ぼんやりと霞がかった景色が、視界いっぱいに広がっている。どっちが前で、どっちが後ろなのか。その境界線である自分の姿すらも、分からない。

 ――私、どんなかたちしてたっけ。

 私が霞に溶けていくような、そんな感覚。

 そんな中でカンナは、ただぼんやりと、視界に映るものを見ていた。果てしなく長い時間を、延々と、ただぼんやりと。

「……寒い。」

 そういえばあの日も、こんな冷たい風が吹いていた気がする。だからあの日は、あったかいところを探していた。見つけた洞窟では、ふたりのにんげんが火を炊きながら、ひとつの布にくるまっていた。

 あったかそうだと思った。だから、お父さんの真似をしてみた。お父さんは不思議そうにしていたけど、思っていたよりもずっと、あったかくて。

 ……その日から、だ。

 あったかくなる方法を知りたいと思った。そして、寒さとかじゃない、何か。自分の心の奥にずっと、冷たい風が吹いていたことを知った。

 だけど、冷たい風はもう止んでいた。今は、コバヤシがいて、トール様がいて、才川も、イルルもいる。お父さんも、最近はとても優しい。

 だから、これでいい。この居場所は――あったかいから。

「こら、カンナ?」

 声が、聞こえる。私を、呼ぶ声が。

「……ん。」
「ん、じゃありませんよ。いつまで寝てるんですか!」

 その声とともに、霞がかった視界が次第にクリアになっていく。そこは、コバヤシ家のかたちをした空間だった。そして目の前には、見慣れたメイド服を着たトール様が立っている。その手には、たった今私から剥ぎ取ったであろう布団が掴まれており、起こされたのだと分かる。いつもの、毎朝の光景だ――ただ一点だけを除いて。

 その景色には、色というものがなかった。

 部屋もトール様も、見えるものすべてが、古い写真のようなセピア色に染まっていた。

「……なんか、変。」

 頭がボーっとする。明確に異常をきたしている景色にも、疑問を断定できない。まるで、夢の中にいるかのような感覚。

「ま、夢ですからね。」

 夢だった。これ夢じゃね、とは思っていたけど、やっぱり夢だった。

 でも、それでもいい。

「夢でもいいから遊ぼう!」

 ――本来ドラゴンは、夢をみない。

 脳の基本構造が人間と根本的に異なるドラゴンは、そもそも生態的に、睡眠というものを必要としないのだ。それでも人間と交わり、人間を模倣する内に睡眠という習慣、そして眠気という概念が後天的に足されたのだ。

 だからこそ、夢の中とは悠久の時を生きてきたカンナにとってもなお、たくさんの『楽しい』が詰まった未知の世界だった。

「ダメです。」

「え。」

 キッパリと、本気の意志のこもった拒絶。いつもトール様は、時々は呆れながらも何だかんだ相手をしてくれるのに。呆気にとられている内に、トール様は続ける。

「そもそも寝てるヒマなんかじゃないんですよ。現実では今、殺し合いの真っ只中なんですから。」

「殺し合い……。」

 その単語を聞くと、胸の奥がつんと冷たく感じた。それ以上、考えたくない。

「……や。」

 殺し合いなんて、やりたくない。

 トール様と草原でじゃれ合っていると、楽しい。コバヤシと家でゴロゴロしていると、楽しい。才川と通学路でお喋りしていると、楽しい。

 この世界には、誰かと傷つけ合わなくても、楽しいことなんてたくさんある。なのに、どうして殺し合わないといけないのか。

「……私、こっちにいたい。トール様……遊ぼう……。」

「……。」

 塞ぎ込んでしまった私を前に、トール様はじっと立っている。悪いことを言ってるわけではないはずなのに、つい身体が竦んでしまう。このままじゃいけないのだと、本能が疼いているかのような感覚。

