そうだな。
俺が相手をしたのは―
誰だったかな・・・ああ、思いだした。
ユエノ。
いかにも高飛車でお嬢様って感じのヤツだった。
プリマドンナをやってるとか、言ってたかな。
『はじめ』の合図で彼女はおれに歩み寄ってきた。
まるで猫のように、しなやかに。
「あなたのお相手は私がしてあげてもよくてよ!」
「ふうん。」
「ずいぶん、余裕でいらっしゃるのね。」
「まあね。」
「いつまでそんな余裕をかましていられるかしら?」
会話が面倒なのでどうしても単語での返答になっていたんだ。
それが相手を挑発させたのかもしれない。
彼女は右手に大きな鎌を、左手には金色の盾を。
鎌なんて、へたすりゃ俺の首が飛ぶサイズ。
相手は接近戦だが、こちらは遠距離戦。
問答無用で懐に飛び込んでくるから、もちろんこちらが不利。
―ま、俺とて黙っちゃいないさ。
闇夜の鎮魂歌と謳われたんだから。
が、甘かった。
彼女は鏡・・・マジックバリアを駆使してくる。
いくらこちらが攻撃しても、跳ね返ってくるのではキツいだろう。
仮面で顔の右半分だけが覆われていて、見えていたのは左半分。
しかし、どれだけぶつかり合ってもその左半分に疲れの色は見えなかった。
「・・・あら?余裕じゃなかったのかしら!」
そのセリフとともに鎌を大きく振り上げる。
「さあね」
さらに大きく振り下ろされた鎌をランスで相殺する。
「ほらほら!どんどんキツくなるでしょう!早く降参なさったらどう?!」
相手の上から目線のセリフは変わらない。
そう、30分経っても。
・・・ふと、横に視線が行った。
レーさんと、りぼさんのところに。
「なぜ、今さらギルドバトルを?」
「あなたが一番知っているんじゃないんですか?リヴォルブ。」
止むことのない鎌の攻撃をうまく避けながらも、隣の会話に耳をそばだてていた。
銃弾とカードの攻防。
明らかに銃弾の方が有利に見えた。
「・・・まだつまらないことを根に持っているのですか。」
半ばあきれたような、りぼさんの声。
その言葉に、レーさんの何かが切れた。
「つまらない。くだらない。強さを競うために私たちは白銀に集ったわけじゃない。」
「ああ、違いますよ!違うとも!しかし―!」
「そんなことをして何になる。」
レーさんの言葉を遮ってりぼさんが口を開く。
すると、その質問のための返答を探しながらレーさんはこう言う。
「っふ・・・そうですねえ・・・ 僕の私怨・・・そう。私怨くらいは満たされるんじゃないでしょうかねえ!」
言葉の最後になるにつれて、力がこもる。
カードがりぼさんの方へ飛ぶ。
鈍く、鋭く光る、刃物のトランプが。
しかしそれも、あっさり拒絶されてしまう。
「いい加減やめに―
「なぜだ!なぜなんだ!」
りぼさんが喋るのも構わずに、レーさんは激する。
なぜなんだ・・・というレーさんのつぶやく声が聞こえた。
すると、そこにはさっきいなかったはずの女性が息を切らして立っていた。
「ちょっと、ロウさん―
が、その女性の言葉をも遮ってレーさんは喋った。
「ユエノ!コウ!引き上げますよ」
「!?」
その場にいた全員が息を詰まらせた。
「仕方ありませんね・・・」
「了解したっす!」
口を開く間もなく、仮面のメンバーはいなくなり、戦場には既に白銀のメンバーしか残っていなかった。
仮面は、途中で逃亡。
白銀は勝ったことにはなった。
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「・・・そのあとは、テルさんが白銀にくるまでレーさんや仮面のメンバーを見てない。」
「あ ありがとうございます」
「僕も話すことあるよ!テルちゃんちょっと聞いてよ!」
はあ、と敦眞さんがため息をつく。
「どしたのさ。あっつん?」
「一弥が、ポプリに頼まなかった理由がなんとなくわかったよ。」
「ええ!教えて教えて!」
「あとで。テルさん、あとはご自由にどうぞ。」
「あ。はいっ」
「テルちゃん行っちゃうのー?」
「あー・・・ごめんなさいっ。」
「またあっつんのお部屋においでー!待ってるよー」
イチヤさんはニコニコしながら手を振っていた。
これで、二人の話を聞いた。
だいたい解ってきた―。
本人に、聞いた方がいいのかしら?
