《D-6 市街地の路地裏 PM16:45頃》
「獣人の兄さん、流石にその体で挑んでくるのは……って、なんですかその汁!? 気持ち悪ッ!!」
グリモルディに轢かれかけた満身創痍の状態でなお追って来た3人の
浅倉威に、
阿紫花英良は呆れ半分驚き半分に声を掛けようとした。
しかしその声は、路地から続けて現れてきた白濁液の大群に、ただの狼狽と化した。
「オラァ!」
「ひえっ!?」
「うおあ!?」
そして浅倉威は、唐突にその白濁液を掬い上げて阿紫花たちに投げつけてくる。
咄嗟に身を屈めて阿紫花が避けると、それは
フォックスや隻眼2たちの足元に着弾して蠢く。
その特徴的な臭気に、フォックスはケレプノエの身を背に押しやりながら慄いた。
「こ、これ、ザーメンじゃねえか!?」
「うええ!? なんでそんなにソレが大量に出てるんですか!?」
「喰らいなァ!!」
阿紫花たちの一行が困惑している間に、浅倉威たちは次々と地面の液体を掬っては、パイ投げよろしく一行に投げつけてくる。
先頭にいた阿紫花はその弾幕の被害をもろに受け、操作していたグリモルディが途端に白濁液まみれになってしまう。
「えんがちょおぉぉ!! 何すんですかあたしの人形に! 金かかってんですよ!?
正気ですかあんた!? 過剰な下ネタは全く笑えませんからね!?」
「男には用はねえんだよ!!」
攻撃とも思えない理解不能な攻撃に、阿紫花は絶望的な叫びを上げてグリモルディの汚れをどう落とそうかと立ち尽くした。
そうして阿紫花の意識が逸れた刹那、3人の浅倉威たちは風のように彼の脇を走り抜けようとする。
「バカにしてんじゃねぇですよ!!」
「グオァァ!?」
瞬間、怒り混じりに阿紫花が腕を引くと共に、グリモルディの首が高速で伸び、走り抜けようとした浅倉ひとりの脇腹を強かに撃ち砕いた。
そのまま浅倉の一人は住宅の壁に叩き付けられ絶命するが、残り二人は後方のケレプノエめがけ、一気に肉薄していた。
「フォックスさん!! シャオジーさん!!」
「結局俺かよぉぉ!?」
「あぐるるぅ!?」
「死ね!」
浅倉威たちは、牽制に白濁液を投げつけながら、ケレプノエの前に立ちはだかっているフォックスと隻眼2の元に躍りかかる。
跳刀地背拳を読まれているフォックスには、彼の圧倒的な膂力に対抗する手段など、無かった。
「ぐおが!?」
「ハッハッハ……、ハガッ!?」
両手をクロスさせる最大級の防御態勢をとっても、浅倉の拳はそのガードの上からフォックスを彼方へと吹き飛ばす。
しかしその攻防でダメージを受けていたのは、フォックスよりもむしろ、浅倉自身だった。
浅倉威はフォックスに触れた直後、急に胸を押えて苦しみだし、地に倒れて死んでしまったのだ。
起き上がったフォックスは、咄嗟にその原因に思い至る。
「これは……、『朱砂掌(毒手拳)』か!!」
フォックスの体は、ヒグマのケレプノエに飛びついて以降、薄く紫色に着色されていた。
トリカブトのような彼女の致死性の毒が、フォックスの体には深く浸みこんでいたのである。
「ハッハッハァ!!」
「ぎゃうる……!?」
「毒だ! ケレプノエ! 毒を出せ!」
フォックスが叫んだのは、隻眼2と交戦していた浅倉がついに彼の鼻っ柱を蹴りつけて、奥のケレプノエに走り寄っていた時だった。
「あうっ……!?」
浅倉威の凶悪な笑みと気迫、そして目の前で起きている気色の悪い攻防は、文字通りの世間知らずな箱入り娘だったケレプノエをして、本能的な恐怖を抱かせるのに十分だった。
そして胸倉を掴まれ持ち上げられたケレプノエから、冷や汗が一滴飛んで浅倉の体に付着する。
「……なるほどテメェ、……あの時のヒグマか」
直後、浅倉は突然力が抜けたように、彼女を離してうずくまってしまう。
フォックスの叫びと恐怖心から、彼女は咄嗟に、魔法少女となって抑えられていた自分の毒を分泌してしまっていた。
すぐに彼女は、自分のしでかしてしまったことに気づき、浅倉に駆け寄って目を潤ませる。
自分が毒で殺してしまった者たちが、カントモシリ(天国)に行くのではなく、そこで終わりになってしまうのだということを知っている彼女には、罪悪感ばかりが募った。
浅倉威とケレプノエは、確かに日中も出会っており、その時もケレプノエは彼を殺してしまっている。
「ご、ごめんなさいー……。あの時も遊んで下さったのに、ケレプノエはあなた様を、終わらせて……」
「いや……、いいんだよ」
だが彼は、わずかな毒でも刻々と増悪していく不整脈に苦しみながらも、ニヤリと口許を歪ませた。
その直後、住宅の脇やフォックスの元で死んでいた浅倉威たちから、音を立てて白濁液が溢れ出してくる。
起き上がっていたフォックスが震えた。
「フルチンだけじゃ飽き足らず死に際に射精すんのかよおめぇら!! 道理でこの量だ!」
「それだけじゃねぇ……ぜ」
道に犇めいている白濁液の由来を理解して衝撃を受ける一行の中で、浅倉威はさらに衝撃的な事実を言い残す。
「俺の精を受けた女はすぐに孕んで……、腹を爆発させて俺を産む……!!」
「ひ、ひどい能力ですわ……!!」
「ぎゃぁあぁぁ――!! 世紀末でもねぇよそんな地獄絵図!!」
末期の言葉で告げられた異常事態に、阿紫花とフォックスは慄然と竦み上がる。
グリモルディに付着した液体をこそげ落とそうとして、未だにそれが動いているのを確認していた阿紫花には、その能力が決して冗談ではないのだろうと感じられた。
しかし、だからといってどうすればいいのか。それがわからない。
「あうるる!」
「シャオジーさん!?」
まごつく阿紫花の袖を引いたのは、隻眼2だった。
彼は片脚を上げて、蠢く地面の白濁液に向け、高らかな放物線を描く小水を振りかけている。
その様子を見るに、白濁液はその尿を受けて一度緩み、そして動きを止めてしまう。
フォックスはその現象に衝撃を受け、そして阿紫花は逆行性射精の治療で病院にかかっていた舎弟の話を思い出した。
「――小便で撃退できるのかこれ!?」
「ああ、確かに尿で死にますわ精子は! 浸透圧とペーハーの違いか何かで!」
「そうと決まったら――!」
撃退法が分かるや、真っ先に動き出したのはフォックスだった。
彼はためらいもなくズボンを下げて下腹部をさらけ出し、蠢く白濁液の溜まる地点地点に向けて勢いよく小便を放ち始めていた。
「くそ、粘液で自己防御してやがんのか! 水圧上げねえと!」
「流石に一度死んでらっしゃるだけあって酸度も高そうですし、フォックスさんの尿は効きそうですねぇ……」
「よっしゃ、おめぇも連れションしろ!!」
「仕方ないですね……、やりますか」
「あるるるる!」
三人の男性陣が、そうして一気に放水を始めていた。
連携のとれた消防団よろしく、白濁液の侵食する路地の方々をその黄金水によって鎮めてゆく。
勢いのある水飛沫に触れて、白濁液はたちまち動きを止めて行った。
「ああ~、やっぱり人を殺した後は小便がしたくなる! そうは思わねえか?」
「まあ、落ち着きたくなりますからね。小便したくなる人もいるでしょうよ」
「てかおめぇ、その格好は銃口の取り回しがしやすそうだな。良かったなその破廉恥な格好で」
「初めて魔法少女になったことを感謝するのが、排尿のしやすさってのはどうなんですかね。
……ってか、ケレプノエさん、ケレプノエのお嬢さんは!?」
地面を這いずれるほどの活発な精がもう残っていないことを確認して、彼らはようやく一息つく。
しかし、中心にいたケレプノエの様子を見て、方々に散った彼らの落ち着きはすぐさま吹き飛んだ。
「なんですかこれー? なんだかぬるぬるしますー……」
「ぎゃぁぁ、しまったぁぁぁ!!」
「うわ、やばいですよこれ……!」
ケレプノエは、最後に目の前で死んだ浅倉威の精を頭からかぶっていた。
噴水のように湧き出す白い液体は、彼女が初めて見るものであり、興味を以て顔を近づけてしまった後、何だかわからないままに浴びてしまったのだ。
「ケレプノエ!! やめろ!! そいつを中に入れさせんな!!」
「どこの中ですかー……?」
「無邪気すぎんだろおめぇはよぉぉ!!」
白濁液まみれで微笑みながら問いかけてくる彼女に、フォックスは頭を抱えた。
彼女に纏わりついている液は未だ蠢いている。まかり間違って体内に侵入されてしまえば一巻の終わりだ。
「毒だ! すぐに毒を出せケレプノエ!!」
「先程から止めてはいないのですがー……」
走りながらフォックスが指示を出すが、返って来た言葉は予想外のものだった。
トリカブトの毒は主にナトリウム濃度の攪乱にて毒性を発揮する、心臓や神経系へのダメージに特化したものだ。しかし精子の運動は主にカルシウム濃度の差異に影響を受ける。
ケレプノエの分泌する毒では、浅倉威の精の動きを鈍らせることはできても、完全に停止させることはできなかった。
イオン勾配の乱れで精子が死ぬのが先か、それとも中に侵入されてしまうのが先か――。
座り込む彼女の正面に駆け寄った彼に、そんなチキンレースを指を咥えて見ている選択肢はなかった。
「くっそぉぉぉ……!! 勘弁しろよ!!」
「ぷぁ……」
フォックスは意を決して股間のホースを握り込み、そして真上からケレプノエに大量の水を浴びせていた。
黄金水にて白濁液を洗う。
それは背に腹は代えられぬとは言え、傍から見ていて決して気味の良い絵面ではなく、阿紫花と隻眼2は、フォックスから少しからぬ距離をとって目を伏せていた。
「フォックスさまの……、おしっこ……」
粘性の低減も合わさってケレプノエの毒の効果も存分に受けたその白濁液たちは、蛋白の変性した死骸と化して、為す術もなく洗い流されてゆく。
だがそれと引き換えに、ケレプノエの全身は魔法少女衣装ごとずぶ濡れになってしまった。
全力を出し尽したフォックスは、疲れ切った様子で屈みこむ。
「お前……、お前な、死ぬところだったんだぞ……? ちったぁ危機感持てよ……」
「ケレプノエは、あの方々を、死なせてしまいましたー……」
濡れた髪を掻き上げながら、ケレプノエは沈んだ声でフォックスに答えた。
罪悪感に苛まれている。
何も知らなかったならば抱かなかった、自分の行いへの後悔に項垂れ、されるがままになっていたのだ。
そんな常の彼女に似合わぬ様子に、フォックスはイライラと頭を掻き、彼女の両肩を力強くたたいた。
「良いんだよあんな奴ら死んで!! あのままにしてたら俺たち全員が死んでた!
