「ううー・・・なんで僕がこんなことしなきゃならないのさあ・・・」
ぶちぶちと独り言を言いながら歩く少年。
腰よりも下に伸びた群青の髪に、色白できれいな瞳は
誰もが彼を女性と間違えるだろう。
休日の昼間とあって、メガロポリスはいつにもまして賑わっていた。
ここまで人が多いと、その中の数人は彼に声をかける。
またひとり。
「そこのかーのじょっ 名前は? 俺さ、そこで喫茶やってんだけど、
ちょっとお茶飲まない?」
俗に言う、ナンパ。
暑い上に、男に声をかけられるとうっとうしいことこの上ない。
ふいと声をかけられた方を見やる。
ニコニコしてこちらの返事を待っている。
そう邪険にするわけにもいかないだろう。
が、今はそんな気配りをする余裕もない。
「僕は弥散。僕は男だ。間違えるな。」
その声を聞くと、男はチッと舌打ちをしてその場を離れようとした。
ある一言を残して。
「ったく紛らわしいことしやがって・・・」
弥散はその最後の言葉を聞き逃さなかった。
万が一のために持ち歩いている短剣を1本投げた。
それに気づいた相手は間一髪のところで避けた。
僅かに避けきれず、頬には切り傷ができていた。
「お前、何しやが―・・・
怒鳴り声にも動じず弥散が一瞥すると、男は駆け足でその場を去った。
「もー、これだから嫌なんだよねぇ。」
落ちた短剣をしまいながら歩くと、再び独り言を始めた。
「だいたいさぁ、ロウさんがやればいいのにわざわざ僕が・・・
てゆーか、コウちゃんも、ケイさんもヴィルとか言う人も・・・
≪公平にジャンケンしよう!≫って、絶対不公平じゃんか~
ユエノさんは肌に悪いとか歩きたくないとか言ってるし・・・
僕だってお肌焼きたくないんだよお。うう。」
ふいにある場所で足を止める。
もちろん、独り言も。
「ええと・・・ここだったかな?」
地図を確認し、カバンから手紙を取り出す。
そして、扉をノックする。
「すいませえんー お知らせがあって来たんですけどおー・・・
途中まで言いかけて、辞めた。
誰を呼べばいいんだったかな?
きっと、リヴォルブとか言う人は相手にしてくれないし、
・・・そうだ。
僕の子羊さんなら、相手にしてくれるはず。
適当な予想をたて、もう一度叫ぶ。
「すいませんー! テルさんにお話があってきたんですけどー!
テルさんいませんかあー?」
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ゴンゴン。
扉をたたく音がした。
「テルさんいませんかあー?」
知らない人の声がする。
誰かしら?
私の知っている人かしら?
ゴンゴン。
たたく音は止まない。
「はあい―・・・ テルですー」
扉を開けると、そこにいたのは
・・・少女。
「どうしたんです?お嬢さん。」
一弥さんの口調がうつったのか、紳士のような口調に。
すると、彼女は口を開く。
「んー、君がテルちゃん?残念だけど、僕は男なんだー」
えへへ と胸を張る。
この子が?
色白で、髪も長くて・・・
少し高めだけれど、確かに男の子の声。
「あ・・・ごめんなさい。ええと、どなた?」
「うんとね、僕はね、弥散ってゆーの。」
そういうと、片手に持っていた手紙を差し出す。
「これね、ロウさんからお手紙。白銀さんへ って。」
黒地に、白い傷の爪痕のような模様が入った封筒。
たしかに、「白銀の序曲様へ」との文字が入っていた。
白く、綺麗な文字で。
「ありがとうですー・・」
じゃあ、この子も仮面の子?
「そんじゃ、僕は行くから、今度会おうね!楽しみにしてる!」
そう言うと、どこかへワープした。
きっと、本拠地ね。
「ええと・・・」
この手紙は、どうしたらいいのかな?
とりあえず、その場で封を切る。
入っていたのは、一枚の便箋。
これも黒い。
文字は白くないと見えないじゃない。と余計な心配をする。
しかし出しては見たものの、思いとどまり封筒へ戻す。
そして、パタパタと掲示板へ走っていくと リヴォルブ の名前を探す。
「みーつけ。」
居場所は・・・ここ。
探さなくっちゃ。
が、探すまでもなくリヴォルブさんが出てきた。
「あー・・・ テルさん。先ほどはどなたが?」
気づいてたのね と、少し驚きながら
次の言葉を探す。
続けてリヴォルブさんが口を開いた。
「・・・?それは?」
テルの手に握られていた封筒を指さす。
「ええと・・・これ・・・白銀宛に仮面さんから・・・」
リヴォルブさんの眉が釣り上った。
「あ、どうぞ。」
何か言われる前に、と手紙を渡す。
「どうも。また夜にでもみんなを集めましょ。」
そういうと、再びどこかへ行ってしまった。
今思うと、読んでおけばよかったかしら?
