ビギンズナイト ◆7pf62HiyTE





 変身――それは、何かしらの切欠を得て他のものへと姿を変える事、

 悪鬼を打ち倒す為にヒーローへと、あるいはその逆へと成る事、
 自らの願いや意志を通す為に力を扱うに相応しき姿へと成る事、
 はたまた、自らの意思や都合とは関係無しに異形の姿へと変貌する事、

 一般的には都市伝説あるいは伝承・お伽話といったフィクションの話ではある。

 だが、幾つかの世界には確かに存在する――

 此処から語られるのはその変身せし者、あるいは関係者達によって紡がれた物語――
 本来ならば出会う事の無い者達によって紡がれる物語――





    変身ロワイアル オープニング



        ビギンズナイト





 そこは光の無い闇の空間だった。
 周囲を見回しても何1つ見えない。誰がいるのか、何があるのかすらも解らない状況だ。
 最低限把握出来るのは自身の躰程度のものでしかない。


 この部屋にいる者達、総勢66人の老若男女は皆気が付けば此の空間にいたのであった――


「ここは……?」


 そう言って1人の女性が意識を取り戻す。その彼女、園咲冴子もまたその1人である。


「確か……」


 異常事態に動揺しつつも記憶の糸をたぐり寄せようとする。だが、そんな余裕すらも与えず、突然空間の中央部にスポットライトが照らされる。
 その場所には黒を基調とした衣装を纏いし女性がいた。
 それは彼女の街に住む者達にとっては誰もが愛する愛らしい女性である。だが、今の彼女は厳格さこそあるものの愛らしさは成りを潜めている。


「若菜……」


 園咲若菜――冴子の妹であり、かつて街のアイドルであったが、今は冴子のいた組織の代表である。


「皆様御機嫌よう」


 そう若菜は皆へと挨拶をした。その態度を見ても判る通り、この異常事態に関係しているのは明らかだ。
 周囲から『若菜姫?』とか『何? どういう事?』というざわめきが響いてくる。


「これは何の冗談?」


 冴子もまたそう口にしていた。そんな彼女達のざわめきを余所に、


「これから大事な話をするから静かにしてもらえるかしら?」


 そういって皆を黙らせる。異常事態を察してか多少のざわめきが残るものの概ね静かになった。


「これから大いなる実験を行う、貴方達にはそれに従って貰うわ」


 『実験』――何をやらされるのかと緊張が奔る――


「そんな難しい事を要求するつもりはないわ。簡単な事よ、ここいる者達全員で戦い、その結果最後まで勝ち残れば良いだけよ」




 その言葉と共に周囲が再びざわめき始める。
 当然の事だ、いきなりわけもわからず妙な場所に連れて来られた上、戦いを強要されているのだから。
 普通に考えれば戦えるわけもないと考えるだろう。


「心配しなくても貴方達の武器や道具は此方で没収した上で皆に配布しているわ。
 それに、貴方達の本来の力……変身能力とでも言えば良いかしら? それまでは奪っていないからそれと配布した武器を駆使すれば十分に戦える筈よ。
 それから、変身能力を持っていない者には救済措置としてこれを支給してあるわ」


 そう言いながら1本のメモリを取り出す。


「知らない人もいるだろうから簡単に説明するわね。これはガイアメモリと言ってドーパントに変身する力を与えるものよ。
 本来ならコネクタかドライバーに挿入するものだけど貴方達に支給するメモリにそれらは必要ないわ」


 と、淡々と説明を続ける中。


「ちょっと若菜、黙って聞いていれば……さっきから何を言っているのよ?」


 思わず冴子がそう口走る。その言葉が耳に入ったのか若菜はふと冴子の方に視線を向ける。


「お姉様、『何を』といっても言葉通りの意味よ。これは大いなる実験、お姉様にも協力してもらうわ」
「貴方に協力する気なんて無いわ……それでこれはお父様の意志なの?」
「言っておくけど、ミュージアムを裏切ったお姉様は本来始末されていてもおかしくはないのよ。それなのにこうしてチャンスを与えているんだから感謝こそされ恨み言を言われる筋合いは無いわ。
 大体、お姉様にはアレを返してあげているんだから礼の一つでも言って欲しいわね」
「アレ?」
「それは向こうに行ったらわかるわ。その代わり霧彦兄さんの持っていたのは無いけどね」
「!?」