ゆくゆくは他の参加者もな! 今生きてる全員のためだ、お前はよくやったよ!」
強く言い放たれたその言葉に、ケレプノエはパチパチと目を瞬かせた。
「ケレプノエは、フォックス様が死ぬのを、防いだのですかー?」
「そう表現していいのか分かんねぇが……、まあそうだよ」
「フォックス様は、ケレプノエが死ぬのを、防いで下さったのですかー?」
「……そうだよ」
「ケレプノエが死ぬのが、嫌だったのですかー?」
「ん……? まぁ、そうだよ。そうしたら俺たち全員がピンチだったからな……」
ケレプノエの身を守ることは、彼にとって絶対に必要なことだった。
孕ませた女から自分自身を産ませるという能力が、果たしてどのようなものなのか想像もしがたかったが、仮に5つ子や6つ子でも産まれてしまったら、おぞましいのみならず大惨事になることはほとんど確実だろうと思えた。
「……えへへー」
「なんだよ突然にやけやがって」
「フォックス様は、そのままのケレプノエと一緒にいてくださるのですねー」
ケレプノエはそして、屈託なく笑った。
「うれしいですー」
その笑顔にドキリと、死んでいるはずの心臓が高鳴るのをフォックスは感じた。
ケレプノエは濡れそぼったまま、勢い良く彼に抱きついていた。
「おい!? あんまベタベタすんじゃねぇよ! お前はヒグマだろ!? しかも毒を出す!!」
「はいー! なのでフォックス様方の、お役に立てましたー!!」
「……いや、全くですよ。ケレプノエのお嬢さんのおかげです」
一部始終を傍から見ていた阿紫花が、とりあえず一段落したことを確かめて、煙草を取り出そうとしていた。
人形にへばりついた白濁液は乾燥してしまったし、見渡す限りもう蠢く液体は存在しない。
しかしその時、彼の袖を隻眼2が強く噛み引いた。
「あぐるる!」
「ん……!? ――飛行機!?」
唸りと共に視線で示された上空を見れば、そこには南西の夕焼けを受けながら、小さな飛行機の編隊が幾十も、雲霞のように舞い飛んでくるところだった。
そしてそれらの下部が開き、霰のような爆弾が落ちてくるのを、阿紫花は見た。
「隠れてくだせぇ!!」
「うお!?」
「きぁ!?」
汚れているのに構わず、グリモルディを駆動させてフォックスとケレプノエを担ぎ上げた阿紫花は、隻眼2を伴って建物の陰に走った。
その背後で、もともと李徴たちの手によっていくつもの放火が行われていた街並みに、次々と爆轟と炎とが上がってゆく。
「何だかわかりやせんが、通信妨害にクローン獣人と来て、お次はラジコン空爆ですか……。
いや、ホント飽きさせてくれませんね、この島は……」
「感慨深くもなんともねえよ……」
「全くですわ」
大きく目立つグリモルディの鮮やかなシルエットは、上空からだと良い的になるらしく、暫く阿紫花はその超小型爆撃機につけ狙われた。
ビルに隠れた隙にデイパックに人形を戻して彼らが空爆の手を逃れたのは、それから数分後だった。
「……よし、探索を諦めて別のところに向かったようですね」
「今のは何だったんだ……? あれも黒幕のロボットの一種か?」
「もしくは、義弟さんと李徴さんが通信で言ってた誰かさんの操縦機か……。
いずれにしても友好的な感じじゃなさそうなのは確かですね……」
動向を見守る、ケレプノエと隻眼2というヒグマ二頭の視線を受けながら、人間二人は今後の動き方を思案する。
「とりあえずどうするよ阿紫花……。どうせ武田と連絡とねれえんなら、俺は正直、温泉に行った方が良い気がするぜ……?
ちゃんとした水場があるんなら、こいつ風呂に入れてやるべきなんじゃねえかと……」
「ですね……。こう、汁まみれ煤まみれになってる人他にもいるでしょうしね……。
観柳の兄さんもこれに絡まれてるんでしょうし、絶対おんなじこと考える人いますよ。
人形もちゃんと洗ってやって、油さしてやらなきゃなりません」
ケレプノエも隻眼2も、なんとなれば阿紫花にしろフォックスにしろ人形にしろ、尿なり白濁液なり、返り血なり煤なりにまみれっぱなしなのだ。
できれば早いところどうにかしないと、気持ち悪さが勝って戦闘どころではなくなる。
大量に出現しているらしい獣人や爆撃機の様子からして、同じ状況に至っている者は多いと考えられる。
当初の目的だった、脱出に際しての生存者探しも果たせるなら一石二鳥だ。
彼らの脚が最も近い温泉であるE-8に向かうのは自然なことだった。
「よっしゃ、風呂だ風呂! 世紀末じゃ久しく浴びてなかったからな、何ヶ月ぶりかね!
もうこんな状況なんだし、せいぜい楽しまねえと損だわ!」
「おふろ……?」
ある者は気分転換に意気込み、ある者は小首を傾げ。
そうして小型爆弾の大群が空襲していく街を後にして、観柳からの連絡を待ちながらひとっ風呂浴びにいくことに決定した彼らは、いそいそと南方の温泉に向かう。
先導する阿紫花と隻眼2の後ろでケレプノエは、離れようとするフォックスに、いつまでもにこにことしたまましがみつこうとしていた。
――その様子を、後にヒグマはこう語る。
いや、ケレプノエさんがそうなるのは当然のことでしょう。
だって彼女は、命と心を助けてもらった上に、そのオスから『マーキング』されてしまったわけですから。
で、まあ、それを受け入れたわけですから。
その帰結がどうなるのかは、まあ、この後のお話で自然とわかりますよ――。
【101人の2代目浅倉威+3代目浅倉威@仮面ライダー龍騎 3人死亡(残り67人)】
【D-6 市街地の路地裏/夕方】
【阿紫花英良@からくりサーカス】
状態:魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り:大)、魔法少女衣装、テレパシーブローチ
道具:基本
支給品、煙草およびライター(支給品ではない)、プルチネルラ@からくりサーカス、グリモルディ@からくりサーカス、余剰の食料(1人分程)、鎖付きベアトラップ×2 、詳細地図、テレパシーブローチ
基本思考:お代を頂戴したので仕事をする
0:面白い素人さんでしたが……、流石に汚すぎましたね……。
1:雇われモンが使い捨てなのは当たり前なんですが、ちゃんと理解してますかね皆さん……?
2:費用対効果の天秤を人情と希望にまで拡大できる観柳の兄さんは、本当すげぇと思いますよ。
3:手に入るもの全てをどうにか利用して生き残る
4:何が起きても驚かない心構えでいるのはかなり厳しそうだけど契約した手前がんばってみる
5:他の参加者を探して協力を取り付ける
6:人形自身をも満足させられるような芸を、してみたいですねぇ……。
7:魔法少女ってつまり、ピンチになった時には切り札っぽく魔女に変身しちまえば良いんですかね?
[備考]
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『糸による物体の修復・操作』です。
※武器である操り糸を生成して、人形や無生物を操作したり、物品・人体などを縫い合わせて修復したりすることができます。
※死体に魔力を注入して木偶化し、魔法少女の肉体と同様に動かすこともできますが、その分の維持魔力は増えます。
※ソウルジェムは灰色の歯車型。左手の手袋の甲にあります。
【フォックス@北斗の拳】
状態:木偶(デク)化
装備:カマ@北斗の拳、テレパシーブローチ
道具:基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ローストビーフのサンドイッチ(残り僅か)、マリナーラピッツァ(Sサイズ)、詳細地図、ダイナマイト×30、テレパシーブローチ
基本思考:死に様を見つける
0:とりあえず風呂に入ってサッパリしてからだ!
1:確かに女子に出会いたいとは思ったがよぉ!? なんでケレプノエなんだよひっつくなよ!!
2:死んだらむしろ迷いが吹っ切れたわ。どうせここからは永い後日談だ。
3:義弟は逆鱗に触れないようにすることだけ気を付けて、うまいことその能力を活用してやりたい。
4:シャオジーはマジで呆れるくらい冷静なヤツだったな……。本当に羆かよ。
5:俺も周りの人間をどう利用すれば一番うまいか、学んでいかねぇとな。
[備考]
※勲章『ルーキー
カウボーイ』を手に入れました。
※フォックスの支給品はC-8に放置されています。
※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほど、『
地上最強の生物対ハンター』、『手品師の心臓』、『金の指輪』、『
Timelineの東』、『鮭狩り』、『クマカン!』、『手品師の心臓』、『
Round ZERO』の内容と、
布束砥信の手紙の情報、盗聴の危険性を配慮した文章がテキストファイルで保存されています。
【隻眼2】
状態:隻眼
装備:テレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:観察に徹し、生き残る
0:とりあえず僕が冷静でいないと、危険察知できる人が少ないよなこの群れ……。
1:ケレプノエさん、良かったですねぇ……。
2:ヒグマ帝国……、一体何を考えているんだ?
3:とりあえず生き残りのための仲間は確保したい。
4:李徴さんたちとの仲間関係の維持のため、文字を学んでみたい。
5:凄い方とアブナイ方が多すぎる。用心しないと。
[備考]
※
キュゥべえ、白金の魔法少女(武田観柳)、黒髪の魔法少女(
暁美ほむら)、爆弾を投下する女の子(球磨)、李徴、
ウェカピポの妹の夫、白黒のロボット(
モノクマ)、メルセレラ、目の前に襲い掛かってきている獣人(浅倉威)が、用心相手に入っています。
【ケレプノエ(穴持たず57)】
状態:魔法少女化、健康
装備:『ケレプノエ・ヌプル(触れた者を捻じる霊力)』のソウルジェム、アイヌ風の魔法少女衣装
道具:テレパシーブローチ
基本思考:皆様をお助けしたいのですー。
0:フォックス様! フォックス様! ありがとうございますー!
1:皆様にお触りできるようになりましたー! 観柳様、キュゥべえ様、ありがとうございますー!
2:ラマッタクペ様はどちらに行かれたのでしょうかー?
3:ヒグマン様は何をおっしゃっていたのでしょうかー?
4:お手伝いすることは他にありますかー?
5:メルセレラ様、どうしてケレプノエに会って下さらないのでしょう……?
[備考]
※全身の細胞から猛毒のアルカロイドを分泌する能力を持っています。
※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、その濃度は体外の液体に容易に溶け出すまでになっています。
※自分の能力の危険性について気が付きました。
※魔法少女になりました。
※願いは『毒を自分で管理できること』です。
※固有武器・魔法は後続の方にお任せします。最低限、テクンペ(手甲)に自分の毒を吸収することはできます。
※ソウルジェムは紫色の円形。レクトゥンペ(チョーカー)の金具になっています。
※その他、モウル(肌着)、アットゥシ(樹皮衣)などを身に着けています。
《E-6 市街地 PM17:00頃》
「速すぎるだろあいつら!? 脚もヒグマ並みなわけ!?」
「しつこいですよあなたたち! いつまで追ってくるんですか!!」
「逃げんじゃねえよ!!」
「うお!? 挟まれた!?」
一方、街角で出会い頭に浅倉威の群れと鉢合わせてしまっていた武田観柳と
操真晴人たちは、交戦よりも通信妨害の元を叩くのを優先し、マシンウィンガーをフルスロットルにして何とか彼らから逃げようと試みていた。
しかし、街中に潜んでいた浅倉威は予想以上に多く、進路に回り込まれ続けた晴人たちはついに十字路の四方を浅倉に囲まれてしまう。
その恐るべき執念に、観柳は恐怖や呆れを通り越して、感嘆の念を込めて問うた。
「あなた一応人間なんでしょう、浅倉さん!? なぜ脱出を考えずに攻めかかってくるんです!?」
「は? 初めに、『最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう』って言われてたじゃねえか」
「あ、はい……。あれをまだ信じてる人がいらしたんですか……」
実直なのか、ただ好戦的なのか。もう既に死んでいる主催者の言い分を未だに真に受けている人間がいるとは、流石の観柳も思ってはいなかった。
会話する時間も惜しいらしい浅倉威たちは、舌なめずりをしながらじりじりと観柳たちに迫ってくる。
「つうわけだ。イライラさせんじゃねぇ……。
さっさと俺を楽しませるか、それとも俺に殺されるか、選べ!」
「楽しませる……?」
包囲を狭めてくる浅倉たちを前に、観柳は彼の言葉の含意を読み取ろうと、ごくりと唾を呑む。
浅倉威の身体能力や様相は
ジャック・ブローニンソンを彷彿させるものがあり、観柳や晴人にとってはそれほど嫌悪感を抱くものではない。
何とかこの場を穏便に済ませられないかというのが、観柳たちの思いだった。
しかし彼らの意に反して、さらなる軍勢がその場の空気を裂く。
唐突に街並みが、あちこちで爆発を始めたのだ。
「チッ!? 何だ!?」
「なんなんですか次から次へと!?」
『やはり急激に魔力が増大しているようだ……』
「掴まって観柳さん!」
呟くキュゥべえを掻き抱き、観柳は急転回した操真晴人にしがみついた。
突然の事態に驚いていた後方の浅倉威たちの脇をすり抜け、マシンウィンガーが歩道を乗り越えて駆ける。
直後、その場に大量の爆弾が落ちて一帯は焦土と化した。
