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陰日向に咲く ◆auiI.USnCE



「………………」

太陽が燦々と輝く空の下。
物陰で自分の存在をかき消そうとするように、彼女――長谷部彩はひっそりと佇んでいた。
蒼い蒼い空だけを儚げに見つめ続けながら、今までの事を思い出している。

よく解らなかった。
いきなり、変な場所に自分が居て。
漫画みたいな天使みたいな男の人が居て。
でも、天使みたいな人は実は悪魔のようで、容赦無く同じ年齢のような女の子を殺した。
今でもシャワーの様に紅い紅い血が降り注いだ映像が、頭の中からこびり付いて離れない。
それでも、嘘みたいな夢の様なあの光景は、やはり嘘と思いたくなる現実だった。
首がなくなった胴体から滴りたる血が、これが現実だという事を自分に見せ付けていたから。


「…………どうして」

どうして、こうなってしまったのだろう。
輝きを失わない太陽を見ながら、彼女はずるずると寄りかかったものからずり落ちていく。
影に隠れるように、身を静かに寄せ、膝を抱え込むように座り込んでしまう。
そのまま、顔を膝に押し付け、目を閉じる。
眩しかった光はあっという間に無くなり、何も無い闇のような無が広がっている。

死んでしまったら、このような無になってしまうのだろうか。
何も感じない世界の中で一人きりになってしまうのだろうか。
それとも、死後の世界というものがあって、其処にずっと前に死んでしまった父親もいるのだろうか。
でも、それはやっぱり死んでみないと解らない事で。
ただ、死がとても近い事が、とてもとても怖かった。

終わって、しまうのだろうか。
そう思った瞬間被っていた白い帽子を強く握りしめてしまう。

思い起こすのは、この島に連れてこられる前の事で。
ただ、漫画を描いていて。
それをこみパで売って。
全く売れはしなかったけれども、それでも楽しかったはずだ。
最近は何故か色んな人と出会う事もできた。
何故だか、ワクワクした。

これからだったはずだったのに。
始まりは見えていたのに。
でも、始まる事すらせず、終わってしまうのだろう。
自分に人殺しなど出来る訳も無く、また戦う力なんてある訳がなかった。
だから、このまま、ここで死んでしまうのだろう。
それも、仕方ないのかなとも思ってしまう。
自分はこんなにも目立たなくて地味なのだから。
このまま誰にも気付かれずひっそりと死ぬ方がいいのかもしれない。
それが、自分の生き方のようにも思えたのが、とても哀しかった。
でも、自分の末路として似合うかもしれなかった。
長谷部彩の終わりとして、相応しいのかもしれない。

でも


「…………死にたく……ない」


やっぱり死にたくなかった。
自分の家に帰りたかった。
まだ、沢山漫画を描きたい。
また、あのこみパに行きたい。

未練ばっかりが沢山有って。
死を受け容れる事なんて、できようもなかった。
ただ、生きたくて、生きたくて。
気が付いたら涙がぼろぼろと流れている。

光が当たらぬ、陰の中で、ひっそりと泣いていた。




「……!?」

そんな時だった。
かつかつと靴音が彩の耳にも聞こえてきたのだ。
びくっと体を震わせ、纏っていた白いショールを抑える。

ああ、終わってしまう。
そう思って、自分の身をぎゅっと抱きしめる。
せめて、最後だけは楽にいけるように。
それだけを願いながら目をぎゅっと閉じる。
直ぐに訪れるだろう終焉に震えながら。


だけど、その終焉は何時までもやって来なくて。
おずおずと恐る恐る目を開けてみる。
其処に居たのは恐らく自分より少し年上の黒髪の青年で。
甲冑か着物かよく解らないものを纏い、手には剣が握られていた

青年は彩を見つめながら、ずっと動かないままだった。
彩は目をぱちくりとさせ、そのまま固まったように座り込んでいる。
長いか短いか良く解らない時間が暫く流れ、見つめ合って。

そして。

「……返事が送れて申し訳ありません。ベナウィといいます」

青年が柔らかい声色で自分の名を名乗った。
そして静かに手を差し伸べる。
彩はきょとんとし、その手を取った。

そのてのひらは何処か、何故か温かくて。

優しく感じられて。


また、彩はぼろぼろと涙を流した。

それが、生きているという実感だった。

     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





その後、泣き出した彩をベナウィは何とか宥める事が出来た。
余り慣れた事ではなかったので随分と時間がかかってしまったが。
そして、ベナウィは自分の身の上や現状などを話し始めた。