てっとり早い方法に首をかしげながら、テルはホワイトボードを書き換える。
居場所【ロウさんの場所】 帰宅予定時刻【18時】
「それじゃあ・・・」
いってきますね と小さくつぶやくと大きな扉を開けて、外へ。
掲示板に届かない私のために踏み台を置いてくれた一弥さんに感謝ね。
嬉しさのせいか、少しにやけながらもメガロポリスへ出る。
相変わらずの人ごみ。
人
ひと
ヒト。
探している人は簡単には見つからないので
【いつものように】メモを送る
≪お時間、空いてますか?≫
もちろん、返信が来たことはない。
だって
それより先に、彼が到着するんだもの。
大きな大きな袋を担いだ彼が。
「・・・今日は大荷物ですね?」
「ははは。テルちゃんのために集めたんだよ。」
重そうな袋を担ぎながらも、爽やかに笑う。
そう、さっきの話とは別人のように。
「ど、どうも・・・」
「今日は遺跡まで。ね。」
本来の携帯としての役目を果たさない携帯を私に手渡すと
ロウさんはどこかへワープした。
どこか・・・アステカ遺跡へ。
---------アステカ遺跡---------
「ロウさんー?ロウさーん?」
どうも、携帯なんかで飛ぶときははぐれてしまう。
なんてきょろきょろしていると、数メートルに見慣れた姿。
暑い中、光を集めそうな黒い服、黒い髪。
それでも、そのオーラは幾分涼しげで。
「あ、いたいた。テルちゃん、こっちですよー」
ニコニコとこちらに向かって手を振る。
「あ、はーい!」
並んで歩くと、ロウさんが口を開く
「早いですねえ。もう50ですか・・・」
「ロウさんのおかげですよー」
そうですかね とロウさんは笑う
「そろそろ、テルちゃんは吟遊詩人になるのかな?」
「?」
「・・・あ、説明してなかったね」
「この島では、ある程度の経験を積むと職業のランクアップが可能なんです。
転職とはいいますが、ランクアップです。」
「・・・で、私はもうすぐランクアップできるのですか?」
「そういことになりますね!」
少し嬉しそうな顔。
ただ、気の所為じゃない・・・何か愁いを帯びたような・・・。
「じゃ、ラストスパートですよ!」
「は はあい」
荷物を担いだまま駆け出すロウさんの後に続いてテルも走る。
ロウさんの荷物の中にはいろいろなものが入っていた
ひよこは生まれないであろう、黄金の卵。
誰も崇拝しないであろう、アポシスの像。
あからさまに偽物な、古代の土器や石器。
それとは逆に、ずっしりと重い黄金。
それを各案内人・・・クエストの依頼人に渡していく。
気づけばレベルは60。
そして、時刻はカラスが啼き、夕日が沈みそうな程に。
「ふー・・・」
空っぽになった袋をたたみながら、ロウさんがため息をつく。
「あとは、この証を持っていって転職しましょ?」
「え。もうできちゃうんですか・・・?」
「ええ。早い方がいいでしょう?」
「ま まあ・・。」
ラ・フィメールさん・・・って言ってたかな?
ロウさんに言われたとおりにやってくる。
大きなハープを奏でながら詩を刻む一人の女性・・・男性?
「あ、あの・・・」
恐る恐る歩み寄り、声をかけると、目線がこちらにうつる。
「おや、迷える子羊さん。どうしました?」
男性・・・なのかな
「あ あの・・転職を・・・と思って」
少しの間をおいて再び口を開く。
「・・・ふむ。証は持ってきているかな?」
「あ、あります!」
証を手渡すと、ラ・フィメールさんはそれを見つめる。
「確かに。」
そういうと両手をテルに向け、呪文を唱え始めた。
テルの耳では聞き取れない。
というより聞き取る前に、呪文は終わってしまった。
「うん。お似合いですよ。子羊さん。」
「ど、どうも・・・。」
「それと・・・
何か思い出したように口を開く。
すると、自分の右手にはめていた指輪を抜き、テルに。
「これは、私からのお祝いです。これからも貴方に自然のご加護を・・・」
「ありがとうございますっ」
ラ・フィメールさんとの会話を無理やり終わらせ、
慣れない服に戸惑いながらも、駆け足でロウさんのもとへ。
「あ。」
私の姿を見つけたのか、ロウさんは煙草の火を消して微笑む。
・・・煙草、吸うんだ。
意外性を発見しながら、ロウさんに手を振る。
「おお。一段と可愛くなられましたね。」
ロウさんは私を撫でながら優しく笑う。
そして、こう続けた。
「それじゃあ、今度会うのはギルドバトルで。」
「・・・え?」
「聞いたでしょう?白銀のメンバーから。過去を。」
「・・・ええ。」
「僕は、もう一度白銀に勝負を挑みます。・・・これが最後かな?」
白銀メンバーには内緒ですよ、といいながら指をテルの口元へ。
そして、いなくなった。