夜解るなら同じことか、と自己完結し部屋へ戻ることにした。
しかし、夜になる前にそれは明らかになった。
ロビーにみんなが呼び出された。
広いロビーには
マスター
リヴォルブさん
敦眞さん
一弥さん
愛澄さん
イチヤさん
ブリュークナクさん
だーすさん
ズーマさん
きっと、これ以上いるのだろうけれど集まったのはこのメンバー。
「・・・さて」
リヴォルブさんが口を開いた。
「これで、決着がつく。
今思えば、なんなんでしょう、いつの間にか恨まれていた。
私は何かに気づいていなかったんでしょうか・・・
何か間違っていたんでしょうか・・・
ただ、これですべてを終わらせられるなら。」
そこで言葉を切った。
「皆さんの手元には、コピーがあるはずです。
それが、今日届いた手紙です。」
そう言われて、リヴォルブさんからテーブルへと視線を落とす。
ざっと読んでみる。
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親愛なる、白銀の皆様へ
前回のギルドバトル、覚えているでしょうか。
私たちが途中退場した、あのギルドバトルを。
なぜ、それが起こったかは、今ここでは語らないでおきましょう。
単刀直入に言いましょう。
もう一度、ギルドバトルを行います。
悪いが、あなた方に拒否権はない。
日時は
明日夜9時。
6対6のデスマッチ。
メンバーはお好きなようにしてください。
明日を楽しみにしていますよ。
追伸 テル嬢は連れてきてくださいね。
うちの子が楽しみにしているんで。
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「読みましたか?」
全員がうなずくと、リヴォルブさんは言葉をつづけた。
「テルさんは来いとの話でしたので―
メンバーは、マスター・私・あっつん・一弥・イチヤ・テルさん。
で、どうでしょう?」
「おいおい・・・いくらなんでもテルさんは危ないんじゃ・・・」
敦眞さんが意見を。
「そーだよお。参戦しろなんて書いてないんだからあー」
イチヤさんも加勢する。
「しかし― テルさんは参戦した方が良いと・・・」
「テルちゃん、どーする?」
ミントさんに聞かれてはっとする。
「あ、是非参加させてもらいますっ!」
自分で首を突っ込んだことは、最後まで。
最後まで終わらせなきゃ、だめじゃない。
そんな事をしているうちに、カバリア島の夜は更けていった。
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窓から差し込む一筋の光。
木々の囁く声と共に、雀がせわしなく鳴いて。
カバリア島の一日の始まりを、鶏の声が告げる。
素敵な騒音にたたき起こされたテルは時計を見る。
AM9:00
いつもより遅めの起床。
ちゃんと睡眠をとってくださいね。とリヴォルブさんの声が蘇る。
もともと朝には弱いので、そんなテルには最高な一日の始まり。
そして、今日は最悪な一日を過ごすことになるだろう。
とりあえず着替えて、身だしなみを整えるとロビーへ向かう。
テーブルの上には、チャーハン。
「おおおおー!マスター、これなに?なんてーの!?」
イチヤさんが顔を輝かせながらミントさんに問いかける。
「うん。これはねーチャーハンって言うんです。テルちゃんおはゆ~」
イチヤさんに簡単な説明をしたかと思うと、こちらを向いて挨拶。
「あ、おはようございます」
「そこにご飯乗ってるから、食べ終わったら自由にしてていいよお」
まだ起きていないであろう人たちの分を作りながら、チャーハンを指さす。
「ねね、テルちゃんはチャーハンって食べたことある?」
イチヤさんが興味津津で聴いてくる。
「えー・・・何度かありますよ」
「これ、おいしい?」
「とっても」
それを聞くと、いただきます!とロビーに声を響かせてイチヤさんはチャーハンを貪る。
その様子に驚きながらも、スプーンを手に取るとテルも口に運ぶことにした。
ぺこぺこだったお腹が徐々に満腹になる。
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一方仮面の本拠地では朝から妙な争いが。
「朝って言ったら白いご飯っす!じゃないと力がでないっす!」
「いやよ。わたくしはトーストじゃなきゃ食べないわ」
「ほ、ほらほら・・・昨日はトーストだったから今日はご飯って言いましたよね」
言い争うコウとユエノの間に分け入ってロウが制する。
「準備しますから、みんなを起こしてください」
「了解っす!」
「・・・・・・。」
コウはすたすたと部屋へ向かう。
ユエノも、何も言わずにほかのメンバーを起こしに行った。」
「ううー、みんなおはよー。今日のごはんなあにー?」
日の光に目を細めながら弥散が起きてくる。