「空爆――!?」
「チイィッ!!」
晴人や、辛うじて爆風を躱した浅倉の生き残りは、その爆弾魔たちの姿を見て驚愕する。
それは遥か上空を飛んでいた、戦略爆撃機・富嶽のミニチュアの軍勢だ。
南西方向から飛来しているそれらは、先の阿紫花の一行しかり、今の観柳たち然り、路上で交戦している人間たちを明らかに標的として狙っていた。
「ラジコンかなんかか!? それにしても出来が良すぎるだろ! 空爆や射撃までしてくるし!」
「操真さんあれ何なんですか!? 鳥!? 鉄でできた鳥なんですか!?」
ビルディングの陰に隠れてその大量の編隊をやり過ごそうとしながら、晴人と観柳は口々に驚きを口にした。
観柳の疑問に、晴人が以前の通信で得た情報を元に答える。
「たぶん義弟さんが見たっていう、小型の飛行機だと思います。李徴さんが言ってたでしょう。
あの、ジャックさんや阿紫花さんと戦ったあの戦艦ヒグマも似たようなの使ってたんじゃないんです?」
「ああ! これですかぁ!! うわ、欲しい、何これ、いくらで売れるんだよ、空自在に飛んで爆弾落とせる自動機械とか戦船の出番ないでしょこれ……」
「感激してるヒマないですよ! もうこれ完全無差別爆撃だ!!」
初めて飛行機の実物を見た武田観柳は、恐怖よりも好奇心と興奮の方が勝っていた。
武器商人としての経験と勘が、その小型飛行機から、商品として大ヒットする気配をビンビンに感じ取っているのだ。
しかし彼の思いとは裏腹に、富嶽の大群は爆撃をやめない。
それは未だに大通りのど真ん中で、生き残った6人の浅倉威が、真っ向からその空中の軍勢に応戦しているからだ。
彼らは降り注ぐ小型爆弾の落下点を見切り、刹那に腕を振り抜いてそれを上空の富嶽たちに叩き返している。
「イライラさせんじゃねェェ――!!」
「うお、浅倉さん爆弾を弾き返してるし!?」
「あー……、勿体無い。あんな精巧な機械、一体いくらするんですかねぇ。
あのヒグマ人形みたいに気持ち悪い見た目じゃないですし、武器として絶対売れると思うんですけど」
単に自由落下してくるだけの爆弾を、自分たちの周囲だけ弾けばいい浅倉は、次第にその危険なカウンターアタックの精度を増して、上空の富嶽たちを次々と撃墜していく。
その様子をビルの陰から眺めながら、武田観柳は死の商人としての職業柄、やきもきとした感情を抑えられなかった。
襲われている状況からして撃墜しなければならないのは確かだが、試供品に2,3機と言わず、数十機ほど手に入れて明治に持ち帰りたい気持ちがどうしても強い。
操真晴人はそんな垂涎の観柳の呟きに、少しの間だけ思案する。
晴人はまったくその手のおもちゃには詳しくないが、小型飛行機のラジコンならばだいたい一万円くらいで買えるのではなかろうか。
そして、明治期の一圓はだいたい、現代の1~2万円に相当するものだと聞く。
「……わかんないですけど、あれ一機でも一圓しないんじゃないですかね。材料だけならもっと安いかも」
「いちえ……!?」
隣から伝えられた驚愕の推察に、観柳は瞠目した。
空から降り注ぐ爆弾の大群が、まさに一期一会の天恵にすら思えた。
「キュ、キュゥべえさん。この機械を、作っている女性が、この島にはいるということですよね……」
『そうなるね。リチョウの言っていた娘かも知れない』
「……ならば、たった一人で」
『だろうね。その子が魔力が何かで生成してるものだと思うよ』
「……つまり家内制手工業の職人芸。そして一機につき材料費は一圓しない……」
『……そういえば。この機械に含まれる魔力は、今カンリュウのテレパシーを妨害しているものと同質だね。
この島の南西から来ているものだ』
武者震いにどもりながら、観柳は肩のキュゥべえと会話を重ねる。
大口の商談に取り掛かる時のような興奮が、彼の芯から沸き起こっていた。
「クッ――!? ここに来て突っ込んできやがるか!!」
その時、大通りの浅倉たちの戦闘には変化が起こっていた。
空爆が弾き返されていることをようやく認識した富嶽の編隊の半数が、突如急降下して機銃掃射を行ないながら特攻してきたのだ。
その急速な奇襲に、浅倉威の3体は弾痕で穴だらけとなり、2体は全身に何機もの体当たりを喰らって爆死した。
何とか自分の死体を盾にしながら転げ、第一波を凌いだ最後の浅倉の元にも、上空で様子見をしていた残り半数の富嶽が一斉に襲い掛かる。
絶体絶命に思えた。
「クソ――!?」
「レェェ――ッツ、プレイ!!」
その時、黒い死の鳥の群れを、金色の死の咆哮が一瞬にして打ち払う。
荒ぶる嵐のような轟音を轟かせ、逆巻く雨のような一圓金貨の煌めきが、急降下してくる飛行機の悉くを撃墜していたのだ。
黄金の回転式機関砲を携えた白金の紳士が陰から歩み出し、夕日を背に受けて彼の前に訪れる。
「浅倉さん! この私と取引をしませんか? 必ずあなたも楽しませてご覧に入れましょう!」
「何……!?」
「操真さんもお聞き下さい! 誰にも損はさせません!」
死の商人にして魔法少女、金遣いの武田観柳が、呆然とする浅倉威の前へ、にこやかに商談を持ちかけていた。
【101人の2代目浅倉威+3代目浅倉威@仮面ライダー龍騎 9人死亡(残り58人)】
《E-7 鷲巣巌に踏みつけられた草原 PM17:00頃》
一方、南の草原では、その浅倉威に追い詰められているヒグマたちがいる。
メロン熊の獣電ブレイブフィニッシュを躱せる位置取りで、倒れたヤイコと穴持たず59を、今にも25体の浅倉威が喰らおうとしていた、その時だった。
「――死にたいオスはここかしら~」
突如、唐紅の陣風が音も無く飛来し、25体の浅倉の生垣を真後ろから掻っ捌いていた。
一気に3人の浅倉が袈裟懸けに分断され、朱に染まるその空間に、代わりにぞっとするような美少女の笑みが浮く。
浅倉たちの中心に一瞬にして躍り出た彼女の姿に、彼らは驚愕と共に身を退いた。
「チィッ――、別の俺を斬りまくってた女か……!」
「本当、駆逐艦級みたいにそこらじゅうに湧いてるのね~。少しは慎みを持ってはくれないの~?」
「せいぜい俺を……」
「楽しませるつもりもないから~♪」
左腕のないワンピース姿の少女の微笑みは、彼女の携える薙刀と共に恐ろしい威圧感を以て浅倉たちを睥睨する。
その力量を知る浅倉たちは、今まで攻めたてていたヒグマたちを放り出し、一気に散開して退き討ちに移ろうとした。
だが少女の揮う薙刀は、退こうとする男たちを、その風圧だけでも悠々と斬りたてていく、
「大丈夫か!? 襲われてたのは誰だ!?」
「ヒグマさん……、ですか!? あ、メロン熊さんです! 北海道のゆるキャラに出向してた!」
「何……!? 何なの、一体……!?」
その隙に、単艦で先陣を切って来た少女の後を回りこんで、数人の男女が急ぎ駆け寄ってくる。
びっこを引く青年に肩を貸している少女から名指しで声をかけられ、メロン熊は困惑した。
「もうイヤです……。繁殖期になったらあんなのに襲わレるのかと思うと死んだ方がましデス……」
「ビショップ、世のオスは決してあんなのばかりではないわ……」
「むしろあんなのは例外ですよ! そうじゃないと私もイヤ~――!!」
そして続く女性陣に、メロン熊はさらに呆れかえった。
浅倉威と隻腕の少女の戦いを横目にさめざめと泣いている裸の少女は、人間に見えるがヒグマだ。
そんな彼女に白衣を羽織らせてやり、隣で守るようにして歩んでくるのは、主催組織STUDYの人間と、ヒグマだ。
ここにはさらに魔術師と料理人と、ヒグマと人間と船の性質を合わせたような存在もいる。
追い詰められていたメロン熊の元に颯爽と現れたのは、龍田、
間桐雁夜、田所恵、布束砥信、穴持たず203・ビショップヒグマ、そして
穴持たず104・ジブリールの一行だった。
彼女たちは地下水脈から地上への道を切り拓き上がって来たその場で、浅倉威の軍勢に遭遇していたのだ。
たちまち交戦状態となっていた彼女たちは、一帯が広く浅倉威に侵攻されていることに気づき、危険人物である彼をより多く掃討するべく、戦闘を行ないながら移動していた。
無差別に攻撃を行なってくる浅倉の凶暴性は、人間を守る艦娘である龍田をして、「ただちに殺滅せねばならぬ」との決心を抱かせるのに十分だった。
佐世保の女である彼女は、かの『元寇』の時分、多々良浜辺の蝦夷を殺し尽した、鎌倉男児の血脈の手で形作られている。
「天は――、怒りて海は、逆巻く大波に――♪ 国に、仇を為す――、十余万の蒙古勢は――♪」
龍田は主立った戦力としてこれまでの道中で既に5人の浅倉を斬殺しており、次いでビショップヒグマが2名を溺死させている。
しかし魔力を回復させていたばかりのビショップヒグマは、それで再び魔力の枯渇に陥った。
液化できないただの裸体になってしまった彼女は、今度は死んだ浅倉から溢れ出た大量の白濁液の最大の標的になってしまっていた。
それは生後一年経っていない彼女に、想像を絶する恐怖を与えるのに十分だった。
それどころか、ほとんど女性しかいない龍田たちの一行は、浅倉にとって格好の標的だった。
田所恵やジブリールはもとより、多少の武術の心得がある布束砥信でさえ、単純格闘では浅倉威に勝ることなどできなかった。
「底の――、藻屑と消えて、残るはただ三人(みたり)♪ やっ、たぁ♪」
しかしその膨大な数の敵に囲まれてなお、全く鋭さの鈍らぬ神風がこの一行にはいた。
京都に吹き荒ぶ秋風と龍の神、その山川の名を冠した軽巡洋艦、龍田だ。
間桐雁夜のサーヴァントとして契約を結んだ彼女の魔力は充溢し、隻腕のみでもその薙刀の閃きは留まるところを知らない。
女の敵以外の何者でもない浅倉威の軍勢は、逆に龍田の逆鱗に触れて余りある存在だった。
方々に散ってなお見る間に距離を詰められて、断末魔を上げる間もなく斬り殺されてゆく浅倉たちの様は、見る者を放心させるほどの凄絶さがあった。
メロン熊は、自分の周囲で蠢いている白濁液を獣電ブレイブフィニッシュで焼きながら、半ば感嘆してその様子を眺めていた。
そしてたちまち歌の通り、25人も残っていたはずの浅倉威のうち、生きているのは3人ばかりとなってしまう。
「チクショォォ――! 先にテメェらだ――!!」
「くっ――!?」
「え、私!? 私デスカ!?」
「艦長(マスター)たちへのおさわりは禁止されています~!!」
龍田から最大の距離を取って何とか生き延びていたその3人は、ほぼ丸腰の間桐雁夜やビショップヒグマたちの集団に肉薄し、反攻の糸口を掴もうとした。
その動きに身を翻した龍田が、凄まじい伸びを見せる居合の所作で薙刀を揮うも、浅倉は最後尾の自分を捨て身の盾としてうち遣り、残りの2人が狙い通りに雁夜たちへ迫る。
前にいたビショップヒグマが自棄を起こして叫んだ。
「私は省エネモードなので勘弁していただきタイんデスが!!」
「『Golos v e'toy ruke(声はこの手に)』――!」
田所恵や布束砥信を後ろに押しやり、ビショップと雁夜が身構えて踏み出す。
浅倉の爪が、それぞれの頭上から振り下ろされる。
うち振るわれたビショップヒグマの細く白い指先から、わずかに一滴の水が飛んで浅倉の口に入る。
差し出された雁夜の掌が、もうひとりの浅倉の顔面を捉える。
「……一滴の大海に溺れてくだサイ」
「『Moi pal'tsy dragi zastoy(俺の指は澱みを浚う)』!!」
瞬間、雁夜に掴まれた浅倉の頭が、全身の血液と水分を一箇所に集められて爆発する。
そしてビショップの渾身の魔力を口内に受けた浅倉は、気管に一滴の水で膜を張られ、窒息に苦悶しながら溺死していった。
「間桐さん!? 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、怪我は無いかい恵ちゃん……」
「どうデスか。私の魔力を奪って使う魔術ハ」
「いや、すごい威力だ……。ありがとう、助かってる」
「皮肉の通じナイ人ですネ……」
「Thanks a lot, ビショップ。とりあえずこれで片付きはしたみたいね……」
間桐家の『吸収』と『支配』の魔術によってビショップヒグマの魔力をあらかた吸ってしまっていた雁夜は、自分でも驚くほどの魔術の効果に、素直に賞賛とお礼を述べる。
晒したくもない裸体で忌々しげに声をかけていたビショップヒグマも、非戦闘員を守り奮闘する彼の姿に、何も言えなくなってしまう。
そんな彼女に労いをかけていた布束砥信が、その時、目の前で倒れているヒグマたちの正体に気づく。
「ヤイコ!? ヤイコと、穴持たず59じゃない! Are you okay there!?」
「う、う……」
「エ? なんでこのお二方がコンナところに……?」
すぐさま駆け寄った布束が両者に気付けを試みる。
その様子を遠巻きに眺めながら、自分の周りの白濁液を焼き尽したメロン熊が、焦って叫ぼうとする。
一度はそのまま立ち去ろうかとも思った。
必要以上に他者と関わりになどなりたくはない。今回浅倉威に襲われたのも、それが原因なのだ。
しかし、仮にも窮地を助けられた形ではある以上、龍田の一行に対する貸し借りは無しにしておきたかった。
「おい! そんなことしてる場合か! 死体から汁が襲ってくるわよ!!」
「知ってるわ~♪」
メロン熊が叫んだのは、浅倉威から次々と湧き出しつつある、大量の白濁液のことだった。
その正体は明らかである以上、それらを女性が体内に入れてしまえばどうなるのかは想像に難くない。
