Number Of The Beast ◆ApriVFJs6M
「はぁ……っ……はぁ……っ!」
木漏れ日が射し込む森の中を息を切らせながら柚原このみは走っていた。
とにかく前へ。
とにかく前へ。
とにかくあの男から逃げないと。
彼女の制服のブラウスははだけ、可愛らしい花柄のブラジャーが丸見えになっているがそんなことも気にも留めずただひたすら逃げる。
捕まったら殺される。あの男はそういう人種だ。
普通の人間の倫理観が欠落した狂人――否、人ですらない。
あれは本能めいた闘争心と征服欲に凝り固まった獣だ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
捕まったら確実に殺される。
いや、殺される前に死ぬよりも辛い辱めを受けることになるだろう。
そんなものはニュースや物語の中の出来事で実際に起きていることじゃない。
だがそれが現実に起ころうとしている。
想像を超えた恐怖心が必死にこのみの身体を突き動かす。
「あっはっはっは! どこへ行こうというのかね。そっか、お兄さんと鬼ごっこかな?
いいだろうお兄さんが鬼だ。捕まらないよう必死に逃げるんだよ。捕まったら――どうなるかわかってんだろうなァッ!」
背後から声がする。吐き気を催す邪悪な声。
こんなに必死に逃げてるというのに男との距離が一向に離れない。
それどころか男は走ってすらいない。それなのに男はこのみと一定の距離を保ちつつ移動している。
完全に遊ばれている。
男はその気になればいつでも追いつけるはずなのにあえてこのみを追い回しているのだ。
まるで獰猛な肉食獣の狩場に迷い込んでしまった哀れな草食動物だった。
「助けて……お母さん……お母さん……タカくん……!」
■
時間は数十分前に巻き戻る。
わけのわからないまま連れてこられ、目の前で人が殺された。
羽根の生えた怪人による生き残りを賭けたサバイバル・ゲーム。
気がつくと森の中に一人残されていた。
持ち物はデイバッグとその中に入っていた拳銃。
こんなものどうやって使えというのだろうか。
「やだよぉ……このみに人なんて殺せないよぉ……怖い……怖いよタカくん」
風が吹いて木々がざわめくたびにこのみはビクンと身体を震わせる。
一面の緑と頭上の空の青。
こんなに爽やかな天気とだというのに森はじっとりとした視線をこのみに浴びせ続けていた。
ずっと、誰かが見てる――
白いうなじ。
まだ発展途上の小ぶりな胸。
決して肉付きが良いとはいえない赤い制服のスカートから伸びる太腿。
まるでこのみの全身を余すことなく嘗め回すような視線が浴びせられていた。
怖い。
怖い。
怖い。
早くこの森を抜けたい。
早くこの視線から逃れたい。
早くみんなと会いたい。
なのに視線はこのみが一歩歩くととそれに付いてくるかのように一歩近づく。
そして、背後の茂みからがさりと音がした。
「ひぃ!?」
誰かが側にいる――
恐怖で腰が抜けて地面にへたり込む。
ややあって茂みの向こうから一人の男が姿を現した。
「驚かせてしまってすまない。僕は決して怪しい者じゃ……と言っても信じてもらえないかな……」
両手を上げて茂みから姿を現したのは長身の青年だった。
引き締まった精悍な肉体はまるで山猫のような美しさを誇っている。
青年は白い歯を見せて微笑むと言った。
「ほら、僕はなにもしない。だから、怖がらずに、ね?」
優しげな笑みをこのみに向ける青年。
彼はこのみを怖がらせないようにそれ以上近づくようなことはしなかった。
まるで警戒する小動物を逃げ出させないための行動だった。
「僕は岸田洋一、フリーのカメラマンさ。僕もわけもわからずこんな所に連れて来られて途方に暮れていたんだ……
一体何なんだあの怪人は……僕らに殺し合いをさせようだなんて馬鹿げているとしか思えない」
彼は悲しい瞳で言った。
きっとこの人も同じなんだ――
このみの警戒の色が薄まる。
「ほら、立てるかい?」
このみを怖がらせないように近づいた岸田は手を差し伸べる。
このみは少しの間躊躇ったが、彼の手をとって立ち上がった。
「あ、ありがとうございます……わ、わたし、柚原このみといいます」
「このみちゃんか、いい名前だね。君は……中学生かな?」
