秋と言えば春と共に過ごしやすい季節の筆頭に挙がる、もっとも平穏な季節の一つだろう。
冷房も必要なければ暖房も必要ない。ちょっと暑ければ半袖を着て、寒くなれば上に一枚羽織る。
ジリジリと脳まで溶かしかねない夏を耐え抜き、やっと手に入れた、そんな夢のような日々だと言うのに…。
何故か俺は極寒の地にいた。
いや、極寒の地と言っても、そこはシベリアでもなければ、北極でもない。間違いなく、日本の、しかも俺の部屋だ。
「……寒い」
「何か言ったかしら?キョン♪」
「……いや、何も」
どこから用意したのか、ハルヒは暖かそうなホットティーを楽しんでやがる。
……えぇい、忌々しい。
…ことの発端は今朝に遡る。
SOS団の活動がない完全な休日。朝から怠惰な生活を送る予定のはずが、俺は急遽決定した家の大掃除に強制参加させられていた。
ここで拒否したり逃亡したりすれば、ただでさえ冬を先取りしている俺の懐事情が更にお寒い状況になるのは明白なので、仕方なく俺は労働に励んでいた。
しかし、涼しくなってきたとはいえ、そこは流石肉体労働。夏場でもかくやと言った具合に俺の体感温度と局地的な不快指数をじわじわと上げてくれる。
そして、作業開始から数時間、やっと労働から解放された俺を部屋で待っていたのは、見るからに暖かそうなセーターに身を包んだハルヒだった。
「キョン~♪」
俺を見るなり、両手を広げてこちらに飛び込んでくるハルヒ。
この夏から付き合い始めて分かったことだが、ハルヒは抱き付き癖がある。
そういや朝比奈さんにも毎日のように抱き付いてるな、こいつ。
普段なら俺もやぶさかではないと言うか、嫌ではないと言うか、むしろ望むところと言うか…。
…まぁ、そんな感じで、滅多なことではハルヒのハグを拒絶したりはしないのだが、
「…暑い、鬱陶しい…」
ヒョイっとハルヒをいなして、冷房のスイッチを入れる。
「……え?」
この時ばかりは、ベタ付く汗とハルヒのセーターのコンボで、とてもハルヒを受け入れる状況ではなかった訳だ。
上着を脱ぎ、半袖半パン姿で俺にだけ帰ってきた夏を追い出すため、冷房の真正面に立つ。
あぁ…涼しい…。
「…………涼しい?キョン」
「あぁ~…いい感じだ」
「……じゃあ、もっと涼しくしてあげる」
ピッピッピッピッピ…
ゴォォォォッ!
「…は?」
「最低設定温度に最大風量…涼しいでしょ?よかったわね?」
「お、おい?ハルヒ?」
そう言うハルヒの笑顔は、間違いなく怒っている時のそれだった…。
…こうして、今に至る…。
上着や毛布の類、冷房のリモコンはハルヒに没収され、俺は夏真盛りの格好で凍死しかけている。
俺の話に聞く耳持たないハルヒが、非人道的な作戦に出て一時間が経過していた。
「そろそろ謝れば許してあげるわよ♪」
などと楽しそうにハルヒがのたまったのが30分前。
上等だ。こうなったら俺にも意地がある。絶対にこっちから頭を下げたりするか。
俺は芋虫よろしく体を丸め寒さとの徹底抗戦の構えに出た。
「無茶しちゃって…風邪引くわよ?」
うるさい。そう思うなら俺の秋を返せバカヤロー。認めるよ、寒いよ、チクショー。でも、俺は謝らないからな!
そんな俺の無様な抵抗に、ハルヒはニヤニヤと笑いながら、こう言った。
「……人肌って暖かいんだよ?」
「…それが?」
ハルヒは徐にベッドの上に膝立ちして、毛布を背負うように羽織って広げ、
「…謝るなら…こっち、来てもいいよ?」
と、妖艶な笑みを浮かべて言った。
「…………」
二人で包まったら暖かそうな毛布に、抱き付いたら気持ち良さそうなセーター、膝立ちしたミニスカートから覗く艶かしいニーソックス…。
「……ほら、どうしたの?キョン」
…そして、ほんのり頬を染めたハルヒ…。
……これでもまだ耐えられるヤツがいたらこの場に来てくれ。是非その顔を拝んでみたい。
……あぁ、もちろんその後の役割は代わってやることは出来ないがな。
End
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