777 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:15:03 ID:???
アル「コウ兄ちゃん、乾いたよ。見て見て!」
コウ「おー、よく塗れてる。アルはもう、すっかり筆塗りもエアブラシを使うのも、上手になったね」
アル君が完成したプラモデル、ザクⅡF型をお茶の間に持ってきました。勇ましくテーブルに立つ1/100スケールのプラモデルの塗装に感心して、コウ兄さんが見入っています。
アル「へっへー。コウ兄ちゃんが教えてくれたからね」
コウ「このスパイクの淵のスミ入れが、いい味出してるよ。細すぎず、太すぎず、いい陰影になってる」
アル「そこ、継ぎ目を消すのが難しくてさ、一番力を入れた部分なんだ。さすがコウ兄ちゃん、見るとこ違うね。
今日はバズーカ持たせて飾るから、兄ちゃんフルバーニアンを貸してくれない? ジオラマみたいにしたいんだ」
コウ「うん、いいよ。じゃあ、部屋に行こうか」
ガロード「このっ、上等だ、やってやるぜ!」
キラ 「やめてよね、ナチュラルが最高のコーディネーターであるこの僕に歯向かうなんて、見苦しいよ」
カミーユ「貴様ら、このオレにぶつかって。かかってこい!」
刹那 「これより紛争に介入する。……俺は真の
ガンダムに近付いてみせる!!」
ジュドー「うっとおしいんだよ! あんたらはっ!」
コウ「うわ始まった。アル、早くザクを持て。逃げるぞ」
アル「うん」
シン 「ちっくしょおおおおっ!」
ウッソ「なにするんですか!」
ドモン「よーし、覚悟はできてるんだろうな」
ヒイロ「くっ、……やるな」
コウ「アル危ない!」
アル「うわあああっ」
778 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:15:30 ID:???
ドモン兄さんの大きな体がアル君にぶつかりそうになったので、コウ兄さんは咄嗟にアル君をかばいました。
ドモン兄さんの大きな背中が勢いよく当たり、ふたりとも勢いよく倒れ込んでしまいます。
コウ「アル、大丈夫か?」
アル「うん、平気。……ああっ!!」
床に転がるプラモデルを見て、アル君は愕然とします。プラモデルは無残にもバラバラになり、割れていました。
アル君が力を入れて塗装した肩の部分は、特に見るも無残に割れています。たくさんのトゲが床に飛び散り、そのいくつかは、潰れていました。
それをよそに、お兄さんたちの喧嘩は止まりません。
アル「ひどい……。こんなのって……、ひどいよおおおおっ!!」
コウ「アル、待ってくれっ」
コウ兄さんの呼び止める声も聞かず、アル君は家を飛び出して行ってしまいました。
コウ「ザクが……。あんなにアルが一所懸命に作って、改造して、塗装してたのに」
コウ兄さんは、散らばったプラモデルの残骸を拾い集めます。兄弟喧嘩に巻き込まれて自分が蹴られても、叩かれても、それにかまわずにパーツを拾い集めました。
アル君が嬉しそうに工作していた姿が脳裏をよぎります。
コウ「アルが、やっと手に入れたMGモデルだぞ……。
少ないお小遣いをコツコツ貯めて、自力で買ったものなんだぞ……。それを、それを……。
だめだ、これは許せない……。これは許せない……っ!」
コウ兄さんは、集めたパーツを部屋の隅へ大事に置くと、ゆっくり立ち上がりました。
兄弟たちは取っ組み合って大乱闘の様相を呈しています。
コウ「貴様らがああああぁぁアアアぁぁぁぁァァァっっッ!!」
怒髪天を突いたコウ兄さんは、近くにいたドモン兄さんにタックルしました。ラグビー部で鍛えられた肉体は怒りによって何倍も力を増し、キングオブハートの異名を持つドモン兄さんを突き倒してみせます。
ドモン「何しやがる!」
コウ 「消し飛べええええええぇぇぇぇっ!!」
ヒイロ「コウ兄さんの顔が……、変わっている」
普段は温厚なコウ兄さんが狂戦士へと変貌し、暴れていた全員を敵にまわして、大喧嘩しました。
779 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:16:12 ID:???
