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ロランの商店街巡り-2 1/32017/10/18(水) 22:45:42.41ID:OYDtwBBP0
一店分書いてみたので、様子見など兼ねてとりあえず一つ。
一度の投下で一店舗は少ないかな?
「ところで、最初に行く店は決まってるの?」
商店街まで車を走らせながら、ロランはフランに聞いた。
「うん。私もロランもソシエさんもよく知ってるところよ」
「そうなの?」
フランの指示に従ってしばらく車を動かし降りた先には、フランの言う通りの見知った店があった。
「ドンキーかぁ」
呟いて、ロランは特徴的なロバの書かれた看板を見上げた。
「ね。よく知ってるでしょ」
ドンキー。ロランとフランの親友、
キース・レジェの営むパン屋である。
「そうだね」
●
「ごめんなさい。
キースはいま接客中で…」
カウンターに立っていた
キースの婚約者、ベルレーヌに来訪の目的を伝えると、申し訳なさそうにそう伝えてきた。
「もうすぐ終わると思うんだけど」
「じゃ、待たせてもらってもよろしいですか?」
「もちろん、構わないわ」
「支店なんていつの間に作ったのかしら…」
「フランも知らなかったんだ」
「ロランこそ。割と来てるんでしょ、ここ」
「まあ…でもカロッゾさんのところで済ませちゃうことの方が多いし」
シーブックがいる都合上、どうしてもカロッゾの店のパンを食べる機会のほうが多くなる。すると自然に、ドンキーに来る機会も減ってしまうわけだ。
待っている間、商品を見て回る。
「どれもおいしそうね。何個か買っていこうかな」
「でも冷めちゃうんじゃない?」
「いったん、お屋敷に戻れば…」
「それはダメよ!」
「…なんでそんなに必死なの?」
キースが戻るまで、なんやかんやと話をしながら店を巡る。パンの出来を見るに、どうやら初心は忘れていないようだった。
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ロランの商店街巡り-2 2/32017/10/18(水) 22:46:23.86ID:OYDtwBBP0
「(あれから二年以上、だもんなぁ…)」
家を出て川で溺れかかり、ハイム家に拾われて。あれから色々なことがあった。
「ひィ!? ヒゲのパイロット!」
「え?」
突然の悲鳴が、過ぎた時間に思いを馳せるロランを現実に引き戻した。何事かと振り向くと、
どこかで見たような不健康そうな肌の男が驚愕の表情でロランを見ていた。
はて、誰だったか。いまいち思い出せず、フランもロランも顎に手を当て考えていると。
「あいつ…ミドガルドだっけ? 冬の宮殿を吹っ飛ばそうとした…」
ソシエの言葉で思い出す。ミーム・ミドガルド。元・反ディアナ、アグリッパ派に属していた月の官僚。地球でもあれこれ工作をしていた男だ。
「月の官僚がどうして…」
「わわわ、私を殺しに来たのか!? 文明の破壊か!? 目的はパン、パンなのか…!? でぃ、ディアナ様!
