055『ほたるさんと、メタルギアと…』より。

通話相手:枝垂ほたる・小泉さん
時刻:AM.05:01
内容:調査報告
+ ...



……
………

──………そんなの、断然『サラミ味』だな。あのスパイスの効いた塩見と甘味がマッチするのもあるが、よくよく考えりゃアイツはサラミ感なんて全くない。本物のサラミとは程遠い味なンだよな。

──だが、そこがいい。もはやサラミ味は一つの独立した料理だね。台湾を中国扱いしちゃあいけないのと一緒さ。俺はあのサラミ味という特有の味を一番愛している。

 『ほうほう!! さすが戌亥くん!! 鋭い視点に寛容な心構え……。同じ駄菓子マイスターとして見習いたい思想ね!!!』

──いや思想って程のものでもねェーだろ。ちなみにほたるちゃんは前コンポタ味とサラミ味を同時にって話だけども………、



──って……。

──…そろそろいいよな? 菓子の話はもうお腹いっぱいだろ。いくぞ、


──【本題】をさ。



 『……あっ!! 私としたことがウッカリしてたわ…………。ええ、どうぞ』

──まぁ十五分もうまい棒の話題のみで盛り上がった俺も俺だけどな……………。んじゃあ話すぞ。

 『………さすが枝垂さんの知り合いなだけありますよ、戌亥さん。はあ……………』




──お宅ら、ほたるちゃんと…小泉ちゃんは今殺し合いをさせられててピンチ……と。

 『…………ええ。信じられない気持ちは分かるけど、決してふざけてるわけじゃないのよ』

──…ンな眉唾ベッタベタな話……、信じる方がイカれてるってモンだけど………。いくらハイテンションでめちゃくちゃなほたるちゃんとはいえ、こんな不謹慎なジョーク。君は絶対しない性格だからね。とりあえずは鵜呑みにした前提で話を進めるよ。

 『…助かるわ……戌亥くん』

──ただ、そのバトロワが絵空事で信憑性皆無だとしても、…【バリアー】が渋谷を覆ってる件は事実な訳だから、俺自身も興味というのは唆られるな。


 『…バリアー…ですか』 『……バリアーっ』


──【渋谷区 ドーム型の未確認物体が出現。バラエティ番組の大規模な宣伝か。】……だとよ。ざっと調べただけでもネットの皆様がお騒ぎ祭りの事態だ。ちょうど今ニュースでも中継してるよ。

──何せ近隣住民によると、昨日の夜十時頃、地響きが聞こえたこと思ったらコイツの出現らしいンだ。金ロー見てたら…パッ!! って訳だぜ。恐ろしいよな。

──あとな、これまた興味深いのが、…おまわりが言うによれば、そのバリアーは【触れない】らしいんだ。

 『…触れない………? っていうのは高温とか高電力で触れられないって意味かしら』

──…いや違う。言うなればナマズの粘液みたいなもんさ。ヌルヌルしてる…と言うかね。とにかく、【物理的に】触れないバリアーなんだとよ。

 『…なんですか、それは………』

──あぁ、俺も自分で何言ってんのか分からないし、要約も難しいんだよ。


──…だが、ここでさっきのバトロワだかいう眉唾話とリンクしちゃうワケだけども。…このバリアー、明らかに【この世のものでは無い】って結論に着いちまうんだよな。…あまり馬鹿げたこと、考えたくないけどね。

 『…………………』

──この平成の世の科学を超越突破した……、いや寧ろどこか【異世界】の文明の産物がこのバリアー…………。

──そして、その中に、ほたるちゃん等がいる現状…………。


──…これって案外物凄くヤバい目なんじゃねェーの?


 『…やっとお気づきですか。はぁ。そうです大変なんですよっ。殺し合いなんですよっ』

──…おいちょっと…勘弁してくれよ。そんな睨むなって小泉ちゃん。俺の立場を考えてみろよ、…寝起きで電話。何かと思えば「殺し合いさせられてまーす」なんだぜ? 情報集めに協力してるだけ聖人だと思うだろよ。

