月日は流れる
「あの日」から一か月……

 

 

 

 


……

………

…………

タッタッタッタ…!

受付「あら、キョンくん。こんにちは」

キョン「こんにちは。涼宮ハルヒの面会なんですが」

受付「はい」

キョン「……あの、あいつ……」

受付「……?」

キョン「部屋でおとなしくしてますかね?」

受付「あぁそのことですか!キョン君、部屋であなたのことを待ってますよ」

キョン「すみません、ありがとう御座います!」

 


受付B「…………」

受付A「……また来たの?あの子」

受付B「はい」

受付A「ハルヒはいますか、って?」

受付B「……えぇ」

受付A「………健気ね。あの子が部屋から出ることは……」

受付B「先輩」

受付A「………」

受付B「それ以上は、どうか……」

受付A「……ごめんなさい」

 

ガラガラガラッ!

キョン「ようハルヒ。今日も来たぞ」

ハルヒ「」

心電図『ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、』

呼吸器『シュー……コー……』

キョン「今日はな、綺麗な花を持って来た。SOS団みんなで探したんだ」

ハルヒ「」

キョン「良い匂いだぞー!」

ハルヒ「」

キョン「……お前花粉症だっけか?」

ハルヒ「」

キョン「んなわけないか。はははw」

 

…………

………

……


ハルヒの親とあの執刀医の話が終わったあと、俺たちも話を聞いた。
執刀医は「手はつくしましたが」と言葉を濁した。はっ、馬鹿いえよ藪医者め。医者ってんなら人間の一人や二人救ってみろよ。
そう思ったねあの時は。だけどその人は何時間も汗だくになりながらも集中してハルヒを助けてくれようとした人だ。

祈ることしかできない無力な俺に代わって…

 


俺たちSOS団はローテーションを組んでハルヒの看病をした。ハルヒの親にはひどく感謝されたが、俺には感謝の言葉には聞こえてなかった。…いや、ハルヒの親は感謝の気持ちを表していたんだろうが、受け手の俺がどうかしてたから…。

図書館司書の話によるとハルヒは11時には図書館についていたらしかった。そしてひとしきり調べもの(恐らく進路の資料の整理だろう)をしたあと、すっと図書館を後にしたらしい。

ハルヒは何度も時計を眺めていた。
……俺と待ち合わせの時間を気にしていたんだろう

これを聞いたとき、急に俺の足に力が入らなくなったのを覚えてる。
覚えていたくもない。…でもそれが現実。
覚えていなくてはならない。俺の最大の、一番してはいけない失敗だった。

 

俺たちは来る日も来る日も眠り続けるハルヒに話しかけた。
寝ているハルヒを見るといきなり起きだして「今日も不思議を探すわよ!」とか言い出しそうな気がして、ひたすら話しかけた。まるで病人の気がしない。……ハルヒへ伸びる禍々しい医療機器どもの管やコードが目に入るまでは。


ハルヒは良い夢を見てるのか悪い夢を見ているのかすら分からない、いつも変らぬ表情で眠り続ける。でもきっと俺たちの声はとどいてるよな。なぁ、団長。


俺たちはお前が目をさますまでずっとこうやってるよ。ずっとだ。だから早く起きろ。


楽しいことの連鎖。ずっと繋がっていくんだ。SOS団の連鎖は。
だが……俺が信ずるそんなささやかなものも、脆くも崩れ去るのだ。

 

 

病院、廊下にて

キョン「……なんだって?」

古泉「ですから、涼宮さんがこの状態なので僕はしばらく内勤に回されることが機関の上の意向で決定しました」

キョン「…………」

古泉「不本意ですが、今日でみなさんとお別れです」

キョン「…………」

古泉「それでは、お世話になりました」


キョン「………それだけか」

古泉「……はい?」

キョン「言いたいことはそれだけか?」

古泉「…………」

キョン「うおああああっ!!」

古泉「!!!」

ガラガラガッシャーン!!

