立ち上がったミントが一呼吸おいてから口を開いた。
「ミント・クライスです。
白銀の序曲のマスターをやらせていただいてます。」
それから・・・ と何を言おうか迷っている横で、リヴォルブがヒソヒソと耳打ちする。
しばらく考えたあとに、ああ。と納得すると言葉をつづけた。
「好きなものは、羊さん。自分自身で言うのもなんですが、魔法のエキスパートです。
何かあればどうぞ聞いてくださいね」
ニコニコと周りに微笑みかける。
ミントが再び座るのを確認して、リヴォルブは次の人を探す。
「あ、一弥さんお願いしますー」
「お、もう俺の出番ですか?
えーと・・・ども。一弥ですっ
白銀の副マスターやらせてもらってまーす
イベントの企画なんかはだいたい俺が考えてるんでっ
それと、世話焼き体質なんで手伝えることはなんなりとどうぞー」
あらかじめ用意してあったような様子で、スラスラと自己紹介を終えてしまう。
アドリブ慣れしているのだろうか、と思うほど。
次は・・・ というリヴォルブの声を遮ってイチヤが立ち上がる。
「はいはい!次はポプリの出番!
僕はポプリ!別名イチヤっていうんだー
言っておくけど、ばけもんじゃないから!
これでも副マスターなんだよっ☆」
キラキラとそこらじゅうに星を振りまいて座る。
‘ばけもん’を否定するときには、コウの方を睨んでいた。
睨んでいた、というより、彼の眼力では見つめていた、のほうがしっくりくるだろう。
それに気づいたコウはというと、ニコニコと笑いかけるだけで、それに少しショックを受けているようにも見えた。
「えーと・・・それじゃあ、次はあっつんですね」
突然のイチヤの乱入に驚きながらも自己紹介を進めるリヴォルブ。
「はーい。敦眞ですー
あ、あっつんって呼んでください。」
あつひめー、とどこからか野次が飛ぶ。
「あつひめじゃないです。
あんまり働きませんけど、一応副マスターですー
よろしくです!」
あつひめって言ったの誰さ・・・とブツブツ呟く。
となりにいるリヴォルブがすっと立ち上がり自己紹介をする。
「どうも。リヴォルブです。
前の皆さんと同じように私も副マスターの称号をいただいてます。
ある程度のことなら相談にものりますのでっ。
・・・と、私までのこの5人が白銀の中心メンバーでしょうか。
まあ、白銀は一人一人が主役なんですけどね」
多くを語ることなく自己紹介を終えてしまう。
それには理由があったから。
イチヤが、明らかにおなかをすかせているのだ。
そして、まわりにも飽きの色が見えていたから。
このあとも、十何人と自己紹介するメンバーがいるわけだが、そんなことをしてしまっていては日が暮れてしまう。
ああ、と何か思いつくと全員に呼びかけた。
「自己紹介を聴いているのも退屈でしょう。
食事をしながら周囲と交流するほうが楽しめると思うので―」
いただきます、と大きな声をロビーに響かせた。
ギルドって、すごいのね。
テルは内心で呟いた。
バラバラになってしまったものがここまで団結するものだと思うと、
ギルドの能力は未知数。そんなところかしら。
白いテーブルに色とりどりの食器と食材が踊る。
何かに手を伸ばそうとする前に、何ものかがサッと取って行ってしまう。
次、と伸ばそうとするとまた。
ふと周りを見回すと、イチヤさんのお皿に堆く積まれた食材たち。
ああ。と納得するものの、どうにも納得いかない。
よくよく見ると、イチヤさんの皿に数本の手が伸びる。
手の主は、一弥さんに、コウさんに、愛澄さん・・・。
なるほど。と今度こそ納得するテル。
お皿が真っ白になるときには、また新しいお皿。
やっと食べることができるのね。
小さめのチキンを選んで自分の皿へ運ぶ。
お皿があくスピードは劣ることなく時間が進む。
お皿が空になるスピードが速い所為か、時間もあわただしく進んでいるような気がする。
・・・のは、気がするだけで。
それは、突然のメンバーの帰宅で気付いた。
帰宅というか、帰ギルドというか。
「ちょっとぉお!僕を差し置いて何してんのさ!」
バン、ともドン、ともつかない音で扉を蹴って開ける人物。
その音も、ロビーのにぎやかな音で掻き消されようとしていた。
が、それに気づいたのはリヴォルブさんで。
「あ、アネさんおかえりなさい~。もう始まってますよー」
お酒が入ったのだろうか、いつもに増して呑気な声色。
その雰囲気に押されてか、アネさんと呼ばれた兎さんはぶすっとして席に着いた。
「たった5分の遅れでこんなに喧しくなるわけ?僕がお酒持ってきたって言うのに・・・」
何やらブツブツと呟いているように見えるけれど、反対側に座っているテルにはなんだかよく聞こえない。
アネさんが席に着いたのに何名かが気づくと、とたんにアネさんに注目が。
「お、アネさんおかえりー」とか、
「おかえりぽぷー」とか。
初めて見るメンバーに「おかえりなさい?」と疑問形で投げかける者も。
それをアネさんは「おぅ」と小さく返しながら抱えていた袋をガサガサと漁る。
横には、怪訝そうに見つめるリヴォルブさん。
「お。これこれー。・・・よっ」
瞳を輝かせてテーブルにドスンと置いた「それ」は
お酒。
どこからどうみても、お酒。
テーブルに「それ」を置いた反動で、テーブルががくんと揺れる。
「何事だ」と皆がそれに注目すると、待ってましたと言わんばかりにアネさんが声を上げた。
「これは、祝い酒だおまえら!僕からじゃなくて、リヴォルブさんからなんだZE☆」
と、言い終えるとテーブルの下に置いてあった袋から瓶をすべて取りだす。
全部で、いち、に、さん・・・5本。
わざわざ数えなくても解るようなもんだろうけど、こう大きいものが並ぶと数えたくなるものなのよ。
と、一人で突っ込みを入れる。
「はいはい、各自グラス貰って持ってきてくださーい!」
アネさんとバトンタッチしたリヴォルブさんが続いて声を上げる。
皆一斉に立つと思いきや、数名が他のメンバーの分のグラスをもって立ち上がった。
まず、牛紳士こと一弥さんが愛澄さんと、イチヤさんの分を。
それから、ズーマさんがコウさんの分と一緒に。
「あんさん、やさしいっすねー」
コウさんが、ちょっと遠くのズーマさんに叫ぶ声がロビーに響く。
イケイケなヴィルさんはケイさんの分をもって。
弥散さんは身長に合わない椅子からぴょい、と飛び降りて
「ちょっと取ってくるから、テルちゃんは待っててー」
と言って小走りに行ってしまった。
獅槻さんは、人がはけたのをいいことに、お皿の料理を自分のもとへ寄せている。
ブリュークナクさんとだーすさんも、同じように。
『必ずもらえるしね~』と口をそろえて言っている。
ロウさんは・・・と姿を探すと、ユエノさんのそばにいた。
「僕が持ってくるよ」
と、ニコニコ笑顔で笑いかける。
テルはあのロウさんの笑顔が嫌いじゃない。
と、そんなことはどうでもよく、当のユエノさんはというと、頑なに拒んでいる。
・・・拒んでいる?