「カンナ。私たちはドラゴンです。」

「……うん。」 

「終焉をもたらせるだけの力が、私たちにはあります。その全てを賭けて、己が強さを証明する。私たちはかつて、そんな場所に身を置いていましたね。」

 ――それは。

 言葉に詰まる。また、自分のかたちを無くしていって、世界が曖昧になっていくような、そんな感覚。まるで殺し合いという現状すら、ドラゴンの避けられない本能であると、そう言っているようで。

「トール様も……殺し合えって言う?」

 ドラゴンはみんな、みんな戦いのことばっかり。

 群れの長として君臨しているお父さんも、戦いに明け暮れるばかりで私のことをまったく見てくれない。

 そして――だったら今のトール様も、おんなじ。

 そう、思った。

 そう、思っていた。

「少し、違いますよ。」

「……?」

「殺し合わなくてもいい。でも……戦わないといけないんです。」

「それ、どう違う?」

「さあ。どこが違うと思いますか?」

「……トール様、イジワル。」

 分からない。

 戦ったら殺し合いになる。

 殺し合うには戦わないといけない。

 一体、その差はなんだというのか。

「少し、ヒントをあげましょうか。」

 むむむ、と頭を抱え始めた私に、トール様は優しく言った。

「あなたは……自分の目で見て、自分の耳で聞いて、そして自分の頭で考えて……カンナだけの答えを見つけたはずです。」

「私だけの……答え?」

 おぼつかない思考を何とか捻り、そして思い出す。この殺し合いが始まって、間もなくして出した答えを。

「……カンナ勢。」

 混沌勢と調和勢、対立する二つの勢力があるから争いが生まれる。『楽しい』を追求することを、やめてしまう。

 そんなの、私がやりたいことじゃない。そう、思った。だから、そう在れる居場所を――かたちを、作れたらと、願った。

「あれはあの場限りの口から出まかせだったんですか?」

「……それは。」

 新勢力を作ることの難しさは、他ならぬトール様に教えてもらった。敵対勢力となり得る集団は、弱い内に叩かれる。

 それでもカンナ勢を樹立したいと願ったのは、何故だったか。

 殺し合いが始まって間もない時、スズノは私を殺しに来たのだと、分かっていた。

 ドラゴンが人間に命を狙われることは珍しいことではない。力を持つ者は狙われる。それはある種の摂理だ。だから、それ自体を怖いとは感じなかった。

 だけど、それでも怖いと感じたのは――スズノがハンマーを振り上げた時に見た、あの表情。それは自分の心を押し殺して、何か大切なものを失いながらも戦いに向かおうとする、いつかのトール様と同じ表情だった。

 かつてその先に待っていたものは、トール様が死んだという報告。日本に向かい、偶然トール様の魔力を検知するまでにぽっかりと心に空いてしまった穴と、それに伴う心の寒さを、今もまだ覚えている。

