狛枝凪斗の幸福論
狛枝クン? 本当に彼を参加させるつもり?
ボクとしては「正気なの?」って聞きたいトコロだけど……まあキミに正気とか言っても仕方ないか。
先に言っておくけどね、ボクは絶対にお勧めしないよ。
違う違う、能力や人格なんて問題にしてないよ。
彼本人なんて雑魚も雑魚。 狂人ぶってるから大物に見えるけど、実際は小物だし雑魚キャラさ。
哀れで笑ってしまいそうになるくらいね。
ボクがお勧めしない理由はね、彼が「幸運」だからさ。 いや、「不運」だからって言い換えてもいいかもね。
……ん? その二つは普通両立しない概念だろう、って?
するんだよ、狛枝クンはね。
アイツの才能の事は話したっけ?
……うん、「超高校級の幸運」だよ。 だからどうしたって?
確かに普通にしててもアイツは幸運だよ。
リボルバーでロシアンルーレットをしたら六発中五発弾丸を詰めても当たらないし、くじ引きをすれば百発百中さ。
でもね、アイツの幸運はもっと特徴的な癖があるんだ。
アイツはね、「降りかかった不運を呼び水にして、その数倍の幸運を呼び込む」んだよ。
ちょっと実例を挙げて説明しようかな。
狛枝クンが子供の頃、両親と一緒に飛行機に乗った時の事さ。
彼の乗った飛行機はハイジャックされちゃったんだ。
身代金目的ってよりは、別の目的があったんだろうね! 他の乗客は皆殺しさ。
彼自身も殺される――、ってところで、何が起きたと思う?
隕石だよ隕石! 天文学的な確率で飛行機に隕石が直撃してね、散らばった隕石の欠片が当たって幸運にもハイジャック犯が死んじゃったのさ!
おかげで狛枝クンは助かって、おまけに両親の遺した遺産を手に入れる事ができたんだけどね。
ね、「不運」で「幸運」でしょ?
でもさ、この話で一番「不運」だったのは誰だと思う?
一緒に乗ってた乗客に決まってるじゃない! 殺されちゃったんだからさ!
おまけにもう少し隕石が降って来るのが早ければ、生き残れたかもしれないんだよ?
こりゃあもう不運も不運だよね!
もう一つ話をしようか。
両親の遺した遺産のおかげで、狛枝クンは幼くしてかなりの資産家になったんだ。
当然狙われちゃうよね。 小学五年生の時、狛枝クンは不幸にも誘拐されちゃったんだよ。
それでさ、誘拐犯は狛枝クンをゴミ袋の中に押し込んだんだよね。 犯人からしたら隠してるつもりだったのかな?
まあ、結局警察に捕まって無駄な努力に終わっちゃったんだけどね!
そういう訳で狛枝クンは救出されたんだけど、詰め込まれたゴミ袋の中ですごい物を見つけたんだよ。
なんだと思う?
宝くじの当たり券さ! それも、3億円!
すごい金額だよね! ま、ボクは100億円ポンと出せるけどね!
これで狛枝クンはまた莫大なお金を手に入れた訳だけど、この話で不幸だったのは誰だと思う?
誘拐された狛枝クン? 捕まった誘拐犯?
いやいや、そんなワケないよね! 「3億円の当たりくじを捨てちゃった人」だよ!
何が起こったのか知らないけど、当たりくじを捨てたりしなければ3億円はソイツの手に渡った筈なんだから!
ここまで言えばわかるよね?
狛枝クンの「超高校級の幸運」は――周囲を思い切り巻き込むのさ。
巻き込むだけ巻き込んで、幸運の恩恵を受けるのは彼一人だけ。
幸運っていうのは世界には限られてるんだってよくわかるよね!
それでさ、有富クン。 この話を聞いても狛枝クンを実験に参加させるつもり?
