そしてゴングは鳴り響く


「ちょっと、待てよリュウタ!」

「嫌だ!だって修二嘘つきだもん!」

「嘘なんてついてないって!」

広い平原を、紫の異形と一人の青年が駆けている。
しかしこの文章から通常読み取れるものとは違い、逃げる異形を青年が必死に追いかけている形だが。
ともかく、聞く耳持たずといった様子で必死に走り抜ける異形……リュウタロスの肩をやっとといった様子で青年、三原は掴んだ。

「だから待てって、リュウタ……。
良太郎さんのこと、いきなりで悪かったけど……あれは嘘じゃなくて本当の――」

「――嘘だ!良太郎が死ぬわけないもん!修二も真司も、麗奈もみんな嘘つきだ!」

自身の腕を強引に振り払いながら涙を携えて放たれたリュウタロスの叫びに、三原は思わず言葉を詰まらせる。
先ほど気絶から目覚めたリュウタロスに対し、彼は大した前置きもなく良太郎が死んだらしいと述べた。
それが彼にどれだけの影響を及ぼす言葉なのか深く考えるよりも早く、自分がこの辛い事実を伝えなくてはならないというジレンマから、解放されたい一心で。

そしてそれを聞いた途端、寝ぼけ眼であったはずの彼は一瞬で跳ね起き真司と麗奈、それぞれに確認を取った。
しかし心優しい存在であると認識していた彼ら彼女らがそれぞれ良太郎の死について否定せず苦い顔を浮かべたことで、リュウタロスはその場から逃げるように走り出したのである。
良太郎の死を受け止めるよりも、眠っている間に彼らが全員口裏を合わせて嘘をついたのだと、そう思い込むことで。

「でも、それは――」

「……いつまでやっているんだ、お前たち」

それでもなお何とかリュウタロスを落ち着けようと言葉を紡ごうとした三原の後方から、響く女の声が一つ。
それは、自分とリュウタロスがそれなりに全速力で走ってきたはずだというのに、息一つ切らさず平然とそこに立つ間宮麗奈のもの。
幾分かの呆れを含んだ麗奈の声に委縮し、すっかり勢いを無くした二人の前に、ぜぇぜぇと息を切らした男が一人追い付いた。

「はぁ……はぁ……いきなり走り出すなよな、リュウタも三原さんも……」

「……ごめん、真司」

三原だけならばともかく、他の仲間二人まで悪戯に走らせてしまったことへの申し訳なさを、今更ながらリュウタロスも感じたらしい。
しかし彼もまた良太郎の死などという情報をすんなりと飲み込むほど物分かりがいいわけではなく、もう一度口を開こうとして――。

――パイプオルガンの音色が、彼らの鼓膜を刺激した。




「翔一……嘘だろ……」

放送が終わり、灰色のヴェールに消えていく飛空艇を見送りながら真司は一人その拳を握りしめた。
津上翔一。この世界に来てから数時間行動を共にした、心優しい異世界の仮面ライダー。
数時間前に互いの無事を願って別れたばかりだというのに、彼はその命を落としてしまったのだという。

ダグバにやられたのか、或いはまた別の誰かに――それこそ士の言っていたキングという大ショッカー幹部にでも、やられてしまったのか。
考えても仕方のないことではあるが、それでもやはり、思い出してしまう。
元の世界に返って、餃子を食べさせてやるとそう約束したあの夕方を。

そしてそこで誓い合った、自分の認識を変えてくれた彼の言葉を。

『かっこいいじゃないですか、人を守るために戦う仮面ライダーって』

元の世界では誰一人として言ってくれなかった、人を守り戦うことを肯定するような翔一の言葉。
きっと彼だって仲間が死んで小沢が行方不明になり、心細くて仕方なかっただろうに、それでもなお弱音を吐くことなく自分を励ましてくれた。
そんな彼への感謝と……そして彼との子供じみた数多のやり取りを思い出して、真司は思わずナイーブな気分に沈んでしまいそうになる。

「あれがお前の言っていた神崎士郎……か」

だがそうして沈み込みそうになった真司の意識を浮上させたのは、冷静そのものといった様子でこちらに声を投げる麗奈の声だった。
ゆっくり首だけ振り返って、それからもう一人、今の放送で忘れてはならない人物が現れたことを彼は思い出す。