 ああ、そうだ。

 またあの寒さを、味わいたくなかった。仲良くなれるかもしれない人たちと殺し合ったら、また独りになってしまう。それが、イヤだったのだ。

「ですが力無き絵空事に、他者はついてきません。だからこそ――戦わなくては掴めない。」

 ここには、それを邪魔する者たちがいる。

 殺し合いに乗ってしまった者もいるだろう。

 すでに死んだ者たちは、憎しみの種となり、かくして蒔かれた争いの火種は、放っておいても燃え上がる。

 さらには、姫神という戦いを煽る者もいる。

 その争いの連鎖を、止めたいと願うなら――相応の力を、覚悟を示さなくてはならない。

「っ……!ㅤでも……!」

 ああ、そうだ。

 夢の世界で現実逃避をしている場合ではないと、すでに理解は追い付いているのだ。

「でも……。」

 弱々しくなっていく声。

 それでも、認めたくないものがあるのだ。

「カンナ、あなた……」

 この胸にずんとのしかかる、冷たさが。

 まだ、この夢を出たくないと、叫んでいるのだ。

「……放送を、聞いてたんですね。」

「っ……!」

 胸がきゅっと締まるような感覚が襲ってくる。トール様の死を伝えられたのは、これが二度目だった。

「……なんで。」

 ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。

「なんで死んじゃった……? もっと一緒にいたい……。トール様、いなくならないで……。」

 トール様は、噛み締めるように少し笑い、そして小さく、ため息を漏らす。

「……ありがとう、カンナ。」

 間もなく、私の肩に、ぽんと置かれた手。温度なんて無いはずなのに、何故なのだろう。すごく……あったかい。

「――でも、ダメです。」

 我が子を諭す母親のような、厳しくも温かい言葉だった。頬に伝う涙を拭いながら、そっと、ひと言。

「いつか別れの時が来ても、その時は笑顔で。そう、決めていましたから。」

 コバヤシは、たったの百年もしない内に死んでしまう。いずれ来るその終わりを、なるべく考えないようにしていた。ドラゴンのスパンで考えると、ほんの僅かの時しか一緒にいられないと、分かっていた。

 でも、僅かな時でしかないと、知っているから。その一瞬を、無駄にしないよう足掻いて、もがいて。そして、散りゆくその時まで、戦い抜く。それが、人間の強さだ。

 トール様は、その強さに倣おうとしていた。別れすらも儚き生の道すがらに組み込んでしまえる、人間の強さを身につけようとしていた。

「……だから、お別れです。」

 ああ、そっか。

 それが、殺し合うではなく戦うための強さなのだ。

 胸を刺す冷たさを知っているからこその、別れを受け入れる強さ。その上で、今ある居場所を失わないように、前を向いて戦える強さ。

「トール様……私、甘かった。まだ、スズノもコバヤシも戦ってる……。なのに私、逃げようとした。」

 己が孤独を受け入れられないが故に、居場所を求めた。だけど、欲しいのはそれだけじゃない。

 スズノが、泣いていたから。

 スズノのことが大切な誰かにも、そんな空白を味わってほしくないと、思ったから。

「もう私、逃げない。あのあったかさを、誰かにあげられるようになる。」

 皆が仲良くなれる道が、スズノたちの居場所になれるのなら。そんな想いのままに宣言したのが、カンナ勢でもあったのだ。

「あなたには、願いがあります。それは決して、殺し合いによって叶えられる願いではありませんね。」

「……うん。」

「それはきっと、途方もない願いでしょう。誰かの居場所になるのは、何かを壊すことよりもずっと、難しい。」

 ドラゴンであれば、大概のものは壊すことができる。それは種族の誇りであり、価値であり、そして――孤独でもある。友達の垣根なんてなく、親も子も常に牽制し合う孤高の種族。

 その孤独が、さびしかった。誰かに見てほしくて、ずっとずっと、心の奥底が冷えきったように寒くって。

「……私はずっと応援していますよ、カンナ。」

 人間がくれた、終焉をもたらせるだけの炎よりもずっと身を包んでくれる温もり。それは、独りでいられるだけの強さではなく、むしろ"弱さ"と呼べるものなのだろう。ドラゴンにとって、忌避すべきもの。だけど、それを求めている者にとっては、居場所となれるものだ。

 コバヤシがくれた、そんなあったかさ。それを、私も誰かに与えたい。だから、戦うのだ。

「さよなら、トール様。」

 私は、走り出した。

 前の見えない、暗い道を。

 凍てつくような、冷たい道を。

 それがどこに続いているのかも分からないまま、ただ、ひたむきに走り続けた。

 すると、暗闇のその先。

「……殿。」

 声が、きこえる。

「……ナ殿。」

 私の名前を呼ぶ、声が。

 その声の方向に、ただ一心に、走り始めた。

 その先に何が待っているか分からないけれど――感じたのだ。あの声はどことなく、あったかい、と。


「……カンナ殿!」

「……ん。」

 目を覚ましたカンナが目の前に見たのは、彼女を揺すり起こした鈴乃の姿だった。戦闘中で流し聞きだったとはいえ、放送の中にカンナの名前が無いことを確認し、急いで走ってきた鈴乃。カンナに残る弾痕を確認し、銃弾が角に命中していたことを見て、生存理由と大した怪我ではないことがハッキリと分かったところでほっと胸を撫で下ろす。

