流星の双子 ◆Ok1sMSayUQ
僕達は、兄弟だった。
どこの誰とも知れない腹から産み落とされ、捨てられた。
二人一緒に捨てられた。双子の捨て子だった。
僕達は拾われた。代わりに、集団で生きるために必要な作法を学ばされた。
身を守るための武芸を身につけなければならなかった。秩序の在り処を教えられた。
僕達は体が小さかった。生まれつきだったのか、捨て子であったからなのか、それはよく分からない。
事実だったのは、僕達が男である割に体が貧相であることだった。
だから何をするにも二人一緒だった。飯も、武術も、学術も、生活の全てが二人で一組。
そうすることで効率よく学べたのもあったし、お互いを励ます意味合いもあった。
僕達はよく似た双子だった。姿かたちもそっくりだし、頭の良さも武芸の上達振りも殆ど一緒。
二人でようやく一人前だったのが、一人で一人前になった。それも同時に。
僕達は一緒に若様に認められた。立派な戦士だと言ってもらうことができた。
同じような、嬉しい顔をしていたと思う。でも気持ち悪いとは思わなかった。
一心同体だったから。生死でさえ分かち合い、人生さえ分かち合ったのがあいつだった。
僕達は兄弟であり、一つの命であり、精神まで繋がった双子だった。
一度若様について、どちらが敬愛しているか競ったことがある。
くだらないケンカだったと後で僕達は思ったものだったけど、とにかく負けたくなかったケンカだった。
若様のいいところをひとつひとつ並べていったのだけど、同時にネタが尽きた。
なら武芸の勝負と若様の御前で模擬試合をしたのだけど、同時に力尽きた。
僕達は呆れた。あまりに同じで、呆れた。それから、一緒に笑ってにぎり飯を食った。
僕達は確かに双子ではあったのかもしれない。けれど、その実際は双子なんかじゃなかった。
僕達は、兄弟だった。
なのに。
どうして、今。
あいつは僕に剣を近づけているのだろう。
「どういうことだよ……ドリィ」
僕達が遭遇するのは早かった。
ここから出てすぐ、僕達は再会した。
そうなるものだとあっさり納得することができた。だって、二人で一つだったから。
僕は先を歩いていたドリィに声をかけた。僕の声だと分かって、すぐに振り向いてこっちに来てくれた。
取り合えずお互いの無事を確認し合った。するまでもないことだとは分かっていても、やらずにはいられなかった。
箱の中で誰かが殺されていたからだった。
あれがどんなものなのか、所詮は寺子屋知識の僕には分からない。僕が分からないのだから、ドリィだって分からない。
けれどもあの音と、雨のように吹き散らした血の風は本物だった。戦場に出て殺したことのある僕は知っていた。
血は、喉をかき切られるとああいう風に飛び出すのだと。
あの女の子は殺された。僕達は、望まぬ戦に駆り出されたのだ。120人の戦に。
白い翼の男はウルトリィ様の知り合いだったのだろうか。あの女の子は見た事のない耳をしていたが、どこの民族の子だったのだろう。
一通り話し合ってみたが、僕が分からないのにドリィが分かるわけがなかった。僕達の知識は、全く同じだった。
程なくして話題は若様のことへと移った。当然のことだった。あの子は確かにかわいそうだったけど、僕達には守るべき人がいた。
若様とは、オボロ様のことである。捨て子だった僕達を拾い上げ、全うに生きられるように教育してくださり、生きるための力を教えて下さった方だ。
それでいてまるで本物の兄弟のように接して下さった。認められてからはお側付きとなり、寝食も共にするようになった。
若様は本物の家族だった。その恩義に対して一生をかけてつくすのが僕達の役割だった。
若様が聖上、ハクオロ様に仕えるようになってからも、僕達の処遇は変わらなかった。
立場は弓指南役や弓隊の隊長格を任せられるようになったけれども、あくまで若様の指揮下という立場だった。
そのように取り計らってくれて、僕達はお互いにハクオロ様を称え合ったものだった。
とにかく、まずは若様に合流することが先決だと僕は提案した。
戦であることは間違いない。だがそれにしてもこの事態は異常に過ぎた。
ここはどこなのか。戦の指揮者であろう、あの白羽根はどこにいるのか。僕達以外にいる人はどう保護するか。
若様だけではない、エルルゥ様、侍大将……白羽根が言っていた袋の中には、確かに僕達の知っている人の名前もあった。
