Come with Me!! ◆auiI.USnCE
「むう……」
草原にひとり、困った様に表情を曇らせる少女が居た。
その顔立ちは整っていて、また立ち振る舞いは堂々としている。
「……それで、此処はどこだ?」
少女は支給された地図を見ながら、頭を捻っていた。
現在位置を確認しようとしたが、自分の居る所が草原で、他に目印になるようなものが全く無い。
それに、放送局など少女にはよく理解できない単語が地図には書かれていた。
単語の意味を考えようとして、全く思いつかなかったので結局後回しに。
誰もが、知っているような場所を知らない彼女。
彼女が知らない理由は、とても簡単で。
「……しっかりと気を持たねば。余は皇(オゥロ)だ」
彼女が所謂異世界からきた者であるからだった。
そう、少女の名はアムルリネウルカ・クーヤ。
まだ、少女と呼ばれる歳にして、シャクコポル族が統治する國、クンネカムンの皇としても君臨している。
クーヤはぱちんと自分の頬を叩き、気を引き締める。
不安げな様子はもう無く、前を強く見据えている。
「よし……行こう。まずはサクヤ、ゲンジマルを見つけねばな。それと……ハクオロを」
ぴょこぴょことウサギのような形をした耳が揺れる。
この耳と非力さゆえに、シャクコポル族は弱者として扱われてしまった。
今は、強大な剣であり、堅固な鎧であるアブ・カムゥは存在しない。
それ故に、今のクーヤは戦闘では役に立たないだろう。
クーヤは正直な所、その事で不安な面もあった。
だが、それでも、心を強く出来るものがある。
クーヤに支給された鉄扇の本来の持ち主。
そして、クーヤに色々な事を教えてくれた、ハクオロだった。
彼なら、この殺し合いでも、皇として志を捨てずに希望を持っているはず。
ならば、自分が弱気になってどうする。
そうクーヤは思い、自らを奮い立たせる。
まずは、その一歩と歩き出そうとした瞬間。
「あ、君。ちょっといいかな?」
「え、きゃ!?」
いきなり、背後から声が響く。
クーヤは、驚いて、うさぎのようにその場で跳ねてしまった。
振り返ると、金髪の一見女性にしか見えないような中性的な少年が立っていた。
「あ、驚かしちゃったかな?」
「お、驚いてなんかないぞ! 其方が突然出てくるからはっとしただけだ!」
「それを驚いていると言うんじゃないかな……?」
少年は、そんなクーヤを見て苦笑いをこぼしてしまう。
クーヤが一人前の皇になるにはまだ先の事であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふむ、残念だが余も今し方動き始めたばかりで、会ったのも其方が始めてだ」
「そっか。色々知っていたらラッキーだったんだけどな……ありがとう、クーヤちゃん」
金髪の少年――柊勝平はニコニコと笑いながら、返事する。
二人は、簡単な自己紹介な後、現状を把握しようと色々と互いに情報交換をする。
だが、お互いに始まったばかりで、大した収穫など無かった。
勝平は口では残念そうにも言うも、ある意味予想していた事なので、実際は其処までショックではなかった。
「クーヤ……ちゃん?」
「うん? 何か問題あったかな?」
「余をちゃん付けで呼ぶのか?」
「可笑しいかな? 女の子にちゃん付けで呼ぶのは普通だと思うけど」
「む、むう……まあそれもそうだが」
「だから、クーヤちゃん」
「むぅ……もうよい」
何故か頬を朱に染めたクーヤに何の疑問も持たず、勝平は普通にクーヤの名前を呼ぶ。
女の子の名前を呼ぶのに極めて一般的な呼称であるため、勝平はその呼称を連呼した。
クーヤは困ったような表情を浮かべるも、満更でもなかったのか、それを受け容れる。
其の時、ぴょこぴょことウサギのような耳が勝平の前で揺れた。
「ねえ、クーヤちゃん」
「何だ?」
「その耳、可愛いね」
「なっ!?」
勝平はそれを見て、思ったままの感想を言う。
そんな勝平にクーヤは驚愕し、唖然とした。
「これを……可愛いと?」
自分の耳を見て、可愛いと言う人間が居るとは思わなかった。
何故なら、これはシャコポル族の弱者としての象徴であり。
蔑む材料にしかならない、忌むべき形でもあった。
その象徴を、彼は純粋に可愛いといった。
ただの、普通の少年にしか、見えない彼がそういったのは、ただ驚くだけで。
「うん、可愛いと思うけど……変なこといったかな?」
「い、いや別に」
先程と変わらずにアカルティックスマイルを浮かべる勝平。
そんな勝平を見て、顔を真っ赤に染めて、そっぽを向く。
ハクオロみたいな変な者と勝手に自分の中で結論付けて、歩き出そうとして