しかしその心配をよそに、龍田は既にその大群に対する攻撃を用意していた。
「『紅葉の錦』♪」
「――『情欲を抱いて女を見るものは、心の中で既に姦淫をしたのである』」
広範囲に噴霧されていた重油が強化型艦本式缶の熱量を受けて劫火を起こすと同時に、また違った炎が、東から矢の雨のように飛来し地面の液体を焼いた。
龍田たちの一行の前に炎を纏って降り立ったのは、真っ赤な修道服を纏った幼い少女だった。
「『モーセは律法の中で、こういう者を石で打ち殺せと命じましたが、アンタはどう思いますか?』
……アタシは正直、地獄に堕ちていいと思いました。即刻死刑だ」
「もし自分や友人が犯されてしまったら……、と、思うだけで怖気を震いますわ……」
「デネデネデネ!!」
「きゅぴ~……」
『大丈夫か!? いやはや、本当にそこらじゅうにいるなこの男は……』
『誰かと思えば……、メロン熊に布束砥信と……、錚々たる面子だな』
「
佐倉杏子……? 円亜久里に
デデンネにヒグマン子爵、それに34……!?」
彼女に続いてやって来たのは、赤ちゃんと幼女と小動物を背に乗せたヒグマと、帯刀して別の浅倉威の死体をスルメのように咀嚼する細身のヒグマだった。
布束砥信がその奇異な一行の様相に瞠目する。
魔法少女にポケモンにヒグマに赤ん坊に、開始早々に死んでいたはずのプリキュアという面々が連れ立っているのだから驚きもする。
「あなたたちも、この男の襲撃を切り抜けてきたみたいね~」
「ああ……、こっちは危うく処女懐胎するところだったんだ、笑えねぇ……。こいつらも犯される側の身になってみろってんだ。
『復讐するは我にあり』。こんな女を嬲るような行い、神様だって赦さねぇさ」
一行の中で一番熱量を放っていた佐倉杏子に、龍田が同じく高温のオーラを微笑みの裡にして語り掛ける。
杏子は舌打ちの中に精神的疲弊と嫌悪感をありありと混ぜて溜息をついていた。
墓地を後にして、火災の起きている街に向かっていた杏子たちを出迎えたのは、やはり浅倉威だったのだ。
当初、人間を殺すまいと考えていた杏子は、真っ先に彼らへ斬りこんでいったヒグマン子爵を咎めようとした。
しかし蓋を開けてみれば、ただちに敵対行動をとったヒグマン子爵の判断こそが正しかった。
彼らの死体に近づいた瞬間、杏子はその全身に、溢れんばかりの白濁液をぶっかけられた。
SEX:必要なし。
杏子が助かったのは、ひとえに彼女が自身をアルター粒子に分解して再々構成できる究極生命体になっていたからだけに他ならない。
咄嗟に恐怖で自己発火した彼女を後にして浅倉の精が向かったのは、丸腰の円亜久里だった。
その有様に、佐倉杏子はただちに瞋恚の焔と化した。
姦淫は十戒においても明確に神に咎められている禁忌だ。
それを犯すものは、杏子にとって犬畜生にも劣る存在だった。
そしてそれは、ほとんど全ての女性の共通見解だった。
ヒグマン子爵を上回る圧倒的な殺戮速度で浅倉の人波を焼き尽して、佐倉杏子はこの草原へと辿り着いていたのだ。
「すごいわね~。これだけの人員が一堂に会せたのは、ある意味この浅倉さんとやらのおかげかしら~」
「STUDYの調べでは、彼にこんな能力なんてなかったはずだけれどね……」
「どうあってもアタシは個人的にこの男たちを赦せそうにはないね。で……、布束さんってアンタ、あの手紙書いてた人か」
ただちに打ち解けた雰囲気となり話し合い出した女性陣からいまだ離れた場所で、メロン熊はその様子をぼんやりと見送っていた。
『……終止、蚊帳の外といった調子だな。私も、貴様も』
『……ヒグマン』
そんな彼女の元に、浅倉威の死体を食い散らしてあらかた満足したヒグマン子爵が、影のようにひっそりと歩み寄ってくる。
気づかぬうちに音も無く近寄っていた彼に、メロン熊は一瞬びくりと身を震わせる。
彼は佐倉杏子の気が逸れているうちに、雲隠れしようという算段だった。
『私は狩りの場でこう五月蝿く付きまとわれるのは性に合わん。すぐに立ち去るつもりだが、貴様はどうする?』
『……アタシだってそうよ。アンタと一緒にいるのも御免だけどね』
『……同感だ。お互い勝手にやろう』
通りすがりざまにわずかに唸り合うと、ヒグマン子爵はその黒い毛並みの口元をニタリと歪ませて、草原の彼方に飛び跳ねて行ってしまう。
彼の姿が視界から消えようとする刹那、彼はその白い眼差しで、メロン熊に一言忠告を投げた。
『ああ、黒幕の機械とやらには気を付けておけよ。貴様、見ないうちにだいぶ気迫がゆるくなったぞ。それがゆるキャラか?』
その一言で、メロン熊の血液は煮え立つように熱くなった。
しかしその熱は、ただちに冷めてしまう。
草原の遠くに、楽しそうに情報交換をし合う少女たちを眺めて、メロン熊ができたのは舌打ち一つだった。
「……大きなお世話だっつの」
誰に言うでもない捨て台詞を残して、彼女は霞のように瞬間移動して消えた。
【101人の2代目浅倉威+3代目浅倉威@仮面ライダー龍騎 36人死亡(残り22人)】
【E-7 鷲巣巌に踏みつけられた草原/夕方】
【ヒグマン子爵(穴持たず13)】
状態:それなりに満腹、右前脚に熱傷
装備:羆殺し、正宗@SCP Foundation
道具:なし
基本思考:獲物を探しつつ、第四勢力を中心に敵を各個撃破する
0:五月蝿い女に付きまとわれる前に撤退だ。
1:
黒騎れいは死んでいるようなので、新たな獲物を探す。
2:どう考えても、最も狩りに邪魔なのは、機械を操っている勢力なのだが……。
3:黒騎れいを襲っていた最中に現れたあの男は一体……。
4:あの自失奴も、だいぶ自立してきたようだな。
5:これで『血の神』も死んでくれるといいのだが。
[備考]
※細身で白眼の凶暴なヒグマです
※宝具「羆殺し」の切っ先は全てを喰らう
※何らかの能力を有していますが、積極的に使いたくはないようです。
《C-5 街 PM17:00頃》
一方、火山の西の街では、飛び掛かった11人の浅倉威の影が、ヒグマ提督を今にも切り裂かんとしているところだった。
「新型高温高圧缶解放――!」
突如その時、一陣の神風が裂帛の気合いと共に迫り、空中で浅倉威たちの体を吹き抜けた。
「さらばだ!!」
鋭い閃きが幾度も頭上を走り抜けたかと思った直後、ヒグマ提督の周りには、華のように真っ赤な血飛沫と、微塵に切り裂かれた浅倉威たちの肉片が落ちてくる。
その残骸を、見慣れたミニチュアの艦砲や魚雷たちがたちまち焼いてゆく。
「やはり索敵の通り、不審どころか危険な人間だったようですね」
「ああ、看過せずに正解だった。――何があった、ヒグマ提督」
もはやこれまでかと目を瞑っていた彼は、その聞き覚えのある声に瞠目する。
傷ついた直掩機を抱えたヒグマ提督の前には、青い毛並みのヒグマを先頭に、軍服を着こんだ総勢50名ものヒグマの大群が立っていた。
艦これ勢のヒグマの中でも有数の戦闘部隊、ムラクモ提督率いるミリタリーガチ勢の第二かんこ連隊である。
「ム、ムラクモ提督! 羅馬提督! 助けに来てくれたんだね!」
「寄るでない」
だが目を輝かせて駆け寄ろうとしたヒグマ提督に向け、ムラクモ提督は手に持った槍の穂先を冷ややかに突きつけた。
「襲い掛かってくる気狂いの人間と、浅薄な不埒者なれど同胞とならば、我らが同胞に着くのは道理。
しかし、我らはお前を助けに来たわけではない。説明してもらおう」
浅倉威たちの不審な動きは、第二かんこ連隊の斥候要員によって少し前から察知されており、彼らがヒグマ提督を襲撃していることをムラクモ提督は把握していた。
その場合、戦闘において彼らがどちらに味方すべきかは明白だ。
だが斥候によって得た情報から、ムラクモ提督はどうしてもヒグマ提督に問いたださねばならないことがあった。
「……こやつらは、何だ。お前は一体、何をしている」
それはヒグマ提督が抱え、今も彼の周囲をかつ飛び、かつ唸って威嚇してくる、特殊戦闘機・羆嵐一一型と砲台小鬼たちのことだった。
明らかな深海棲艦となぜ行動を共にしているのか――。
返答次第では、ただでは済まなかった。
「……終わらせよう。そう思ってる」
その問いに、俯いたヒグマ提督は暫くの沈黙の後に答えた。
そして彼はすぐに、そのままの体勢から土下座する。
「ごめん! 君たちも叢雲ちゃんやローマちゃんに会いたかったよね!?
でも、もう駄目なんだ! 彼女たちをこんな戦いの中に生み落としたって、幸せにしてやれない!」
「なんだと……?」
一瞬、彼の言い分を理解しかねて、ムラクモ提督は眉を顰めた。
しかしヒグマ提督は顔を上げて、隣の砲台小鬼や、自分の抱く傷ついた羆嵐を示す。
「これ……、金剛なんだ……。沈んじゃった金剛と……、そして、大和だ……。
彼女たちは戦いに巻き込まれて、死んで、こんな醜い姿になってしまった……。
それなのに、こんなになってもなお、僕のために尽そうとしてくれてる。もう、申し訳なくて仕方がないんだ……。
だからもう、『艦これ勢』はお仕舞いだ。工廠も閉鎖しよう……」
その彼の言葉に、第二かんこ連隊はざわざわとどよめいた。
なるほど衝撃的だろう、と、ヒグマ提督は沈む。
艦娘を生み出すことに大きな夢を抱いていた自分たちの折角の居場所を、その言い出しっぺが潰そうとしているのだ。
到底受け入れられることではなく、自分は反感を買って血祭りに挙げられるかも知れない。
それはそれで仕方のないことなのだろうと、ヒグマ提督は腹をくくっていた。
諦めていたと言った方が正しいかも知れない。
だが、ムラクモ提督の反応は、彼の予想とは全く違っていた。
「……ようやく目が覚めたかヒグマ提督。あまりにも遅かったがな」
「へ……!?」
「どの艦娘が死んだ?」
彼はむしろ愁眉を開いて嘆息し、そして淡々と、死んだ艦娘を教えろと言ってくる。
困惑しながらも、ヒグマ提督はそれに答えた。
「今言った金剛と、大和と……。あと多分百貨店で、天龍殿もぜかましちゃんも
天津風も死んだ……」
「ん……? 天龍が死んだと言ったか?」
「確認したわけじゃないけど……」
彼の証言に、ムラクモ提督は羅馬提督と顔を見合わせた。
何やら話し合った後、ムラクモ提督は依然として淡々と残った艦娘を計上する。
「……ならばとりあえず、球磨は別扱いとして、残る艦娘はあと龍田か」
「そ、そうだ! あと瑞鶴がいるんだ! なんでか知らないけど、強力な爆撃機を飛ばして来て、僕らを襲って来た!」
「なんだと……? それが確かならば、由々しき事態だな。
なんという悪運か……。早急に我らが殺してやらねば……!」
だが続いて、浅倉威たちに襲われる前に受けた瑞鶴からの襲撃の件について語ると、ムラクモ提督たちの表情はにわかに険しくなる。
第二かんこ連隊の面々も、一同にムラクモ提督の意見に肯定の意を示して頷く。
ヒグマ提督は混乱に耐えられなくなった。
「へ……!? 今殺すって言ったの!?」
「艦娘だけではない。ロッチナを含め我らは、お前をも殺そうとしていたのだ」
「なんだって!?」
そんな彼に向け、ムラクモ提督はあっさりとそんなことを言う。
艦娘を作るのをやめようとしている今のヒグマ提督ではなく、今までの艦これ勢を形成していた時分の彼を殺そうとしていたのだと。
当惑して立ち尽くす彼に向け、ムラクモ提督は説明を付け加える。
「艦娘を現世に呼び降ろし、歪め、侍らそうという不毛で不名誉なことを未だに思い、為し続けようとしているのならばな。
夕立提督、チリヌルヲ、ゴーヤイムヤあたりも、その意見で一致していた。
されど、お前がようやく、ヒグマが艦娘を作ることの異常さに気づいたというのならば、お前を殺すのは後にしておこう」
ヒグマ提督は耳を疑った。
自分のしてきたことが不毛で不名誉なこととして受け止められていたなどと、彼には到底信じられなかった。
「我らはまだ為すべきことがある。この島に生まれ落ちてしまった、歪んだ羆製艦を掃討せねばならぬ。
龍田にせよ、瑞鶴にせよ。早急に見つけ出し撃沈する。お前も同行するか?」
「何言ってるんだ!? なんで殺すの!? 彼女たちが歪んでるってどういうことだよ!!」
「歪んでいるだろう。お前が見ての通り。どの口が彼女らのなれの果てを『こんな醜い姿』と言った?」
更には折角生み出した艦娘たちを殺そうとしているというムラクモ提督に、ヒグマ提督はついに食って掛かる。
しかし、そんな中途半端な気迫では、ムラクモ提督の泰然とした態度はそよぎもしなかった。
「お前が、こうして深海棲艦と化してしまった彼女たちを、それでもなお美しいと、なお好きだと言えたならば、我もお前の言葉に耳を傾けただろう。
しかしお前は結局、彼女たちを外見で見ているだけだ。お前は自分に嬌態を晒すような都合のいい娘を作ろうとし、そして、都合の悪いものを見捨てた」
ムラクモ提督は、ヒグマ提督に突き付けていた槍で、金剛と大和のなれの果てだという砲台小鬼や艦載機たちを順々に指す。
ヒグマ提督は、自分自身の発言を突き返されて言葉を失った。
結局のところ彼は、この深海棲艦たちを愛してはいないのだと自分で示してしまったようなものだ。
そして突き詰めればそれは、艦娘たちの命を見届ける資格が彼にないのだという、明らかな証拠に他ならなかった。
そんな不埒者の分際で艦これ勢の長を気取っていたヒグマ提督が、反感を買わない理由などない――。
彼はその道理を、今ようやくムラクモ提督の槍の閃きを前にして思い知った。
「さあ、いい加減その深海棲艦も離せ。十分尽くしてもらっただろう。あとは荼毘に付してやるのが彼女らのためではないのか?