「不運」と「幸運」で周囲を巻き込む狛枝クン。
そんな彼を、「ヒグマの跋扈する島に放り込まれて殺し合いを強要される」なんて不運に巻き込んだら……。
揺り返しの幸運、そして彼自身の不運が……
この「実験」そのものを巻き込んでしまうかもしれないよ?
◆
「
HIGUMA」の遺伝子を取り込み究極羆生命体と化した男、
カーズ。
彼との戦いの直後。
カズマと杏子は、ビルの壁によりかかり一息を吐いていた。
如何にアルター使いとしての新たな段階への覚醒に至ったと言えど、カズマのダメージと疲労は軽視していいものではない。
休息が必要だ、という事実はカズマも杏子も理解している。
「……流石に疲れた。 おい杏子、ちょっと休まねぇか」
「あたしも賛成だ。 道のど真ん中に座り込む訳にもいかねーし、近くのビルで休もう。
置いてきたほむらみてーな奴の様子も見ておかねーと……」
カズマの提案に杏子が賛成し、二人は道を引き返そうと踵を返す。
――タイミングが悪かった、と言う他ない。
カーズと戦っている最中ならば、戦闘に研ぎ澄まされた神経がそれを察知できた。
そうでなくても、戦いの余波がそれを寄せ付けなかった。
逆にもう少し後ならば、緩んだ神経を再度張り詰めさせることができていた。
戦闘が終わり、周囲の危険もなく、警戒の糸が丁度緩まり切った瞬間。
そんな最悪のタイミングで。
轟音と共に、カズマと杏子は蒼の波に飲まれた。
◆
「……まさか津波とは。 誰かはわかりませんが、派手な事をやる物です。
ですが、これは少々困りましたね」
カーズに襲われた
黒騎れいが屋上へ逃げ込み、そのまま気を失ったビル。
彼女の倒れ込む屋上の床を見下ろすように、カラスは屋上の手摺に止まっていた。
眼下に見える街並みは、建造物を残して海の中へ沈んでしまっている。
カーズの肉片を体内へ呑み込み、屋上へ戻って来たカラスが見たのは完全に気を失っているれいの姿だった。
止血は見たところ終わらせてあったが、ヒグマや他の参加者が歩く場所で倒れているのは危険だし、何より彼女にはもっと働いてもらう必要がある。
声をかけるかつつくなりして起こそうと考えた次の瞬間、この津波が街を襲っていた。
「この分では、おそらく都市部だけではなく島全体が沈んでしまっているでしょう。
れいを動かすのも難しいですね」
もちろん今までに見せたように、れいにはワイヤーを使っての立体的な移動ができる。
それを利用すればビルの屋上伝いに移動する事は不可能ではないが、逆に言えば市街地から出ていけないという事でもある。
そもそも思いっきり津波が流れてる状況でゲームが成立するかと言われると凄く怪しい。
「仕方ありませんね……れいはこのまま寝かせましょう。
あの男女も流されたようですし、今はできる事もない」
起こしたところで出来る事がない以上、無理をさせるよりは多少休ませておいた方が今後には響かないだろう。
自分が他の場所の様子を見て来る事も考えたが、気絶したれいを放置するのは危険だと思い直す。
まさか島が沈んだままという事もないだろう、動くのは波が引いてからでもいい。
判断を決めたカラスは、周囲の様子に気を配りつつ、次の思考へ――
「……む?」
視界の中で何かが輝いた気がして、カラスは目を瞬かせた。
都市から流れ出した金属物の反射光……という訳ではない気がする。
もっと強い輝き――そう、先程究極生物を名乗った男と戦っていた男の放っていたような――
「……まさか」
◆
少し時間を戻す。
海へと沈んだ街並みの上を、モーターボートが走っていた。
操縦席に座っているのは、温泉で
巴マミらから逃げだした
狛枝凪斗である。
「いきなり津波に飲まれるなんてビックリだよ。 流石に人生でも初めての経験だね。
ま、でも偶然水上に浮いてたモーターボートにしがみつけたのは助かったかな?」
津波に襲われるという『不幸』に襲われながらも、モーターボートを見つけるという『幸運』で難を逃れた狛枝。
津波に飲まれた為、体は上から下までずぶ濡れになっているが――彼の眼からは、焔は消えていなかった。
『希望』という名の焔。 彼はそれを信じ、そして新たな希望を探して海上をモーターボートで走る。
ちなみに今彼が乗っているモーターボートは、デビルヒグマに殺された
不動明に支給されていた物がディパックから津波で零れ出した物である。
彼が殺そうとしたデビルヒグマが間接的に彼の命を救った事になる訳だが、そこは彼にとっては関係のない事だった。
(流石にこの有様じゃ人間どころかヒグマさえ影も形も見えないね。
闇雲に海面を走るよりも、どこかで引き潮を待った方がいいかな。
市街地のビルは沈んでないみたいだし、非常階段にでもボートを乗りつけて屋上で休憩しよう)
少しの間モーターボートを走らせたが、変わった物はほとんど見つからない。
焦れた狛枝が方針を切り替え、一旦津波をやり過ごそうとした時。
海面に、何かが浮かんでいるのが目に留まった。
(……封筒?)
