侍大将は儚き少女の為に ◆5ddd1Yaifw
私の視界に広がる光景は驚きの連続だった。山を降りて目に写ったのは我が國では見当たらない建物。
建物の材質は何で出来ているか、どうやって建てられたか。私には見当もつかない。
それでも、私の知っている建物よりも遥かに高度だということは理解できる。
しかし、隣にいるアヤはあまり驚いていなかった様子。ふむ、これはいったい……?
「貴方はこの建物に驚嘆の念は感じませんか」
「……? いいえ、特には……」
返答はいいえ。小さな声だけど確かに耳に入った。しかし、この子は小動物みたいですね。
ふるふると横に首を振る姿はガチャタラを思い出させる。まあ、戯言ですが。
ともかく、この地は私の常識は通用しないということ。それを肝に銘じておきましょう。
ですが……。
「アヤ、もう一度聞きます、トゥスクルを知らないんですか?」
「……はい。初めて聞く名前です。私の知識が足りないだけかもしれませんが」
トゥスクルを知らないという事は見過ごすことはできませんね。
自慢ではないですがトゥスクルはそれなりに有名な國家だと自負していたはずなんですが。
私の身の上話にも首を傾げるばかりでした。
おかしい、何かが咬み合わない気がします。先程の建物の件といい、この子の耳がハクオロ皇と一緒だということ。
これらが何か手がかりになると思うのですが。
「……どうかしました?」
アヤが嘘を言ってる様子は見受けられませんし……悩みどころです。どこか遠い異国出身だと一応は仮定しますが。
けれど、所詮は仮定。確信にいたるまでのものではありません。
悩ましい、頭が痛くなるほどに……はぁ。
◆ ◆ ◆
……その悩みも吹き飛ぶくらいの衝撃――先程見た高度な建物の集合群。
改めて思いますが此処の技術は凄まじいですね。
これがトゥスクルに導入されたら……きっと多大な恩恵を受けることが出来るでしょう。
思わずゴクリと唾を飲む。私としたことが少し興奮をしていたようですね。
「……?」
ああ、アヤが怪訝な顔で見ている。心配いりませんと伝えておく。
そしてくいくいっと引かれる私の服の裾。……なかなかはなしてくれませんね。
「その、私の服の裾をいつまで握っているんですか。いやいや、どこにも行きませんよ、逃げたりしませんから」
「……!」
「……そんな泣きそうな顔しないでください。周りに人がいる気配もありませんし落ち着いても大丈夫です。
いざとなればその入れ物に入っている刀を使って自分の身を護って……」
「む、むっむりです! 私にはこんな……」
あわあわしてるアヤの手にそっと自分の手を重ねてゆっくりと包み込む。取り敢えずは落ち着かせるのが先決だと判斷。
結果は上々。ひとまずは小康状態にはなった。
「使い方さえ誤らなければその刀はきっと貴方を護ります、だから怖がらないでください」
「でも、私……」
アヤの顔が困惑の表情に染まる。無理もないのかもしれない。
自分みたいな武人ならともかくこんな武器を触ったこともない少女がこれを持つことは。
「……すいません、気がききませんでしたね。忘れてください」
「……」
「さてと、行きましょうか。地図ではこの辺りに大きな建物――ビョウインがあるそうです」
…………失態ですね、配慮にかけていました。……私の服の裾をまだ掴んでいるのは不問としましょうか。
彼女はあくまで一般の民。殺し合いをしろいきなり宣誓されて、目の前で少女の首がはじけ飛ぶ様まで見せられた。
そんな状態で平静を保てなど難題……ふむ、どうしたものでしょうか。
◆ ◆ ◆
止めどもない思考をしている内に、私達はビョウイン(アヤがこの建物だと教えてくれた)へと到着、アヤが言うには医薬品が大量にあるとのこと。
この殺し合いの場ではそれらの存在はきっと重要になると思います。此処である程度の量を確保しておくのも悪くはありませんね。
「…………!」
「どうか、しましたか?」
扉が……扉が自動で開いた……すごい、なんという技術でしょうか、ただ目の前に立っただけで勝手に開くドア。
あまりにもの衝撃に思わず目が見開くほどに。自分の常識がガラガラと音を崩れていく。その崩れ落ちた場所に構築される今目の前にある現実。
それを受け入れてしまっている自分がいる。
「いえ、だ、大丈夫です。心配はいりません」