何か反論があるのか? 彼女らを無に帰す以外に、お前が彼女らに注いだ不名誉を雪ぐ方法があるとでも言うのか?」
「それは……。それは……ッ……!」
ヒグマ提督は、肉球に爪が喰い込むほど拳を握りしめていた。
反論をしたい。
ムラクモ提督の言うことは間違っていると、彼は心底言いたかった。
しかし、その言葉が出てこない。
艦載機たちは、未だに指示を待ってまごついたまま辺りを旋回している。
砲台小鬼は、沈黙を守って隣に鎮座している。
腕の中で、骨組みの折れた機体が、小鳥のように怯えている。
だがどれだけ記憶を漁り返しても、ムラクモ提督の示す歴然たる罪状を覆せる反証が、出てこないのだ。
どれだけ心の中をさまよっても、彼に真っ向から言い返せる覚悟が、足りないのだ。
その足りない一歩に、ヒグマ提督は震えた。
「ボクなら言えるんだけどなぁ……?」
その時、夕闇の中から、ぞくりと背筋を冷やすような嘲笑が届いた。
灰色の体に髑髏のような被り物をしたヒグマが、パチパチと拍手をしながら、底抜けに明るく、それでいて氷のように冷たい笑い声と共に姿を現してくる。
「いや素晴らしいね――! 実にいい話だったよ!
手の平クルックルで、ドリルになってるのかと思うくらい都合のいい転身じゃないかヒグマ提督。
この島の大騒動をキミ一人でどう締めくくるつもりだい。いやぁ、流石のオレも感動で嘲笑が止まらないよ!!」
第三かんこ連隊長・チリヌルヲ提督の予想外の出現に、ヒグマ提督もムラクモ提督も一瞬戸惑った。
その戸惑いの一番の原因は、何よりも彼の額に刻まれた真一文字の傷と、そこから流れる血液や、煤や返り血による凄惨な戦いの痕であった。
彼が単独でここにいる理由も、彼らには全く分からない。
「チリヌルヲ……! どうしたのだその負傷は!?」
「アタシのことはどうでもいいんだけどさ」
ムラクモ提督が心配と共にかけた声をそのまま流し、チリヌルヲ提督は困惑に眼を見張ったままのヒグマ提督の元にまっすぐ歩み寄ってくる。
そして彼は近寄りながら、べろりと舌なめずりをしてみせる。
「キミがこの騒動を終わらせるってことは、その美しい深海棲艦たちも、小生が無に還して良いんだよね? ん?」
彼から溢れ出る捕食者としての威圧感に、ヒグマ提督は竦んで身動きも取れない。
チリヌルヲ提督は、血塗れの顔を邪悪な微笑みに歪ませて、冷ややかに甘い声で小首を傾げた。
「……ほら、このボクが責任を以て、愛(ころ)してあげるからさぁ」
その次の一歩を踏み出せる者は、誰なのか。
【101人の2代目浅倉威+3代目浅倉威@仮面ライダー龍騎 11人死亡(残り11人)】
【D-5 湯の抜けた温泉 午後】
【
穴持たず678(ヒグマ提督)】
状態:ダメージ(中)、全身にかすり傷、覚醒
装備:羆嵐一一型×4、砲台小鬼
道具:なし
基本思考:ゲームを終わらせる
0:責任を取るよ、大和、金剛……。
1:艦これ勢を鎮圧し、この不毛な争いを終結させる。
2:島風、天龍殿、天津風、
ビスマルク、那珂ちゃん、龍田さん、球磨ちゃん……。
3:私はみんなが、艦これが、大好きだから――。もう、終わりにしよう。
4:大和を弔う。彼女がきちんと、眠れるように。
※
戦艦ヒ級flagshipの体内に残っていた最後の航空部隊の指揮権を勝ち取りました。
※砲台子鬼は戦艦ヒ級flagshipが体内で製造していた最後の深海棲艦です。
【ムラクモ提督@ヒグマ帝国】
状態:『第二かんこ連隊』連隊長(ミリタリーガチ勢)、輪状軟骨骨折、胸に焼けた切創
装備:駆逐艦叢雲の槍型固有兵装(マスト)、軍服、新型高温高圧缶、61cm四連装(酸素)魚雷×n
道具:爆雷設置技術、白兵戦闘技術、自他の名誉
[思考・状況]
基本思考:戦場を支配し、元帥に至る名誉を得るついでにヒグマ帝国を乗っ取る
0:強行するつもりか、チリヌルヲ……!?
1:天龍よ、今一度相見えよう……。
2:ロッチナの下で名誉のために戦う。
3:邪魔なヒグマや人間や艦娘を皆平等に殺して差し上げる。
4:モノクマを見限るタイミングを見計らう。
※艦娘と艦隊これくしょんの名誉のためなら、種族や思想や老若男女貴賎を区別せず皆平等に殺そうとしか思っていません。
※『第二かんこ連隊』の残り人員は、羅馬提督ほか50名です。
【チリヌルヲ提督@ヒグマ帝国】
状態:『第三かんこ連隊』連隊長(加虐勢)、額に切り傷、血塗れ
装備:空母ヲ級の帽子、探照灯、照明弾多数
道具:隠密技術、えげつなさ、心理的優位性の保持
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国を乗っ取る傍ら、密かに可愛い娘たちをいたぶる
0:美しい深海棲艦を連れてるじゃないかヒグマ提督……。ボクが全部愛(ころ)してあげるよ……。
1:ロッチナの下で隠れて可愛い子を嬲り、表に出ても嬲る。
2:艦娘や深海棲艦をいたぶって楽しむことの素晴らしさを布教する。
3:邪魔なヒグマや人間も嬲り殺す。
4:シロクマさん、熊コスの子、ボディースーツの子、みんないたぶってあげるからねぇ~。
5:そうかぁ……、モノクマさんかぁ……。貴様の『チリヌル』時の表情は、一体どんなだい……?
※艦娘や深海棲艦を痛めつけて嬲り殺したいとしか思っていません。
※『第三かんこ連隊』の残り人員はチリヌルヲ提督のみです。
《D-6 擬似メルトダウナー工場 PM17:00頃》
『――!? けほっ、ゲホッ!? 何これ!? なんで燃えてんのここ!?』
草原から瞬間移動したメロン熊は、次の瞬間、その移動先の状況に狼狽していた。
そこはつい数時間前にも、彼女が休憩のために転移していた擬似メルトダウナー工場の屋上だった。
その時は休息中に、ヒグマ提督や艦娘たちを見つけて気分を害され砲撃を行なっていたわけだが、誰にも発見されない休憩所として、そこは御誂え向きのはずだった。
そう思って移動してきた彼女を出迎えたのは、階下から燃え広がり四方を囲んでくる炎だった。
ガスの配管ごと燃えているらしく、既に火の手はかなり強まってきている。
煙と炎で、ほとんど何も見えず、聞こえない。
予想していなかったせいで、もろに煙を肺に吸い込んでしまったのもきつい。
――すぐに場所を移ろう。
何度かむせ込んだ後、彼女は息が整うのを待って、そう思った。
しかしその時は既に、遅かった。
「お、こんなやついたんじゃねぇか! やっぱり残りものには福があるな!」
「グアガ――!?」
突如彼女は、背中から胸にかけてを激痛と灼熱感に貫かれた。
震えながら背後に首を捻じる。
そこには毛むくじゃらの裸体の男たちが、ぞっとするような笑顔で舌なめずりをしていた。
その先頭にいる男は片手に白黒の機械の残骸を手にし、もう片手に、どくどくと脈打つ、メロン熊の心臓を掴んでいた。
「上階で食える物漁ってて正解だったぜ」
「あ、があ――」
メロン熊は、その男に近付こうとして、ふらふらと横に倒れた。
その衝撃で、燃えていた工場の屋根が抜ける。
そうして彼女は、男たちと共に下へ、下へと落ちる。
途中の階に逃れた男たちとは違い、彼女はそのまま力なく、吹き抜けの空間を真っ逆さまに落ちる。
そのさなかに、彼女は確かに見た。
燃え盛る一階の床に、確かにあの、彼女が追い求めたオスが立っていることを。
――ああ、くま……モン……。
――メロン熊!?
ああ、なんで私の周りのオスの大半は、あんなに無粋でウザくてイライラさせられるのかしら?
ねえ、
くまモン。
私はあなたに訊きたい。
ダサくてウザくてわからずやな上に、所構わず喚き散らすような無粋な輩に、守る価値なんてある?