特にエルルゥ様やユズハ様などは戦場に立たせてはならなかった。安全な場所の確保。それも命題であった。
ドリィも既にその考えに至っていると思っていた。一通り提案して、後は行動に移すだけだった。
さあ行こうとドリィの肩に手をかけようとしたところ、振り払われた。
同時、抜き身の刀が僕の喉に突きつけられていたのだ。空白の一瞬。何が起こったのか、僕は分からなかった。
目の前の男が本当にドリィなのかと疑いさえした。
僕達は、寸分違わぬ考え方を持つ兄弟であるはずなのに。
無言、無表情で刃物を向けるドリィに、僕は言った。「どういうことだ」と。
「グラァ、本当にそれでいいと思ってるの?」
声は間違いなく聞きなれたドリィのもの。けれども、首筋に当たる刃の感触は本当だとは思えなかった。
それでいいって? 若様を守るなんて、当たり前じゃないか。
裏切れるわけがない。そんな僕の声を、ドリィは聞き取る。言わずとも、伝わっていた。
「若様を裏切れるわけないじゃないか。問題なのはそうじゃない」
ドリィの思考は、少し靄がかかっていて読み取れなかった。
若様を守る。尽くす。そこは疑いもなく同じであると分かるのに、もっと根本的な部分、根っこが見えなかった。
僕は直感した。ひょっとして、僕はドリィの奥底まで見えていなかったのではないか、と。
あまりに似ている部分が多過ぎて、全部同じと決め付けていたのではないかと。
ドリィは、ようやく分かったかというように笑って、刃を下ろした。
「僕達がすべきことは、尽くすことだ。だから、守る必要なんてないんだよ。若様以外は」
ああ、と僕は嘆息した。聞きたくなかったのかもしれない。だから、考えなかったのかもしれない。
ドリィは僕よりも少しだけ攻撃的なのだと。僕の方が守りを優先するのだと。
僕は、僕達が同じであることを、あまりにも望み過ぎていた。
「だから殺す。若様以外、全員ね。分かるだろ、グラァなら。これは戦なんだ」
分かっている。これが戦で、戦の勝者はたったの一人しかいない。ドリィは、いや僕も、若様を勝たせることが目的だった。
でも、と反論する。聖上や、他の皆も殺すのか? これは戦だと割り切って、敬愛していた者全部を?
「僕達が尽くすのは、若様一人だ。辛いけど……でも、戦だ」
そう。
戦で殺してきた兵の数は数多い。
この手で殺した実感が、弓矢が兵の胸を打ち貫く瞬間を、僕ははっきりと覚えている。
殺すのは簡単にできる。たとえそれが聖上でも、他の仲間でも。
若様の、ためなら。
「でも、若様なら……絶対皆を守るよ……僕は、それに……殉じたい」
はっきりと、しっかりとドリィの目を見つめて、僕は言った。
若様の理想は、きっとそうだった。
誰一人欠けることなく、全員を守り通す。
村のために立ち上がったとき、聖上と國をうち立てたとき、僕達を拾って下さったとき。
若様はいつだって下を見ていた。
だから僕達だって……やらなくちゃいけないはずなんだ。
僕達は、兄弟だった。
いつまでも同じはずが、なかったんだ。
「……そうか」
少し落胆した表情だった。
僕達は、僕達でなくなった瞬間だった。
ドリィが刃を振るった。
けれども、それは、僕を裂くことはなく、空を切った。
「今は、まだ僕には殺せない」
僕もだった。これから凶行に走ると分かりきっているはずなのに、殺してでも止められる意志が湧かなかった。
下手に近づけば、僕の中の気持ちが、ドリィに染まってしまいそうだったからだ。
「でも次に会ったときは殺す。僕は若様を守らなくちゃいけないんだ。これは、戦なんだから」
呟いて、ドリィは身を翻した。
戦。つまりドリィは、ここには敵しかいないと思っている。
考えてみれば、そうだった。僕達をさらい、聖上をさらい、殺し合いをさせる。
僕達以上に凶悪な人物だっているかもしれなかったのだ。
それでも、僕は嘘をつけない。若様の理想を守りたかった。
ドリィの姿は、すぐに森に消えて見えなくなった。ああ、人を殺しに行くのだな、と思った。
僕達は、兄弟だった。
【時間:1日目午後12時30分ごろ】
【場所:C-7】
グラァ
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康。若様をお守りする。ドリィは……】
ドリィ
【持ち物:
イーグルナイフ、水・食料一日分】
【状況:健康。若様のために殺す。グラァは……】
最終更新:2011年08月26日 18:56