 その言葉からアレというのは冴子自身が持っていたガイアメモリの事だろう。
 そして、


「――と言ってもこれだけじゃ半信半疑かもしれないわね。少しデモンストレーションでもしようかしら」


 その瞬間、もう1つのスポットライトが照らされる。その場所には1人の妙齢の女性が倒れている。


「うぅ……アリシア……」


 どこからとも無く『まさか……』、『母さん!?』という声が響く。


「ここが……アルハザード……?」
「残念だけど違うわ、プレシア・テスタロッサ」


 状況を把握し切れていない女性プレシア・テスタロッサに若菜がそう話しかける。


「!? 管理局!?」
「それも違う、でも貴方の事はよく知っているわ。
 プレシア・テスタロッサ、娘であるアリシア・テスタロッサを事故で亡くしその後彼女を取り戻す為、彼女のクローンを造った」


 何故初対面の女性がそこまで知っているのか、プレシアの理解が追いつく間もなく若菜は言葉を続けている。


「でも所詮は紛い物、貴方は折角産み出したクローンを嫌悪しプロジェクトの名前であるフェイトの名前を付けた上できつく当たった、彼女が母親だと慕っているにも関わらずね……」
「何故それを……」


「それでも娘を取り戻したい貴方はあるかどうかもわからないアルハザードへと向かう為、ジュエルシードを使い次元震を引き起こしアリシアの亡骸と共に虚数空間へと落ちていった……」
「!? アリシアは何処!?」


 プレシアは自身と一緒に落ちた筈のアリシアが入ったポットを捜すべく周囲を見渡す。だが、周囲は暗闇に包まれ何も見えない。


「連れてきたのは貴方だけ、虚数空間に落ちたらどうなるか何て貴方の方が御存知じゃなくて? そんな場所に娘と落ちるなんて本当馬鹿な女」




 その言葉でプレシアの中で何かが切れた。


「よくもアリシアを!!」


 そう言いながら立ち上がる。一方の若菜もメモリを構え、


 ――CLAY DOLL――


 若菜自身に巻かれているベルトのコネクタに挿入する。


 その直後若菜自身がいた場所が爆ぜた。
 周囲は何が起こったのかが理解出来ないが、プレシアの魔法が炸裂したのだ。
 そして若菜がいた場所の周囲には土塊の欠片が散乱する。魔法によって爆散したのだろうか――


「馬鹿ね……」


 その一連の動きを見て冴子はそう呟く。それは妹に対しての言葉なのか、あるいは――


「うっ……」


 若菜を爆破したプレシアが手を口に当てて苦しみ出す。病を患っていた彼女の躰は既に限界だったのだ。


「……!?」


 そんな中、今度はうなじを押さえ苦しみ出す。


「そう、これが刃向かった者の末路よ」


 と、爆破された筈の若菜の声が響く。見ると、欠片が1つに集まり出し、土人形型の怪人クレイドール・ドーパントが現れる。先程のメモリで若菜自身が変身した姿だ。


「みんなも驚いたみたいね。これがガイアメモリの力よ、よく覚えておきなさい。もっともどんな力を持っているかまでは運次第だけどね」
「そんな……あの攻撃を受けて……ああっ!」


