読む前にこのページにも目を通していただけると嬉しいです。
「…説明を求める」
気がついたら教室が元に戻ってた。
夕焼けの紅しか入ってこない教室にお玉を持った女子と男子が1人ずつ。
…何だよこの状況。
「んー…簡単に話すと、長門さんにされたことを味あわせてやりたいのよ」
「されたことって…あのカレーを食べさせるのか?」
「そうそう」
「あの紫色のカレーを?」
「あ、カレー風呂に入れるのもいいかもしれない!」
「…長門に?」
「長門さんに」
「ちなみにそのお玉は?」
「え?カレー作るときに使わない?」
「…止めとけ。返り討ちにあうぞ」
というかガチで戦って負けてたじゃねぇか。
「あれは1対1だったからよ!今回は勝ち目無いのがわかってるからあなたに頼んでるんじゃない!」
「落ち着け。仮にお前の手助けをしたとしてだ。俺なんか何の足しにもならないと思うぞ?」
「そんなこと無いわ。長門さんだったらキョンくんの言うことを素直に聞くと思うけど?」
…一応俺も長門に脅されてカレー風呂を体験したんだが…
「あれくらいならまだ軽い方よ!私なんてインドに飛ばされたのよ!?」
…へ?
「あなたを殺そうとしたあの日!私は消されてなんかいなかった!気がついたら長門さんの家にいたの!」
…何だって?
「…あれは忘れもしない…あなたを殺そうとした前日のこと…」
うぅ…もう嫌…
1日8食のカレー生活なんて耐えられない…
生み出されてから3年間、私は長門さんの助手として過ごしてきた。
そこのあたりの詳しい描写はひとつ前の作品を見てもらえると嬉しいわ。
カレー生活に嫌気がさして逃げ出したこともあった。
辿り着いた先は屋台のおでん屋さん。
私は心を踊らせてちくわと大根を注文したわ。
…だけど出てきたおでんはカレーの具になっていた…
たっぷり30秒考えて食べてみた。
おでんの出汁でカレールーの油が分離して大変なことになっていた。
泣きそうになりながら勘定をすませ、屋台を出ようとすると真後ろに長門さんが立っていた。
…あのときは素で泣いたわ。
でもまだあれだけなら我慢できた。
だけどなんでカマドウマをすり潰して入れたカレーを食べなきゃいけないの!?
…怒ったところで何も変わらない。
最近じゃ思念体が「観測対象がアクション起こさないから何とかしてくれ」なんて言ってくるし…
「はぁ…」
ため息が出てくる。
所詮私はバックアップなんだから長門さんに頼んでよ。
今日は長門さんの家に泊まり込みでカレーの研究。
夜も遅いので一旦休憩をとることになった。
私はさっき食べたカレーのせいで汗が大量にでてしまったのでお風呂に入りたかった。
っていうか一口食べただけで下着がびしょ濡れにほど汗が出るってどんだけ辛いのよ。
「…リラックスできる湯の元を入れておいた」
確か長門さんそう言ってたっけ…
湯船を見ると茶色かった。
珍しい色ね。
一通り体を洗ってから湯船に浸かる。
…首元までたっぷり入ってから気がついた。
「…カレーの臭いがする?」
というかこのお湯もヌルヌルする気がする。
咄嗟に長門さんへと通信を試みる。
―ちょっと長門さん!?あなたこのお風呂に何かした!?
―…カレー風呂。
―…え?
―…だからカレー風呂。
そこで通信は途絶えた。
さっさと上がって作業を開始しろと言うことらしい。
…何で私がこんな目に?
…何で私は産まれたの?
しばし唖然としているとまた通信が入った…思念体?
『素で退屈なので何とかアクションを起こせ』
……………ふふ。
…あはははははははは!!
そうなの!そんなに何とかしてほしいの!?
そうだ、キョンくん殺してみよう。
当日、盛大に返り討ちにあった。
…気がつくと私は横になっていた。
「長門さん…ごめんなさい…」
「…いい。あなたが極度な精神不安定状態にあったのは私のせい」
「ふふっ…いいわよ…でもカマドウマをカレーに入れるのはもう勘弁してね?」
「…………」
「目 を そ ら さ な い で」
「…わかった」
「よし…ところで私は消去されたんじゃなかったの?」
「…あなたの今回の暴走の原因は私との生活によるノイローゼによるもの…今回の事件の原因はあなたではない。情報統合思念体はそう判断した」
「そっか…でも私はこのあとどうすればいいの?」
「…あなたはカナダに転校したことになった」
「え?じゃあ学校に行かなくてもいいの?」
「…そうなる。さらにあなたが望むならしばらくカナダを旅行させる事もできる」
「本当に!?長門さんそんな事できるの!?」
「…あなたの平面座標を変更する。準備に時間がかかるから行きたいのなら荷造りを」
長門さん凄いわ…
「…ただ…なるべく早く帰ってきてほしい」
荷造りしていた手が止まってしまった。
「あなたがいないと…寂しくなる」
…そう。
「わかったわ。一通り回ったらすぐ帰ってくる。お土産は何がいいかしら?」
「…カレー」
「…あったらね…はい、準備完了よ」
「…そこに座って目を閉じて」
言われた通りに座る。
「…一つ注意してほしい。この国からでたら思念体の監視外にでてしまい、通信以外の一切の能力を失ってしまう」
「え!?大丈夫なのそれ?」
「…大丈夫」
「でも変なトラブルに巻き込まれたりしたら…」
「…私がさせない」
そう言った瞬間体が軽くなる。
どうやら転送を始めたらしい。
「…右のポケットにホテルの宿泊チケットが入っている。向こうに着いたら確認して」
「わかったわ」
色んな空間のズレを感じる。
…着いたかしら?