「今日は和食ですよ」
ロウが笑顔で答えるが、弥散の顔は逆に曇る。
「パンがよかったー」
「だめです」
「ぶー・・・」
弥散を起こしに行ったコウは困った顔をしている。
そして、ユエノとケイ、ヴィルが戻ってきた。
「席に着いてくださいね。食べますよー」
テーブルに和食が並ぶと、一番うれしそうな顔をしているのはロウだった。
コウも嬉しそうに箸を手に取っている。
「いただきまーす」
小さなロビーに6人の声が響いた。
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朝食を終えたテルは、することもなく自分の部屋に戻っていた。
いまだに眠気が取れないのでもう少し寝ることにし、あとどれぐらい寝られるかしら?と考える。
眠気が取れない、なんていうのはただの口実で寝たいだけなのだ。
自分の部屋の扉を開けると、わき目も振らずベッドへ・・・ダイブ。
ぼふ、と埃が舞う。
5時くらいに起きればいいや。と適当なことを考えながら眠りに就く。
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カッチンコッチン、時計は廻る
カッチンコッチン、時間を刻む
指した時間はおやつの時間
壁掛け時計が3時を知らせる
ぽろっくー、と鳩時計が鳴いた。
「今日のおやつはなあにかな?」
イチヤが妙なリズムを口ずさむ。
「今日のおやつはなんでしょう」
エプロンをしただーすが似たリズムで返す。
「そうね、ホットケーキかしら?」
愛澄がリズムを壊して言葉をかける。
「うん。御名答っ」
ひょい、とフライパンの上でホットケーキを返しながらだーすが言う。
「このクリームは僕がもらうよっ」
横から伸びた手は、クリームをつまむとどこかへ持ち去った。
「ち、ちょっとぶりゅーさん!」
「む?」
「つまみ食いはだめです!」
「ええー・・・」
「そんなことするならケーキはあげませーん!」
意地悪な笑いを浮かべながらだーすが盛り付けを始める。
「ひゅう!そこ、熱いねえ」
愛澄の隣にたった一弥が二人をはやし立てた。
イチヤが、完成したおやつを真っ先に貰いフォークを突き立てている。
「おいおい。まだみんな来てないだろう」
「だって、おいしそーなんだもーん♪」
そんなのかまわない、というふうにぱくぱくと口に運んで行く。
「テルさんも、いないんじゃないですか?」
イチヤの後ろにリヴォルブが立っている。
「わわっりぼさん―」
言葉が詰まった。
そういえば、テルさんがいない。そんな雰囲気が流れる。
「私、見てきますね」
バタバタとリヴォルブが駆けていく後姿をメンバーはみているだけ。
「テルちゃん、寝てると思うんだけどなあ」
イチヤの呟きも聞こえていないようだった。
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テルさん、どうしたんでしょう。
ギルドバトルがあるからってふさぎこんでるんじゃ・・・
いらない妄想を振り払いながらドアノブに手をやる。
・・・ちょっと待てよ。
このまま開けていいのだろうか。
一度かけた手を離すと、扉をノックする。
「テルさーん。おやつですよー。食べましょー」
返事がない。いないのだろうか。
コンコン、と何度もノックする。
「テルさんー?」
がちゃり、と扉が開くと出てきたのは眠そうな顔をしたテル。
「なんでしょうー・・・?」
「おやつ、食べますよ」
そう笑いかけると、テルは嬉しそうな顔をする。
どんな話題を持ち出したらいいのだろう。
「ホットケーキの、いいにおいがしますね」
もちろん、ロビーからここまでの距離を考えるとそんなにおいなどしない。
バレバレである。
「そうですねー。今日も、だーすさんが作ってくれたんですか?」
何に対しての「そうですね」なのかは解らないが、とりあえず元気そうなので胸を撫で下ろす。
ロビーにもどると、すでに皆席に着いていた。
イチヤにおいては、二皿目を食べ終わろうとしていたのだからそれには驚いた。
「それじゃ。ギルドバトル勝利を願ってー!」
だーすの号令で一斉に「いただきます」の声が響く。
そのあとは、カチャカチャとフォークと皿がぶつかり合う音だけ。
もくもくと食べている。
「さてー僕は準備してくるよーん」
結局5皿くらい食べたイチヤが真っ先に食べ終わり、席を離れた。
「あ、お皿はこっちで片付けるのでそのままでいいですよ~」
ブリュークナクが声を張り上げる。
「それじゃあ私も」とテルが去ろうとする。が、立ち止まる。
「なにが必要なんでしょう・・・」
ああそうか、とメモを取り出すと、リヴォルブは必要なものをメモして手渡した。
「これだけ用意してくだされば結構ですよー」
「あ、ありがとうですっ」
小さな紙を両手で受け取ると、テルは部屋のほうへ走っていった。