シーマ「おや、あんたはコウんとこの坊やじゃないか。こんな夜更けに独りでどうしたのさ」
アル 「兄ちゃんたちなんか大っ嫌いだ。もうウチになんか帰らない」
シーマ「おやおや、泣いてるのかい?」
アル 「泣くもんかっ。シーマさんには関係ないんだから、あっち行ってよ!」
シーマ「困ったねえ、どうしたもんかねえ」
シャア「ついにキミも、ときめきの新世界に足を踏み入れたか。ようこそ
シーマ・ガラハウ、歓迎するよ」
シーマ「冗談じゃない。誰があんたと同じになるかってんだい」
シャア「ははは。それはさておき、アル君とふたりで、何をしているのだね?」
シーマ「それがあたしにもさっぱりでねえ。坊やはもう、家には帰らないって言うんだよ」
シャア「そうか、それは困ったな。アル君、なぜ帰りたくないのかな?」
アル君は、ぽつりぽつりとわけを話しました。
すぐ喧嘩になる兄さんたちへの不満。
ガンダムの話ばかりで、ちっともザクの話をしてくれない兄さんたちへの苛立ち。
やっと買ったザクを壊されてしまい、もう我慢できない怒り。
変態仮面さんとシーマの姐さんは、アル君が話しを終えるまで、黙って聞いていました。
シーマ「坊やは悪くない。でも家を飛び出してしまったのは関心できないねえ」
アル 「なんだよ、もうほっといてよ!」
シャア「待ちたまえ。ならば、ここはひとつ、私に任せてはもらえないかな」
シーマ「あんた、変態なことを考えてたら……、ぶつよ?」
シャア「手厳しいな。まあ、少し待っていてくれたまえ」
変態仮面さんはアル君とシーマの姐さんから離れると、懐から携帯電話を取り出しました。
それからほうぼうに電話をかけて、何かお話しをしています。
シーマの姐さんはアル君にジュースを買い与え、とりあえず足止めです。
ジェシカ(ハイム家使用人)「おやまあ、あんたら隠し子がいたのかい。へえ、そういう仲とはねえ」
シーマ 「よしとくれよ。あたしはコウの子供を産むんだ。なんでこんな変態の三倍なんかと」
ジェシカ「そうかい。もう9時過ぎだよ。小さい子は早く帰らせておやり」
シーマ 「分かってるよ。ほら、行った行った」
780 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:16:44 ID:???
シャア「やあ、待たせたね。シーマ、少し耳を貸してくれないか?」
シーマ「ぶつって言ったろ?」
シャア「ははは、私は信用がないな。なあに、ちょっとした内緒話さ」
変態仮面さんはアル君には聞こえないよう、シーマの姐さんに何かを耳打ちをしました。
その後、シーマの姐さんはコッセルさんを呼びつけ、アル君を変態仮面さんに預けると、どこかへ去ってしまいます。
シャア「ではアル君、行こうか」
アル 「い・や・だ。アムロ兄ちゃんやロラン兄ちゃんに迷惑ばかりかけてる人に、誰がついてくもんか!」
シャア「いいから来たまえ」
アル 「やめろ、離せ! 家には帰らないっ!! わあ、誰か助けてーっ!!」
変態仮面さんはアル君を抱きかかえると、車に乗せて走り去りました。
ご町内は、アル君の行方不明に大騒動となりました。
アル君に似た悲鳴が聞こえたという情報から、誘拐の線もあると、警察が動き出します。
シロー兄さんの狼狽ぶりは顕著で、
ハロ長官に直談判して08小隊を捜索隊に加えさせたほどでした。
仕事中だったアムロ兄さん、セレーネ姉さん、マイ兄さんは急遽、会社から飛んで帰ってきます。
お隣のクリス姉さんは、最近のアル君の様子がおかしかったのを知っていたため、自責の念に捕らわれて泣いてしまいまいました。それに釣られてシュウト君も泣いてしまい、キャプテンがなだめます。
兄弟たちは、アル君の無事を願い、必死に捜索しました。
やがて、
ガンダム家に電話の音が、ぷるぷるぷるぷる~♪ と鳴ります。
アムロ兄さんが受話器を取ると、シーマの姐さんの声が聞こえました。
781 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:17:13 ID:???
シャア「さあ着いたぞ、降りたまえ」
アル 「何ここ。真っ暗で何も見えない」
周囲は暗闇に包まれています。耳を澄ましてみても、とくに目立った音は聞こえません。
不安になったアル君は一歩あとずさりました。
変態仮面さんの素行は、いつも見ているのです。信頼などできるわけがありません。
シャア「怖がらなくてもいい。なあに、きみを取って食いはしないさ。……やってくれ」
変態仮面さんの合図と共に照明が一斉に焚かれ、その眩しさにアル君は目を閉じてしまいました。
シャア「目を開けてごらん」
アル 「……すごいっ」
アル君は息を呑みました。
自分がいる場所は、どうやら巨大なドームのようです。そこにはたくさんの大きなMSが立ち並んでいました。
そう、そのすべてが本物のザクだったのです。
ザクの搭乗者が、それぞれの機体の足元に立っていました。
782 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:46:34 ID:???
