけ保管する約束だったろ?」
「思いのほかアムロが出世してた上に…他の子も他の子であちこちの偉い人とつながってて持ち帰れないの。少なくとも、本社で解析するまでは」
アルレットにとって計算外だったのが、家族にライバル社の重役やその親族等と懇意にしている者が多すぎたことである。
アムロやセレーネがラーカイラムやD.S.S.Dに就職していることは知っていたが、面識のないそれ以外の兄弟のことは全く把握できていなかったのだ。
地下に隠してあるMAはある事情からアルレットが本社で解析するために持ってきた新型で、あまり競合他社に近しい人間には見せたくないのである。
「なんてこった」
「本社のほうに運ぶように手配してもらうつもりだけど…いつになるか」
手で顔を覆うダントンに申し訳なさそうに言うアルレット。とはいえ意図したことではない。責めるのは少々酷か。
ダントン自身甘いと感じることもあるのだが、アルレットの外見が実年齢に比べ若いこともあって頭ごなしに怒るのはなんとなく大人げないように感じてしまう。


「あの、お取込み中すみません…」
そんな中、扉が開き――一人の少年が現れた。
「…悪いが、まだ開業前だ。来るならもうしばらく後に…」
立てかけてあるCLOSEの看板が見えないのかとダントンは苛立ち、声を上げたが
「フリット?」
アルレットが遮った。雰囲気のよく似た弟と名前を間違えていたが。
「アセムです」
そしてその間違いを、訪問客――アセムはすかさず修正した。

13クリーニング屋決戦編+α 3/112017/09/12(火) 19:35:08.68ID:7cjsK/PU0
「………」
「………」
数十分後のデマークリーニング店。休憩用のスペースに、店員たちにダントンとアルレットを加えた五人が集まっていた。
しかしその空気は極めて険しいものだった。主にテーブル越しに向かい合い睨み合っているダントンとデマーが原因である。
「(どうして…)」
「(こうなったんだ…?)」
アセムとアルレットは脳内でひたすらそう繰り返していた。

そもそも、どうしてこうなったのかと言えば。長兄とそのライバルの鎮圧作戦を終えて一息ついていた時のことである。
緊迫した様子のウルフの連絡を受け、アセムはバイト先のデマークリーニング店に向かった。
そこで見たものは、死に物狂いで暴れるバイト先の店長と、それを必死で抑えるウルフの姿だった。
「離せ! これは白を守るための聖戦だ!」
「だからダメですって!」
「…何があったんです?」
「おお、アセム! よく来てくれた! 悪いがちょっとあの新しいクリーニング屋の人呼んできてくれ!」
「ええええ!?」
前々から、近くオープンするライバル店に対し執念を燃やしていたデマーだったが、ここにきてついに攻撃を決意したらしい。
しかしウルフとしては、そんな面倒なことなんてやってほしくない。給料も下がるしご近所の評判だって落ちてしまう。まったくいいことがない。話し合いで解決したい。
そんなわけで、急きょ話し合いの場を設けることになったのである。しかし。


「…そいつは、正気で言ってんですか?」
「当然だろう。黒い奴め」
店についたダントンは、早速デマーと話をすることになった。荒事も辞さない態度だったデマーも、相手から提案してくるというのであれば応じるのもやぶさかではなかった。
そこまではよかったのだが、早くもダントンが苛立ちを隠さなくなってきた。これは別に彼が短気だからというわけではない。

「いきなり『店を引き払って町から出ていけ』…ってのは、ちょっとばかり品がないんじゃないですかね?」
そもそもダントン自身、礼儀や常識は弁えているつもりだったしデマーが商売敵である自分にあまり良い感情を抱いていないであろうこともわかっていた。
ダントンとしてはどうにかなだめて平和的な関係を築くつもりでいたのだ。だが、挨拶もなしにいきなり出ていけなどと言われては怒るのも無理からぬことだった。