「よかった……ああ、無事……だったか……。」

「……スズノ、一体何があった!?」

 心配そうに語る鈴乃には、おびただしいほどの傷痕。自分が寝ている間に、一体何があったというのか。

「それは……話せば長くなるが……。」

 鈴乃は語る。

 襲撃者との戦いの決着が付かないままに、カンナの下に駆け付けたこと。

 襲撃者と関係があるかもしれない青髪の少年のこと。

 その際に助けてくれた、襲撃者の知り合いらしき少女に、襲撃者の相手を任せているということ。

「……行こ。」

 それらを受けて、カンナは答えを出す。

 鈴乃の話によると、元の世界からの知り合い同士が殺し合っているとのことだ。殺し合いなんて強制されなかったら、手を取り合えていたかもしれない二人。混沌勢と調和勢、対立する勢力であっても時に仲良くできるというのに、それでも戦う羽目になってしまった二人。

 そんな悲しい宿命に、差し伸べられる手があるのなら。

「殺し合いは、止める。トール様が教えてくれた強さの形……無駄にしないために。」

「カンナ……殿……?」

 気絶する前とは、まるで別人のようなその決意。カンナの中で何かが変わったように見える。

「正直に言うと、私は反対だ。襲撃者の強さは身をもって体験したし、カンナ殿の安全も次こそ保証できないかもしれない。」

 それは、当然の発露だった。

 カンナの生存に、鈴乃がどれだけ安堵を得たのか、カンナは知らないのだろう。

 そこに、重ねてカンナに死のリスクを背負わせるのが、本意であるはずがない。

「……だが、他ならぬ私を救ってくれたカンナ殿の決意に、私は報いたい。」

 それでも。

 その覚悟は、本物だと身をもって知っているから。

 カンナ殿であれば、かの殺し合いの渦中にも、心を届けられるかもしれない。彼女の言葉には、力がある。まさしく、この殺し合いの参加者にすら至ることなくその命を散らした少女、佐々木千穂のように。

「こっちだ。共に行こう、カンナ殿。」

 初めにカンナ殿に抱いた印象も、同じものだった。だが、だからこそだろうか。ドラゴンであると分かっていたはずなのに、カンナ殿も彼女と同じ、護るべき対象として見ていたところは否めない。

 だが、今のカンナ殿からは、魔王や勇者と同じ、己が信念のために戦おうとする意志をひしひしと感じ取れる。

 なればこそ、伝えるべき言葉は『ついてきて』ではない。殺し合いに反逆する同士として、隣り立つことを要請する言葉であろう。

(そうだな。先ほどまで殺し合い、互いの命を奪いかけた相手……。上等じゃないか。)