表面は取り繕ったが実際のところ大丈夫で済む範囲は通り越している。未知の技術に恐れおののきそうなくらいだ。最も、表情には出しませんがね。
ともかく、この建物の中を調査してみましょう。このような未知の技術があるはず……! それがなにか脱出への手がかりとなればいいのですが。
「っ……ぁ!」
おっと、後ろを歩くアヤが転びそうになるのを反射的に受け止める。危ない、危ない。ケガでもしたら行動に差し支えます。
安全第一、これからの脱出への道のりは長いのですから。こんな序盤での行動の遅延はあまり許されない。
「大丈夫ですか。足元はちゃんと見るんですよ」
「あの、そ、その」
「あ、すいません」
アヤの身体を受け止めたままでした、これはいけませんね。そっと離して、ちゃんと立たせ、さてと再度出発。
建物の中身は割と広い、全てを見てまわるのに時間はそれなりにかかるでしょう。
それでも、未知の技術を知れるという喜びは私の心を踊らせる。
ふう、私としたことが、年甲斐もない。
「行きましょう、アヤ」
「は、はいっ!」
◆ ◆ ◆
と、意気込んだはいいが、階段を登りそれぞれの階にある部屋を探索、そこまでは順調でした。
「……何が何だかわかりません」
目に映るのは自分にとって未知の代物ばかり。
これでも相応の知識を持っている私でもこれはどういう用途に使うのか? これは何を示すものなのか? これはこれはこれは……きりがないですね。
ここまで未知だと頭の中はグチャグチャになる、嘆かわしい。
「あ、あの……」
ああ、どうしよう。このままだと此処に来た意味がない。なにかしらの手がかりの一つでも手に入れないと割に合わない。
無駄にアヤを連れ回したのですから尚更のこと。
この島で時間は重要なものですしこのままでは終われません、時は金なりとも言いますし。
「……あの」
さあ、改めてこれから取るべき方法について考えよう。何かこの建物にてがかりとなる書物でも探す?
この広大な建物の中すべてを? いささか現実的な考えではありませんね。
「あ、あの!」
「……すいません、思考の迷路にはまっていたようです。どうかしたんですか?」
「いえ、何か悩んでいらしたので……私でよければ聞きます、よ?」
「では、実はですね……」
◆ ◆ ◆
「助かりました、アヤ」
「い、いえ。そんなこんなことぐらいで……」
アヤがこの施設を知っていたお陰で医薬品、施設の用途など収穫がありました。
私一人ではどうすることもできずただ立ち往生する他なかったでしょう。
これには感謝するほかありませんね。
「いいえ、この島では情報はとても重要なものとなります。“そんな”ことではありませんよ。
アヤ、貴方はもう少し自己評価を高めるべきです」
「でも……」
はぁ……この子は。自分に自信がないのでしょうか、さすがに卑屈すぎる傾向が見受けられますね。
これからの脱出への道程は長い。その過程でこの傾向が裏目に出てしまうこともあるかもしれません。
なら。
「アヤ」
「はい?」
ここで少し、アヤのその傾向を正しておくのもいいのかもしれません。運がいいのか悪いのかは知りませんが、私たちは未だに他の参加者と出会っていない。
なら今のうちに言えることは言っておいたほうがいい。
「貴方は思っている以上に優秀な人です、どうか悲観なさらないでください」
「でも、私は、戦うのも怖くて、あの刀を触ることもできなくて……ただの足手まといです……」
「それは断じて違いますよ。戦いは前に立つだけではありません。後方支援――情報提供なんかも立派な戦いです。
それに前に出るのは私がすればいいこと、適材適所というものです」
「……」
「今すぐに考えを変えることは難しいでしょう、ですが――貴方を必要としている人が此処にいる、それだけは覚えておいてください」
この地獄のような島で自信をつけることはおかしいとは思いますが。アヤが少しでも自信をつけてくれることを願いながら。
私は薄く笑った。少しでもアヤが前を向けるように。
【時間:一日目 午後3時ごろ】
【場所:E-1 病院】
ベナウィ
【持ち物:
フランベルジェ、水・食料一日分】
【状況:健康 彩と共に行動】
長谷部彩
【持ち物:藤巻のドス、水・食料一日分】
【状況:健康、ベナウィと共に行動】
最終更新:2011年09月06日 17:49