14クリーニング屋決戦編+α 4/112017/09/12(火) 19:37:18.82ID:7cjsK/PU0
「ふん…お前にクリーニング店などできない。なぜか聞きたいか。いや返事は要らないな聞きたいだろうから教えてやる。つまり――お前は白くない! 白さが足りない!
 お前では完全な白にできない! なぜなら白くないからだ! わかるか!?」
細い目を最大限むき出しにして語るデマーだが、当然というかデマーの謎の理屈はダントンにもアルレットにも全く理解できなかった。
「俺にはさっぱり理解できないんだが…アルレット、わかるか?」
「いやさっぱり」
「それが理解できないから貴様らは白になれないのだ! 私を見るがいい。実に白だ。この店も白一色。MSも白。黒ずみ一つない、素晴らしい白だ」
あんたの肌は白ってより土気色だろ、という言葉をダントンはどうにか飲み込んだ。
あまりに徹底しすぎて逆に不気味だと思うほど白いこの店を見た時ダントンは店主の正気を疑ったが、ここまでの問答でそういうタイプの人間なのだと納得した。
そしてこういう手合いは大体において話が通じない。ということで、ダントンはターゲットを切り替えた。
「…そこの君たちは、どう思う?」
「え、俺…私ですか?」
いきなり話を振られた少し動揺しつつ自分たちを指さすアセムらの言葉を聞いて、ダントンは頷いた。
「俺に、クリーニング店の店主など務まらないと思うかな?」
「え、ええっと…」
「別に問題ないんじゃないかと思いますけど…」
デマーの顔色をうかがいながらも言い切った彼らに、ダントンは満足げに頷いた。満足げなのは賛同してもらえたからだけではない。話が通じる人間を見つけたと思ったからだ。
ダントンはそのまま、視線をデマーに移す。全く動じていなかった。


「あんたのところの従業員はこう言ってるんだが?」
「ふん…そいつらはまだ半人前。まだ白の端にすら届いていない…臼だ。臼で小麦を挽けば白い小麦粉ができるが…お前はその臼にすらなれんのだ」
「悪いが、言葉遊びをする気はないんだ。民主主義および資本主義的な観点からものを考えてほしいな。競合する店が出ることについては法令において何の問題もないし
 ここにいるあんた以外の人間は俺がクリーニング屋をやっても問題ないと思っている。俺が町から出ていく理由はない」
「………やはり、話し合いでの解決は難しいようだ」
デマーがゆらりと立ち上がる。
「おい、本気か? あんたが折れて俺が店を出すことを認めれば済むだけの話だろうが」
「俺は! 貴様を認めない!!」
「…ッたく、しゃーねえな。売られた喧嘩で正当防衛。俺に非はないからな!?」
「ちょっと二人とも…」
「場所は町外れの森。いいな」
「いいぜ。逃げんなよ!」
アルレットが止める間もなく、デマーは店の奥へ、ダントンは店の外へ出て行ってしまった。お互いにMSを取ってくるつもりだろう。

15クリーニング屋決戦編+α 5/112017/09/12(火) 19:39:45.36ID:7cjsK/PU0
「姉さん、喧嘩調停機とか持ってないの?」
「天才にも限界ってものがあるわ。…あの、sageビルダーっていうのを使えば何とかなるかも?」
「AGEビルダー…ね。今度見せてあげるからフリットの前では間違えないようにしてよ、怒るから」
「やっぱりというか、結局こうなるのか…俺の苦労はどこに…」
「俺たちも準備しましょうか…」
「ふ、二人も行くつもり?」
「そりゃ、止めなきゃいけないですからね」
「コルレル早いから苦手なんだけど…そうも言ってられないし」
そう言って、格納庫へ向かおうとする二人をアルレットが引き留めた
「待ちなさい!」
「え」
「ん?」
「…私がやるわ」
「へ?」
「気持ちは嬉しいけど、素人は後ろで待っててくれよ」
「弟達だけ行かせて私だけ見てるわけにはいかないわ。…心配しないで。やれるわ」
そう言って、アルレットも店を出る。ダントンの店に隠してあるアレを起動するのだ。