ただのゴミ。 そう判断する事もできる筈だが、やけに気にかかる。
中身を確認しなければならない、という、確信にも似た直感。
(あるいは、これも幸運の内なのかな……?)
それに突き動かされた狛枝は、モーターボートを停めると水面に浮いている封筒を拾い上げる。
茶封筒の表面に書かれていたのは、『参加者各位』の文字。
(……)
濡れてくっついた紙に難儀しながら、半ば破るように封筒の口を開く。
中に入っていたのは――、一枚の便箋と、3つのアンプルだった。
躊躇無く便箋を開き、中身を確認する。 上から下まで目を通すと――狛枝は、確かな笑みを作った。
『参加者各位
以下に 主催本拠地への経路を図示する
なお首輪は オーバーボディやアルミフォイル等により 電波を遮断することで
エリア外に移動した際の爆発を 一時的に防止することができる
準備一切 整えて 来られたし』
「やっぱり、ボクはツイてるみたいだね……」
封筒に入っていた一枚の手紙。 それは(おそらく主催者に近しい人物からの)招待状であった。
一見罠の可能性が強い手紙。 けれど狛枝は、これを疑わない。
(主催者の目的がボク達にコロシアイをさせる事なら、こんな手紙をわざわざ書いて罠にかける意味はないし……。
何より、これがボクの『幸運』の導きだって言うのなら乗るしかないよね)
自らの推測。
そして「自らの唯一の才能」である幸運を信じる彼にとって、この程度の賭けは賭けですらない。
もし賭けに負けたのならば、それは彼の才能がその程度だったという事。
それが、彼の有する「才能」を史上とする価値観だった。
(問題は、どうやってこの経路が示す場所……つまり地下に行くかかな。
今のところ地上は完全に海に沈んでるし……引き潮が来るまで待つしかないかな?
……この津波、まさか引かないなんて言わないよね?)
手紙の内容は全面的に信用する事にした狛枝だが、今のところ本拠地への道であるマンホールは海に沈んでいた。
そもそも、狛枝一人で本拠地に行くのは幸運や不運を通り越して蛮勇だと思う。
となればやはり、どこかで津波が引くのを待つか、モーターボートを使って人を探すかのどちらかだが――。
(……ん?)