「神崎……か」

しかし、その名を呼ぶ声は低い。
麗奈からすれば一年間止めようとした戦いを執り行う憎い存在として真司の中に刻まれているとばかり思っていたために、この反応は些か意外であった。

「どうした、城戸真司」

「いや……もしかして、神崎も俺が原因でライダー同士の戦いなんて始めたんじゃないかって、そう思って……」

「何?」

麗奈の驚愕を込めた声に、真司は答えない。
今彼の中では、ライダー同士を戦わせ続けた神崎が大ショッカーにも協力していたことへの怒りよりも、複雑な思いが渦巻いていた。
神崎士郎。自分たちにカードデッキを渡し、13人のライダーのうち最後の一人となったものは願いを叶えられるという甘言で自分たちを戦いに巻き込んだ男。

この一年間、彼がライダー同士の戦いなんて言い出さなければ誰も犠牲になることはなかったのにと、何度思ったことか。
ミラーワールドのモンスターを倒すためにとだけ言ってデッキを渡していたなら、自分があそこまで奔走する必要もなかったというのに、と。
だが、今となっては――ミラーワールドが開かれモンスターが生まれた事実の元凶が、自分が幼き日に破ってしまった約束の為だと知った今となっては――真司の彼への感情も今までと同じ単純なものではいられなかったのである。

もし自分が、あの雨の日にしっかり優衣ちゃんとの約束を守り遊びに行っていたなら。
そしてそれによってミラーワールドもモンスターも生まれることを防げていたら。
或いはその兄である神崎も、血を血で洗うライダーバトルなど思いつかなかったのかもしれないと、そう思ってしまった。

もしもミラーワールドが生まれたことで神崎自身にも何らかの事情が生まれ、戦いを始めなければならなくなったのだとしたら……その責任は、自分にもある。
いやどころか、神崎が始めた戦いで生まれた数多の犠牲だって、自分の責任だと言うことさえ出来る。
霧島や蓮のような大切な人を蘇らせるため、やむを得ず戦いに参加せざるを得なかったライダー達のことを、真司は思い出す。

誰かを殺めてまで自分の願いを叶えようとするなど絶対に間違っていると、真司は思う。
だが一方で、彼らの願いは果てしなく尊いもので、真偽さえ不明なライダーバトルの報酬を唯一の望みとするほかないことも、真司には理解できていた。
だからこそ……そんな彼ら彼女らが一抹の希望を見出した戦いを生んだ責任を、真司は無視することが出来なかった。

「もし神崎にも何か願いがあって、その為にライダーバトルをさせる必要があったんだとしたら、俺が蓮たちを戦わせたも同然じゃないかって、そう思って……」

「願い……か」

感情のままに言葉を吐き出し続ける真司に対し、どこか虚空を見つめながら儚げに麗奈は言う。
あまりに静かなその様子に真司が一瞬面食らったその隙に、麗奈は真司に視線を移し続けた。

「……城戸真司、一つだけ聞きたい。
お前には、戦いの果てに叶えたい願いはあったのか?」

「えっ?俺の……願い?」

「そうだ。ライダー同士の戦いで最後の一人になれば、願いが叶う……。
もし自分が最後の一人になった時、叶えたい願いはなかったのか?」

「いやそれは……」

先ほどまでとは一転して、真司はいきなり言葉に詰まる。
神崎について悩んでいる自分に投げるには、あまりに唐突な質問ではないかと、そう言いたい気持ちもある。
だがそれでも、ここでこの問いに嘘を返す必要もないと、真司は一つ息を呑み続けた。

「……俺には最初から、最後の一人になった時に願う望みなんてないんだよ。
ライダー同士の戦いなんて止めて、みんなで人を襲うモンスターと戦えればそれでいいって、それしか考えてなくて……」

この一年間蓮をはじめとしたライダーたちに何度も問われ、その度答えてきたこの言葉。
だがそれを聞く麗奈の顔は、驚きと納得が同時に生じたかのような、真司も初めて見るものであった。

「……なるほどな、お前が戦いを一向に止められなかった理由が、それでよくわかった」

「え?それってどういう……」

暫くの沈黙の後麗奈から齎されたのは、真司が長い間悩んできた問いの答え。
思わず前のめりに問うた彼に対し、麗奈はやはり極めて冷静に返す。

「――簡単なことだ。ライダーの戦いを止められなかったのは、お前自身に明確な願いがないからだ。
願いを叶えるため戦いを選ぶしかなかった他のライダーに比べて、お前は戦いをやめたところで何も損することはない、違うか?」