キョン「おおあ!この!この野郎!!」

ガッ!ガツッ!

古泉「………ぐっ!………ぐぁ……くっ!……」

 

医師「君達!やめなさい!」(がしっ)

キョン「…はぁ、はぁ……」

古泉「…………」(ヨロ…)

キョン「…反撃も防御もなしかい」

古泉「………僕にはあなたを殴る権利も、いや、その拳を防ぐ権利すらありません」

キョン「………っ!」

古泉「こんな形でお別れとは………残酷なものです」

キョン「顔あげやがれ……!もう一発殴ってやる…!」

医師「や、やめなさい!」

古泉「……それでは、さようなら」

キョン「待て!!逃げんのか!!」

古泉「……あなたは」

キョン「…!?」

古泉「……信じてもらえないかもしれませんが……」

キョン「……?」

古泉「……幼少のころから機関に属していた私の、初めての友人といえる存在でした」

キョン「…!」

古泉「……そんな人達をおいて、私は」

キョン「言い訳なんかするな!!」

古泉「…………」

キョン「……ハァッ、……ハァッ、…」

古泉「………失礼します」

スタスタスタ……


キョン「………畜生」

医師「あの、大丈……」

キョン「馬鹿……野郎……」

 

 


ハルヒ「」

人口呼吸器「シュー……コー……」

キョン「………ようハルヒ」

ハルヒ「」

キョン「さっき古泉と喧嘩したんだ」

ハルヒ「」

キョン「あいつがわけわからんこと言うもんだからぶん殴ってやった」

ハルヒ「」

 

キョン「ははは」

ハルヒ「」

キョン「はは………は…………」

ハルヒ「」

キョン「…………うっ……うぅ……」

 

……不幸ってのは、続いてくるもんだ。
まるで数珠のように、ジャラジャラと

古泉のやつがあんなことを言い出したんだ。
頭の良くない俺にだってわかる。

その予感は、古泉が消えた数日中に的中する。

 

みくる「……キョンくん」

キョン「何ですか?」

みくる「大切なお話があります」

キョン「………愛の告白だったらすごく嬉しいです」

みくる「…………」

キョン「……だいたい分かります」

みくる「……本日付でここを離れなくてはならなくなりました」

 

キョン「……訳すら教えていただけませんか?」

みくる「ごめんなさい……禁則事項なんです」

キョン「…………」

キョン「俺は今までSOS団ってのは任務とか組織とか機関とか……
根っこの部分はそういうのナシで集まってる、仲間だと思ってました」

みくる「…………はい」

キョン「……なんか俺、裏切られた気分です」

みくる「……………」

 

キョン「分かりました。これからは俺と長門でローテーション組みますんで」

みくる「…っ!あ、あのっ!」

キョン「…………なんですか?」

みくる「えっと……その………」

キョン「……………」

みくる「…………」

キョン「……俺、ハルヒのとこ行かなくちゃならないんで」

ッカツカツカ…

みくる「………………」

 

みくる「………最低ですね、私って……」

 


病院、深夜、廊下にて

キョン「…………」


ツカツカツカ……


長門「……なにをしているの?」

キョン「…………」

長門「………ここで寝るのは風邪をはじめとする症候群に冒される危険がある」

キョン「…………寝ないさ」

長門「…………?」

キョン「寝れない。不安で不安でたまらなくて……」

 


キョン「……みんなSOS団から消える夢を見るんだ」

長門「…………」

キョン「古泉が消えて、朝比奈さんが消えて、長門が消えて……
んで……………」

長門「…………?」

キョン「……こっから先は言いたくない」

長門「……あなたが不安になるなら、言わないほうがいい」

キョン「………あぁ」


長門「私は消えない」

キョン「……!」

長門「ずっと、あなたたちのそばにいる」

キョン「………」

長門「ずっと」

キョン「な………が…と…………」

キョン「zzz...」

 

 

俺の中で、何かが壊れた

最終更新:2008年05月27日 01:25