…タタタタタタ…
…何の音かしら…銃声?
「隊長!も、もう弾がありません!」
「口で糞する前と後にサーを付けろと言ったはずだ!!」ターン!
「グハッ!」
「ちっ、退くぞ!白煙弾を投げろ!!」
目を開けると戦場にいた。
―ち、ちょっと長門さん!どういうこと!?
―…迂闊。座標を間違えた。あなたが今いるところはインド北部のカシミール地方。今そこは領土争いの真っ最中。逃げて。
―いや、長門さんの力で逃がしてよ?
―…アーアー…
―何も聞こえなーい…じゃないわよ!
―…安心して。あなたのノリツッコミはとても優秀。
―…刺すわよ?
―…とりあえずそのまま逃げて、本場のカレーについて研究してきてほしい。
―え!?ち、ちょっと!?
そのまま一方的に通信を切られてしまった。
「…というわけなのよ…」
「…よく生きてたな…」
「必死に逃げたわ…たまたまサバイバルナイフだけ持ってたから鳥をとって食べたりして…」
「泊まるところはどうしたんだ?」
「長門さんがくれたチケット…インドのホテルのものだったの…」
「…確信犯か…」 「でも数日野宿したから服はボロボロで髪はボサボサ…ホテルに入れてもらえなかったわ…」
「………」
「何とかホテルのチケットを売って食費にしたけど…どこに行っても出てくるのはカレーばっかり…」
「…大変だったんだな…」
「そう思うなら手伝って!!」
「いや…しかしなぁ…」
実際長門には沢山世話になっているし、カレーの件以外で何かされたわけでも無いのであまり賛成したくはないのだが…
「…ダメかな?」
AAAランクの美女に上目遣いでお願いされて断る度胸も無いわけで…
「…あまり酷い内容じゃなかったらな?」
「よかった!ありがとう!!」
そう言って安心した顔つきになる朝倉。
「とりあえず明日カレーの材料持ってくるから、計画は明日話すわ!」
「あぁ、わかった…さて、部室に行くか…というかさ」
「ん?どうしたの?」
先を歩く朝倉が振り返る。
「お前と長門って…仲良いんだな」
「そうかしら」
とびきりの笑顔で朝倉は笑った。
「というわけで紹介するわ!本日からSOS団に入団することになった朝倉涼子さんよ!!」
部室内にハルヒの声が響きわたる。
古泉は朝倉と目をあわせようとしない…というか震えてないか?
…まぁ結構なでかさのトラウマを植え付けられてたしな。
朝比奈さんは突然の入団希望者に驚きを隠せないようだがやがてしずしずとお茶を汲み始めた。
長門は…相変わらず指定席で分厚い本を読んでいる。
ハルヒ?言うまでもないだろ。
「ちょっとキョン!ぼーっとしてないで椅子くらい出しなさい!」
団員が増えるのが相当嬉しいのだろう。
口では厳しいこと言ってるが、目をキラキラさせている。
…きっと今のこいつの頭の中には「退屈」の文字なんてないんだろうな。
「はい、朝倉さん。お茶です」
「ありがとうございます。朝比奈先輩」
「せ、先輩なんて堅苦しいから普通に読んでください…」
「わかりました。朝比奈さん」
…しっかし部員一人増えるだけでこうも空気が変わるものなんだな。
朝倉は始めに本を読んでいる長門を見て微笑んでいる…と思いきやハルヒと朝比奈さんと談笑を開始。
最終的には俺と古泉とかわりばんこでボードゲームを始めたりと…朝倉って結構フリーダムだったんだな。
委員長というかむしろ殺人鬼というイメージが強かっただけにやっぱり意外だ。
ってか何で俺はこいつに対してこんなにも冷静でいられるのだろうか?
…やっぱりハルヒ達と関わり初めてそういうものに免疫ができてしまったんだろうな。
…パタン。
そのまま長門の本を閉じる音で本日の部活終了。
そのまま全員で帰宅。
ちなみに朝倉はまたあのマンションに住むそうだ。
以前のような恐ろしさは無いが、長門とカレーの研究について進めているらしい。
…というか疲れた…
今日一日で環境が大きく変わった気がする…
…そういや…明日は朝倉と何かやらかすんだっけか?
…まぁいい。
とりあえず妹にムーンサルトは二度とするなと言い聞かせて、力尽きて寝てしまった。
つづく