「いやまぁ、そりゃ……そうかもしれないけど……」

齎された麗奈の言葉は、至極当然なものであった。
ライダー同士の戦いをやめたとき、他のライダーと真司との間に生じる最大の違い。
それは、願いを叶えられなくなるか否かということだ。

恋人や姉の命を諦めたり、或いは自分の命を諦めたり。
不特定多数の人々を救うためという漠然とした正義感で諦めるには、あまりに重い望みを抱えたライダー達。
そんな彼らに戦いをやめさせ願いを捨てさせるには、願いを持たない真司では役不足だと、麗奈はそう言いたいのである。

「そして同時に……やはり神崎の行いは、奴自身の責任だ。
お前が気に病むことは、何もない」

だが瞬間、続く麗奈の言葉に、真司は思わず目を見開いた。

「でもミラーワールドが出来たのは俺が……」

「そうだとしても、だ。お前はライダー同士の戦いに参加しながら、願いを持たずただその戦いを止めることだけを望んでいる。
もしお前がミラーワールドの始まりに責任があるのだしても、それを止めようと一心に戦った時点でそれを続けようとしているのは神崎という男のエゴに過ぎん」

真っ直ぐに言い放った麗奈を前に、しかし真司はそれで納得する様子はなかった。
麗奈の言っていることの意味は分かる。彼女の言う理屈も分かるつもりだ。
だがそれでも、この一年関わってきたライダーバトルの元凶が自分であるという事実を簡単に受け流せるほど、城戸真司という人間はうまく出来ていなかった。

「そうだとしても……」

思わず漏れたその呟きは、今にも消え入りそうな、しかし消してはならない決意を秘めたものだった。
眉をひそめた麗奈に対し、意を決したように、或いは今までの我慢が解かれたように、真司は矢継ぎ早に口を開いた。

「――そうだとしても、蓮や北岡さんや、それに浅倉だって、ライダー同士の戦いがなければ戦うことなんてなかったし、それで死ぬことなんてなかったんだ!
それに神崎だって俺がちゃんとしてれば仮面ライダーなんて作らなかったかもしれないし、そしたら俺たちの世界が崩壊の危機に巻き込まれることだって――!」

それは、真司の悲痛な叫びだった。
自分がミラーモンスターを作り殺し合いを巻き起こした元凶だと知ってから、ずっと心の奥底に隠してきた不安。
ライダー達の死が、そして神崎の登場が、真司の中でせき止められていた思考の奔流を解き放ってしまったのである。

戦いを止めたかった自分の思いそれこそが、ただ自分の尻拭いに過ぎないのだとしたら。
それさえ正しいと言い切れないのだとしたら、自分が戦ってきたことに一体どれだけの意味があるのだろうか。
そうして心の内を曝け出した真司を前に、麗奈は一人どこか合点がいったように小さく頷いた。

「……それで、十分じゃないか?」

「え?」

放たれた麗奈の言葉は、字面だけ見れば突き放すようなものにも見える。
だがその実その表情には“以前までの麗奈”のような、慈愛に満ちた優しい瞳が宿っていて。
先ほどまでの勢いが嘘のように言葉を失った真司に対し、麗奈はなおも続ける。

「お前はお前なりに必死に考え、他者の願いの為にも必死に悩むことが出来る男だ。
ライダー同士の戦いの元凶だろうが、お前の世界が崩壊に巻き込まれた元凶だろうが、お前はずっと、誰かの願いを受け止めようと頑張ってきたんだろう。
それを経てきたのなら、私はお前がその為に誰かに迷惑をかけようと構わないとさえ思う。
何故ならお前がやってきたそれは、『誰も傷つかなくていいための迷惑』だからな。……そうだろう?」

悪戯っぽく笑った麗奈に対し、真司は居心地が悪いように感じて少し目を逸らした。
誰も傷つかなくていいための迷惑……それは翔一と共に麗奈を説得した際、自分が吐いた言葉だったのを、思い出したのである。
先ほど乃木の前に立ちはだかって繰り返したはずだというのに、こうして麗奈に改めて言われるまですっかり忘れていたような心地だった。