「わたくしが自分で行きます。ロウさんはもうよくってよ」
「・・・お?意外ですね。どうしたんだい」
不思議そうな顔で、さびしそうな顔で、ロウさんが訊ねているのをよそに、敦眞さんに声をかけていた。
「わたくしが持ってきて差し上げますの。あなたはここにいなさい」
また、どえらく高飛車な口調なのね・・・と驚くものの、そんなもんかしら?と首をひねって終わる。
敦眞さんはと言えば
「ん。」
よく解らない魔方陣の描かれた表紙の本を片手に、『興味無い』とでもいうような様子でグラスをユエノさんに渡していた。
その光景にどうしたらいいのか解らないロウさんは、ふいにこちらを見る。
「あ。」と言うように口を開くと笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。
「ユエノが最近どうも変でね・・・恋でもしたんでしょうか」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべながらグラスを片手にしている。
ああ、恋。
ユエノさんはよく解らないヒトで、とりあえず高飛車ってことぐらいしか知らない。
きっと、そういうの苦手なのね。と自己完結。
お酒をもらいに来た人がある程度はけると、ブリュークナクさんや、だーすさん。それから獅槻さんも。
「お。ちょうど4本で皆さんの分配れましたね~・・・って、残りの1本どうするんです?」
3人が去ったところを見送ると、リヴォルブさんは目の前の1本を見つめながらアネさんに問いかける。
「ああ、それ。ちょっとイベントをするために僕が買ってきたんだZE」
ぱち、とウィンクして料理を皿に盛っている。
「テルちゃん、何見てるの~?およ。ロウさん何してんのさ!」
グラスになみなみ注いでもらったお酒をもって弥散さんが戻ってくる。
「ははは。僕も混ぜてもらおうかと思ってね」
「やだ!ロウさん、テルちゃんば取っちゃうもん」
「まあまあ。弥散もそのつもりでしょう」
それじゃ、と椅子をテルの横に持ってくるとロウさんも座る。
ぷー、とふくれると弥散さんはグラスに口をつける。
膨れるあたりは白銀のポプリとそっくりね、とテルは笑う。
・・・弥散さんがお酒?
どうみても成人してない・・・
じっと見つめていると、それに気づいた弥散さんが言う。
「僕、いちおーダークロードだよ?成人してんだよーん」
すごいでしょ、と胸を張ってお酒を飲んでいる。
・・・と、そのまま突っ伏して寝てしまった。
「zz...zzzz....」
器用にグラスをもったまま・・・
隣ではロウさんがニコニコ。
お酒に強そうだけども、少し頬が赤く―
「はいはいはいはい!ちょっとしたイベントをするんだぜ!注目注目!」
パンパンとアネさんが手をたたく。
「そろそろ終わりが近いんだぜ!っちゅーことで、最後にリヴォルブさんに一気飲みをしてもらいます!」
わっと拍手が起こる。
時計を見ると、午前3時前。
「ずいぶん体張ったんですねえ、リヴォルブ・・・」
遠くを見るような眼でロウさんが呟く。
一気飲みをさせられると知ったリヴォルブさんはというと・・・
うろたえている。
「な、なんで私が一気飲みなんて・・・」
「一本150万ゲルダ。飲まないでどうするよ?」
アネさんが笑顔で言う。
「飲んだ方がもったいないんじゃ・・・って うぉおう?!」
ブリュークナクさんに後ろからがっちりと。
「逃がさないよ^^」
不敵な笑み。
「ってことで、リヴォルブさんの一気、いきまーす!」
わっとアネさんが瓶を掲げた後、リヴォルブさんに手渡す。
「ほい。」
「え。はい。」
栓を開けると、それを口元へ―
のーんでのんでのんで―♪
周りから掛け声がかかる。
リヴォルブさんはお酒を、150万ゲルダを―
飲み干した。
「う・・・げぷ。」
ポーン、と3時を告げる鐘の音がなった。
「お疲れ様でした!これで歓迎パーティーはお開きですっ
このあと各自解散ということで!」
厨房から様子を眺めていたミントさんが叫んだ。
ごちそうさまでした―!