 『……………自分で聖人とか言うのもどうかと思いますが』

──あータンマタンタ。俺が悪かったよ、俺がさ。とりあえずこんなどうでもいい喧嘩で話広げるのはよそうか。なぁ。

 『……………』


──…そうだ。言い忘れたことがある。…これは収集した情報って訳じゃなくて、あくまで俺の考察なンだがね………。

 『……バリアーの考察…ねっ!』

──ああ、ほたるちゃん。……まぁ考えてみてくれ。そもそもの話、何故殺し合いの会場に渋谷が選ばれたかについてだが…………。



──……………いや、

──よそうか。


 『……話さないの…ねっ!』

 『何なんですかこの人は』


──…別に理由はないよ。ただ、現状役には立ちそうにない考察だし、所詮は俺の独りよがりな意見だからさ。話すのは後回しにでもしておくよ。

──「お楽しみはラストに!」 …はかの有名なセブンネオンの海外版キャッチコピーだからな。はははっ……。

 『…!!! A・B・C・D・E・F・G・Hっ!!! 食べにくい駄菓子の大エース…セブンネオンねっ!!!! さすが戌亥くん!!!』

 『あっすみません。また話が駄菓子に戻りそうなので、…もう一回本題へと宜しいですか』

──あぁごめんごめん。…なあほたるちゃん…彼女、随分と辛口だな。

 『……ええ。瓶ラムネ・キムチ味を彷彿とさせられるわねっ!』

 『……………………』



──そうそう。ほたるちゃんが要望していた参加者の詳細についても色々調べてみたよ。

 『あら。仕事が早いのね戌亥くん』

──あくまで俺の知る範囲と、それと各々から通達した情報だけどな。鵜呑みにするな、とは言わないが、一応用心して聞いてくれ。

 『ええ』 『…はい』


──……俺の地元はな。今はどうだか知らないけど、かつて荒れててな。【絶対に逆らってはいけない三人】…って、とにかく目を合わせちゃいけない先輩がいたんだよ。

 『…絶対に逆らっては、いけない……ですか』

──うん。悶主陀亞連合総長と、鰐戸の三兄弟と……的な感じで。そいつらは極悪非道のサディストでおまけにバックにゃヤーさんがいるって噂だから、皆怖気づいてたんだ。


──…つまる話、俺が言いたいことは、この渋谷内にも【絶対出会ってはいけない参加者】がいるって事だ。

──……君が送ってきた参加者名簿が本当の事ならね。…数は少ないが確かにいるわけなんだよ。【殺人鬼】以上のヤバイ奴がさ。


 『…………………っ…』

 『………──』


 『──………。…新田、ですか?』

 『……小泉ちゃん?!』


──おっ。御名答だね。もしかして君もあの番組を見たのか?

 『…いえ。さっき拡声器の放送でやっていたもので』

──…ふーーん。確かに一人目は“新田義史”だ。職業柄上、俺も度々その筋の人らと関わるんだが、皆が皆口を揃えて言うんだよ。…あいつだけヤバいってね。

 『…………やはり、ヤバいのね……っ。新田さんという人は……』

──グロ語る場じゃないんで詳細な【新田伝説】は省くけども……。新田義史という極道はとにかくキちまってるんだ。…自分の娘を鉄砲玉に使ったり、敵対事務所を爆破してガラス片が降り注ぐ中ぷらぷらと歩いたり………、娘を愛してると豪語したかと思えば急にその娘の腕をへし折ってきたり……。

──何つーか。スリルを欲している男と言えばいいのかな。何を考えてるか分からない輩が彼さ。


 『…っ。娘の腕を………………っ』 『グロい話…じゃあないですか……………』


──あ、悪いな。でもこれで分かったろう?

──新田義史には絶対関わるな。…金髪オールバックの男が奴だ。……忠告はしたからね。


 『…………………』 『………』


──そうそう、何を考えてるか分からないと言えば奴もそう。厚着の大男“肉蝮”にも気を付けてくれ。

 『…肉蝮………?』

 『偽名なのは確かだけども。…なんだか美味しそうな名前ねっ……』

──いいやほたるちゃん。肉と言ってもビーフやミートじゃないぞ。【血肉】の方だ。

──もっともこの“肉蝮”という名前。奴が自分から名乗り出したわけじゃない。奴にとんでもない目にされた男が、緊急搬送中震える声で、奴の容姿を口にしたのが由来だ。…この時点で関わってはいけないことが重々理解できるだろ?