人間だろうとヒグマだろうと、そんなヤツらに、私は価値なんてないと思う。
仕事以外の場所でそんなヤツらが突っかかって来るなら、私は迷わずそのウザったい喚きを止めてやるわ。
だから私は最期まで、あなたたちの前では正しく『メロン熊』として振る舞おう。
夕張のメロンを食い荒らして変異した、恐ろしい野生の凶暴なヒグマを、演じ切ろう。
今度会った時に、あなたが私を遠慮なく殺せるように。
最後まで『悪役』であり続けることが、ゆるキャラとしての私に課せられた使命。
『正義の味方』であるあなたたちの活躍の礎になることが、プロとしての役目だから……。
そう誓った。
そう誓ったはずだ。
北海道弁で言う通り、ゆるキャラの世界は、全然『ゆるくない(大変だ、苦労だ)』のだから。
でも私は、ゆるキャラ失格だ。
だってほら、私は今、泣いているから。
目の前に、会いたかった彼がいて、彼に抱き上げてもらっているから。
もう私は、終わってしまうから。
恐ろしい野生の凶暴なヒグマを演じ切るなんて、無理だったから。
私はゆるキャラ界から引責辞任しなければならなかったんだ。
今この時から。
あの女の子たちに、憧れを抱いた時から。
助けを求める人々を、助けきれなかった時から。
衝動に我を忘れていた時から。
欲望に我を忘れていた時から。
あの男たちに襲い掛かってしまった時から。
ゆるキャラを喰らってしまった時から。
あの船の上で叫んでいた時から。
きっと、ヒグマとして生まれ落ちてしまったその時から。
混じりたかったなぁ。人間たちと一緒に、仲間たちと一緒に、過ごしたかったなぁ。
ダメだったなぁ。素直になれなかったなぁ。
なんでこんなに気づくのが遅くなっちゃったかなぁ。
もう、口が動かない。
声が、声にならない。
耳を澄まさなければ解らない。
きっとゆるキャラだけにしか聞こえない。
私の言葉は、もう私にも、聞こえない。
――ねえ、くまモン。もしただの着ぐるみだったなら、私はちゃんとゆるキャラに、なれたのかしら……。
【メロン熊@ゆるキャラ 死亡】
軽巡洋艦・那珂を惨劇が襲ったのと、工場の天井がついに焼け落ちたのとは、ほとんど同時だったと言っていいだろう。
行く手を阻んでいた4人の浅倉たちを当身で打ち飛ばし、手を伸ばしたくまモンの前に、その時彼女は落下してきたのだ。
それは、煤だらけになり、背中から心臓を抉り出された、メロン熊だった。
くまモンは、我が目を疑った。
膨らんでゆく那珂ちゃんの腹も、そこを裂いて飛び出してくる浅倉威の姿も、何もかもに現実感がなかった。
倒れているメロン熊を、くまモンは無意識のうちに掻き抱いていた。
彼女は泣いていた。
泣いていた彼女には、もう動く力など残っていなかった。
険しい表情も、裂けた口も、微動だにしなかった。
心臓を無くした彼女は、熱い炎に包まれた工場で、冷たくなってゆく他になかった。
周りで、男たちが何か言っている。
炎が、何か音を立てて周囲に侵食している。
うるさい。
五月蝿い。
ウルサイ。
だって、そんなに叫ばれたら、聞こえないだろう。
耳を澄まさなければ解らない声。
ボクたちだけにしか聴こえない、あの素敵な音が――。
だまれ。
黙れ。
ダマレ。
メロン熊の声を、掻き消さないでくれ。
人には手を出さない。
ゆるキャラだから。
くまモンはそう誓った。
そう誓ったはずだった。
腹を裂かれ、苦悶に白目をむき、涙と血にまみれた那珂ちゃんの姿が目に映った。
目の前にひしめく、薄ら笑いを浮かべる男たちが映った。
この手の上で、動くことなく横たわるゆるキャラの、真っ赤な血が映った。
――殺す。
くまモンは一切表情を変えることなく、声もなくそう謂った。
【D-6 擬似メルトダウナー工場/夕方】
【101人の二代目浅倉威の9人+三代目浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:ヒグマモンスター、分裂
装備:なし
道具:なし
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる
1:腹が減ってイライラするんだよ
[備考]
※ミズクマの力を手にいれた浅倉威が分裂して出来た複製が単為生殖した二代目がさらに自己複製したものです。
※艦これ勢134頭を捕食したことで二代目浅倉威が増殖しました。
※那珂ちゃんの中から三代目浅倉威が誕生しました。
※生き残っている浅倉威はあと11人です。
【くまモン@ゆるキャラ、穴持たず】
状態:疲労(中)、頬に傷、胸に裂傷(布で巻いている)
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品0~1、スレッジハンマー@現実
基本思考:この会場にいる自分以外の全ての『ヒグマ』、特に『穴持たず』を全て殺す
0:――殺す。
1:メロン熊……!!
2:
クマー……、キミの死を無駄にはしないモン。
3:他の生きている参加者と合流したいモン。
4:ニンゲンを殺している者は、とりあえず発見し次第殺す
5:会場のニンゲン、引いてはこの国に、生き残ってほしい。
6:なぜか自分にも参加者と同じく支給品が渡されたので、参加者に紛れてみる
7:ボクも結局『ヒグマ』ではあるんだモンなぁ……。どぎゃんしよう……。
8:あの少女、
黒木智子ちゃんは無事かな……。放送で呼ばれてたけど。
9:敵の機械の性能は半端ではないモン……。
[備考]
※ヒグマです。
※左の頬に、ヒグマ細胞破壊プログラムの爪で癒えない傷をつけられました。
【
呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
状態:ソウルジェムのみ
装備:ソウルジェム(濁り:大)@魔法少女おりこ☆マギカ
道具:なし
基本思考:今は恩人である
夢原のぞみに恩返しをする。
0:悪いけどちょっと待て、那珂!!
1:この那珂ちゃんって女含め、ここらへんのヤツはみんな素晴らしくバカだな。思わず見習いたくなるよ。
2:恩返しをする為にものぞみと一緒に戦い、ちびクマ達ともども参加者を確保する。
3:ただし、もしも織莉子がこの殺し合いの場にいたら織莉子の為だけに戦う。
4:戦力が揃わないことにはヒグマ帝国に向かうのは自殺行為だな……。
5:ヒグマの上位連中や敵の黒幕は、魔女か化け物かなんかだろ!?
[備考]
※参戦時期は不明です。
【那珂・改(自己改造)@艦隊これくしょん】
状態:瀕死、腹部爆裂、全身の養分を吸われている、自己改造、額に裂傷、全身に細かな切り傷、左の内股に裂傷(布で巻いている)、呉式牙号型舞踏術研修中
装備:呉キリカのソウルジェム
道具:探照灯マイク(鏡像)@那珂・改二、白い貝殻の小さなイヤリング@ヒグマ帝国、白い貝殻の小さなイヤリング(鏡像)@ヒグマ帝国
基本思考:アイドルであり、アイドルとなる
0:――――――――――
[備考]
※白い貝殻の小さなイヤリング@ヒグマ帝国は、ただの貝殻で作られていますが、あまりに完全なフラクタル構造を成しているため、黄金・無限の回転を簡単に発生させることができます。
※生産資材にヒグマを使ってるためかどうか定かではありませんが、『運』が途轍もない値になっているようです。
※新たなダンスステップ:『呉式牙号型鬼瞰砲』を習得しました。
※呉キリカの精神が乗艦している際は、通常の装備ステータスとは別に『九八式水上偵察機(夜偵)』相当のステータス補正を得るようです。
※
御坂美琴の精神が乗艦している際は、通常の装備ステータスとは別に『熟練見張員』相当のステータス補正を得るようです。
《E-7 鷲巣巌に踏みつけられた草原 PM17:15頃》
「うお!? うお!? なんか錚々たる先輩方がいっぱい!? それに布束さんまで!?」
「ちょっと待ってくれ、食べ物に魔力を込めて回復させてやる……」
穴持たず59が意識を取り戻した時、草原には先程までいなかったはずの大量のヒグマや人間がひしめいていた。
一方で彼らを襲っていた危険人物たちは、草原の方々で焼死体になっているようだ。
助かったのだ――。
彼が理解するまでにそう時間はかからなかった。
「ヤイコ! 良かった、気が付いたのね、地下で何があったのそんなに傷ついて……!」
「ぬ、布束特任部長……、ヤ、ヤイコたちは……」
『さっきまでメロン熊がそこらへんにいなかったか!? というかヒグマンも消えてるし!』
「確かに杏子さんから逃げようとしているそぶりは有りましたがいつの間に……」
「地上の先輩方とは、少しデモ多くの協力を取りつけたかったのデスガ……」
布束砥信がヤイコを抱え上げ、間桐雁夜が何やら魔術をかけつつ田所恵や龍田や穴持たず104が見守っている一角から離れて、デデンネと仲良くなったヒグマたちや、スライム状に戻ったビショップヒグマが、どうやらメロン熊たちを探しているようだった。
ぼんやりとあたりを観察していた穴持たず59の前に、赤い修道服の少女からたい焼きが差し出される。
「食うかい? たい焼きだ」
「あ、ありがとう……」
まさか人間から施しを受けるとは思っていなかった彼は、戸惑いつつもその小さな焼き菓子を摘まむ。
どうやらこの少女は、ビショップやヤイコたちヒグマにも、もれなく食べ物を配っているらしい。
日本本土に出向していた際には全く受けたことも無い奇特な配慮に、穴持たず59は涙が出そうだった。
「いいですね! それでしたら是非こちらもご賞味ください!」
「!?」
そうして彼が無心でたい焼きに齧りついていた時、唐突に横から声がかかる。
その声に驚いたのは、穴持たず59よりもむしろ佐倉杏子の方だった。
「ラマッタクペ先輩!?」
「あの時の宗教クソヒグマ!?」
「いやあ佐倉杏子さん、その節はどうも。僕の授業がお役に立ったようで何よりです」
「授業だとォ……!? アンタのせいで、一体何人が死んだと思ってるんだ……!?」
上空から音も無く降り立っていたらしい、にこやかな表情のヒグマに、佐倉杏子は見る間に敵意を熱気として溢れ出させる。
だがラマッタクペは、そんな彼女の様子を全く気にも留めず、先程の彼女よろしく、何やら手に持った豆を穴持たず59にすすめていた。
「こちらは仙豆というものだそうで。万全の状態に回復なさってください」
「あ、ありがとうございますラマッタクペ先輩……!」
「オイ!! 無視してんじゃねぇ!!」
ラマッタクペのその様子に、杏子は槍を突き付けて声を荒げた。
だが彼はそんな彼女にも微笑みを崩さず、それどころか豆を取り出していたデイパックを彼女に手渡してくる。
「あ、でしたら残りとデイパックは差し上げますね。結構おいしいですよ?」
「わあ、じゃあありがたくいただくよ……。って、そうじゃねぇ!! アタシの質問に答えろってんだ!!」
「……死ぬのは僕のせいではなく、全て自己責任ですよ? お門違いなことを言いますね佐倉杏子さん。
『プンキネ・イレ(己の名を守る)』に届いても、最終的に『ピルマ・イレ(己の名を告げる)』に至るにはまだまだというところですか」
なおも問い詰めると、ラマッタクペの笑みは嘲笑に変わった。
怒りを堪えて、杏子は先に質問を続けた。
このヒグマが現れるということは、絶対に何か波乱が起きる。それしか考えられなかったからだ。
「……このデイパックだって誰のだよ。何か裏でもあるんじゃないのか?」
「
江田島平八さんという方のものです。彼も私も、是非みなさんには万全の状態で高め合っていただければと思っているだけですよ?」
「ありがとうございます二人とも! ほらこの通り、もう全快です!」
飄然と答えるラマッタクペの隣で、穴持たず59が嬉しそうに回復の報告をしてくる。
狙いが読めない――。
杏子が困惑していた、その時だった。
「うっ……!?」
ガッツポーズをとっていた穴持たず59の胸に、巨大な杉の木でできた杭が突き刺さっていた。
背骨を砕かれ、心臓と肺を始めとする胸部臓器をことごとく抉られてしまった彼は、一瞬のうちに事切れ、膝から崩れ落ちて地に倒れる。
背中側から彼に突き立ち、墓標か卒塔婆のように屹立するその杭には、『穴持たず59の墓』と刻まれていた。
「あかはい! ろおかひ! おるおるぅぅ! はあっはあぁぁ……!!」
「な、に……!?」
「では、お後はよろしくお願いしますね♪」
その丸太の杭の上には、一頭のヒグマがいた。
顔から機械の覗くヒグマだった。
何が起こったのか解らず杏子が呆然としている間に、ラマッタクペは悠然とその場を後にする。
「あほんるい!」
そしてそのヒグマが口を開けたと見えた瞬間、杏子の顔面は砕かれ、何もわからなくなる。
丸太のパイルバンカーだ。
首の無い杏子が地面に倒れ、なんとか体を再生させようとする間に、半分機械のそのヒグマは、草原のその他の者たちに向けて躍りだしていた。
「えけあほろおほあぁぁぁぁ!!」
「制裁さんが、戻って来られた……」
「制裁ですって――!?」
『え!? お前、ヒグマ語も日本語もわかるはずじゃないのか!? 一体どうした!?』
林檎のしぼり汁を与えられていたヤイコが、震えながらそう呟いた時、既に制裁ヒグマは、彼女たちのすぐ傍に訪れていた。
そして同時に、彼女たちの元にはまた別の大群が飛来してくる。
上空から落とされる爆弾に、草原はそこここで爆発した。
「なんなんデスカ一体!?」
「空爆!? 誰が飛ばしてるの~……!?」
前門の制裁、後門の富嶽という趣だった。
【穴持たず59@三期ヒグマ 死亡】
【E-7・鷲巣巌に踏みつけられた草原/夕方】
【ラマッタクペ@二期ヒグマ】
状態:健康
装備:『ラマッタクペ・ヌプル(魂を呼ぶ者の霊力)』
道具:クルミの実×10
基本思考:??????????
0:制裁さんの言葉が、わかりますか?
1:メルちゃんはせいぜいヌプルを高めてください!
2:佐倉さんは名を守った後も頑張ってください!
3:キムンカムイ(ヒグマ)を崇めさせる
4:各4勢力の潰し合いを煽る
5:お亡くなりになった方々もお元気で!
6:ヒグマンさんもどうぞご自由に自分を信じて行動なさってください!
7:円亜久里さんも、ハヨクペを頂けたようで良かったですね!
8:フェルナンデス……。たしかそれは……、スペイン語ですね?