「高校生です……」
「おっとこれはレディーに失礼なことを。ごめんね」
「いえ、別に……」
岸田は恥ずかしそうに頭を掻いてこのみに謝った。
どうやら気さくな人柄のようだがどこか仕草が大げさで芝居がかったようにわざとらしいように感じた。
(ううん……駄目だよそんな人を疑ったら)
そんな浮かび上がる疑念を打ち消す。
きっとそういう人なのだろうと自分を納得させるこのみだった。
「そっか……君のお母さんや友達までここに連れてこられてるんだ……早く会えるといいね」
「はい……岸田さんは?」
「僕は……天涯孤独な身だったからね。ここに友達がいないのが幸いであって心細かったかな……」
このみと岸田は二人森の中を歩く。
二人して身の上の会話に花開かせる。
「あっでも今はこのみちゃんがいるから寂しくないかな? あははっ」
「いえ……わたしでよければ」
「ところでさっき君の友達の中で出てきた『タカくん』はこのみちゃんの彼氏かい?」
あっけらかんとした表情でウインクしてさらりと岸田はそんなことを言う。
このみは顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。
「や、あのっタカくんはこのみの幼馴染みでっ、そんなっ」
「ははっ、でも好きなことは確かなんだろう? 話し方でわかるよ彼のことを話すとき、すごく楽しそうだよ」
「う~……岸田さんは意地悪だよ……」
ぷーっと頬を膨らませるこのみ。
二人は他愛のない世間話をしながら歩く。
しばらく森を歩き進めた所で岸田は足を止めて、前を歩くこのみに言った。
「ねえ、このみちゃん。べとべとさんって知ってるかい?」
「はい……?」
「昔話に出てくる妖怪の一種でね。くら~い夜道を歩いていると後ろから足音が聞こえてくるんだ。ぺた、ぺた、ぺたと」
「岸田さん……こんな時に怖い話しなくても」
「まあまあ、ちょっと聞いてくれないかな。でもこの妖怪は人に危害を加えることはないんだ。
足音が怖くなったら『べとべとさん、お先にお越し』と唱えれば離れていく」
「はあ……変な妖怪ですね」
「でもね、地方によっては怖さで万が一転んでしまったら人を襲うタイプもいるんだ。この場合別の名前の妖怪して出てくるんだけど」
一体何を言ってるんだろうとこのみは首を傾げる。
そして――このみを見つめる岸田の目が猛禽類のような鋭さを見せ――
「ったく鈍いガキだなぁ……人間にもいるだろうがよおォッ『送り狼』って妖怪がなあぁぁッ!!」
岸田がそう言った瞬間、このみの着ている制服のブラウスが引き裂かれ、可愛らしい下着が露になる。
「いっ、いやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!」
「お前……いくらなんでもお人よしすぎんじゃねえか? 誰もいない森で男女が二人きりで何も起こらないと思ってんのかよォォォォ!
それともあれか、わざとやってんのか? ああ? 俺を誘ってやがったのか?」
それまで好青年を演じていた岸田は表情を一変させ怒声をこのみに浴びせる。
信頼していた人間の突然の豹変にこのみは頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「ちょっと成長が足りんなぁ、女はもっと肉付きが良くないと男は寄ってこねえぜ? ま、たまにはこんなメスガキを犯すのも悪くねえ」
「ひ……」
犯す?
犯す?
何を言っているんだこの人は。
犯すというのはレイプであって強姦であって嫌がる女性を無理矢理に――
「っ……嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
無意識に身体が飛び跳ねて足が動く。
目前に迫った陵辱の恐怖に脳が一斉に逃走の命令を下す。
脱兎の如く岸田から逃げ出すこのみ。
「――いい判断じゃねえか、大抵なら腰抜かしてションベン漏らすところだが……面白ぇッ狩りはやっぱこうじゃなくてはなぁああぁァァァッ!!」
■
そして今に至る。
木々を掻き分けてひたすら逃げるこのみ。
枝が、葉が服に引っ掛かって所々が破れてしまっていた。
「おいおい……枝に引っ掛けてそのコスプレ衣装みたいなピンクの制服がボロボロだぞ?