どちらを選ぶかを考えていた狛枝の目に、ある物が飛び込んで来た。
それは、地上にもう一つ太陽が現れたかを思わせる、光。
◆
「――もっとだッ! もっと輝けぇぇぇぇェッ!」
「……お、おい、カズマっ!」
「しっかり掴まってろ、杏子ッ! このままぶち抜くッ!」
カズマの腕に発現したアルター――シェルブリットが光る。
海を割り、海を食い、海を突き進む。
「無茶すんな! さっきから無理しっぱなしだろうが!」
「無茶も無理もねぇ! 俺の前に立ち塞がるなら――吹っ飛ばすッ!」
腰にしがみつく杏子の声を後ろに流し。
前へと。
前へと。
突き抜け。 切り開き。 突破する。
まるで海を割り新天地へ進んだ聖者のように。
そして――
コンクリートのビルへ激突した。
◆
「……っ!?」
ビルを揺るがす轟音に、黒騎れいは目を覚ました。
体を勢い良く起こしながら記憶を探る。 顔を巡らせ状況を確認。
(そう、だ……私はあの男に襲われて……)
ヒグマなのかさえも定かではない、肉体変化の能力を持つ男の姿は周囲にはない。
いやそれどころか。
(……街が沈んでる……!?)
見渡す限りの海。 そして波間から姿を見せるビル。
れいが意識を失う前からは変わり果てた光景。
「れい、落ち着きなさい。 先程下の階に参加者が突っ込みました。
すぐに階段を登ってここまで来るでしょう。 対処を」
聞きなれたカラスの声が耳に飛び込む。
(そうだ……下手に参加者に接触する訳にはいかない。 他のビルにワイヤーで跳び移れば……)
――飛び移れば?
だからなんだ? 逃げる? 何故?
逃げてどうする?
(またゲームのジョーカーとしてヒグマを進化させて、参加者を殺す?)
自分にそんな資格があるのか? 誰かを蹴落として願いを叶える資格が?
自分の為に誰かを不幸にする資格が? そんなものはないのではないか?
ならば諦めるのか? 自分の世界を見捨てて?
彼女の思考はぐるぐると回り――答えを出す事ができなかった。
思考の袋小路を何度も行き来する。 その内に、
「おい、何やってんのアンタ」
◆
声と共に肩を掴まれ、れいは無理矢理振り向かされた。
視線の先に現れたのは、先程れいを助けた少女だ。
「大したことなさそうなのは良かったけどさ、そんな風に呆けてるのはよくないんじゃないの。
また変なヒグマが出てくるかもしれないんだし」
心配するような――あるいは呆れたような視線を向けて来る少女の向こうには、あぐらを掻いて座る男性も見える。
(……さっきカラスが言っていた参加者ね。 失敗だったわ……。
これからを考えるにしても、ここを離れてからでよかったのに)
そのカラスは近くにはいない。 怪しまれないように、どこかへ隠れているのかもしれないが――。
これからどうするべきか。 れいにはその答えが出せない。
答えが出せないから、参加者に対してどう接触すべきかも決めかねる。
(……どういう道をとるにしろ、無駄に不審がらせる事もない。
接触してしまった以上、穏便に、経緯についてはある程度誤魔化すしかないわね)
「……おい? まさか口が聞けなくなったって訳じゃないんだろ?」
「……ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたから。 そうでなくても、いきなりこんな事が起きて混乱していたし」
続けて声をかけてくる少女に答えを返す。
上手く誤魔化せたかはわからないが、今はこれ以上追及される事はなさそうだ。
「さっきは助けてくれてありがとう。 ……私は黒騎れい。 あなた達は?」
「……あたしは
佐倉杏子。 こっちはカ「カズマだ」 ……そう、カズマ。
しかし、あんたも災難だね。 二度も訳わかんないのに遭遇してさ」
訳わかんないの、とは巨大化した穴持たず00と羽根男の事を言っているのだろうか。
片方はれいの行動によるものなのだが、まさかそれを言う訳にもいかないのでうなずいておく。
「……ま、あんたが参ってるのもわかるからさ。 考え事があるならしてて構わないよ。
こっちも疲れてるし、一旦休みたいんだよね」
そう言うと、杏子はカズマと名乗った男性の方に近寄ってから座り込む。
様子からして、疲れているというのは本当らしい。
「……そう。 じゃあ、そうさせてもらう」
期せずしてまた考える時間を与えられてしまった。
どうしたものか。
(……そもそも、この事態は一体どういう事なの?)