ロウさんがいなくなった遺跡は来た時よりもさびしく見えた。
暗闇にのまれそうな遺跡の中、テルだけが佇んでいて。
「・・・帰らなくちゃ。」
今聞いたことを忘れようと、自分にいいきかせ本拠地へ戻る。
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「ただいまですー!」
大きなロビーへ声を響かせる。
「おかえりなさー・・・
声が途中で止まる。
「転職されたんですか!呼んでくださればよかったのに!」
リヴォルブさんが軽やかなステップでこちらへ来る。
「あー・・・。ごめんなさい。」
「いえいえ!よいのです!まずはおめでとうです!」
「あ、どうも」
「うわあー テルちゃん、さっきまでは司書さんのカッコだったのに!」
横からイチヤさんが顔をのぞかせる。
「ずいぶん早いんだな―」
敦眞さんも。
「あ、ええ。ロウさんが手伝ってくれて」
言ってしまってから、はっとする。
言わなければよかった。
案の定。リヴォルブさんは顔を曇らせた。
「・・・そうですか。」
「あ、あの、ほんの少しですよっ」
「心強いギルメンが沢山いますから。ね?」
訂正も空しいばかり。
弱弱しく微笑むと、リヴォルブさんは奥へと姿を消した。
「気にしなくてもだいじょーぶ!テルちゃん可愛くなったね!」
イチヤさんは言う。
「ありがとうです。それじゃあ、私はこれで・・・」
足早にロビーを去ると、テルは自分の部屋へ。
なんだか、いやな予感がして仕方ないから・・・。
明日が来ることに、少し抵抗を感じながらも
テルは深く、深く、眠りに堕ちて行った。
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ある別の場所には数人の人影。
仮面の本拠地。
「またあのあんさんと闘えるんっすか!」
「そうだね。」
コウとロウの声。
「あのドラゴンとも決着がついてないわ。」
そしてユエノ。
「そこまで強いの?その白銀ってやつら。」
大人っぽい女性の声。
「むちゃくちゃ強いっすよ!ケイ姐さんでも苦戦するっす!」
ケイと呼ばれた女性はさっきより少し低いトーンで話す。
「ふん。私が全部蹴散らすよ。」
「僕も、入れてくれるんでしょ?」
さらに、ケイと対照的な声・・・幼い声の少年。
「もちろん弥散≪ヤチル≫もっすよ!」
「うわあ!ほんとに?嬉しいなあ!ロウさんが言ってた、かわいい子羊ちゃん!
すっごく楽しみなんだ!」
「子羊?」
一同が声をそろえて聞く。
「うん!ロウさんが言ってた!彼女は強くなるって!んでんで、かわいいって!」
最後の言葉に不満なのか、ユエノが鼻で笑う。
「わたくしに敵う者はなくてよ。言動をよく考えなさい。弥散。」
「ううー ごめんねー ユエノー」
でも可愛いって言ってたんだよお・・・ 弥散がそう小さく付け加えた。
「強いんすか。その子。拳で語れそうっすか?」
「彼女は魔法使いだよ。」
横からロウが口をはさむ。
少しがっかりしながらコウが呟いた。
「ちえー。・・・まあいいっす。あたいにはあんさんがいるっす」
「んじゃあ、僕がその子羊ちゃんをもらうね!」
弥散がはしゃぎながら言う。
「あんた、手加減って知ってる?」
ケイが半ばバカにしたように聞く。
「やだなあ。ケイ姐さん。僕は常に手加減してるんだよお?」
そう言い終わると、ニヤリ と妖しく笑う。
「・・・そうね。」
二人の会話の途中でロウが気だるそうな声で話す。
「さ、準備は任せたよ。僕は眠い・・・」
「あー!ロウさんだけ寝るつもりっすか!」
「あーやだやだ。私だって発掘手伝ったのに。」
「わたくしはお肌に悪いので早く寝ますわ。」
「なになにー?今日は夜更かししていいのー?」
メンバーからの不満を一切受け付けないまま、ロウは自室へ行ってしまった。
扉を閉める前に、こういった。
「そうそう、もう一人屋敷のなかにいるはずだよ。優秀な人が。
そうだな・・・名前はヴィル・・・かな?」
「んなこといったって、ヴィルってずっと寝てるんじゃ・・・」
ケイがさらに愚痴をこぼす。
「てか、あたいその人知らないっすよ?」
「・・・。」
「なあに?ヴィルさんってだあれー?かわいい?」
メンバーの言葉を無視してロウは寝てしまった。
・・・それと入れ違いに一人の男性。
「ふわー・・・よく寝た。はじめまして。ヴィル-バーリーです。」
その声に残されたメンバーが振り返る。
床に長く延びたシルエット。
優しそうな面影なのに、釣り上った目がどこか不思議な感じを醸し出していた。
「おはよう。ヴィル。」
「おっ。ケイ!おはよー!さっさとおわらしちまおーぜ!たりーのは御免だっての」
ケイに抱きつきながら、ヴィルは他のメンバーに呼びかける。