スカートもあちこち破れてそそるじゃねえか。お前マジ男誘う才能あるぜぇっ」
「嫌ぁッ! 来ないで! 来ないでよぉぉっ!」
「ほらほら逃げろ逃げろよぉッ! 逃げないと鬼に捕まってしまうぞっハッハッハァッ!!」
高笑いを上げてじわりじわりと距離を詰めていく岸田。
息も切れ切れで足もだんだん重くなる。
「あっ……!」
地面から飛び出していた木の根っこに足を引っ掛けてこのみはついに転んでしまう。
そして背後に迫る岸田の影。
「残念だったなぁ……もう少しで森を抜けられるところだったのによぉ。お前の負けだ。転んだら送り狼に襲われるんだぜぇぇぇ!」
岸田はこのみを仰向けに組み伏せると無造作にブラジャーを引きちぎる。
まだ未発達の控えめな乳房が曝け出される。
「いやあ!! やあああ!! やだやだやだぁぁ!! 助けてタカくん! タカくん! タカくぅぅぅんッ!!」
「オラッちったあ黙れやクソガキィッ!」
「がっぁぁ……」
岸田はこのみの顔面を容赦なく殴りつける。
口の中が切れて赤い血がこぼれる。
「俺はなあ、気が短い男でなあ……わざわざ濡れるのを待つ甲斐性なんてないからなァ! 直にブチ込まさせてもらうぜェッ!」
岸田は卑しい笑いを浮かべると、このみのスカートに隠れた下着に手を掛けて――
「ほらッご開帳だぜっハッハーッ!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! タカくん! 助けてタカくんーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「てんめぇぇぇぇぇぇぇッ!!! このみに何しやがったあぁぁぁぁぁぁァァァ!!!」
「あ?」
一陣の黒い風が猛スピードでこのみに跨る岸田に突っ込んでくる。
完全に虚を突かれた岸田はまともにタックルを喰らい一緒になって転がる。
「クソガキが調子に乗ってんじゃねえええええええ!」
「がああああああッ!!」
岸田の回し蹴りがまともに入り吹き飛ぶ影。
木の幹に叩きつけられた人物の顔をようやくこのみは認識する。
「タ……ユ、ユウくん!」
「よ、よう……このみ、助けに来たぜ……!」
フラフラと立ち上がったのはこのみの幼馴染みの一人である向坂雄二だった。
彼は痛みに耐えながらも気丈な表情で岸田を睨みつける。
「あん? ユウくんだって……? ハハハハハッ残念だったなあッお前の大好きで大好きなタカくんじゃなくてよぉぉぉッ」
「少しは黙れよ、口から臭せぇ屁をこくじゃねえよ」
「ガキが……吹くじゃねえか」
「殺してやる。てめえは殺してやる。ぜってーにな」
そう言うと雄二は大振りの
サバイバルナイフを構える。
その姿を見た岸田は歓喜に打ち震えた表情で言った。
「抜いたなお前? ナイフ抜いたな? お前それどういう意味かわかってんだろうな? ああ?」
「ああ、てめーをブチ殺すためだ」
「殺す? お前が、この俺を? ハッハハハハハ!!! 俺と命のやり取りするってか!? 面白ぇ……面白ぇじゃねええかぁぁぁぁッ!!」
「うおおおおおおおおおおッ!!!」
雄二はサイバイバルナイフを腰溜めに構えると一気に突進した。
だが岸田は雄二に臆することなくニヤリと笑い。
「そらよっ」
「がぁッ……」
簡単に雄二の突進をいなすとそのままナイフを持つ右手を捻り上げた。
「お前……もしかして知らなかったのか?」
「クソがッ……離しやがれぇぇ!」
「嘘だろ……本当に知らないのか? じゃあ教えてやるよ。あのな、素人はなナイフ持つと攻撃の軌道がものすごーく単調になるんだ。
さっきのお前はどうだ? ただ闇雲に突っ込んできただけだったろ? な?
お前――そんなことも知らずにナイフ抜きやがったのかよ。そっかそっか……ふざけてんのかクソガキャァァ!!