 利害関係や運命的な特異点があれば、勇者と魔王ですらその手を取り合うことがある。分かり合うことを諦めるには、あまりにも早すぎる。

 ふと、零した笑み。カンナ殿の無事な姿を見れば、存外全てがうまくいくのではないか、と、そんな希望すら湧き上がってくる。

 そんな考えを抱いていた、その時だった。

「今のは……!」
「悲鳴だった!」

 鈴乃とカンナが遠くに感知した、轟くばかりの悲鳴。マミと杏子が戦っていたはずの場所からは少し離れており、彼女らによってもたらされたものであるかは不明瞭だ。

 だが、そんなことは関係ない。あの絶叫を無視できる二人ではなかった。一瞬、互いに目を合わせ、頷き合う。


 それは、名状し難き悲惨な光景だった。

 少女は、首を切り裂かれて死んでいた。

 女性は、片目を潰され、心臓を一突きにされて死んでいた。

「遅かった、か……。」

 あまり動じないほどに死体を見慣れている自分に、どこかモヤモヤした気分を残しながらも、すぐさま死体に駆け寄る。

「どうやら営利な刃物で殺されているようだ。それにまだ温かい。時間はさほど経っていないようだな……。」

 つまり、何かが少しズレていれば助かっていたかもしれない命だ。その責任を抱え込んでしまうような性分ではないが、どうしても、救えたもしもがちらついてしまう。

「……支給品も奪われている、か。回収の手際も良いようだ。最初からそのつもりで殺したのだろうな。何より厄介なことに――魔力戦闘の痕跡が残っていない。」

 魔力の隠密に特化した暗殺者も、いるにはいる。だが、これほどまでにまったく魔力の痕跡を消せるとなると、相当な手練れだと見ざるを得ない。或いは、そもそも魔力を用いていない場合も考えられる。どちらにせよ、近くにいたとしても探知は困難だという結論を出さざるを得ない。

 そんな時、死体の傍で何やらじっとしているカンナに気づく。

「カンナ殿、無理に見る必要は無い。検死ならば私が……。」

 しかしカンナは俯いたまま、ある方角を指さした。

「……あっち。」

「む……?」

 意図が即座に読めない鈴乃。

 カンナの指さした方向は、先ほどまでマミと戦っていた戦場に向いている。

「来て!」

 走り出したカンナを慌てて追いかける。彼女には何が見えているのか、まだ、分からない。マミと杏子の戦場は元々目指していた場所であるため、その方向に向かうことに不都合は無いのだが、それでもカンナには他の何かを感じ取っているように見えた。

 そして、走り出すこと僅か数十秒。

「あれは……!」

 聖法気で視力に補正をかけた鈴乃の目が、ある少年の姿を捉えた。

(もしやあの二人を殺したのは……!)

 その時、様々な物事に合点がいく。

 潮田渚――あの少年が、自分とマミの戦いに居合わせた無力な一般人などではなく、マミと組んで参加者を排除するために動いているのだとしたら。

 先ほど渚が明確にマミを庇うかのような行動を取ったにもかかわらずそれを疑うことができなかったのは、違和感があったからだ。たとえば、現に渚は一度、マミの攻撃の射線上に入っていた。あの戦いの中で明確にこちらに殺意を向けて来ることもなかった。

 どれも決定的な要因とは言えないが、それでも、マミと渚が手を組んでいると断じるには、矛盾する点が見られたのは確か。

 そしてそれは確かに、間違っている。あの戦い自体が勘違いから始まったことなど、今となってはもはや把握のしようがない。何故なら、その事実に唯一感づいた渚自身が、それを秘匿することを選んだのだから。

 だとしても、この状況下。渚が二人を殺害したことはもはや疑いの無い事実である。

 ”カンナ勢”が他人を殺した渚の処遇をどうするのかは、ただちに決められるものではない。だが、どういう処遇にせよそれは渚の拘束が先んじる必要がある。

(くそっ……何故私は、気づけなかったんだ……!)

 鈴乃は渚を追い始める。なるべく遮断していた気配であるが、間もなくして向こうもこちらに勘付いたようだ。殺害現場から速足で離れていたのが、全力疾走での逃げ足に変わる。向かう先は、マミと杏子が戦っている場所。そして――

「スズノ……あのケータイ、何かがいる。気を付けて……。」

 先ほどカンナが行なったのは、魔力探知ではない。ただの人間に過ぎない渚に、その方法での追跡は通用しない。

 カンナが感知したのは、モバイル律から発せられる微弱な電波である。電気をエネルギー源として用いるカンナには、ドラゴンとしてのスペックも相まって、空気中の電波すらも感じ取ることが可能である。

「……思ったよりも早く気付かれたみたい。じゃあ、それでいいんだね、律。」

「はい。私の収集したデータによれば、その方法が最も効率的かと思われます。」

 この戦いに、殺し合いに乗っている者なんて一人もいないはずだった。

 だけど、運命の悪戯によって手のひらから零れ落ちた不安の種は、悪意という名の花となって開花した。

 枝分かれするように生まれた、魔法少女たちの戦場と、殺し屋と暗殺者の戦場。

 ――二つの戦いは、一つの戦場へと収束していく。

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最終更新:2024年09月10日 12:29