 そんな中、プレシアの全身に黒い印が次々と浮かび上がっていく。


「まさかアレは……」


 冴子にはそれに見覚えがあった。アレは『あの人』が倒された時と同じ――いや、限りなく似ているが微妙に違う。


「でも消えるわけじゃないわ。ラームと呼ばれるエネルギー体に分解され、有効利用される事になる……光栄に思いなさい」


 そう言いながらクレイドール・ドーパントはメモリを抜き若菜の姿に戻る。その間にもプレシアの異変は続いていく。


「くっ……アリシア……フェイト……私は……」


 その言葉を最後にプレシアの全身に浮かぶ印が肥大化し躰は黒く染まりそのまま霧散した。


 それに呼応して『母さん!!』、『つぼみ!?』という叫び等周囲が騒々しくなっていく。


「静かにしてもらえるかしら。まだ話は終わって無いわ、五月蠅くし過ぎると彼女と同じ目に遭うわよ?」


 若菜の言葉と共に静寂が戻っていく。そんな中、冴子は自身のうなじを触り、何かがあるのを確認する。


「そう、貴方達の首筋にガイアメモリのコネクタを応用して作りあげた印を刻印させてもらったわ。あからさまな反逆行為をしたらその印が作動し彼女の様になってしまうわよ。
 もっとも、さっきはああ言って脅したけど余程の事が無ければ作動はしないからそこまで気にしなくても良いわ。
 但し、此方が定めた禁止区域に入っても作動するから逃げようとは考えない事ね。
 禁止区域に関しては6時間毎の放送で退場者の名前と共に伝えるから聞き逃さない様にしなさい。
 その他詳しい事に関してはルールブックにも書かれているから聞き逃した人はよく読んでおく事ね。
 ともかく、これから貴方達は私達が与えた道具と自身の能力を駆使し最後まで戦い抜……」



 話を終わらせようとする若菜に対し、冴子が口を挟む。


「待ちなさい若菜」
「何、お姉様」
「さっき、アルハザードとかジュエルシード、それにラームなんて言っていたけどそれは何? 聞いた事が無いんだけど?」
「ああ、お姉様が知らないのも当然よ、私達の世界とは違う世界に存在するものだもの……そうそう大事な事を話すのを忘れる所だったわ、お姉様感謝するわ」


 感謝しているとは思えない態度ながらも若菜は話を続ける。


「ジュエルシード、ガイアメモリ、BADAN、外道衆、こころの大樹、ソウルジェム、呪泉郷、インフィニティ、スペースビースト、未確認生命体、ラダム、魔戒騎士、ダークザイド……
 これらの言葉のどれかに聞き覚えがあるかしら?」


 そう問いかける若菜の問いに応えるかの如く周囲がざわめく。


「『どうして知っているの?』そう言いたそうね。私達はあらゆる世界の情報を把握しているわ、そう貴方達の世界で起こっている現象や問題についてをね……物によっては問題の解決方法も把握しているわ。
 そうね、もし貴方達の誰かが最後まで勝ち残る事ができたならば――実験の報酬として貴方達の望みを叶えるのに協力してあげても良いわ。
 私達の力を持ってすれば大抵の望みは叶えられるわ、貴方達の世界の技術では不可能な事であっても他の世界の技術を使えば大抵の事は可能よ。
 信じられないかしら? でもその一端は既に見せた筈よ。さっき説明した首筋の印も私達の世界、そして別世界の技術を応用して作り上げたものよ。
 ここまで言えば素直に実験に協力した方が良いのはわかるわね。もっとも、それでも従わない、私達を打ち倒すというのなら止めはしないわ」


 周囲のざわめきは止まらない。その最中、


「……若菜、そんな脅し程度で私が貴方の言う事に素直に従うと思っているの?」
「お姉様が素直に従おうが私達を倒そうがどっちでも構わないわ。ただ、裏切り者であるお姉様にとってはこれが最後のチャンスである事は忘れないで欲しいわね」
「……いいわ若菜、貴方の挑戦受けてあげる」


 これ以上の問答は無駄だと判断し冴子は口を閉ざす。そして若菜は違う方向を向き、


「そうそう、探偵さん。貴方にも1つ言っておくわ」


 その言葉に別方向から『え、俺?』という声が響くものの若菜は向き直る事無く言葉を続ける。


「心配しなくても来人の身の安全は保証するわ。それでも仮面ライダーの力は問題なく使える筈よ。
 探偵さんの事だから私達に従うなんて事は無いだろうけど、こっちとしてはそれでも構わないわ。
 でも、貴方の敵は私達だけじゃないわ、私達に夢中になっている間に泣いている人達がいる筈よ。それを守る事こそが貴方の使命じゃないかしら?
 よく覚えておく事ね」