そんなザマで俺のタマ取ろうとしてたのかよぉぉぉぉぉぉ!!」
ゴキリと嫌な音が響いて雄二の右手首があらぬ方向に折れ曲がる。
「がっああああああああああッ!!!」
「いやあっーーユウくぅぅん!!」
凄まじい激痛が全身を襲い、立つことすらままらない。
右手を押さえ地面に蹲る雄二を何度も蹴り上げる岸田。
「素人がな、軽々しく殺すなんて言ってんじゃねえええええ!!」
「っあああ……がああああァッ!!」
「プロはなあ……『殺した』しか言わねえんだよぉぉッ」
このままでは雄二が死んでしまう。
何か、何か手は――
そしてこのみの先に映るデイバッグ。
転んだ拍子で中身が飛び散って散乱している。
その中にそれはあった。
黒光りする拳銃。
あれだ、あれさえあれば岸田を――
手を伸ばすこのみ、あと数センチで手が届く――
「おっとすまねえ、足が滑っちまったぜ」
「あっ……かは……」
このみの手を無常にも踏みしめる岸田の足。
激痛が走る。今の一撃で指の骨が確実に何本か折れた。
「駄目じゃないか、子どもがこんなおもちゃ持ってたら。危ないからお兄さんが預かっておくね」
「あっぁぁぁぁ……」
最後の望みも潰えた。
岸田は勝ち誇った笑みを浮かべると、倒れ伏す雄二の髪を掴みあげて言った。
「少年、良く頑張った。俺は感動した! お前のその根性買ってやる。だからプレゼントやるよ」
「なに……がだよ……」
「幸いにもあのメスガキはまだ俺が手を付けてない新品だ。だからさ少年。一番風呂の権利てめえにやるよ」
「は……? 何を……言ってやがる……」
「おいおいオボコ気取ってんじゃねえよ。てめえどうせ童貞だろ? あいつの処女を奪う権利をやるってことだよ。俺が見といてやるから」
「ふざ……けるな、よ……」
「おいおい正直になれよ少年。ヤりたい盛りの青少年だろう? 目の前に半裸の女が転がってたら犯したくなるだろ?」
雄二の目の前に顔を近づけて囁く岸田。
だが雄二は血まみれの唾を岸田に飛ばす。
「これが答えだ、クソが……」
「……つまんね。お前つまらんよ、全然つまんねえ。もういいや。てめえの出番は終わりだ。――じゃあな」
岸田はこのみから奪った拳銃を雄二の頭部に向けて放つ。
ぱんっと乾いた音をして雄二の身体がビクンと痙攣して、動かなくなった。
「う……そ……? ユ、ウくん……?」
フラフラと立ち上がり動かなくなった雄二に近づくこのみ。
もう雄二はピクリとも動かなくなっていた。
「ユウくん死んじゃったよ。残念だったねこのみちゃん」
白い歯を見せて岸田はにっこりと嗤う。
まったく邪気のない笑顔だった。
「あぁぁぁぁ……ユウくん……? 嫌、嫌だよ…いやあぁぁぁぁ……」
力なく崩れ、まだ体温の
温もりが残る雄二の亡骸に覆いかぶさり泣きじゃくるこのみ。
こんなことが――こんなことがあってもいいのだろうか?
この狂った現実を目の当たりにしたこのみはただ泣き続けるだけだった。
「おい、って聞いてねえか。まあいいや、ユウくんの根性に免じてお前に選択肢をやるよ」
そう言って岸田はポケットから10円玉を取り出した。
「表が出たら、お前を犯す。だが命までは取らねえ。裏が出たら犯しはしないがお前を殺す。この選択を拒否したら犯した上で殺す。OK?」
「えぐっ……うぐっ……ユウくん……」
「って聞いちゃいねえ、じゃあ俺が投げるぜー? いいのかーい? このみちゃーん?」
岸田はこのみに問いかけるが彼女にもはや岸田のことは目に映っていなかった。
「ったく、しょうがねえ。俺が投げてやるよ。そらよっ」
岸田は指で10円玉を弾く。
高く舞い上がった10円玉は陽光を反射してキラキラと輝いていた。
そして岸田を硬貨をキャッチした。
「さて……結果だが……裏だ。まあそのほうがお前にとっちゃあ幸せかもしれねえ。ユウくんと一緒に逝ってやりな」
岸田は雄二にしがみ付いて泣き続けるこのみの後頭部に銃を突きつける。
「余裕があればあんたの大好きなタカくんとやらも送っておいてやるよ。――アディオス」
そして引き金が引かれ、このみもまた雄二に覆いかぶさるように崩れ落ちた。
岸田は雄二の持っていたサバイバルナイフとこのみに支給されていた拳銃の弾倉を回収した。
「あー……微妙に欲求不満だ。まだ温けーだろうが俺に死姦の趣味はねーからなあ……ま、次の獲物に期待するか」
知恵をもった獣が今解き放たれた。
解き放たれた獣は獲物を求め彷徨い歩く。
少女と少年の無念を残して――
【時間:1日目午後1時ごろ】
【場所:D-3】
岸田洋一
【持ち物:サバイバルナイフ、
グロック19(13/15)、予備マガジン×6、不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康 殺戮と陵辱を楽しむ】
柚原このみ
【持ち物:支給品以外一式】
【状況:死亡】
向坂雄二
【持ち物:支給品以外一式】
【状況:死亡】
最終更新:2011年08月28日 03:35