シーマ「この機体にはイヤな思い出しかないから、できれば乗りたくなかったんだけどねえ。
でも、コウんとこの坊やがあんなに傷ついてたら、捨て置けないじゃないか」
シーマの姐さんはザクⅠの足元で、そう言いました。
アコース「坊主、たまにはおまえも蒼い巨星に遊びにきてくれよ。ジュースおごるぞ」
アコースさんはザクⅡJ型の足元で、そう言いました。
ルナマリア「アル君~? シンから連絡あったわよ~。
俺のせいだーって、そりゃあもう取り乱しちゃって、可愛いったら」
ルナマリア姉さんはザクウォーリアの足元で、そう言いました。
ミネバ「アル、元気ないな。大丈夫か?」
ドズル「フン、卒園生が泣いていると聞けば、どこへでも駆けつけるわ。
まして、赤い彗星から頭を下げられてはな」
ドズル園長とミネバちゃんはドズル専用ザクⅡの足元で、そう言いました。
アル 「園長先生。ミネバも……」
バーニィ「ようアル。クリスが血相変えて街中でアルを捜し回ってるぞ。
真剣に話を聞いてやってればって、泣きながら後悔してな。あとで家に行ってやれよ?」
バーニィはザクⅡ改の足元で、そう言いました。
アル 「バーニィ……」
シャア「アル君。なにぶん急だったからね、集まれたのはこれだけだが、後ろを見てごらん」
アル 「シャアザクっ!」
すぐ背後に巨大なMSが立っていたのに気付き、アル君は呆気に取られながら見上げてしまいました。
シャア「お兄さんたちは悪い。だが反省して、キミを探しているそうだ。
ここに集まってくれた皆に免じて、どうか許してやってはくれないかな」
アル 「許すもなにも……。すごいよ、こんなの……すごすぎる」
居並ぶザクの迫力に、アル君は瞳を輝かせながら見回します。
いつの間にか、お兄さんたちにプラモデルを壊された怒りの感情から、感動へと変わっていました。
シャア「アル君、これから皆でMSに乗って散歩をするのだが、……来るかい?」
アル 「行きたいっ」
シャア「そうか。ならば、乗りたい機体を選んでくれたまえ」
アル君が悩みに悩んで決めた機体は……、
シャアザクでした。
783 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:47:12 ID:???
アル 「さすがチューンされきったシャアザクだよっ。すごい機動性!」
シャア「ははは、昔はこの機体で、よくアムロとやりあったものさ。
アル君。キミのおかげで、私は忘れていた感情を思い出せた。礼を言う」
巨大なドームから解き放たれたザクたちは、ひと気のない山にやってきています。
アル君のために集まってくれたたくさんのザクたちは、思い思いにジャンプをしてみせたり、ポーズを取ったりして、アル君の目を楽しませてくれていました。
シャア「少々Gをかけるぞ。しっかりと?まっていてくれたまえ」
変態仮面さんの脚に挟まれるかたちでシートに坐っていたアル君は、シートをしっかりと握ります。
それを確認した変態仮面さんがバーニアを噴かすと、シャアザクが空高く跳躍しました。
強烈な加速性にアル君は歯を食い縛ってこらえます。ですが、決して目は閉じず、モニターから見える夜景を見ました。
遠くに聳え立つ摩天楼は隣町の大都市でしょう。アル君は感嘆の声を上げました。
地上から、バーニィが搭乗しているザクⅡ改が手を振ってくれています。
変態仮面さんは、シャアザクの右腕を振って、それに応えました。
アコースさんのザクⅡJ型とルナマリア姉さんのザクウォーリアが、両手を組んで力比べをしています。
シーマの姐さんのザクⅠが、いろいろな動きをしているのも見えます。
タックルをする構えをしてみせたり、マシンガンを射つ構えをしてみせたり、ジャンプしてトンボをきってみせたりと、とても上手に機体を操っていました。
どうやら園長先生のザクⅡに乗っているミネバちゃんの目を愉しませてくれているようです。
ドズル「こうして貴様と肩を並べる日が来ようとはな」
シャア「光栄です、閣下」
アル君にはふたりのやりとりの真意は分かりませんでしたが、ふたりとも、とても愉快そうな口調でした。
ミネバ「アルが羨ましいぞ。父上、わたしも空を飛びたい」
ドズル「ミ、ミネバは危ないから駄目だっ。MSに乗せているのも、ゼナには内緒なのを忘れないでくれよ!?