ディアナ・ソレル様!」
フランの問いなどまるで聞こえていない様子で、顔の作画を思い切り崩壊させてその場でじたばたと走り回るミドガルド。
少しは理性が残っているらしくパンが陳列されているところには行かないようにしているようだったが、少し滑稽に見えた。
「お、落ち着いてくださいよ。善良に生きてれば何もしませんって!」
「そ、そうなのか…そうなのか…?そうだな、目が赤くないうちはまだ…」
ロランがどうにかなだめると、ミドガルドは次第に落ち着きを取り戻してきた。それでもまだ意味のわからないことを言っていたが。
「またか支店長! 客が驚くからいい加減…」
そして騒ぎを聞きつけて、店の奥から出てきたのは。
「て、店長!」
「
キース」
「ロランにフラン! それにハイム家のお嬢さんじゃないか。三人そろってどうしたんだよ」
"ドンキー"の店長、
キース・レジェであった。
●
「いの一番にうちに来てくれるってのは嬉しいね。やっぱ、持つべきものは親友だな」
ここに来た経緯を手短に説明されると、
キースは嬉しそうに言った。
「一番取材しやすいからね」
「それでは店主の
キース・レジェ。何か言うことは?」
「言うこと…って」
「アピールポイントよ。特色とかさ」
「いきなり聞かれても困るって。…でもそうだな、『どこの人にも好かれるような、美味しいパン売ってます』ってところか」
いつでも、だれにでもパンを提供する。
キース・レジェの信念のあらわれだ。
「どこの人にも、か…そういうふうにできてると思うよ、これ」
「うん、とっても美味しいもの」
ロランとソシエが口々に言うと、
キースは少し照れた様子だった。
「お嬢さんと親友にそう言ってもらえると心強いよ」
104通常の名無しさんの3倍2017/10/18(水) 22:50:24.48ID:OYDtwBBP0
「ところで、なんでミドガルドさんがここに?」
「騒乱起こした罪で職がなくなったからまた雇ってほしいって頼んで来たんだよ。いまは月で支店を任せてるんだ」
ミドガルドを見やって、
キースが言う。再就職時のみじめな自分を思い出したのか、ミドガルドは少し赤面していた。
「月で
何があったのか知らないけど、ホワイトドールとスモーが怖くて仕方ないらしい。ちょっと見るだけで大騒ぎさ。…ロラン、何やったんだ?」
どうやらこの程度の狂乱は今に始まったことではなかったらしい。そばで狂乱されてもベルレーヌが落ち着いていたのはそのせいだったようだ。
「知らないよ」
ロランがやったのは必死になって戦艦を押し返しただけ(その時に月光蝶らしいものが発動していたらしいことは、後でソシエ達に聞かされた)で、そのあとのことは知らなかった。
知っているのはハリーに"ディアナの法の裁き"を受けたらしい、ということだけだ。
「ていうか今さらっとすごいこと言わなかった? 月に支店って…」
混乱状態が解け、ようやく状況を飲み込んだフランが問いかけた。
「ああ。好評なんだぜ。地球のパンがいつでも食べられるって。支店長も有能だしな」
「有能…?」
先ほどの狂乱ぶりと以前の暗躍を思い、ソシエはいまいち信用しきれないといった顔だった。
「こ、コホン。…まあ、なんだ。私が経営しているのだから当然といえば当然ですな」
ようやく落ち着きを取り戻し、崩壊した顔も普段の胡散臭いしかめっ面に戻したミドガルドが咳払いなどしつつ言った。
「ま、あれを見ると信じられないのもわかるけど。でもテテスさんもいるからな」
「テテス…テテス・ハレさんですか?」
地球で少しもめたことがある、月の下層出身の女性である。
「ああ。元気にやってるらしいぜ。ロランに会ったらよろしくとさ。積もる話もあるみたいだし、今度会いに行ってやれよ?」
「そうします」
「…なにかあったの?」
「キエルお嬢さんと行動してる時に、ちょっと…」
「ふぅん。本当かしら」
ソシエはなぜか少し機嫌が悪そうだったが、いつものこととロランは流す。
その様子を
キースもフランも呆れた様子で見ていた。
「月と地球の新たな架け橋ね…次は火星にでも進出するの?」
「まだそこまで考えちゃいないけど。コロニーでも木星でもどこでも、やれたらいいよな」
「地球から宇宙の果てまで、行けるところまで行こう…って感じ?」
「ああ。夢があっていいだろ」
ロランの言葉に、
キースは笑ってそう返した。
続く
最近スレの動きが止まってたので、反響多くて嬉しい限りです。
なお、個人経営とかそれっぽいところでネタが思い浮かんだらとりあえず商店街管轄扱いにするつもりなので
「それは違うだろ」な場所が出ても苦笑して迎えてくれると幸いです
最終更新:2018年09月17日 11:45