多すぎるヒグマ、謎の羽根男、そして津波。
現在この島で起きている事象は、当初有冨に話された『実験』の内容をはるかに逸脱している。
それについての有冨からの連絡もない。
(やはり、実験に何らかのトラブルが起きた……?)
数刻前にカラスに同じ疑問を聞いた時、「有冨にヒグマを制御する度量など無かったのだろう」と言っていた。
ヒグマ達が制御から外れ、脱走や暴走を始めているという可能性は低くない。
最悪の場合、有冨達の生存すら怪しいが――
(……でも、それだけでは説明できない事がある)
あの羽根男の事だ。
あの男は穴持たず1――デビルの事を下等生物と呼んだ。
デビルはその番号からもわかるように、ヒグマ達の中でもかなりの古株だ。
その改造の回数も他のヒグマ達とは一線を画すし、その分有冨達の技術の枠も惜しみなくつぎ込まれている。
何かに特化した能力こそ持っていないが、その知性、戦略眼、戦闘力全てが高レベルのヒグマである。
そのデビルを取るに足らない生物と呼んだというのは――いやそもそも、あの男の肉体変化能力はデビルの物よりも更に高レベルだった。
つまり――
(……デビルの肉体変化能力は、あの男を模倣して作られた……?)
だとすれば、あの男はデビルよりも古株――そもそも有冨達に作られたヒグマかも怪しい事になる。
更に大きな問題は、「私はそんな男の存在を知らされてはいない」という事だ。
そう――仮にも実験の協力者である私に、そんな重要な存在が、知らされていない。
ここから考えると、もう一つの「最悪の可能性」に行き着く。
(……私は、有冨に騙されているんじゃないの?)
考えられない可能性ではない。
所詮れいは異世界の人間だ。 彼等の身内ではないし、信用されていない可能性だってあった。
いつの間にか、彼等の実験の餌にされている可能性も――
(いや、そう考えてもおかしな点は残る……有冨は私に情報を与え過ぎている。
信用させる為とは言っても、下手をすれば致命的になるはず……)
加えて考えれば、この異常がどう実験に役立つのかがわからない。
津波とかどんなデータを取る実験なんだ。
(……推論は幾つか建てられるけど、どれも推測の域を出ないわね。
やっぱり、一度主催本拠に戻るしかないかしら……?)
それをするにしても、今度はカズマと杏子をどうするかという問題がある。
うまく撒ければそれでいいのだが――
「……なんか聞こえない?」
不意に聞こえた佐倉杏子の言葉に、れいの思考は現実へと戻った。
言われて周囲に耳を傾けてみれば、確かにモーター音らしき音が――
(……モーター音?)
弾かれたように立ち上がり、手摺まで駆け寄る。
目に映る海の上には、波紋を描きながら走るモーターボートの姿が確かにあった。
(……あんなのを支給された参加者もいたのね)
このような事態にならなかった場合どう使わせるつもりだったのか有冨に問い質したいが、それはそれとしてあれに乗っているのも参加者だろう。
ヒグマならばモーターボートなど使わずとも自力で泳げる筈だ、とれいは判断する。
――同じ頃、サーフィンをするヒグマが現れていたのは彼女が知る由もない。
「……そこのモーターボート! ちょっと停まって、こちらの話を聞きなさい!」
モーター音にも負けない音量でれいが声をかける。
声が届いたのかモーターボートは一度停止し、操縦席に座っていた人間がこちらへ顔を向けた。
「良かった、こっちで合ってたみたいだね。 ……さっきの光って、キミが出したの?」
◆
「ボクは狛枝凪斗。 よろしくね」
ビルに空いた穴から内部に侵入し、階段を登って屋上までやって来た狛枝は、屋上にいた三人に自己紹介していた。
礼儀正しい挨拶に三人も自己紹介を返す。
「……さっきの光って、何の事かしら?」
情報交換もそこそこに、れいが狛枝に聞く。
自らの事情を聞かれたくないれいにとって話題を自分から逸らす目的もあるが、単純に気にもなっていた。
遠くからやって来た人間に見える程強烈な光ならば他の参加者やヒグマに気付かれる可能性もあるし、そもそもそのような光を出せる存在には注意を払わなければならない。
「……気付かなかったの? さっき突然強烈な光が、このビルに突っ込んだように見えたんだけど」
(……カラスが言っていた、『下の階に参加者が突っ込んだ』時の光?