彩は聞き慣れない国名や何処か時代錯誤した話に戸惑ってしまった。
けど、元来極めて無口で大人しい性格なので、戸惑いや疑問を彼に話す事ができない。
だから、そういうものなのだろうと無理矢理自分自身を納得させる。
解らない事は後でまたゆっくり聞けばいいと思いながら。

そしてベナウィは今は自分の主君や仲間を探している旨を彼女に告げる。
ベナウィは彼女に仲間の所在を尋ねた。
しかし、今までベナウィの話にコクコクと頷いていた彼女はその時ばかりはフルフルと首を横に振って否定をする。
その事にベナウィは特に気を落とす事は無かった。
この殺し合いも始まったばかりなので、会っていない可能性の方が高いと思っていたからである。
ベナウィ自身も彼女がこの島で出会った始めたの人でもあったからだ。

「そうですか……では、すいませんが私は仲間を探さねばなりません」

そして、ベナウィは立ち上がり、この場を去ろうとする。
とても薄情な事をしていると自覚している。
けど、今はそれをしなければならい。
何故ならば…………


「…………」

でも、ベナウィは立ち去る事ができなかった。
彩が、何もいわずに自分の袖をちょこんと持って、そしてクイクイと引っ張り、引き止めていたから。
その表情は、何処か切なそうにベナウィを見つめている。

ただ、離れたくなかった。
一人きりではとても不安だったから。
死にたくなんて無かったから。
だから、今は彼と居たかった。

彩は捨てられそうな子犬のような視線をずっとベナウィに向けていて。
ただ、捨てられたくないといいたい様に見つめていた。


「…………そうですね。解りました。一緒に行きましょう」

その様子にベナウィはふっと息を吐き、そして一緒に行くことを決めた。
何時の間にこんなに甘くなったのだろうか。
それともこの少女のせいだろうか。
それは、ベナウィ自身にも解らなかった。
優しげな笑みをベナウィは浮かべ、またその少女に手を差し伸べる。

彩は儚く笑いながら、コクコクと頷き手を取った。
そして、できるだけ優しく、彼に言葉を告げる。


「……………………ありがとうございます」


その笑顔は、陰にも光が差し、まるで日向のような、とても柔らかい笑顔だった。

優しく、可憐な笑顔の花が、彩っていた。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






……全く……私は何をしているんでしょうね。
自分自身の事なのに、自分が行った事に驚きを隠せないでいる。
最初にこの少女に出会った時、私は殺そうか迷った。
自分が忠誠を誓ったあの主君の為に。
彼を生かす為に全員を殺す事を選び取るのは、当然かとも思えたからだ。

なのに、殺せなかった。
あの顔を見ていたら、殺せなかった。
それはきっと人の触れあいの温かさを、家族とも言える空間を知っていたからであろうか。
手を血に染めれば、あの空間に戻る事ができない。
そう思ってしまったらふがいもなく迷ってしまって。
結局、殺せなかった。

だから、これ以上自分のペースを崩させない為にも離れようと思った。

あの笑顔は、毒だと思った。

自分の牙を奪ってしまう。
儚げで柔らかい笑顔は、どうしても、あの国の、家族の温かさを思い出させてしまう。
あの食事の温かさを思い出してしまうと、忠誠の為に罪無き人を殺す……など出来なくなってしまう。

まだ自分の中でも定まっていないのだ。
だから、あの笑顔を見続けていたら、いけないと思った。
だから武士としての誇りを捨て、薄情のまま、立ち去ろうとしたのに。


あの瞳が、また自分を見つめていた。
最初に殺そうとした時のように見つめられて。
立ち去ろうとした自分を縛ってしまう。
離れようとした自分を引きとめようとして。

そして、また私は残ってしまった。


こんな自分自身に本当に驚いてしまう。
とても無様とも思う。
けど、それでいいと思う自分自身も居た。

本当に訳が解らない。

彼女はまだ陰のある、けれども日向のような笑みを自分に向けている。
柔らかで優しげな温かい笑みだった。


ああ、その笑みは


私を縛り、苦しめ


だが、


私を引きとめ、安らげてくれる。


そんな


陰日向の笑みだった。


【時間:一日目 午後1時ごろ】
【場所:E-1 北部】

ベナウィ
 【持ち物:フランベルジェ、水・食料一日分】
 【状況:健康 彩と共に行動】

長谷部彩
 【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:健康、ベナウィと共に行動】


008:天使の消えた島 時系列順 010:Number Of The Beast
008:天使の消えた島 投下順 010:Number Of The Beast
GAME START 長谷部彩 077:侍大将は儚き少女の為に
ベナウィ


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最終更新:2011年08月28日 03:26