 『…………なんなんですか、それは…』


──にしても、その奴さんとあの新田が同じ土俵で相見えるとは……。部外者の意見からしたらある意味ドリームマッチだな。奇跡的共演だよ。

──………。…もっともそいつらに魅入られてる君たちがヤバい…っつーのは理解してるがね。

 『……』 『…………』

──奴等には絶対近づくんじゃない。いいね。…いや、「いいよ」と言われてもしつこく繰り返すぞ。いいか、絶対に近づくな。絶対にっ………………。…絶対だからね。

 『……はい』


──それと、肉蝮、新田の他にもまぁボチボチと…。サングラス坊主の“鴨ノ目武”、ロン毛の男“島田虎信”、坊主頭で口元を布で隠してる“鰐戸三蔵”にも用心だ。

──彼らは新田等に比べれば半端者だが、あちら側の世界の住民であることは確かだ。触らぬ神に祟り無し。会わずとも損はないって意見だね。

 『…鴨ノ目に、島田に〜〜…ねっ』

 『すみません戌亥さん。そんないっぺんに挙げられても覚え切れないですよ』

──大丈夫大丈夫。あとで彼らの顔写真を添付しておくからさ。

──…いやにしても……。しっかしほたるちゃん。……マジな感じで鰐戸三蔵がいるわけ? ……名簿の誤記とか……、そういう感じじゃねェーわけなんだよな……………。

 『……どういうことかしら………?』

──まぁちょっと三蔵とは色々あってね。俺の知る限りじゃ三蔵の奴、土の中で微生物のオヤツになってるって噂だったんだが…………。…ほんとこのバトロワって奴は眉唾だわ………。



──…ま、とりあえずコイツら見たら逃げろって話で。今度は反対に、ほたるちゃんらが得する話。【こいつには会え】って参加者をピックアップしたよ。

 『…あら!! それは本当!!』

──本当じゃないわけあるかい。嘘をついてたら君のお父さんに俺は消されてるよ。わたパチみたいにポンッ、ジュワ〜〜ってな。

 『…ごほんっ』

──…あぁごめんて。隙あらば駄菓子ぶっ込んじゃってな。


──………それじゃ、まず一人目は“三嶋瞳”。彼女のことは君達も流石に知っているだろう? 去年話題の顔である三嶋ロリ社長も見参ってわけだ。

 『知りません』 『モチのロン、知ってるわ……! ロリポップ製造会社の子ねっ!!!』

──…あんたら本当に自分の興味ないもんには無関心だな………。…とにかくっ。彼女はとんでもない人物だ、良い意味でね。頼りなさそうな見た目ではあるが、三嶋ならきっとゲーム打破に全力を出してくれるよ。

 『ほうほう〜!! 三嶋ちゃんね…。メモメモ……』

──あとは“四宮かぐや”と“大野晶”。その筋の情報によると、彼女らはバックが強力で、名家のお嬢様なんだ。役に立つかは不明瞭なものの、いい機会だし彼女達に恩を売ったほうがいいかもね。…ほたるちゃんはともかく、一般人の小泉ちゃんは。

 『あら戌亥くん!! 小泉ちゃんだってお金持ちの令嬢なのよ??』

 『…変な設定勝手に付け足すのはやめてください』

 『だって小泉ちゃん。ドライブ感覚で県外や観光地に行ったり毎日ラーメン食べるお金があるって言ったじゃない!! そんなの、一般庶民には到底できないわよ〜!!! ね、そうなんでしょ!!』

 『…ご想像にお任せします、とだけ言いますか』

──なんだそれ、はははっ。小泉お嬢様の秘めたる出生は気になるトコだが…今はいいや。

──……安全な参加者はこれくらいかな。…数は少ないが、居ないよりはマシだったろう?

 『…え?! たった三人なの?!!』

──まあ他の何十人も皆が皆ヤバイ奴とは限らねェーンだし。…俺も後々情報を探るから、今はこのへんでお開きだな。

 『…………戌亥くん…。……あなたも大変ね』

──…お互い様だ。俺の苦労も分かってくれるだけ身に沁みるぜ。

 『………ええ』


──あっ。そうだそうだ、小泉ちゃんにとってもかなり有益な参加者のお知らせがあるよ。

 『……私、ですか』

──ああ。【らあめん清流房】という名店。ラーメン好きの君がその名を知らない筈はないだろ?