私が起きた音もそれが原因かしら……つまり)
「……それをやったのはあたし達だよ。 っていうか、こっちのカズマ」
杏子が隣に座るカズマを指差す。
指された当の本人は、気にした様子もなく「大した事じゃねぇ」と返したのみだったが――
「素晴らしいよ! もしかしたら、君が希望なのかもしれないね!」
狛枝は目を輝かせてカズマを賞賛した。
その瞳は爛々と輝き、喜色を顔に浮かべている。
「希望ってのはどういう事だ。 オレはお前の希望になんてなった覚えはねーぞ」
「違う違う。 ボクだけじゃなくて、もっと絶対的な……そう、世界にとっての希望って言い換えてもいいかな」
「どっちにしろ同じだ。 そういうものを他人に頼るんじゃねーよ」
「頼るんでもないんだけどな……」
その狛枝を無碍にあしらうカズマだが、狛枝には改める様子もない。
(一般人さんとかなら、そーいうのを見た時にはしゃぐとか驚くとかしても無理はないけど。
……なんかコイツ、度を越してない?)
「おっと、ごめんごめん。 ちょっと熱が入っちゃったね。
お詫びと言ってはなんだけど、ここに来る前にいいものを拾ったんだ。
ちょっと見てみてよ」
そんな様子を怪訝に見つめる杏子に気がついたのか、狛枝は一旦姿勢を直すと自らのディパックに手をかけた。
「……!」
ディパックから取り出されたそれを目にしたれいが、その場にいた三人を手で制する。
そして自らのディパックから筆記用具を取り出すと、メモ用紙に急いで書いた内容を三人に見せた。
“首輪から盗聴されている可能性がある それについては筆談で話して”
「確かに面白いけれど、今役立ちそうには見えないわ。
……一応あなたが管理していて。 使う事もあるかもしれないし」
「そっか、残念だよ。 仕方ないから、これはしまっておくね」
続けてれいは『首輪の先にいるもの』を誤魔化す為の言葉を発する。
狛枝もその意を汲み取り、れいの発言に乗りながらディパックから筆記用具を取り出した。
欺瞞の為の雑談を続けながら、茶封筒の中身を確認する。
(……危ないわね)
――盗聴の可能性がある、とれいは表現したが、実際はれいは盗聴が行われている事は知っていた。
事前に有冨から首輪の構造を聞かされた際に覚えていたのが功を奏した。
(……でも、なんでこんな物が会場に落ちているの?
まさか、本当にSTUDYに何かが起きた……?)
茶封筒に書かれている『参加者各位』の文字。 あれは布束博士の筆跡だ。
彼女がこの実験について否定的な意見を示していたのは知っているが、このような形で参加者に接触を取ろうとするというのは違和感を覚える。
STUDY内で何らかの事故が起きた可能性も、否定はできない。
“こいつはマジなのか?”
