「アミロペクチン第二章-35話 ~揺れるヴァル~」


 ドンドンドン。今宵も誰かがドアを叩く。
私は昨週以上に怒りを覚えながらドアを開けた。やはりシュルツであった。
 「今日は一体何だ」
「あ、ア、アドルフ・ガーランド様がこの小説に御感想を下さった!」
「何を言っているんだ。ガーランド氏は小説の中の人間だぞ」
「本当なんだ!『そんなに人生上手くいったら苦労しないよ、全く。』
こう言って下さったんだ!」
「そんなの何処かの批評家気取りの連中のイタズラだろ」
「俺は信じるぞ!断固信じるぞ!あのガーランド様が御感想を下さったのだ!」
「勝手に信じてろ。俺は忙しいんだ。明日のために寝なければならぬ」
私はドアを閉めた。そして再び万年床へ倒れ込み、穏やかな眠りへと就いた。
              ◆
 ドンドンドン。私は誰かがドアを叩く音で起こされた。
気づいたら次の日の朝である。
神聖な眠りを強制終了させられた私はボーッとした頭でドアを開けた。
そこにいたのはシュルツではなくダンツィさんであった。
「あ、ダンツィさん。こんな朝早くに何ですか。また一目惚れでもしたのですか」
「違う違う、そんなことよりコレだ」
ダンツィさんが見せたのは今朝の新聞だ。
そこにはWorldWeekより細かくヴァルのこれから起こるであろう飢饉のことが書かれていた。
 現在、ヴァルでは啓蒙専制君主の国王による“上からの近代化”が進められている。
その一部に“農場の集団化”がある。それは農民を政治的支配下に置き、
より効率的に徴税、穀物生産をするというものらしい。
これにより輸出量を増やし、経済をよくし、近代化を進めやすくするらしいのだ。
しかし国は近代化を進めたいがために輸出量を強制的に増やしているらしい。
そう。備蓄までも輸出しているのだから今回の冷夏による凶作で生産量が減れば
ヴァルでは大規模な飢饉が起こるのだ。そしてそのヴァルの小麦を輸入している
北の大陸南部の国々でも多少の飢饉は起こるであろう。
そこで我々の誇る米である。飢饉を完全に抑えられるほどではないかもしれないが
現在の備蓄ならその飢饉を十分に抑えることが出来るだろう。
そして米粉パンも売れに売れるに違いない。
 偽物ガーランド氏の言葉ではないがこんなに人生がうまくいくとは思わなかった。
米粉パンブームに乗り、米粉パンを大量生産。それにより資産を得、
米粉パン工場を造る。そして米粉パンを世界展開し、工場も増やす。
後々私は世界一の大富豪。持ち余るほどの資産を使いフルスの近代化にも貢献。
そして私はフルス王国史に残るほどの近代化のヒーローとなるのだ!



用語
  • 啓蒙専制君主…人間の自然状態を尊重する啓蒙思想を掲げて“上からの近代化”を進めた君主。


  • 「全てはチャンス」という言葉がある、機会を逃せば次は無いと思うが・・・あまり大きすぎる夢を持つのもほどほどにしておいた方がいいぞ。 -- マーク・ウルフ (2011-03-27 09:27:06)
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最終更新:2011年03月27日 09:27
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