いやきっと、本当の意味で真司はその言葉を忘れていたわけではあるまい。
麗奈や総司や、或いはまた別の悩める仲間がいたのなら、きっと真司は迷うことなくその言葉をかけただろうから。
だから、結局は単純なことだ。

あーだこーだとごちゃごちゃ理屈をこねたって、結局真司は、自分の言ったことを自身に当てはめることなんて出来ないのだ。
それは蓮や美穂や、果ては神崎の事情だってひっくるめて迷うというのに、結局は自分自身には譲れない願いがないという事実と重なって、真司に深く突き刺さる。
真司は決して頭のいい方ではない……いや、その悪さについては、他者が指摘するよりもずっと自覚していると言っても、過言ではないだろう。

だがそれでも、頭が悪いからと言って、何も考えなくていいわけではないと真司は思う。
そして、答えが出なくても必死に誰かの為に悩めるのなら、それで誰かに迷惑をかけたとしても構わないのではないかと麗奈は言う。
言われて初めて、自分が麗奈に放ったその言葉を実践するのがどれだけ難しいのか気付いた。

だがその麗奈本人は、こうしてワームの自分にさえ打ち勝ち人間性を勝ち取ったのだから、自分が今更弱音を吐くわけにもいかず。
瞬間、すぅと冷え始めた真司の脳が、神崎のことやライダーバトルに参加したライダーたちのこと、そういった外部要因を全て取り除いていく。
そうして残った何かが、きっと自分の願う思いに最も近いものなのかもしれないなと、真司はぼんやり考えて。

最後に残ったどうしても守りたい思いは、既に一つに決まっていた。

「俺は……やっぱり、ライダー同士の戦いなんて止めたい。世界の崩壊とか、正直よくわかんないし、それが正しいかなんてわからないけど……。
それでも、俺は戦いを止めたい。その途中でたくさん迷惑をかけたり、かけられたりするかもしれないけど……それでも俺は、皆が傷つかず幸せになれる世界を、信じたい。
もし俺に、ライダーとしての願いがあるとするなら、それが俺の願い……なのかも」

真司のたどたどしく要領を得ない、しかし真っ直ぐな思いを秘めた言葉を受けて、麗奈は満足したように息を一つ吐いてしっかりと頷いた。
そんな彼女を見て、前に翔一と一緒に説得した時と立場が逆になったような今の状況に、真司はどことなく照れ臭い思いを抱く。
この空気に堪えきれなくなった彼は、麗奈から目を離すため思い切り空を見上げ、あの時麗奈を説得できた最大の理由である友を、その朝日に重ねた。

寒いギャグを飛ばして常に真司に謎の疲労感を抱かせたり、どこまでも能天気でキバットにさえ呆れられたり。
しかしある時は溜まり切った疲れさえ一気に吹き飛ばすような笑顔を浮かべるあの男に、太陽はよく似ていた。

(翔一……ごめんな、こんな風に悩んで立ち止まってたら、お前に顔向けできないよな。
……俺、頑張るからさ。お前ほどうまくは出来ないかもしんないけど、それでも――!)

拳を一つ握りしめて、痛む掌にさえ固い決意を乗せて、真司は太陽をただ見つめる。
もう迷わないという思いと共にまた一つ友の死を乗り越えた真司のその横で、麗奈はもう一度だけ頷いた。




真司と麗奈が繰り広げる会話を横耳で聞きながら、男――三原修二はただぼーっと立ち尽くしていた。
彼の双眸が移す景色は目の前の世界のようでいて、その実違う。
視界の端に突然座り込んだリュウタロスを捉えているのも、意図的であると断言出来ないような、そんな様子だった。

平均的な一般人男性程度の体力を有する彼がここまで疲労したのは、長距離の移動によって足に蓄積された乳酸がもたらすものか、それとも殺し合いという場への緊張感からか。
否そのどちらでもないことは、彼の瞳を見れば分かることであった。

(帰りたいな……家に)

三原の視線が、ぼんやりと飛行艇が消えていった空をなぞる。
先ほど消えた無数の飛行艇のように、自分もあの灰色のオーロラのようなヴェールに呑まれてこんな狂った会場とおさらばしたい。
そんな下らないことを考えて、ふと自分のどうしようもなさを自嘲しながら、彼は自身が途方に暮れた原因の一つである、先の放送担当者が放ったとある言葉を思い出していた。