「では行くと……………………其方、どういう事だ?」
「御免……クーヤちゃん」
背後の勝平に何かを向けられていることに気付く。
自分に凶器と殺気を向ける勝平に信じられないように見つめる。
手に持っているモノはクーヤには何か解らなかったが、人を殺せるモノである事は直ぐに理解できた。
勝平から笑顔は消え失せ、冷たい表情で、自分を見つめている。
「殺し合いに乗っていたのか?」
「………………うん」
勝平はゆっくりと、確実に頷く。
その表情は、まだ若干迷いを持っているようだった。
クーヤは表情を冷静に保つように努力して、言葉をかける。
「何故だ?」
「仕方ない……仕方ないじゃないか!」
勝平は頭を振って、自分自身するを肯定ように言い訳をする。
仕方ないで、殺し合いに乗った理由を誤魔化しながら。
「あの男は言ったんだ。殺し合いをしろって。そうじゃないと……生きれない……ボクも…………も」
「だからと言って従うのか?」
主催者たる男の言葉。
殺さないと生き残れない。
それが、絶対の
ルール。
従うしかない。
それなのに、クーヤは疑問を持つように勝平に声をかける。
「其方は、何もせずに、膝を屈するのか? 簡単に諦めてあの男に負けるのか? 素直に言われた事に従うのか?」
「だって……仕方ないだろ。ボク達は、もう負けているんだよ! こんな所に連れて来られてる時点で!」
何もせずに、押し付けられた事に納得して膝を屈する。
無理だと思い諦め、敗北する事を受け入れる。
そして、素直に殺し合いに乗る。
もう、既に負けていると言い聞かして。
自分はあの男に叶わぬ弱者と思い込んで。
それでは。
そんな姿では。
「諦めたら、膝を屈し今の境遇を受け容れたら、其処で終わりだ。未来などありはしないぞ。カッペー」
「……っ!」
昔のシャコポル族そのものではないか。
強大なギリヤギナ族に虐げられて、諦めていたあの頃と。
自分の父親はそれを是とせず、戦った。
絶望的な状況でも、諦めず、戦い、そして一族を救ったのだ。
クーヤは鉄扇を開き、自分の顔を隠して言葉を紡ぐ。
「そんなのでは、何もできやしない」
「じゃあ……じゃあ、どうすれば、いいんだよ!」
声を荒げ、クーヤに反論する勝平。
クーヤは扇子を閉じ、空に向け、強い表情で。
「余は諦めない。皆とともにこの殺し合いを打破したい……そう考えている」
「無理だ……!」
「無理だと思うから……無理になるのだ。だから、余は宣言する」
この殺し合いの場で。
クーヤは強く、強く宣言をする。
「余はアムルリネウルカ・クーヤは、皇として、そして余自身の考えで、殺し合いを壊してみせる。未だ膝を折るわけには行かない」
殺し合いの打破を。
自分の父のようになるように。
少女は、強く、彼女の意志で立っている。
「だから、カッペー。其方も、諦めるな。余と共に来てくれ。道は余が示すように、余は努力をする」
勝平の問いかけ。
クーヤは皇として、強い視線を向けて勝平は見つめる。
勝平はクーヤを驚くように向けて。
全く勝算などありはしないのに。
強く宣言をするクーヤが頼もしく見えて。
「解ったよ……」
銃が、手から滑りが落ちた。
だけど、勝平が浮かべてのは、安堵の表情で。
彼らしい、朗らかな笑みだった。
【時間:1日目午後2時ごろ】
【場所:G-3】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(これでよかったのだな……ハクオロ)
勝平を見ながら、クーヤは思う。
強く、宣言はしてみたが、身体の震えが止まらない。
顔を隠す扇が合ってよかった。
もしかしたら今自分の表情は恐怖に染まってかもしれない。
怖かった。
殺されそうになって、まだ死にたくないと思った。
そしたら、言葉が出ていた。
これは自分の言葉であるという実感はある。
でも、これでよかったかなと思う自分も居た。
どうしようか迷った時、思い浮かんだハクオロの顔。
彼ならばきっとこう言っただろう。
強く強く、皇として。
だから、自分も彼のような言葉を言ってみた。
そしたら、自分もハクオロのようになった気がした。
気がしただけだったが。
これからは、クーヤ次第なのだ。
もうハクオロに頼る事はできない。
クーヤはまだ、少女だ。
普通の女の子でもあるのだ。
だけど、彼女は皇だ。
そう、これが
彼女が皇として、
踏み出した、大きな一歩だった。
【時間:1日目午後2時ごろ】
【場所:G-3】
クーヤ
【持ち物:ハクオロの鉄扇、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月03日 10:30