傘を忘れ雨にうたれた。
エラーを検出。
評判の本が面白くなかった。
エラーを検出。
彼が涼宮ハルヒと話している。
エラーを検出。
彼がわたしの方を見る。
エラーを検出。
エラー、エラー、エラー……。
エラーが許容範囲を上回る速度で蓄積する。このままでは昨年の12月19日の二の舞い。
あるいはもっと悪い可能性もある。
わたしの役目は涼宮ハルヒの観察及び彼女と彼の保全。
わたしはそのために造られた思念体の『道具』。観察は別の端末でもできる。
そしてわたしの中のエラーは致命的なバグを引き起こす。
だから情報統合思念体にわたしの有機情報連結の解除を要請した。
それが却下される。嬉しかった。……嬉しい?
日増しにエラーがたまっていく。
もはや時間は残されていない。
ある日わたしは二人の人を放課後の教室に呼び出した。
一人目は彼。夕日を背に受けて立つわたしに彼が声をかける。
わたしは何も言わずにナイフを構えた。
聴覚の機能を停止する。
声を聞いてはいけない。
殺さないように彼ギリギリの空を裂く。
それでも彼にはわたしが本気としか見えないはずだ。
夕日を背に受けて立つわたしに彼が声をかける。
わたしは何も言わずにナイフを構えた。
聴覚の機能を停止する。
声を聞いてはいけない。
殺さないように彼ギリギリの空を裂く。
それでも彼にはわたしが本気としか見えないはずだ。
二回、三回と襲いかかる。 手元がくるって一筋の赤い線が描かれる。いけない。
再度彼に意識を集中する。その目に浮かぶ絶望がさらにエラーを生む。
また新たな傷を彼につけてしまう。
そのとき感知した。
彼に訪れる救いを。わたしに訪れる破滅を。
教室の扉が開き、彼女が、涼宮ハルヒが現れた。
怒髪天を衝く、これほど状況と合致する言い回しがあることに感動を抱いた。
そして彼女からほとばしる情報の奔流。
できることなら、お別れを言いたかった。けれど、その間もなくわたしは消えた。
いや、消えたはずだった。
なのにここは……?
途端に目の奥を何かが刺激する。
わたしは自分の心がエラーで満たされているのをみつけた。
けれどわたしに危機感はなかった。
そこにあるのは――。
わたしにとっての大切な場所。
ゆっくりと辺りを見渡す。ちょうど誰かが入ってきた。
それは彼だった。
ぼんやりとした顔で歩いている。彼の視線がわたしを向く。
しかしそれはすぐ反らされた。彼はわたしを知らない。
わたしは涙をこらえて笑顔で小さく手を振った。見えるけれど見えない彼に。
それは友好的なさようなら。
図書館をでて街に行き、射す陽射しの中、わたしは消えていった。
太陽を浴びて溶けてゆく雪のように。
――さようなら。
FIN
エラーを検出。
評判の本が面白くなかった。
エラーを検出。
彼が涼宮ハルヒと話している。
エラーを検出。
彼がわたしの方を見る。
エラーを検出。
エラー、エラー、エラー……。
エラーが許容範囲を上回る速度で蓄積する。このままでは昨年の12月19日の二の舞い。
あるいはもっと悪い可能性もある。
わたしの役目は涼宮ハルヒの観察及び彼女と彼の保全。
わたしはそのために造られた思念体の『道具』。観察は別の端末でもできる。
そしてわたしの中のエラーは致命的なバグを引き起こす。
だから情報統合思念体にわたしの有機情報連結の解除を要請した。
それが却下される。嬉しかった。……嬉しい?
日増しにエラーがたまっていく。
もはや時間は残されていない。
ある日わたしは二人の人を放課後の教室に呼び出した。
一人目は彼。夕日を背に受けて立つわたしに彼が声をかける。
わたしは何も言わずにナイフを構えた。
聴覚の機能を停止する。
声を聞いてはいけない。
殺さないように彼ギリギリの空を裂く。
それでも彼にはわたしが本気としか見えないはずだ。
夕日を背に受けて立つわたしに彼が声をかける。
わたしは何も言わずにナイフを構えた。
聴覚の機能を停止する。
声を聞いてはいけない。
殺さないように彼ギリギリの空を裂く。
それでも彼にはわたしが本気としか見えないはずだ。
二回、三回と襲いかかる。 手元がくるって一筋の赤い線が描かれる。いけない。
再度彼に意識を集中する。その目に浮かぶ絶望がさらにエラーを生む。
また新たな傷を彼につけてしまう。
そのとき感知した。
彼に訪れる救いを。わたしに訪れる破滅を。
教室の扉が開き、彼女が、涼宮ハルヒが現れた。
怒髪天を衝く、これほど状況と合致する言い回しがあることに感動を抱いた。
そして彼女からほとばしる情報の奔流。
できることなら、お別れを言いたかった。けれど、その間もなくわたしは消えた。
いや、消えたはずだった。
なのにここは……?
途端に目の奥を何かが刺激する。
わたしは自分の心がエラーで満たされているのをみつけた。
けれどわたしに危機感はなかった。
そこにあるのは――。
わたしにとっての大切な場所。
ゆっくりと辺りを見渡す。ちょうど誰かが入ってきた。
それは彼だった。
ぼんやりとした顔で歩いている。彼の視線がわたしを向く。
しかしそれはすぐ反らされた。彼はわたしを知らない。
わたしは涙をこらえて笑顔で小さく手を振った。見えるけれど見えない彼に。
それは友好的なさようなら。
図書館をでて街に行き、射す陽射しの中、わたしは消えていった。
太陽を浴びて溶けてゆく雪のように。
――さようなら。
FIN