(戦わなければ願いは叶わない、か。……勝手なこと言うなよな)

神崎士郎と名乗る男は、願いを叶えたければ戦えと宣った。
三原にとって最上の願いとは、『戦う事なく、元の世界に帰還すること』。
その願いを果たすために戦えば、それは最早自身の願いとは矛盾してしまう。

無論、三原だってそれがこの場で何の努力もせずに手に入れられるような、安い報酬であるとは考えていない。
子供のようなリュウタロスや(ワームとしての人格に目覚める前の)麗奈といった自分より弱い女子供のような存在は守らなくてはいけないとは感じる。
彼らを守る為ならば、戦わなければどうしようもない状況なら、自分が戦うべきだとも思う。

だが、それでも。
城戸真司や名護啓介、それに門矢士といった強くて優しい仮面ライダーがこの場にはそれこそ山ほどいて。
残る敵が先ほど自分が戦った浅倉さえ霞むほどに強い参加者や、大ショッカーの幹部のように得体の知れない存在しかいないというのなら。
やはり自分は戦わず守られる存在でいればいいんじゃないかと、そう思ってしまう。

というよりは、守られるとも守るとも違う、物事を俯瞰で見続けられる傍観者でいられたらいいのにと、そう考えてしまうのである。
思い出してみれば自分は小さいころ、流星塾にいた時からずっとこうやって生きてきたように思う。
他の塾生達が喧嘩したり、誰かがいじめっ子たちに泣かされたりしても、自分はただそれを見ているだけだった。

強い奴に荷担するでもなく、逆に弱い奴を庇うわけでもない。
強い奴と一緒に誰かをいじめれば後で先生に怒られるのは分かっていたし、逆にいじめられている奴を助ければ今度は自分がいじめの対象になるかもしれない、そう思ったからだ。
それに何より自分はあることを知っていた。

ただじっとそこで待っていれば、誰よりも強くて正義感の強い女の子、園田真理が現れて、弱い奴を助けていじめっ子達を倒してくれると。
だから自分はいつも、ただ待っているだけでよかった。
自分が面倒事から逃げている間に、それを解決してくれるお人好しが現れるその瞬間を。

だからどうしても――考えてしまう。
今までと同じように、世界の崩壊だとか殺し合いの行方だとか、そんな面倒な全てを全て誰か――それこそあの幼き日々における園田真理のような――お人好しが解決して、自分はただそれを見守っていられたらと。
リュウタロスが自分のことをやれば出来る男なのだと認識している今の状態のまま、あわよくばこの殺し合いを生き抜ければと、そんな甘い“逃げ”が、三原の脳を支配するのである。

(……いつもこんなんだな、俺って)

乾いた笑いが、喉から漏れた。
思い返せば、自分の人生はずっとこんな感じだったような気がする。
いつだって責任からは全力で逃げ、日々を何事もなく生きるためのスキルだけ磨き続けて、そうやって生きてきた自分の今までを振り返っても、何となく虚しいだけだ。

ある意味で言えば、自分がリュウタロスにここまで気を引かれるのも、そこが原因なのかもしれないな、とふと思う。
力では自分よりずっと強いことは百も承知の今になってなお、彼と一緒に行動している理由も、彼を守らなければ、だとか彼に見損なわれない自分になる、だなんて強い使命感から来るものではない。

――『友達少ないんだね』

あのサーキット場で、お互いの知り合いを述べ合ったときに彼がポツリと放った何気ない言葉。
連れてこられている参加者の世界間格差を別にすれば知り合いの人数自体は同じようなものであるというのにも関わらず、三原はその言葉に、どうしようもなく囚われていたのかもしれない。
何故なら……その指摘は別に、この会場の中だけに止まるようなものではないからだ。

いつだって物事から一歩引いた姿勢で、誰かと深くかかわる事さえよしとしない三原の性格は、流星塾内では勿論、そこを卒業した後も誰かから積極的に受け入れられるようなものでは到底なく。
それでも当事者になることへの恐れから、そうした独り身の現状こそが最高の状況なのだと自分に言い聞かせ生きてきた三原にとって、無垢な異形の述べた言葉は彼が意図していなかった部分とは言え痛烈に胸に突き刺さったのである。
その言葉を撤回させようだなどとは思っていない、どころか自分自身それを否定するではなく半ば肯定するような返答をしてしまったことから、きっともうそれを自分自身特別なこととも思っていないのだろう。