 その言葉は誰に対しての言葉か――だが、これで伝えるべき事は全て伝えた。


「長くなったわね――それではこれから実験を開始するわ」


 その言葉と共にざわめきは少しずつ消えていく――
 暗闇の中故に解りづらいが、若菜以外の者達が実験の舞台へと転移しているのだ――



 そして、全参加者の転移が終わり闇に包まれた空間に若菜1人だけが残される。


「ご苦労だったね若菜」


 その言葉と共に1人の男性が現れる。


「お父様、これぐらいなんでもありませんわ」


 お父様と呼ばれた者は若菜そして冴子の父親園咲琉兵衛だ。


「だが、若菜のお陰で実験を滞りなく始める事が出来た」
「それよりお父様、1つ聞いても良いかしら?」
「何だね?」
「そもそもこの実験に意味なんてあるのかしら?」
「実験の目的は若菜にも説明した筈だ、この地球(ほし)を救う為と……」
「実験といっても60人ぐらいの人を戦わせて勝者を決めるだけでしょ。そんなのが地球(ほし)を救うのに関係があるとは思えないんだけど」
「そうでもないさ、66人いる参加者の殆どはドーパントに匹敵する変身能力を持つ者達だ。その力を試す事はこの実験において大いに意義のある事だ」
「魔法少女にプリキュア、それに魔戒騎士……この辺りはわかるけど流石に水を被って豚や猫、それに性別変わる人達は違うんじゃないかしら?」
「はっはっは、それを確かめる為の実験だ」
「でも、実験の為とはいえわざわざ他の世界の仮面ライダーを参加させる必要は無かったんじゃないかしら。あの人達、絶対に私達に刃向かう筈よ」
「そうだろうね。幾ら印があるとはいえそれで従う様な者達じゃない」
「だったら……」
「だが、それを踏まえた上での実験だ。実験で重要なのは最後の結果だけじゃない、その過程もまた重要だ」
「お父様の言い方だと、仮面ライダーやプリキュア達によってこの実験が止められても構わない風に聞こえるけど?」
「そう思うかい? 無論、そうそう簡単に実験を止めさせるつもりはないさ。それにさっき若菜が『彼』に話した通り敵は他にもいる。仮面ライダーならば我々よりも先に舞台上にいる敵を止める事を優先するだろうね。
 当然、その過程でも戦いが起こる――それがどのような結果になるか、非常に興味深いとは思わないかい?」


 そう語る琉兵衛の言葉に頷く若菜であった。


「ともかくこの実験は必要な事だ――他世界では地球(ほし)を脅かすものが数多く存在する。無論、我々の世界では現状問題は無いが後々に影響を及ぼさないとは限らない」
「ダークザイド、ホラー、グロンギ、テッカマン、アンノウンハンド、ラビリンス、魔女、砂漠の使徒……そんな連中がやって来たらどうなることか」
「今回の実験はその為の予行演習だ。参加者の中にそれらの関係者を入れたのはその為だからね」
「大丈夫、この私が仕切っているんですもの、きっと実験は上手く行きますわ」


 そう言って若菜はこの場を去ろうとする。既に戦いは始まっているのだ、実験を取り仕切る若菜自身も見守らなければならない。


「期待しているよ、若菜……ところで、プレシア・テスタロッサだったかな、彼女をデモンストレーションの相手に選んだのはどうしてかな?」
「丁度良い相手だったから……じゃ駄目かしら?」
「いや、それ自体は別に構わない……まさか彼女の行動に文音を重ねたんじゃないかと思ってね……」


 文音――それはミュージアムを裏切り、若菜達家族を捨てた琉兵衛の妻にして若菜達の母親である。


「………………そんな事、あるわけないわ」


 そう笑顔で応え、若菜は姿を消した。そして最後に残された琉兵衛は――


「さぁ、変身者達よ……君達はどう動く?」



【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡確認】
残り66人



【実験について】
※実験参加者66人で戦い最終的な勝者を決める。
※最終的な勝者は望みを叶える為にミュージアムの技術提供を受ける権利を得る。
※実験に従うかどうかは参加者の裁量に委ねられるが、過度の反抗を試みた場合等は後述する印が発動する事がある。

【印について】
※実験参加者は全員うなじの所に印が刻印されている。
※発動した場合、参加者の肉体は強制的にラームに分解されて別所へと送られる。なお、技術的な関係上元の肉体に戻る事は不可能故に死亡は確定となる。
※発動条件は過度な反抗を試みた場合、禁止区域に突入した場合の2つ。なお、禁止領域への突入の場合は警告として一定時間印が反応する仕様となっており、それまでに禁止区域を離脱すれば影響はない。

【放送について】
※開始時間である0時以降、6時、12時、18時、24時(翌日0時)という風に6時間毎に放送が行われている。
※放送の際に放送間の6時間での退場者、そして後々発動する禁止区域が発表される。

【主催者】
園咲若菜@仮面ライダーW
園咲琉兵衛@仮面ライダーW



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最終更新:2012年05月27日 01:04