[備考]
※生物の魂を認識し、干渉する能力を持っています。
※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、魂の認識可能範囲は島全体に及んでいます。
※当初は研究所で、死者計上の補助をする予定でしたが、それが反乱で反故になったことに関してなんとも思っていません
【制裁ヒグマ〈改〉】
状態:口元から冠状断で真っ二つ、半機械化、損傷(小)
装備:オートヒグマータの技術
道具:森から切り出して来た丸太
基本思考:キャラの嫌がる場所を狙って殺す。
0:背後だけでなく上から狙うし下から狙うし横から狙うし意表も突くし。
1:弱っているアホから優先的に殺害し、島中を攪乱する。
2:アホなことしてるキャラはちょくちょく、でかした!とばかりに嬲り殺す。
※首輪@現地調達系アイテムを活用してくるようですよ
※気が向いたら積極的に墓石を準備して埋め殺すようですよ
※世の理に反したことしてるキャラは対象になる確率がグッと上がるのかもしれない。
でも中には運良く生き延びるキャラも居るのかもしれませんし
先を越されるかもしれないですね。
【穴持たず81(ヤイコ)】
状態:胸部を爪で引き裂かれている、失血(中)、疲労(大)、海水が乾いている
装備:『電撃使い(エレクトロマスター)』レベル3
道具:ヒグマゴロク
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため電子機器を管理し、危険分子がいれば排除する。
0:布束特任部長、田所料理長……、あなた方に、お渡しするものが……。
1:モノクマは示現エンジン以外にも電源を確保しているとしか思えません。
2:布束特任部長の意思は誤りではありません。と、ヤイコは判断します。
3:ヤイコにもまだ仕事があるのならば、きっとヤイコの存在にはまだ価値があるのですね。
4:無線LAN、もう意味がないですね。
5:シーナーさんは一体どこまで対策を打っていらっしゃるのでしょうか。
【龍田・改@艦隊これくしょん】
状態:左腕切断(焼灼止血済)、サーヴァント化、ワンピースを脱いでいる(ブラウスとキャミソールの姿)、体液損耗防止魔術付与
装備:『夜半尓也君我、獨越良牟』、『水能秋乎婆、誰加知萬思』、『勤此花乎、風尓莫落』
道具:薙刀型固有兵装
[思考・状況]
基本思考:天龍ちゃんの安全を確保できる最善手を探す。
0:また敵襲なのね~……!!
1:ごめんなさい、ひまわりちゃん……。
2:この帝国はなんでしっかりしてない面子が幅をきかせてたわけ!?
3:ヒグマ提督に会ったら、更生させてあげる必要があるかしら~。
4:近距離で戦闘するなら火器はむしろ邪魔よね~。ただでさえ私は拡張性低いんだし~。
[備考]
※ヒグマ提督が建造した艦むすです。
※あら~。生産資材にヒグマを使ってるから、私ま~た強くなっちゃったみたい。
※主砲や魚雷は
クッキーババアの工場に置いて来ています。
※間桐雁夜をマスターとしてランサーの擬似サーヴァントとなりました。
【穴持たず203(ビショップヒグマ)】
状態:魔力不足
装備:なし
道具:なし
基本思考:“キング”の意志に従う??????????
0:キング、さん……。シバさん……! もう、どうスレばいいんですか……!
1:スミマセンベージュさん……。アナタを救えなかった……!!
2:……どうか耐えていて下サイ、夏の虫たち!!
3:球磨さんとか、龍田さんとか見る限り、艦娘が悪い訳ではナイんでスよね……。
4:ルーク、ポーン……。アナタ方の分まで、ピースガーディアンの名誉は挽回しまス。
5:私の素顔とか……、そんな晒す意味アリマセンから……。
[備考]
※キングヒグマ親衛隊「ピースガーディアン」の一体です。
※空気中や地下の水と繋がって、半径20mに限り、操ったり取り込んで再生することができます。
※メスです。
※『ヒグマを人間に変える研究』の自然成功例でもあるようです。
【穴持たず104(ジブリール)】
状態:健康
装備:ナース服
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:シーナーさん、どうか無事で……。
0:良かった! 良かった! ヤイコちゃんも助かった!
1:レムちゃん……、なんでぇ、ひどいよぉ……!!
2:ベージュさん、ベージュさぁん……!!
3:応急手当の仕方も勉強しないとぉ……!!
4:夢の闇の奥に、あったかいなにかが、隠れてる?
5:ビショップさんが見たのって、私と、同じもの……?
[備考]
※ちょっとおっちょこちょいです
【布束砥信@とある科学の超電磁砲】
状態:健康、ずぶ濡れ(上はブラウスと白衣のみ)
装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)、工具入りの肩掛け鞄、買い物用のお金
道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』、白衣、Dr.ウルシェードのガブリボルバー、プレズオンの獣電池、バリキドリンクの空き瓶、制服
[思考・状況]
基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。
0:ヤイコ!? そして制裁!?
1:暁美ほむらたち、どうか生き残っていて……!!
2:キリカとのぞみは、やったのね。今後とも成功・無事を祈る。
3:『スポンサー』は、あのクマのロボットか……。
4:やってきた参加者達と接触を試みる。あの屋台にいた者たちは?
5:帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。
6:帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払いたい。
7:駄目だ……。艦これ勢は一周回った危険な馬鹿が大半だった……。
8:ミズクマが完全に海上を支配した以上、外部からの介入は今後期待できないわね……。
9:救えなくてごめんなさい、
四宮ひまわり……。
[備考]
※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。
※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。
※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。
【田所恵@食戟のソーマ】
状態:疲労(小)、ずぶ濡れ
装備:ヒグマの爪牙包丁
道具:割烹着
[思考・状況]
基本思考:料理人としてヒグマも人間も癒す。
0:何が起きたの!?
1:もどかしい、もどかしいべさ……。
2:研究所勤務時代から、ヒグマたちへのご飯は私にお任せです!
3:布束さんに、落ち着いたらもう一度きちんと謝って、話をします。
4:立ち上げたばかりの屋台を、
グリズリーマザーさんと
灰色熊さんと一緒に、盛り立てていこう。
5:男はみんな狼かぁ……、気を付けないと。
【間桐雁夜】
[状態]:刻印虫死滅、魔力充溢、バリキとか色々な意味で興奮、ずぶ濡れ
[装備]:令呪(残り3画)
[道具]:龍田のワンピース
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を桜ちゃんの元に持ち帰る
0:また危険な奴が来たのか!?
1:俺は、桜ちゃんも葵さんも、みんなを救いたいんだよ!!
2:俺の
バーサーカーは最強だったんだ……ッ!!(集中線)
3:俺はまだ、桜のために生きられる!!
4:桜ちゃんやバーサーカー、助けてくれた人のためにも、聖杯を勝ち取る。
5:聖杯さえ取れれば、ひまわりちゃんだって助けられるんだ……!
[備考]
※参加者ではありません、主催陣営の一室に軟禁されていました。
※バーサーカーが消滅し、魔力の消費が止まっています。
※全身の刻印虫が死滅しました。
※龍田をランサーのサーヴァントとしてマスターの再契約をしました。
【デデンネ@ポケットモンスター】
状態:健康、ヒグマに恐怖を抱くくらいならいっそ家族という隠れ蓑で身を守る、首輪解除
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンのみ
基本思考:デデンネ!!
0:デデンネデデネデデンネ……!
1:デデンネェ……
2:デデッデデンネデデンネ!!
※なかまづくり、10まんボルト、ほっぺすりすり、などを覚えているようです。
※特性は“ものひろい”のようです。
※性格は“おくびょう”のようです。
※性別は♀のようです。
【デデンネと仲良くなったヒグマ@穴持たず】
状態:奮起、顔を重症(治癒中)、左後脚の肉が大きく削がれている(治癒中)、失血(治癒中)
装備:なし
道具:クルミと籠
基本思考:俺はデデンネたちを、家族全員を守る。
0:おい制裁!? お前、何語を喋ってるんだ!?
1:フェルナンデスと家族だけは何があっても守り抜く。
2:こんなにも俺は、素晴らしい出会いを拾えた……。
3:「穴持たず34だったような気がするヒグマカッコカリ」とか「自分自身を見失う者」とか……、俺だってこんな名前は嫌だよ……。
※デデンネの仲間になりました。
※デデンネと仲良くなったヒグマは人造ヒグマでした。
※無意識下に取得した感覚情報から、構造物・探索物・過去の状況・敵の隙などを詳細に推論してイメージし、好機を拾うことができます。
※特に味覚で認識したものに対しては効力が高く、死者の感情すら読める可能性がありますが、聴覚情報では鈍く、面と向かっているのに相手の意図すら大きく読み間違える可能性があります。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:頭部破壊、石と意思の共鳴による究極のアルター結晶化魔法少女(『円環の袖』)
装備:ソウルジェム化エイジャの赤石(濁り:必要なし)
道具:アルターデイパック(大量の食料、調理器具)、江田島平八のデイパック
基本思考:元の場所へ帰る――主催者(のヒグマ?)をボコってから。
0:今はれいのことを考えて動く!
1:復讐を遂げるためにも、このヒグマたちのように、もっと違う心の持ち方があるはずだ。
2:
カズマ、白井さん、劉さん、狛枝、れい……。あんたたちの血に、あたしは必ずや報いる。
3:神様、自分を殺してしまったあたしは、その殺戮の罪に、身を染めます。
4:たとい『死の陰の谷』を歩むとも、あたしは『災い』を恐れない。
5:これがあたしの進化の形だよ。父さん、カズマ……。
6:ほむら……、あんたに、神のご加護が、あらんことを。
7:マミがこの島にいるのか? いるなら騙されてるのか? 今どうしてる?
[備考]
※参戦時期は本編世界改変後以降。もしかしたら叛逆の可能性も……?