事が発覚したら、ゼナに叱られるのは、この父上なんだ」
園長先生のどぎまぎした態度がおかしかったアル君は、声をたてて笑いました。
シャア「どうかね、まだ速度を出せるが、キミは大丈夫かな?」
アル 「兄ちゃんたちの機体にだって乗せてもらってるんだから、これくらい平気だよ」
シャア「それは頼もしい返事だ。では」
変態仮面さんは、バーニアをもっと噴かすと、さらに天高く昇っていきました。
あっという間に地上にいるザクが豆粒くらいになり、アル君は感激しました。
今宵は満月です。月光に照らされたシャアザクが、夜空を駆け抜けます。
長い長い滞空時間にアル君は大興奮し、何度も何度も歓声を上げました。
784 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:47:43 ID:???
散歩を終えて巨大ドームに帰ってきたアル君たちは、お迎えに来ていた人物を目にしました。
アル「アムロ兄ちゃん」
アムロ兄さんは何も言わずにアル君のもとへやってきます。
そして、
思い切りアル君を引っぱたきました。
シャア「待て、アムロ」
変態仮面さんの制止など耳に入らないアムロ兄さんは、鬼の形相でアル君を睨みつけています。
アル君のほっぺは、もみじのような手形ができるほど、赤くなりました。ですがアル君は、ほっぺの痛みより、心が痛くなりました。
悪いのは兄さんたちです。でも家を飛び出して、心配をかけてしまったのは自分でした。
アムロ兄さんは怖い顔から一転、大きく息をついて安堵の顔になると、跪いてアル君を抱き締めました。
アムロ「無事でよかった……」
たったひと言、アムロ兄さんは、そう言っただけでした。なぜなら、
アムロ兄さんが、泣いたからです。
アル「アムロ兄ちゃん、ごめんなさいっ」
アル君はアムロ兄さんの首に抱きついて、自分も泣きました。
シーマ 「こういうしみったれたのは苦手だよ。でも、あったかいねえ」
ミネバ 「皆との散歩というのも、よいものだ。父上、またやろう。今度はハマーンも誘うぞ」
シャア 「いや、それは……」
ドズル 「今回は嘘をつけたからよいものの、MSで散歩などゼナが許してくれんよ」
バーニィ「もっと多くのザクを集めて散歩したら、壮観だろうだなぁ」
ルナマリア「我らはアルフレッド・フリート! なんてね♪」
アコース「一件落着だな。さて、店に戻るか。皆さん、打ち上げするならウチへ来てください」
アムロ「さ、帰るぞ。みんなアルに謝りたいと言って、帰りを待っている」
アル 「うん」
アムロ「コウがな、ドモンたち全員を相手に喧嘩をしたそうだ。それはもう凄かったらしいぞ」
アル 「あのコウ兄ちゃんが?」
アムロ「アルの代わりに闘ってくれたんだろうな。あとでお礼を言うといい」
帰宅したアル君を見つけて、クリス姉さんとシュウト君がアル君に抱きついて、泣きじゃくりました。
喧嘩をした兄さんたちへのわだかまりが完全に消えたかと問われれば、素直に首を縦には振れませんが、心底から反省している兄さんたちを、アル君は許してあげました。
同時に、心配かけてごめんなさいと、謝りました。
就寝するときは、コウ兄さんの布団に入って、一緒に眠りました。
785 名前:天空のアル投稿日:2008/04/06(日) 07:48:14 ID:???
翌日。
シャア「
ロラン君。私と共に、ときめきの新世界を開拓しようではないか!」
ロラン「キャプテ~ン、激しくやっちゃってください」
キャプテン「了解」
シャア「ウボアアァァ!! なぜだ、なぜ私の母になってはくれんのだっ」
ロラン「そもそも僕は、男なんですよおおぉ! ハンマー!!」
シャア「ギャアアアァァ!!」
アル「あーあー。結局変態は変態か。見直しそうになった自分がバカみたいだよ……」
コウ「アルー。壊れたザクなんだけどさ、塗装を落とすところから再挑戦してみない?」
アル「え、どういうこと?」
コウ「ザクを修復させるんだ。破損しきったパーツは取替えないといけないけど、パテを盛れば直せそうなパーツがけっこうあるんだよ。さらなる工作技術の向上を目標にさ、やってみないか? むしろ、この大改修に、僕も参加させてほしいんだ」
アル「あはは。うん、やろうよ」
おしまい
最終更新:2020年04月12日 20:38