 『…当然です。鮎の煮干しベースの醤油ラーメン。あの味はもはや文化遺産に達しています……。知らないなんて口が避けても言えません』

──はははっ。流石だね。



──“芹沢達也”に会いなさい。


 『………っ!!! ま、まさか…!!──』



 『──…ウソ…………………。あの人が………。信じられません…』



──…うん。これにて君らの行動方針が決まったわけだね。…悪いがほたるちゃん。小泉ちゃんに付き合ってやってくれ。

 『え? い、戌亥くん。…小泉ちゃんの目が変わっちゃったけど………一体、誰なのかしら……? その、芹沢さんは……………』

──うーん。君でいう所のポッチくん…ってトコだな。…彼女の夢を、そして幻想の実現を手伝ってあげるといい。

 『……っ!!! え、ええ!! そういうことならお構いなくだわっ!!!』


──さて、…悪いけどここいらで君らとは一旦お別れだな。…俺もリアル生活ってモンがあるし、何よりこれくらいしか今は情報がない。また後で連絡させてもらうよ。

 『…戌亥さん………』

 『……そうね。付き合わせちゃってこちらこそ申し訳なかったわ』

──理解あるほたるちゃんで良かったよ。…俺からも三嶋や芹沢等に連絡は取っておくんでね。できる限りの尽力はするよ。

──………。ほたるちゃん、俺は君がこんな下らないことで死なせる人材だとは思っていない。…まだ話し足りない駄菓子トークが山積みだしよ。

 『……っ!!! 戌亥くん…!』


──はは…。それじゃあ切るよ。


──君ら【普通の】女子が、【普通じゃない】現状でハッピーエンドを迎えるのを願って…………。


 『………!』

 『…………はい』



──じゃあな。








──…あっ。最後に一つ。


 『いやなんなんですか………』

 『…あら!!! こぼれ話ってわけねっ!!!』


──まぁまぁ小泉ちゃん。すぐ終わるから話させてくれよ。

 『………………』

──すっかり言い忘れていたが、俺の考察を語るぞ。

 『…ああ。そんな話がありましたね。バリアーの………』



──そもそもにして、二人は妙だとは思わないか? …具体的には何が? とは、殺し合いに選ばれた【会場】のことだよ。

 『……え? 会場、ですか』

 『渋谷のことねっ………』

──ああ。馬鹿げてるよな。俺が主催者ならどっか無人島か、アフリカの治外法権地帯か。それか過疎村買収してそこを会場にするよ。…なにせ、殺人ゲームだぜ。渋谷なんて一目つく街を貸し切ってやるもんじゃねェーからな普通。

 『…あぁ、それは……。普通に頭が悪いんですよ、主催者』

 『…それはそうねっ。主催者トネガワさんの実態は参加者皆が皆周知だわ……』

──…言うなあ二人とも。まぁ馬鹿なんだろうよ。秘匿性も糞もない場所で殺し合いとか普通考えないわな。



──ただし、こうとも考えられる。渋谷を選んだのではなく、《選ばざるを得なかった》……ってな。

──例えば、予定外な【何か】が発生し、急遽、主催者ら自分たちが今いる『渋谷』で開催した…とかな。


 『………………え?』



──これはあくまで無根な仮説だ。宛にはするなよ。



──バリアーは実は《第三者》が作り上げたもので、主催者を囲むように…。いや、【捕らえる】為に仕込んだ……。


──そんな想定外のトラブルがあった故に主催者は、予定を前倒しして、心の底からやりたかったバトル・ロワイアルを行った……。


──だから支給武器もめちゃくちゃで出鱈目な物ばかり。多少ガバが目立つのも、渋谷が会場なのもそれが理由、ってな………………。



 『………そ、それ…』

 『………………』



──そう考えれば色々辻褄が合うもんだが。…いややっぱクソどうでもいいよな。第三者がいようがいまいが、君らに影響なんて無いモンだしよ。



 『………………』



──悪いな。無駄に話のスケールでかくして。俺も普通にトネガワ無能説が濃厚だと思ってるわ、ぶっちゃけ。

 『え。…………。…本当に貴方は…………』

 『いえ!! 戌亥くん!! 貴重な仮説だったわよ!!』

──…ありがと、ほたるちゃん。ここを抜け出したらまた母ちゃんのお好み焼き食いに来いよ。

 『ええ!! ベビースターマシマシでね!!!』

 『いやそれはモンジャでしょ。…最後まで仲良たげすぎませんか? あなた方二人……』

──小泉ちゃんも来いよ。うちの母ちゃんすげンだぜ? 八王子ラーメンでお好み焼き作るんだからな。…美味いっちゃ美味いんだろうが誰得だろ。

 『………っ!! …すごい…、センスですね……………っ』

 『あっ!!! 戌亥くん!! 小泉ちゃんの目がまた光ったわよ!! さすが!! このプレイボーイ!!!!』

──…バーカ。プレイボーイの意味絶対知らないだろ……。




──それじゃあ命運を祈る。長くなったな。




──じゃあな。





プツン…………………


最終更新:2025年03月30日 00:47