数十分後。町はずれの森に爆音が轟いた。
「この前はザク3、今度はドーベン・ウルフだ。まったく会社思いだよな、俺は!」
一人毒づきながら、実戦テスト用に持ち帰っていたドーベン・ウルフを駆るダントン。
インコムを射出しながら、MS離れした機動を見せる白い機影にビームの雨を降らせる。
「緑…カビのような緑だ。気色の悪い…貴様はやはり白ではないな…」
「気持ち悪いのはお前だ! ゴキブリみたいにチョコマカと動きやがって!」
しかしビームはすべて避けられる。相手の正体は新連邦社が販売するゲテモノMSシリーズの一機、コルレル。極限まで軽さを追求したMSである。
一説によれば、その重量はビームライフルの上に乗れるほど軽い。武器も装甲も捨てた軽量化によって得た機動力は折り紙付きで、ただでさえ重いドーベン・ウルフの攻撃はかすりもしない。
「この速さも白の証。カビたMSなどに捕らえることなど不可能…」
「ほざくなよッ!」
射出した腕から繰り出したビーム・サーベルの一撃もあっさりと避けられ、さらに腕の上に乗られた。

16クリーニング屋決戦編+α 6/112017/09/12(火) 19:41:30.92ID:7cjsK/PU0
「…ウソだろ…」
「これが白の力だ」
あっけにとられるうちに蹴り飛ばされる。
今の間合い。相手がまともな武器を持っていたらやられていただろうが、コルレルの装備が貧弱すぎてドーベン・ウルフの装甲を破れないのだ。
「さすが安心と信頼のネオジオン製だ、なんともないぜ。…とは、いかねえか…」
頭がぐらぐらする。蹴っ飛ばされた衝撃を完全に消すことはできないようだった。
めちゃくちゃになった感覚の中で必死に機体を起こそうとするが、回る視界は自分の体が何をしているのかも把握させてくれない。
「このままじわじわ嬲ってやる。恨むのなら、白になれない己を恨むんだな…」
これで終わりか。ダントンの視界が急に暗くなった。――目の前が真っ暗になるってのはマジなんだな。文字通り、お先真っ暗ってか。笑えねえ。
自嘲するダントンが違和感に気付いたのはすぐだった。いつまでも攻撃が来ない。モニタを見ると、薄暗い中で空を見上げ棒立ちになっているコルレルが見えた。
「なんだ…あのデカブツは…」
コルレルの見ている方へと視線を移すと、目が痛くなるような赤色が視界いっぱいに広がった。あの姿は、見覚えがあった。

「アハヴァ・アジール…!」
アルレットが地下に隠したMAアハヴァ・アジール。それが動いていた。そして唐突に通信が入る。
「昔。偉い人はこう言ったわ。"戦いは数だよ"って…でもね、私はそれ間違ってると思う。――戦いはやっぱり、範囲だと思うのよ!
 どれだけ数がいようが、敵軍を敵基地ごと一網打尽にする砲撃一発撃って黙らせれば問題ないじゃない!?」
「お前は何を言ってるんだ!? というかソレ、秘密にしなくちゃいけないんじゃなかったのか!?」
意味のわからないことを嘯くアルレットに通信機越しに吠える。自分は単なるテストパイロット。あのMAが世間に知られようが別に構わないが、アルレットはそうではないはずだった。

「ごめんなさい、ダントン。私やっぱりお姉ちゃんなの! 弟が困ってるのを見て見ぬふりはしていられないわ!」
アハヴァ・アジールから物騒な音がする。何かを展開するような、そんな音。砲台とか出てきそうな感じだ。もしや。
「待て、やめろ! 落ち着けアルレット! 今攻撃されたら俺まで巻き添えに…!」
「わかってダントン…仕方ないことなの。割り切らなきゃいけないことなの」
自分ごと吹き飛ばす気では。その考えに至ったダントンは必至で止めるが、アルレットは聞く耳を持たない。
割り切られる方の身にもなってほしいものだが、
「割り切ったつもりだったけど…やっぱり…咳と涙が出ちゃう。だって、女の子だもん!」
「お前、その年齢でその台詞はキツ」
咳き込みながら言うアルレットへのダントンのツッコミは光の中へと消えていった。二機のMSは、周囲の森ごと一瞬で消滅した。