“本当だと思うよ。 こんな嘘を吐いて主催がボクらを騙す必要がない”
“私もそれには賛成するわ”
茶封筒の内容を確認した杏子が、筆談で質問する。
狛枝とれいは、それを肯定した。
“どっちにしろ、それを確認するのは波が引いてからになるだろうけどね。
モーターボートも4人を乗せるには小さすぎるし、アルミホイルかオーバーボディを探さないといけないからさ”
筆談を終える。
狛枝の書いた通り、津波が引いた後に市街地でアルミホイルかオーバーボディを探すのが今後の行動方針だ。
現状の方針を決めかねていたれいとしても、布束博士に手紙の真意を聞いて現状を把握する必要があると考えた為同行する。
茶封筒に同封されていた麻酔針は、2本が狛枝、1本をれいが持つ事にした。
「……そうだ。 それと、もう一つ注意しておきたい事があるんだ」
それから少しした後。 またも狛枝が口火を切った。
“これは筆談する必要はないよ”と前置きして、
「津波の起きる前に、主催者側らしい集団を発見したんだよ」
そう言った。
◆
狛枝の説明は端的にはこういう事だった。
《ここから南の温泉地帯にある集団がいる。
その一団はヒグマを連れていて、拘束や戦闘もしていない。
ヒグマに命令できる主催者側の人間の可能性がある》
その内容に、明らかな矛盾点はない。
ないが――
「おい」
杏子が、狛枝を鋭く睨む。
「アンタ、嘘を吐いちゃいないだろうね?」
「ウソ? ……なんでボクが嘘なんて吐かなきゃいけないのさ」
「確かにそうだけどさ。 ……アンタの言ってる奴に、アタシは心当たりがあるんだよ。
そいつがあたしの知ってる奴なら、アンタの言ってるように主催者の手先になんてなる訳がねー」
狛枝の言う“主催者側らしき人間”の一人に、杏子は心当たりがあった。
巴マミ。
杏子の先輩魔法少女であり――一時、杏子の「師匠」だった少女。
あの「甘ちゃん」が、こんな殺し合いに加担するような事がある訳が無い。
だから、こいつの発言には嘘がある。
そう杏子は思った。
(……主催者側の人間だからと言って、無条件にヒグマに言う事を聞かせられる?
そんな事はない。 そもそも、STUDYにわざわざ外に出てくるような理由はない筈だし、出てこれるような人員もいない筈)
主催者側からのジョーカーであるれいは、ヒグマについてよく知っている。
彼らは誇り高い。
そりゃまあ研究員達に普通に従うヒグマもいるが、それでもその心の中には誇りを持っているヒグマが多数だ。
そもそも先刻自分を襲ったヒグマン子爵のように、研究員の言など聞かないヒグマもいる。
そのヒグマ達が、血沸き肉躍る殺し合いの会場で大人しく他人の命令に従うだろうか?
研究員達にしたって、研究所の中でデータ取りをやる人種であって、危険な会場に出てこれるような人間でもない。
だから、彼の発言には嘘がある可能性がある。
口に出せば身元を明かしてしまうようなものだから発言はできなかったが、そうれいは思った。
「……さっきから思ってたんだけどよ。 お前の発言は胡散臭ぇな」
カズマには杏子やれいのような知識はない。
だが、感覚的に狛枝を胡散臭いと思った。
それに根拠はない。 直感だ。
だが、彼にとっては直感は信じるに足るものだ。
だから、こいつは信用できねぇ。
そうカズマは確信する。
三者三様の理由で、彼らは狛枝凪斗を怪しむ。
けれど、狛枝凪斗も確信させるには至らせない。
「……その子が本当に佐倉さんの知り合いだって言うのなら、もしかしたら騙されてるのかもしれないよ?
こんな状況だし、優しく接されたら騙されてしまう可能性もあるかもしれない」
「……それは、あるかもしれねーけど」
「それに、ボクがキミ達を騙して何の得があるんだい?