だが、それでも。
初対面から数時間で自分の殻に引きこもっていた自分を引きずり出し友人が少ないことさえ即座に看破したこの魔人とならば。
何か、流星塾でさえ満足に得られなかった“何か”が得られるのかもしれないと、そんな風に思うのだった。

「――おーい、三原さん、ちょっとこっち来てくれ」

思考に沈んでいた三原の意識を浮上させたのは、どことなく間の抜けた真司の声だった。
視界の隅に未だ体育座りでしゃがみこむリュウタロスを収めながら、三原は思考を切り上げて自身を呼んだ二人の元へと駆け出して行った。




「病院に戻るぞ」

「……へ?」

真司が思いを新たにして少しの後。
物思いから浮上した真司に対して、麗奈は一言そう述べた。
だがその言葉は、真司からすればすぐには飲み込めないもので。

「なんで戻るんですか?わざわざ橋の目の前にまで来たってのに……」

「……先ほどの放送、お前は途中までしか聞こえていなかったらしいな?」

今度ばかりは僅かに言葉に棘をにじませた麗奈に対し、真司は申し訳なさそうに縮こまり頭を下げた。
少しの沈黙の後、それも仕方ないかと小さく呟いた麗奈は、改めて真司に向き直った。

「先ほどの放送で、この会場の東側全域が8時に禁止エリアになることが発表された。だから――」

「――なんだって!?」

麗奈の言葉を受けた真司は、そこから先の言葉を聞くこともなくすぐさま身体を翻して橋に向かって駆けだそうとする。
だがそれを読んでいたとばかりに後ろから彼の襟を引っ張った麗奈の怪力によって、その身体は少しばかり浮いただけで一切走り出すことはなかったが。
藻がいたところで無駄だろう力量差を理解したのか、走るのをやめた真司は、しかしその顔に確かな怒りと焦りを滲ませて勢いよく振り返った。

「何するんだよ!」

「何するも何もないだろう、話は最後まで聞け」

「聞いてる時間なんてないって!俺たちがこうしてる間にも、向こうに取り残された人が禁止エリアに巻き込まれちゃうかもしれないんだぞ!」

焦り故か、或いはある程度ワーム人格を取り込んだ麗奈にも思いやりがあることを理解したのか、敬語さえ取り払って真司は必死の抗議を試みる。
その形相から彼の正義や思いは確かに伝わるのだが、それはともかくとしてこのまま彼を東側に行かせるわけにはいかないと、麗奈は口を開いた。

「……心配する必要はない。恐らくこの禁止エリア化で犠牲になる参加者は一人もいないはずだ」

「はぁ?なんでそんなこと言えるんだよ」

「大ショッカーは、禁止エリアによる首輪の爆破などという形で参加者を減らすことをよしとはしないだろうからだ」

言った麗奈の表情は、確信に満ちている。
まるで、それが正解であると既に知っているかのような自信に溢れるその顔に、真司は思わず怯んでしまう。

「……なんでそんなこと言いきれるんだよ」

「簡単なことだ、奴らは今まで禁止エリアは多くても2時間に二つだけ設定していた。
しかも最初の放送に現れたキングという男の言葉を信じるなら、それすら当初の予定よりハイペースだったというのだから、今回は相当な特例であることが伺える」

「……まぁ、かもしんないけど、でも残り人数を考えたらそういうことだって……」

「そう、まさにそれだ」

残り人数がもう15人を切ってしまっているという事実を思い出し俯いた真司に対し、麗奈はその言葉を受けなおも続ける。

「我々参加者の残り人数はもう少ない。
大ショッカーからすれば東側という広いフィールドを禁止することで会場を実質半分以下にし、殺し合いを促進させる狙いがあるのだろう」

「いやだから、それのついでで東側に残っている人が死んじゃうかもしれないだろ!」

「その可能性もないとは言い切れない。
だが、それを行うくらいならば奴らは放送の瞬間に禁止エリアを設定すればよかった。そうは思わないか?」

「あ……確かに」

麗奈のどこまでも冷静な言葉に、真司はついに納得を示す。
元々自分の頭が悪いことは自覚しているのだ、理にかなった反論をされれば、真司にごちゃごちゃと議論を続けるつもりもなかった。