17クリーニング屋決戦編 7/112017/09/12(火) 19:44:19.10ID:7cjsK/PU0
数十分後の日登警察署で、シローはアルレットと相対していた。
「…姉さんなら大丈夫だと思ってたんだけどなぁ…」
がっくりした様子でシローが嘆いた。
「ごめんなさい…頭に血が上っちゃって…」
「まあ、やったものは仕方ないけど…次からはもっと平和的に解決してくれ」
「うん」
「まあとりあえず、アセム達から事情は聞いてる。原因はデマーさんなんだって? 姉さんも災難だ」
「ははは…ところで、私やダントンは何か罰とかあるの…?」
「アセム達の話を聞く限りダントンさんは無実。状況によっては過剰防衛もあり得たけど。ただ、姉さんは少なくとも過剰防衛と器物損壊で罰金」
「そ、そんなので済むのね…」
「済んじゃうんだよ。MSを使った私闘や乱闘が日常的に起きてるせいで。…その半数近くに俺の家族が関わってるっていうのが頭の痛いところなんだけど」
「…ごめんねタロー」
「シローね、シロー。真面目なところで間違えないでくれ」
「ごめんなさい。ゴロ」
「シロー。…わざとやってないか、姉さん」
「そんなことないわ。ありがとう、シロー」
「はぁ…」
疲れた様子のシロー。朝はアムロ達の鎮圧で、今度はこれだ。疲れないほうがおかしい。
「とまあ、そういうことだから。以後気を付けるように。…まあ、デマーさん相手だとそう簡単にいかないかもしれないけど」
「努力するよう、ダントンにはきつく言っておくわ」
「姉さんもだよ…」
痛む頭を抑えながら、シローはそれだけ言った。

18クリーニング屋決戦編 8/112017/09/12(火) 19:47:53.16ID:7cjsK/PU0
「ただいまー…」
しばらくして警察から解放され、アセムとアルレットはようやく帰宅した。
「おかえりなさい。…なんだかお疲れみたいですけど、大丈夫ですか?」
出迎えに来たロランが心配そうに尋ねる。
「あはは…ちょっとね」
アルレットとアセムはそろって苦笑したが、もはや説明する気も起きないので後回しにする。
「帰りの時間がわからなかったので、夕食を先に頂いてしまってるんですが…」
「そんなの気にしないで。ところで玄関に見慣れない靴があったけど、誰か来てるの?」
「ああ、それは…」
リビングに通じる扉を開けると、いつものテーブルに見慣れぬ人影が一つ。
「む?」
「え」
「シャアさんが来てるんです。…って、遅かったですね」
粗末な嘘というものはあっけなく、いともくだらない方法で暴かれるもの。とはいえ、こういう形でバレるというのは想像していなかったなぁ。
アルレットは頭の片隅でそう思った。

「アルレット君じゃないか。なぜここに?」
「え、ええ。実家…でして」
アルレットの存在を完全に認識したシャアの問いに、視線を泳がせながらアルレットが答える。
「なんと」
「しゃ、社長はなぜこんなところに…」
アルレットの問いに、今度はシャアが視線を泳がせた。
「…夕べの騒ぎの件でナナイに怒られてしまってね…」
「アムロ兄さんと反省会だそうです」
アムロとシャアの前に並んでいる夕食が、ほかの兄弟たちと違ってお椀一杯の白米とメザシ一匹なのはおしおきの意味もあるのだろう。
「そ、そうだったんですか…アムロと…」
うちの家族との仲、あんまり悪くないのね――アルレットは心の片隅で安堵した。これなら言ってしまっても問題ないかもしれない。
「ところで」
今まで黙っていたアムロが口を開いた。
「なんでお前がアルレットね…アルレットのことを知ってるんだ?」

22クリーニング屋決戦編+α 9/112017/09/12(火) 21:43:38.04ID:7cjsK/PU0
「社長が自社の社員、しかも自分で呼び寄せた人間のことを知らなくてどうするというんだ」
当然と言えば当然の疑問に、シャアはあっさりと答えた。
「…なんだと?」

「彼女とは昔、サイド3で会った時からの縁でね。以来何かと助けになってもらっている。この度、病状の方がよくなったというので呼び寄せた」
「でも、姉さんはクリーニング屋で働いてるんじゃ」
「え、ええっと…」
ロランの疑問の言葉に、アルレットは覚悟を決める。こうなったらもうすべてを白状してしまおう。
「社長のサポートしてること言ったら嫌われるんじゃないかと思ってつい嘘をついちゃって…ごめんなさい」


