「こんにちはー。あれ?今日はまだ長門さんだけですか?」
「そう。古泉一樹は休み。」
休みってまさかアルバイトかな…?
…あれ?長門さん今日はハードカバー読んでない。
「長門さんが文庫本を読んでるなんてちょっと珍しいですね。いつもはすっごく厚いハードカバーだから私には無理そうかな、って思ってたんですけど。どんな本読んでるんですか?」
「・・・読む?」
「え?いいんですか?ならお借りしようかな。恋愛物とかですか?」
「戦闘物。」
戦闘…?
これまた長門さんのイメージとは違って驚いた。そういうのも好きなんだ?
「この表紙の女の子が戦うんですか?どことなく涼宮さんと似てるような…。」
「……。」
その後部室に涼宮さんとキョン君が到着し、いつも通りの時間を過ごした。
古泉君が休んでいる事、長門さんが文庫本を読んでいる事以外は、いつも通りの。
今夜私がこの本を読み終えた瞬間、世界は小規模な改変をされる事になる。
――
翌日
コンコン
「はーい。大丈夫ですよ。」
「こんちには。ハルヒは少し遅れます。ところで、今日も古泉が休んでるみたいなんですが何か知りませんか?
ハルヒの機嫌も悪くはないし、電話しても繋がらないので。ただの風邪とかならいいんですが。」
「徒を追っているのかもしれませんね…。」
「…ともがら?神人の別種かなんかですか?」
「紅是の徒を倒すのがフレイムヘイズの使命なので。」
「ふれいむ、へいず…?なんですかそれ、未来人の敵とかですか?」
「世界のバランスを崩す紅世の徒を狩る者が私達フレイムヘイズ…私は『雁ヶ音の煎れ手』朝比奈みくる。」
「・・・・・・・・。長門、どうなってる。」
「・・・わからない。」
またハルヒの奴がおかしな事始めたか・・・。なんだって…フレイムヘイズ?
長門は知らない、歩くムダ知識古泉は休み、となれば・・・困ったときのgoogle先生。
「40000件…?」
wikipediaへのリンクを開く。
【フレイムヘイズは、高橋弥七郎のライトノベル作品『灼眼のシャナ』及びそれを原作とする同名の漫画・アニメ・コンピュータゲームに登場する架空の異能者の総称である】
「つまり朝比奈さん・・・灼眼のシャナって小説を読んだわけですか?それで影響されたと。」
「炎髪灼眼の討ち手をご存知なんですか?彼女は今どこに?」
ダメだ…すっかりハマっている・・・。
朝比奈さんがまさか高2ではなく厨2だったとは・・・。
遅れてハルヒも到着したが何やら不機嫌な様子。岡部と揉めたか。ご愁傷様、古泉。
ハルヒが到着するまでヒマだった俺はwikipedia、灼眼のシャナの項目を読み漁ったため大筋は把握した。
ハルヒに知られたら厄介な事になりそうだな…この内容は。
――
夜
プルルルルルルル
「はい、もしもし。」
「こんばんは。不躾ですが、ここ数日あなたの周りで何か変わった事はありませんでしたか?」
「朝比奈さんが壊れた。いや正確には朝比奈さんに対する俺の夢が壊れた。」
「…よく分かりませんが。無事ならそれでいいんです。ですが、気をつけてください。近々あなたを狙う輩が現れるかもしれません。」
「…勘弁してくれ。機関の方々で何とかできないのか?」
「えぇ、フレイムヘイズは基本的に単独行動なので横の繋がりが薄いんですよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「…今何つった?」
「え?…あ、いや「薄い」というのは別に頭髪の状態を言っているわけではなくですね・・・」
「そこじゃねーよ!!フレイムヘイズって言ったか今!?お前も…フレイムヘイズとかぬかすのか・・・?」
「言いましたよ。いかにも私はフレイムヘイズ、『赤光の狩り手』古泉一樹です。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「分かったもういい・・・全面的にお前らに任せる。」
「お任せを。いざという時携帯電話が命綱になりますので、充電状態には気を配ってください。」
「あぁ心配するな。俺の携帯の充電は午前零時に全回復するか・・・」
俺もかーーーーーっ!!!!
――
翌日朝
あの2人(俺も?)が同時に影響を受けてるなんて厨2病の一言で済ませられる問題じゃないよな・・・。毎回毎回長門に頼らざる得ない俺が情けない。
でもしょうがないじゃない、一般人だもの。――キョン
いや、待てよ。・・・長門に限ってまさかとは思うが、あいつもすでに毒されてるって可能性もあるんじゃないのか?
あれこれ考えている内に部室に到着してしまった。
ガラッ
「おはよう、早いな長門。」
「おはよう。」
「朝比奈さんと古泉の様子がおかしいんだが、何か心当たりないか?」
「わからない。」
「そうか。ところで、「灼眼のシャナ」って小説読んだ事あるか?」
「…無い。」
…アイがスイミングしたぞ長門。
「そうか。いや俺も最近知ったんだけどな。ライトノベルって言ったか、ああいう小説にはやっぱりこう無口なキャラが必要不可欠だよなぁ長門。」
「…その意見は正しい。」
「さっき言った「灼眼のシャナ」ってのにもそういうキャラがいてな。俺はそいつが一番好みのタイプなんだ。」
(コクコクッ)
「名前なんて言ったっけなぁー、ヴィ…、ヴィ…」
「ヴィルヘルミナであります。」
「そうそうヴィルヘルミナ。――長門集合。」
「……違う。今のはケロロ軍曹…。」
――
「――つまり、まずお前がハマり、古泉に貸したらあいつもハマって学校休んでまで読み漁り、次に朝比奈さんに貸したら案の定、って事だな?」
「…そう。」
「て事はハルヒにはまだなんだな?」
「まだ。しかし、朝比奈みくると古泉一樹、そして私の様子を見る限り、単に小説に影響されただけとは思えない。私が最初に小説を手にした時点ですでに涼宮ハルヒの影響を受けていた可能性も否定は出来ない。」
「…なるほどな。とりあえずハルヒに読んだ事あるか聞いてみる事にするよ。
…で、お前も『なんとかのなに手』とか異名ついてんのか?」
「『万象の繰り手』長門有希。」
…ちょっとかっこいいと思っている自分が、そこにいた。
――
昼
「あー、ハルヒよ。ちょっと聞きたい事があるんだが。」
「何よ。団活欠席なら却下よ。」
「違う違う。「灼眼のシャナ」って本読んだ事あるか?」
「なにそれ?知らないわ。」
「フレイムヘイズって単語に心当たりは?」
「はぁ?何なの一体?初耳よそんな言葉。」
「そうか。…で、お前は今何食べてるんだ?」
「メロンパン。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
待て待て待て。あきらめるのはまだ早い。
単にこいつがメロンパンのおいしさに目覚めただけかも知れないじゃないか。美味いしね。美味いしねメロンパンは。
「時にハルヒよ、もうポニーテールにはしないのか?」
「えっ?…な、何でよ?」
「単純に見たいからだ、お前のポニーテールを。」
「あ・・・う・・・、み、見たいって、どうしてよ?」
「どうしてって、俺がポニーテール好きでお前はポニーテールが似合うからだ。」
「なっ・・・う…うるさいうるさいうるさいっ!!」
・・・・・・・・確定。