「とはいえ、安心は一切できないがな……」

うんうんと頷き続ける真司から目を離し、麗奈はひとり言のようにぼやく。
会場がほぼ半分に減少した今、数こそ減ったとはいえ殺し合いに乗った人物と遭遇する可能性は極めて高まったといえる。
翔一の死から察するに病院でも何か起きたようだが――それこそ門屋士の警告していたキングという男だろうか――それでもなお今のメンバーでもう一度危険人物を相手取れるとは到底思えなかった。

そのリスクを冒しても合流を目指していた東側参加者の存在さえ絶望的になったのだから、麗奈が早急に病院への帰還を求めるのは当然のことであった。

「よーし、そうと決まれば――おーい、三原さん、ちょっとこっち来てくれ」

思考を巡らせた麗奈を尻目に真司が離れた場所でリュウタロスを見ていた三原を呼びつける。
それを受け、心ここにあらずといった様子で放心していた三原が声に反応しこちらに合流するまで、それほどの時間は要さなかった。




暫くの後。
彼ら四人は、先ほどまで南下してきた道をそのまま北上していた。
だが四人の中に、大した会話はない。

いや、周囲の警戒に気を払っている麗奈や真司が大した会話をしていないのは、先ほどまでも同じことだ。
故にそう、先ほどまでと様子が変わったといえるのはただ一人。
放送以前まで存在していた、無邪気な子供のような言動を控えただひたすらに歩き続けるリュウタロスのみであった。

「……なぁリュウタ、その――」

「キングって奴は僕が倒すけど、いいよね?」

「え?」

久方ぶりに聞いたようなリュウタロスの声は、震えていた。
悲しみに、ではない。
怒りだ。

自身の宿主であり、それ以上に最高の仲間であった良太郎を無惨に殺したキングという男への怒りが、今のリュウタロスを奮い立たせていた。
それは彼の無垢とも言えるような純真さから見れば些か歪な立ち直り方とも言えたが……それを諭せるほどには、三原には経験が不足していた。

「――答えは聞いてない」

次の言葉を探し俯いた三原が何か言うより早く、リュウタロスはいつもの決め台詞で会話を一方的に終わらせる。
それきり言葉を紡ぐことなくただ前を見て歩き始める彼を横目に見ながら、三原はただ彼を言動のみで庇護対象だと決めつけていた自分を恥じる。
彼は自分が思うよりずっと強い存在なのだと改めて感じ……そして同時に虚しさを覚えた。

子供のような言動の裏にしかし、リュウタロスは確かに戦士として戦う意思を秘めていた。
彼は決して自分が守らなければいけない庇護対象ではないのだと理解した瞬間に、三原は自分が一人置いてけぼりにされたような感情を抱いたのである。
女性である麗奈も、子供だと思っていたリュウタロスも。

自分が男として守らなければと思っていた存在が、実は自分よりずっと強かったのだと知る度に、自分の存在意義が分からなくなる。
一体自分は何のためにここに呼ばれたのかと、何度目ともしれない自己嫌悪を抱いた、その瞬間。
不意に前を歩いていた麗奈と真司の足が、止まった。

「え、いきなりどうしたん――」

「構えろ、三原修二。来るぞ」

困惑のまま問おうとした三原に対し、麗奈はただ短くそう返す。
何事かと前を見やれば、そこにあったのは先の放送の際にも見たあの灰色のオーロラ。
つまりは大ショッカーが会場に何かを送り込む際に使用するのであろう、移送装置の一種であった。

そんなのありかよ、と三原が悲鳴にも似た泣き言を吐くより早く、オーロラが一つの影を映し出す。
その影が濃くなると同時、加速度的に高まっていく殺気を前にして、戦士達は悠長に敵が現れるのを待ったりはしなかった。

「――変身!」

真司が、麗奈が、リュウタロスが叫ぶ。
敵の姿を視認するより明らかなのは、そこから現れるのが一切の対話の余地がないモンスターであるということ。
そして恐らくは、今まで戦ってきたいずれの存在よりも強大な敵だと言うことであった。

果たしてそれぞれの変身を終えた戦士達の前に、影はいよいよ実像を結ぶ。
この広い草原の中で際立つような深い灰色をしたその怪人に、三原は確かに自身の知る存在との共通項を見出した。