「なるほど。じゃ、姉さんは本当はネオジオンの方で働いてるんですね」
「すごいじゃないか」
非難の声を覚悟しつつ頭を下げたアルレットの耳に届いたのは本人にとっては意外な、他者にとっては当然ともいえる言葉だった。
「…それだけ?」
「もっと褒め称えろって言うなら断るぞ。さすがに恥ずかしいし」
「いや…あの。ライバル社で、ライバルのサポートしてたわけなんだけど…」
「マイだってネオジオン傘下の会社で働いてるのに、今更そんなのがなんだっていうんだ」
「別に大尉…シャアさんが勝っても、俺たちあんまり気にしないしな」
「それはそれで兄さんショックなんだが」
「喧嘩のたびに賠償請求を叩きつけられる身にもなってくださいよ。そういうのは周りに被害出さずに喧嘩できるようになってから言ってください」
「…それを言われると何も言えん…」


「は、ははは…」
そうか、その程度。その程度の感覚だったのか。アルレットは、自身が弟妹の評価に過敏になりすぎていたことに今になって気付いた。
「っていうことは、あのMAもネオジオンの新型なんだね」
「………あ」
アセムの言葉に、アルレットは本日何度目かの硬直をした。
しまった。やっちまった。色々あったせいでアハヴァ・アジールで出撃していたことも、その重大性もすっかり抜け落ちていた。

23クリーニング屋決戦編+α 10/112017/09/12(火) 21:44:48.71ID:7cjsK/PU0
「あのMA?」
「違うんですか? 大きなネオジオンの社章が入ってる、すごい火力のMAだったんですけど」
アセムの言葉で、シャアはそのMAの正体に思い当たったようだった。写真とスペックだけは先に送っていたので、おおまかな外見も頭に入っているだろう。
「………あの、社ちょ」
「ふむ。アハヴァ・アジール…だったか。君によく馴染んでいるようだな」
「は、はぁ…」
「解析はネオジオン本社で行うとして…誰に実戦データを取らせるかどうか検討していたんだがね。何しろ、あのタイプのMAは操縦者を選ぶから難儀していたのだが。
 君に任せれば問題なさそうだな」
「あ、あの。私MSやMAの操縦はあんまり得意じゃなくて…」
昔(病弱ということもあったが)会社で散々適正のなさを指摘されたこともあって、アルレットは操縦にそれなりの苦手意識があった。
「しかしアセム君の口ぶりでは、相当な活躍をしたようだが」
「うぐ」
楽し気に言うシャアに、言葉を詰まらせる。弟に苦労させない一心で操縦していたので、あまりその時の記憶はなかったりするのだが。
「しばらくの間、君にはアハヴァ・アジールの使用試験を行ってもらう。変わったことをしてくれる必要はない。普通に使って、普通に試験データを送る。それだけだ。
 社のほうには後で私から通達しておくので、よろしく頼む」
ただでさえ派手な赤色なうえに巨大なのだ。あの場にいたアセム達以外の人間の目にも入っていることだろう。
こうなったら堂々とテストをさせよう、というわけだ。


「は、拝命いたしました…」
ぎこちない表情で、アルレットはそれを引き受けた。――アルレットがアハヴァ・アジールのテストパイロットとなった瞬間である。


24クリーニング屋決戦編+α 11/112017/09/12(火) 21:53:58.23ID:7cjsK/PU0
「もちろん、技術者としてネオジオンで働いてもらうことに変わりはない。君のような優秀で魅力的な人材を迎えられることを光栄に思う」
アルレットの肩に手を置き微笑みながら言うシャア。実の父や兄がそばにいるような、そんな安心感すら覚えた。
「社長…」


「(いつもああやって、無意識に女性をたらしこむんだからタチが悪いよな)」
「(本人にその気がないのが余計に厄介なんですよね…レコアさんもハマーン先生もそうだけど、可哀想に…)」
アムロ達が何やら言っていたが、そんなことは聞こえない。昔出会った時からずっと憧れていた人なのだ。
その人の役に立てる。素晴らしいことではないか。やる気がみなぎるのを感じて、アルレットは大きく頷いた。
「必ず、お役に立ってみせます!」
「期待しているよ」
アルレット・アルマージュの、地球での本格的な暮らしが始まる。この街に居る以上は厄介なことばかり起こるかもしれないが、そうならないかもしれない。
今後、彼女が一体どうなっていくのか。それは誰にもわからない。

終わり


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最終更新:2018年02月22日 07:38