同じ参加者同士だって言うのに……信用されるに足るものは、ちゃんと見せたつもりだけどな。
……ボクは、キミ達の希望が見たいだけなんだよ」
そう。 三人から見た、狛枝が三人を騙すメリットが見えない。
確かにこの会場で起きているのは、元々は参加者同士の殺し合いだった筈である。
ただ、ヒグマの脅威はそれを更に上回るし、何より狛枝が三人を騙すつもりなら例の茶封筒を見せる必要がない。
茶封筒を見せた事により、4人のこれからの行動は「地下の本拠地へ向かう」に一致している。
そこから『主催者側の集団』の話をしたところで、せいぜい『そんな風貌の連中に気を付ける』程度だ。
茶封筒も狛枝の罠、という可能性もなくはないが、それにしたってすぐにバレる嘘である。
(ついでに言えば、れいはこれは嘘ではないと知っている)
要するに、『狛枝の目的が掴めない』のだ。
更に言えば、れいと杏子の二人には疑念を確信できないだけの理由もある。
(……確かに、マミの性格だと騙されてる可能性も否定はできないけどさ)
杏子の知る巴マミは、戦闘センスや直感、戦闘力においては有能だったが、反面お人好しの平和ボケだった。
何か人情話を聞かされて騙されている可能性はなくはない。
ゆえに、確信まで至れない。
(……STUDYが私に何かを隠している可能性は、確かにある)
直前までれいが思考していた疑念。
それが、れいの思考を鈍らせる。
STUDYが教えたのは本当にヒグマや研究員の全てなのか?
騙され、利用されようとしているのではないのか?
ゆえに、確信までは至れない。
疑念と戸惑いの上に成り立つ、束の間の休息。
戸惑わず、テーブルの上に残ったのは直感と己の信念に生きる一人の男だけだった。
【F-5/市街地/午前】
【カズマ@スクライド】
状態:石と意思と杏子との共鳴による究極のアルター、ダメージ(大)(簡易的な手当てはしてあります)
装備:なし
道具:基本
支給品、ランダム支給品×0~1、エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険
基本思考:主催者をボコって劉鳳と決着を。
1:『死』ぬのは怖くねぇ。だが、それが突破すべき壁なら、迷わず突き進む。
2:今度熊を見つけたら必ずボコす。
3:波が引いたら、主催者共の本拠地に乗り込んでやる。
4:狛枝は信用できねえ。
[備考]
※参戦時期は最終回で夢を見ている時期
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:石と意思の共鳴による究極の魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り中)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0~1
基本思考:元の場所へ帰る――主催者をボコってから。
1:たとえ『死』の陰の谷を歩むとも、あたしは『絶望』を恐れない。
2:カズマと共に怪しい奴をボコす。
3:あたしは父さんのためにも、もう一度『希望』の道で『進化』していくよ。
4:狛枝はあまり信用したくない。 けれど、否定する理由もない。
5:マミがこの島にいるのか? いるなら騙されてるのか?
[備考]
※参戦時期は本編世界改変後以降。もしかしたら叛逆の可能性も……?
※幻惑魔法の使用を解禁しました。
※この調子でもっと人数を増やせば、ロッソ・ファンタズマは無敵の魔法技になるわ!
【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:全身に多数の咬傷、軽度の出血性ショック(止血済)、制服がかなり破れている
装備:光の矢(6/8)、カラス@ビビッドレッド・オペレーション
道具:基本支給品、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、ランダム支給品0~1 、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×1本
基本思考:ゲームを成立させて元の世界を取り戻す
0:他の人を犠牲にして、私一人が望みを叶えて、本当にいいの?
1:ヒグマを陰でサポートして、人を殺させて、いいの?
2:今は3人について、本拠地を目指す。 決めるのは、それから。
3:狛枝凪斗は信用していいの?
4:そもそも、有冨春樹を信用していいの?
[備考]
※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです
※ジョーカーですが、有富が死んだことは知りません
※カラスが現在何をしているかは後続に任せます。
【狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】
[状態]:右肩に掠り傷
[装備]:リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×2本
[思考・状況]
基本行動方針:『希望』
0:カズマクン……キミがこの島の希望なのかな?
1:津波が引いたら、アルミホイルかオーバーボディを探してから島の地下に降りる。
2:出会った人間にマミ達に関する悪評をばら撒き、打倒する為の協力者を作る。
3:球磨川は必ず殺す。
4:
モノクマも必ず倒す。
最終更新:2015年12月27日 17:19