テルは、その方向を見据えていた。
どうしても、進めないのだ。
ひとつの疑問が浮かんだから。
・・・どうやって、モンスターのいるフィールドへ行くのだろう。
そこへつながっていると思われる地面には、不思議な紋章。
紋章がくるくる回っているだけ。
誰かこないかな・・・。
誰でもいいから、移動の仕方を見せてほしいのである。
すると、反対側から、一人の少女
「あのっ・・・」
声をかけた・・・つもりだったのだけれど、聞こえなかったのだろうか
そのまま通り過ぎて・・・
紋章の方向へ。
少女はそこに向かって走っていく。
彼女の真似をすれば、向こうに行ける筈だとテルは踏んだ。
紋章のへ向かって走って・・・
彼女が紋章を踏んだと思った瞬間、消えていた。
なるほど。
踏めばいいんだ。
走るのはあまり好きではない。
ので、歩いて紋章まで寄ってみる。
そして、右足を踏み出す。
「わわっ」
一瞬視界が真っ暗になり、明るくなった。
ごちん。
着地に失敗したらしく、前のめりになりそのまま、倒れこんだ。
「っ~・・・」
ぶつけたところは、木製の橋。
あまりにも痛くて、うつ伏せのまま寝ころんでいた。
「もー嫌・・・」
さっそく弱音が口から零れる。
通り過ぎる人は、不思議そうにこちらを見ていく。
呑気に鳴くうみねこまでもが、私をバカにしているみたいで。
腹が立った上に、いつまでも寝ころんで居る訳にはいかないので
『やれやれ』と、立ち上がると目の前にいたのは男の人。
「どうぞ。」
手を差しのべられた。
白くて、綺麗で、でも少し大きい手。
「どうも。」
手を借りて立ち上がる。
「あまり汚い所で寝そべると、汚れてしまいますよ。」
と言いながら、服のヨゴレを払ってくれた。
ちゃらちゃらした服装。
胸元には綺麗な宝石。見たことがない。
狸のような耳としっぽ。
すらっとしてて、どこか高貴な雰囲気の漂う・・・
「どうか、されましたか?」
「え、あ。いいえ。」
「最初はワープするのも大変ですから、気をつけてくださいね。」
にこにこして、こちらに話しかけてくる。
いまどき珍しい紳士というか・・・。
「はあ・・・。」
知らない土地で、知らない人ばかり。
この人は、誰?
また案内人さん?
「そうそう、申し遅れました。僕はロウといいます。ロウ・レヴィ。」
私の思いが通じたように、彼が口を開く。
「私は、テル。あなたも案内人?」
よくわからないけど、聞いてみなくっちゃ。
「はは。僕は違いますよ。通りすがりの者です。ここには、来たばかりですか?」
「ええ。まあ・・・」
案内人・・・じゃない。なら、この人も流れ着いた人?
聞きたいことばかり。
「?」
「あ あの、聞きたいことが沢山あるんです。」
「ふむ なんでしょう?」
話が長くなると思ったのかロウさんは、『こちらへ』と手招きをした。
「このベンチでいいでしょう。で、聞きたい事とは?」
まずは・・・
ロウさんは、何者なんだろう。
それから、何をしているのだろう。
私はこれからどうしたらいいんだろう・・・。
胸の中のモヤモヤを一気に聞いてみた
「順番にお話しましょうか。」
一呼吸おいてから、ロウさんは話し始めた。
「僕は去年このカバリア島に流れ着きました。
きっと、あなたと同じように。
そして、今のあなたの様に他の人にたくさんのお話を聞きました。
最初は教師をしていたんです。
流れ着く前の話ですけどね。
それから、ここでの【賭け事】を知ったんです。
それを知ってからは堕ちて行きまして・・・
現在に至るのですが、今の職業は『ギャンブラー』。
賭け事をしてフラついているだけです。
ははは。ビックリするでしょう。
これもまた、この島の楽しみ方なんでしょうね。きっと。
あなたがこれからすべき事は
ここから近い、『パラダイス』に行くことでしょうか。
ここでは結構大きな町なんですよ。」
パラダイス・・・
さっき、エステルさんが言っていたのを記憶している。
でも、どうやって行ったらいいのだろう。
「・・・といっても、行き方なんて聞いてないでしょう。」
図星・・・というか的確というか。
首を縦に振る
「エステルさんも、変わってないんですね。
僕が来た時も、ただ『行け』としか行ってくれなくって。
困っちゃいますよね」
と、ロウさんは笑う。
困った素振りなんてカケラも見せてないじゃない。
「か弱いお嬢さんが一人で歩くのも大変でしょう。
護衛しますよ。」
「あ、どうも・・・。」
なんだかよく解らないけれど、一人ではないみたい。
「それと・・・」
「?」
「向こうについてからお話しますが、【ギルド】についても説明しましょう。」
「ギルド・・・?」
「あとでわかりますよ。僕に【ギルド】を経営している友人がいるので
紹介しましょう。」
「あ、ありがとうございますっ。」
「さあさ、行きますよ。準備はできていますか?」
ロウさんは、私の返事を聞く前に
私の手を取り、歩き始めた。
「ねえ、ロウさん?」
我慢が出来ずに口を開く。
「なんでしょうか?」
「この、フワフワした生き物、なんです?」
そう。
さっきから、私たちが走る横を跳ねている。これ。
ピンクに、猫みたいな耳に、先だけが丸いしっぽ。
人畜無害です。って感じの生き物なんだけど、なんだろう?