「オルフェノク……!」

その単語が、何故自分から出たのか、自分自身も分からなかった。
それが自身と同じ世界の存在であるからか、それとも未来の自分が戦っていたという推測を今一度身を以て感じたからか。
ただ細かい理由はどうであれ、その異形を前にした三原の中に、もう戸惑いは存在していなかった。

デルタギアを腰に巻き付け、汗ばむ手でデルタフォンを掲げる。
恐怖や不安はあるがそれでも……今の三原にとって取るべき選択肢は一つしか残されていなかった。

「――変身!」

未だ震える声で叫んだまさにその瞬間に。
――戦いのゴングが、鳴り響いた。


【二日目 朝】
【G-3 橋】


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】意識統合、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダードレイクに変身中
【装備】ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、
【思考・状況】
基本行動方針:自分の中に流れる心の音楽に耳を傾ける。
1:目の前の怪人(アークオルフェノク)に対処する。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
2:皆は、私が守る。
3:仲間といられる場所こそが、私の居場所、か。
【備考】
※人間としての人格とワームとしての人格が統合されました。表面的な性格はワーム時が濃厚ですが、内面には人間時の麗奈の一面もちゃんと存在しています。
※意識の統合によって、ワームとしての記憶と人間としての記憶、その両方をすべて保有しています。
※現状、人間時の私服+ワーム時のストレートヘアです。



【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、翔一、士への信頼、疲労(小)、仮面ライダー龍騎に変身中
【【装備】カードデッキ(龍騎)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(ファム・ブランク)@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:目の前の怪人(アークオルフェノク)に対処する。
2:西病院に戻り仲間と合流する。
3:間宮さんはちゃんとワームの自分と和解出来たんだな……。
4:この近くで起こったらしい戦闘について詳しく知りたい。
5:黒い龍騎、それってもしかして……。
6:士の奴、何で俺の心配してたんだ……?
7:俺の願い……そんなの……。
【備考】
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解していますが、翔太郎からリュウガの話を聞き混乱しています。
※美穂の形見として、ファムのブランクデッキを手に入れました。中に烈火のサバイブが入っていますが、真司はまだ気付いていません。



【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】強い恐怖心、疲労(小)、仮面ライダーデルタに変身中
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:……目の前のオルフェノクに対処する。
1:できることをやる。草加の分まで生きたいが……。
2:居場所とか仲間とか、何なんだよ……。
3:巨大な火柱、閃光と轟音を目撃し強い恐怖。逃げ出したい。
4:リュウタ……お前、やっぱり強いな……。
5:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
6:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやりたい。
7:リュウタロスの信頼を裏切ったままは嫌だ。
【備考】
※後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※三原修二は体質的に、デルタギアやテラーフィールドといった精神干渉に対する耐性を持っています。今抱いている恐怖心はテラーなど関係なく、ただの「普通の恐怖心」です。
※デルタギアを取り上げられたことで一層死の恐怖を感じたため、再度ヘタレています。



【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、仮面ライダー電王(ガンフォーム)に変身中
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、デンカメンソード@仮面ライダー電王、 ケータロス@仮面ライダー電王
0:修二、強くなった……のかな?よくわかんない。
1:今の麗奈は人間なの?ワームなの?どっちでもないの?
2:良太郎の分まで生き残って、お姉ちゃんを守る。
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスや良太郎の分まで頑張る。
5:キング(剣)って奴は僕が倒すけどいいよね?答えは聞いてない。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※自身のイマジンとしての全力発揮も同様に制限されていることに何となく気づきました。
※麗奈が乃木との会話の中でついた嘘について理解出来ていません。そのため、今の麗奈がどういった存在なのか一層混乱していますが、それでも一応守りたいとは思っています。



【アークオルフェノク@仮面ライダー555】
【時間軸】死亡後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
1:参加者は見つけ次第殺していく。
2:同族に出会った時は……。

137:天の道を継ぎ、輝く勇気を宿す男 投下順 139:The sun rises again
時系列順
130:居場所~place~ 城戸真司 140:夢に踊れ(前編)
三原修二
間宮麗奈
リュウタロス
134:第三回放送 アークオルフェノク

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最終更新:2019年12月13日 10:22