※幻惑魔法の使用を解禁しました。
※自らの魂とエイジャの赤石をアルター化して再々構成し、新たなソウルジェムとしました。
※自身とカズマと劉鳳と
狛枝凪斗の肉体と『円環の袖』をアルター化して再々構成し、新たな肉体としました。
※骨格:一度アルター粒子まで分解した後、魔法少女衣装や武器を含む全身を再々構成可能。
※魔力:測定不能
※知能:年齢相応
※幻覚:あらゆる感覚器官への妨害を半減できる実力になった。
※筋肉:どんな傷も短時間で再々構成できる。つまり、短時間で魔法少女に変身可能。
※好物:甘いもの。(飲まず食わずでも1年は活動可能だが、切ない)
※睡眠:必要ないが、寂しい。
※SEX:必要なし。復讐に子孫や仲間は巻き込めない。罪業を背負うのはひとりで十分。
※アルター能力:幻覚の具現化。杏子の感じる/感じさせる幻覚は、全てアルター粒子でできた実体を持つことが可能となる。杏子の想像力と共感力が及ぶ限り、そのアルターの姿は千変万化である。融合装着・自律稼動・具現・アクセス型の全ての要素を持ち得る。
【円亜久里@ドキドキ!プリキュア】
状態:佐倉杏子のアルター製の肉体
装備:アイちゃん@ドキドキ!プリキュア
道具:自分のプシュケー
基本思考:
相田マナを敵の手から奪還する
0:佐倉杏子へ協力し道を示す。
1:自分の持つ情報を協力者に渡しつつ生存者を救い出す。
[備考]
※佐倉杏子のアルター能力によって仮初の肉体を得ました。
※プシュケーは自分の物ですが、肉体は佐倉杏子の能力によって保持されているため、杏子の影響下から外れると消滅してしまいます。
《B-8 航空基地 PM17:15頃》
誰が飛ばしているの、という質問に対する答えは、島の南西部にあった。
そこでは下卑た笑みを浮かべた少女があぐらをかいて、鋼板を干し肉のようにバリバリと齧っている。
羆謹製艦娘の最後の1人、空母の瑞鶴であった。
彼女が食物と言えない代物を齧っている間にも、その一帯は着々と航空基地として整備されてゆく。
彼女は自分が飛ばしている大量の航空編隊の戦況を漫然と知覚しながら、待ち受ける勝利を妄想してほくそ笑んでいた。
「深海棲艦どももやるわね……。さすが本拠地なだけあるわ。
でも、この鉄壁の基地から、無尽蔵に生成できる編隊による波状攻撃……。いつまでも防げるわけはないわよ!」
「ハッハァ、ここかァ!! 祭りの場所はァァ――!!」
だがそんな彼女の城に、突然、男の高笑いが轟いた。
上空に待機していた哨戒機が、次々と爆発し花火のように散ってゆく。
瑞鶴はその領空を見上げ、そして瞠目した。
彼女が誇る航空基地の上空を悠然と飛んでいたのは、札束でできた絨毯だった。
「いいなァ、この景色は。夏祭り真っ只中の神社の境内って感じだぜ」
「その例えは面白いな浅倉さん。季節外れだけど、すんなり入れて人がいっぱいだからってこと?」
「そうそうそうそう! カタヌキのカスみてぇにボロボロ崩れる建物! 花火みてぇに爆発していくラジコンども! 墜とした残骸は、焼きそば屋の残飯よろしく喰い放題ってもんだぜ!」
「カスと残飯目当てに夏祭り行ってたの……!?」
「たまに、機械にこびりついたわたあめのクズがもらえたりもするしな」
「うわやっべ……、俺、浅倉さん嫌いになれないかも……」
そこには、武田観柳、操真晴人、そして浅倉威という男たちが乗り込んでいた。
観柳と晴人が回転式機関砲とウィザーソードガンで遠近に分厚い弾幕を展開し、飛来する機体のほとんどを撃墜してゆく。
そして浅倉はその弾幕を掻い潜って来た戦闘機や爆撃機を逃さず掴み取りし、ソースせんべいか何かのように重ねて噛み砕いてしまう。
「外はさっくり、中はトロトロときてやがる。ちっちぇえヒグマが中に詰められてるのが良い味出してるぜ、この飛行機」
「浅倉さんの食レポ聞いてるとドーナツ食べたくなってくるなぁ……」
「な、な、なんで!? なんでここがバレたの!?」
制空権を着々と奪ってゆく、そんな札束の未確認飛行物体に、瑞鶴は理解不能の恐怖を覚え震えた。
なぜここを突き止められたのか、そしてなぜこんなに容易く自分の航空部隊が落とされ続けているのか。
それがわからなかった。
『うん、やはりこれだけ魔力が強くなってきていれば否応なくわかる。魔法少女とも魔女とも微妙に違う魔力だけど、どんどんその力は周りの物質を吸収・変換して大きくなっているようだ。
これはどうだろうね。ボクたちのシステムだと、この子が相転移してもエネルギーを回収できるかわからないや』
「結構、結構。キュゥべえさんが回収できなくとも、彼女の技術さえあれば、私がいくらでも回収できます」
「観柳さんの機転には感服するよ。確かにあの艦娘とかいう謎の機関の協力が手に入れば、あのラジコンだけじゃなく、フォックスさんからもらった『南斗列車砲』を使いこなすことができるかもしれない。
色々と希望の見えそうな手立てではあるよ」
「でしょう? それにこの機体たちを見る限り、まだまだいくらでも応用はできそうですしね」
この武田観柳という生粋の商人の商才に、瑞鶴の蒙昧な考えが及ばないことは当然だった。
彼は拾圓券絨毯の上に座って、浅倉威から受け取った富嶽のサンプル機を眺め回しながら満足げである。
この浅倉威という解き放たれし凶獣と、一時的にでも協力関係を取り付けられたことは非常に大きかった。
「なるほど、あの女がメインのオカズか。美味そうじゃねえか。お前の誘いに乗って正解だったぜ武田ァ!」
「いえいえ、敵の敵は味方とも言いますしね。短い同行でしたが、同じ目的があるならやはり協力しないと非効率的ですから。
技術の中枢と思しき機関部があれば私は十分ですので、あとは浅倉さんの取り分でどうぞ」
「わかってんな武田ァ、マジでいい女紹介してくれてありがとよ」
「一般人がしていい会話じゃないよ本当この人たち……」
「テメェらといるとイライラしなくて良いぜ」
浅倉威が武田観柳に同行しているのは、この本拠地にいるであろう少女を、好きにしてよいという契約を取り交わしていたからだ。
武田観柳は彼に情報と女を提供し、代わりに彼は武田観柳に戦力を提供する。
お金を払えば弁護士さんが黒を白にしてくれるくらい、気持ちのいい契約だった。
「……で、浅倉さんにはこう言ってますけど、話し合いで解決するんですよね?」
「もちろん交渉しますよ操真さん。商談ですから。そーれ、瓦礫に金を咲かせましょう!」
そして観柳は、航空基地の真上で、おもむろに自分のシルクハットを振るった。
するとその中からは大量の一圓金貨が溢れ出し、猛烈な勢いで眼下の建物に降り注いだ。
それは瑞鶴の空爆よりも遥かに圧倒的な質量と物量を伴った、黄金の空爆だった。
降り注ぐ黄金爆弾に蹂躙されてゆく自分の基地を、彼女は絶望的な表情で眺めることしかできない。
世には、課金騎兵と呼ばれる、金をつぎ込んで戦いを勝ち抜いていくタイプの人種がいる。
彼はその中でも、重課金兵、廃課金兵などと呼ばれる存在――、いや、それを上回る羽振りだ。
この絶望感を、瑞鶴は前世でも味わったことがある。
「米……、帝……」
太平洋戦争時の20倍を越える国力を有していたアメリカを、日本は『米帝』と呼んだ。
「はろぉう、お嬢さん。ぐっどいぶにんぐですね」
そして震える彼女の前に、高度を下げた札束の絨毯から、一人の白い紳士が偽りの笑みを浮かべて降り立ってくる。
「私、大商人の武田観柳と申します。あなたの素晴らしい技術は、大変な資産価値がありましてねぇ……。是非とも私に買い取らせて頂きたいと思った次第なのですよ」
純白のスーツを纏い、上空より黄金爆弾を降らす武田観柳の姿は、瑞鶴の眼に、まさに米帝だった。
圧倒的な資金力によって他を蹂躙するこの戦法は、まさに米帝プレイと呼ばれる行為だった。
「ですがまぁ、こちらまでご訪問するのにもなにぶん必要経費というものがありまして。
素晴らしすぎるのも考えものですねぇ。応戦にほら、これだけ掛かってしまいました。
残念ですねぇ。この経費の金額だと、あなたにお支払いしようと思っていた謝礼よりも多くなってしまうのです」
観柳は黄金のそろばんを弾き、法外な桁数の位置で上がるその玉を、彼女に向けて示す。
彼の背後からは、ごきごきと首を回して、満面の笑みを浮かべた浅倉威が、その全裸の肉体を興奮にいきり立たせ近寄ってくる。
「というわけで、今までの戦闘に費やしてきた金、あなたの体で贖っていただきますよ」
ぞっとするような笑顔で、観柳は舌なめずりをした。
バラスト水が漏れるほどの恐怖に、瑞鶴は震えた。
【B-8 航空基地/夕方】
【武田観柳@るろうに剣心】
状態:魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り:微)、魔法少女衣装、金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版、テレパシーブローチ
道具:基本支給品、防災救急セットバケツタイプ、鮭のおにぎり、キュゥべえから奪い返したグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ(残り使用可能回数1/3)、紀元二五四〇年式村田銃・散弾銃加工済み払い下げ品(0/1)、詳細地図、南斗人間砲弾指南書、南斗列車砲、テレパシーブローチ×15
基本思考:『希望』すら稼ぎ出して、必ずや生きて帰る
0:くけけけけ、質の良い手駒が手に入りましたよぉ……!
1:李徴さんは確保! 次は各地の魔法少女と連携しつつ、敵本店の捜索と斥候だ!!
2:津波も引いてきたし、昇降機の場所も解った……! 逃げ切って売り切るぞ!!
3:他の参加者をどうにか利用して生き残る
4:元の時代に生きて帰る方法を見つける
5:おにぎりパックや魔法のように、まだまだ持ち帰って売れるものがあるかも……?
6:うふふ、操真さん、どう扱ってあげましょうかねぇ……?
[備考]
※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。
※観柳は、原作漫画、アニメ、特筆版、映画と、金のことばかり考えて世界線を4つ経験しているため、因果・魔力が比較的高いようです。
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『金の引力の操作』です。
※武器である貨幣を生成して、それらに物理的な引力を働かせたり、溶融して回転式機関砲を形成したりすることができます。
※貨幣の価値が大きいほどその力は強まりますが、『金を稼ぐのは商人である自身の手腕』であると自負しているため、今いる時間軸で一般的に流通している貨幣は生成できません(明治に帰ると一円金貨などは作れなくなる)。
※観柳は生成した貨幣を使用後に全て回収・再利用するため、魔力効率はかなり良いようです。
※ソウルジェムは金色のコイン型。スカーフ止めのブローチとなっていますが、表面に一円金貨を重ねて、破壊されないよう防護しています。
※グリーフシードが何の魔女のものなのかは、後続の方にお任せします。
【操真晴人@仮面ライダーウィザード(支給品)】
状態:健康
装備:ジャック・ブローニンソンのイラスト入り
宮本明のジャケット、コネクトウィザードリング、ウィザードライバー、詳細地図、テレパシーブローチ
道具:ウィザーソードガン、マシンウィンガー
基本思考:サバトのような悲劇を起こしたくはない
0:商談は商談でもヤクザの手口だこれ!!
1:今できることで、とりあえず身の回りの人の希望と……、なってやるよ!
2:キュゥべえちゃんも観柳さんも、無法な取引はすぐに処断してやるからな……。
3:観柳さんは、希望を稼ぐというけれど、それに助力できるのなら、してみよう。
4:宮本さんの態度は、もうちょっとどうにかならないのか?
[備考]
※宮本明の支給品です。
【キュウべぇ@全開ロワ】
状態:尻が熱的死(行動に支障は無い)、ボロ雑巾(行動に支障は無い)
装備:観柳に埋め込まれたテレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:会場の魔法少女には生き残るか魔女になってもらう。
0:ちょっと得体の知れない魔力が増え過ぎだ。適当に潰れてくれるといいんだけど。
1:いやぁ、魔法少女が増えた増えた。後はいい感じに魔女化してくれると万々歳だね!
2:面白いヒグマがいるみたいだね。だけど魔力を生まない無駄な絶望なんて振りまかせる訳にはいかないよ? もったいないじゃないか。
3:人間はヒグマの餌になってくれてもいいけど、魔法少女に死んでもらうと困るな。もったいないじゃないか。
4:道すがらで、魔法少女を増やしていこう。
[備考]
※
範馬勇次郎に勝利したハンターの支給品でした。
※テレパシーで、周辺の者の表層思考を読んでいます。そのため、オープニング時からかなりの参加者の名前や情報を収集し、今現在もそれは続いています。
【101人の二代目浅倉威の1人@仮面ライダー龍騎】
状態:ヒグマモンスター、分裂
装備:なし
道具:なし
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる
1:腹が減ってイライラするんだよ
[備考]
※ミズクマの力を手にいれた浅倉威が分裂して出来た複製が単為生殖した二代目がさらに自己複製したものです。
※艦これ勢134頭を捕食したことで二代目浅倉威が増殖しました。
※生き残っている浅倉威はあと11人です。
【瑞鶴改ニ甲乙@艦隊これくしょん】
状態:疲労(大)、小破、左大腿に銃創、右耳を噛み千切られている、右眉に擦過射創、左耳に擦過創、幸運の空母、スカートと下着がびしょびしょ
装備:12cm30連装噴進砲 、試製甲板カタパルト、戦闘糧食(多数)
コロポックルヒグマ&艦載機(富嶽、震電改ニ、他多数)×100
道具:ヒグマ提督の写真、瑞鶴提督の写真、連絡用無線機
[思考・状況]
基本思考:艦これ勢が地上へ進出した時に危険な『多数の』深海棲艦を始末する
0:深海棲艦を殺す……。殺し尽くさなきゃ……。
1:危険な深海棲艦が多すぎる……、何なのよこの深海棲艦たちは……ッ!!
2:偵察機を放って島内を観測し、深海棲艦を殺す
3:ヒグマ提督とやらも帝国とやらも、みんな深海棲艦だったのね……!!
4:ヒグマとか知らないわよ。ただの深海棲艦の集まりじゃない!!
5:クロスレンジでも殴り合ってやるけど、できればアウトレンジで決めたい(願望)。
[備考]
※元第四かんこ連隊の瑞鶴提督と彼の仲間計20匹が色々あって転生した艦むすです。
※ヒグマ住民を10匹解体して造られた搭載機残り100体を装備しています。
矢を発射する時にコロポックルヒグマが乗る搭載機の種類を任意で変更出来ます。
※CFRPの摂取で艦載機がグレードアップしましたが装甲空母化の影響で最大搭載数が半減しました。
※艦載機の視界を共有できるようになりました。
※艦載機に搭乗するコロポックルヒグマの自我を押さえ込みました。
※モノクマから、『多数の』深海棲艦の『噂』を吹き込まれてしまっているようです。
※お台場ガンダムを捕食したことで本来の羆謹製艦むす仕様の改ニに変化したようです。
※穴持たずカーペンターズが転生した建築コロポックルヒグマ達によって
E-8のテーマパーク跡がリニューアルされ航空基地が建設されました
※航空基地支援システムにより本来使用できない艦種、陸上機、水上機
を思考リンクにより無数に行使できるようになりました
【戦闘糧食】
瑞鶴がお台場ガンダムの装甲(CFRP)を握り飯状に手で丸めて作った瑞鶴お手勢の携帯食料。
食べると戦意高騰と共に艦載機が補充される。美味しそうだが人間が食べると
歯が欠けたり人体に有害な成分を摂取して死に至るので注意しよう。
最終更新:2017年04月23日 15:37