どこを見ても、その生き物。
「ああ、トロビーですね」
「?」
トロビー?ト○と一緒 の○ロみたいな名前ね。
なんか、かわいいから触ってみようかな。
す と手を伸ばすと、フワフワした手触り。
猫みたい・・・。
ちょっと、途中まで連れて行ってみようかな?
両手で抱きあげて、また歩き出そうとする。
でも、それに一番驚いていたのはロウさん。
「なな、何をしているんですか!」
「え?」
「だめですよ!そんなことしちゃ!」
言葉に焦りが感じられる。
なんだろう。
仕方なく、地面にトロビーをそっと下ろした矢先、トロビーの様子が豹変した。
痛い。
攻撃している。私を。
その尻尾からは想像もつかない威力で。
数メートル先にいたロウさんが、棒立ちになっている私のもとへ駆け寄る。
モソモソと彼がとりだしたのは・・・
鞭。
鞭・・・だと思うんだけれど。
私が聞くまでもなく、それは攻撃をするためのものだとわかった。
なぜって
ロウさんがそれでトロビーを攻撃したのだから。
「な、なんてことを・・・」
トロビーは地面に吸収されるように姿を消した。
が、周りのトロビーは何の反応も示さない。
「きかなかったんですか?エステルさんのお話。」
そういえば・・・。
『この島には、たくさんのモンスターが存在します。
そして、そのモンスターたちを倒すことであなたは成長していきます。』
そして、そのモンスターたちを倒すことであなたは成長していきます。』
エステルさんの言葉が脳裏に蘇る。
ああ、こういうこと・・・。
「ここら辺は、手を出さなければ攻撃してきませんから。ね?」
エステルさんの言葉を思い出した私に、ロウさんは言った。
「・・・まあ、少しは慣れておくのも手でしょうけど。」
そういうとロウさんは、適当なトロビーを抱えてきた。
そして、地面へ。
「このトロビーと、闘ってみてはどうでしょう?」
「え。」
「武器は持っているでしょう?」
武器・・・。
エステルさんから貰った、剣?
でも、あのあとどこにしまったんだっけ・・・。
まず、私ってカバン持ってきてたっけ?
「ロウさん・・・」
「はい?」
「私、武器ってどこにしまい込んだんでしょう。」
「え?」
数秒前の私の言葉がロウさんの口からもこぼれる。
「カバンとかポーチとか、持っていませんか?」
確かにポーチはある・・・。
でも・・・ハンカチやティッシュが入る程度だし。
「外見は小さくても、たくさん入るようになっているはずです。」
そう言われて、ポーチをあたふたと取り出す。
中を開けると、そこにあったのはさっきもらった装備たち。
「そうそう。それです。装備してみては?」
「そ そうね」
慣れない手つきで3つの装備を身につける。
「それで、トロビーを殴ってください。」
「うーん・・・」
いくらモンスターとはいえ、ここまで可愛いと闘争心とかいうものを削がれてしまう・・・が
そんなことを考えている場合ではないので
とりあえず。
ぼかん。
鈍い音。
やはり、これくらいでは倒れるトロビーさんではないらしい。
ぼかん。
なんて、鈍い音を数回響かせていると、トロビーはさっきと同じように
消えた。
「こんな感じ?」
「そうですね。」
「でも・・・
ロウさんが、物言いたげに口を開く。
「でも?」
「貴方は魔法使いに分類されるので、直接的な攻撃はあまり使わないんですよね。」
あはは とロウさんは苦笑を浮かべる。
「魔法を覚えるまではそうやって、殴ってもらいますよ?」
ロウさんはあわてて付け加える。
「ふむぅ・・・。」