ババア、その誇り高きクッキー
かつて可愛い少女がいた。
お菓子作りが大好きで、
みんなに腕によりをかけたケーキやクッキーを食べてもらうのを喜んだ。
誰もが美味しいと言ってくれるものだから
女の子はきっと動物も美味しいと言ってくれるんじゃないかと思って。
野球帰りのロバやフクロウやカンガルーと
クッソみたいに鬼畜な配球と往生際の悪さが特徴のクソガキにも食べさせてみて。
みんな美味しい美味しいと言ってくれた。
でも、彼女のお父さんは言った。
「お前のクッキーはたしかに美味しいだろう。
でもね、穴持たずにだけは食べさせてはいけないよ?」
「どうして? 乱暴だから?」
「それもある。だが乱暴さなら飢えて追い詰められた獣はみなそうなるものだ」
「強いから?」
「たしかに強い。だが強さは不確かなものだ。
時には腕っこきのスナイパーに敗北することもあるだろう」
「じゃあ、なぜ?」
「彼らが獣だからだ。家を持たず野生に絶えず身を置く生き物だからだ。
あれほどの巨大さと強さで帰る家も家族もないというのはそれだけで想像を絶する事態だ。
だがね、
クッキーババア。私は時に彼らは自ら望んでそうしているようにも見えるのだ。
本能でもって飢えと野生を選択する。これ以上に恐ろしい動物か何処にいる?
決して彼らにクッキーを食べさせわかりあおうと思ってはいけないよ」
だけど女の子はクッキーを皆に食べてもらいたくて。
いつか穴持たずにも食べて欲しい、美味しいと言って欲しいとその時に思った。
だから、彼女はずっとずっとクッキーの焼き方だけを練習して。
いつしかクッキーの生産速度は光を置き去りにし。
世界はクッキーによって終焉を迎えた。
『メモリー・オブ・クッキーババア』
かつての少女クッキーババアはババアアポカリプスを引き起こし。
宇宙から多数の冒涜的な恐怖が押し寄せ、
従業員には深海の血を引く者達や不定形の奉仕種族がいた。
だが彼女には未だに穴持たずだけはそのクッキーの虜にすることができず。
創ったクッキーを従業員や老婆のリピーターである神々に持たせて
穴持たずの元にやっても、帰ってくることはなく。
わかったのは穴持たずはクッキーだけでなく来訪者も喰い尽くしている。
いいや、来訪者こそメインディッシュとしていた節がある。
クッキーババアは落胆した。
神々の肉の味などクッキーにて容易に再現できる。
だが、それ以外の何かがあるのだ。
穴持たずはクッキーにはない何かを野生に見いだしているのだ。
全世界のおばあちゃんにクッキーを食わせることで
クッキーババアは一にして全、全にして一となった。
彼女らのクッキーに関する情報はたちまちに共有され発展する。
今やすべてが再現できた。宇宙の味も地底の味も
胃世界の味も反物質の味も未来の味も。
だが彼女、未だに野生の味を知らず。
そんな彼女の工場を訪れたのは安富だった。
ババアは一も二もなく彼のヒグマ実験を快諾し、
援助を惜しまず、かくなる上はとすべてのババアと合体したゴッドクッキーババアとなり、
直接会場に入り野生を研究しようとしたのだ。
そして安富が死んだらしい。
どうでもいいことだとババアは思った。
場所は会場の中心の少し下、彼女がいた世界の全ババアを統合せし
クッキー焼くためにここまでやりましたババアのやることはいつもと変わらずクッキー。
地響きとともに待ちわびた来訪者がやって来た。
ヒグマ、穴持たず、血の匂いと臓物の味を再現したクッキー20兆個で誘い出された
ババア終世の好敵手にして思い熊。
ババア構える。
中指、人差し指と親指を突き出して
模倣するはクッキーの型取りの構え。
クッキーの型取りはかつて拷問の際、
相手の肉を致死たらしめないよう手加減して抉るために
考案されたというのはあまりにも有名な話。
ヒグマ、視界にあるは構えるババアと
好物のはずの血の匂いをプンプン撒き散らす無数のクッキー。
毛深く太く野獣の腕が一直線にババアへと伸びる。
音速はたやすく超えただろう一撃、
だがババアは光速を超えている。
難なく避け距離を置くとヒグマの腕から血飛沫が。
たじろいだりはしないが野生の瞳にひとさじの困惑が混じった穴持たず。
ババアが手元で弄ぶのは3インチ直方に切り取られた丸い肉片。
穴持たず、強者との出会いに体内中の神経が喜びに打ち震える。
穴持たずは距離を詰める、
密着、ババアの抉り技(clicker)の恐ろしさは野生の勘にて悟った。
ならばと距離を縮める、いや、それどころかゼロにする!
ババアの恐ろしさは腕の振りの強さ、そしてそれを支える体幹と足腰の強さ。
だがババアは作業中はそれほど忙しく足を動かしはしない。
下半身の踏ん張りは必須なれど瞬発力に関しては鍛錬の違いと老いが足を引っ張るのだ。
ゼロ距離、小柄なババアの紫色の巻き毛が穴もたずの腰の高さ。
ヒグマは力の限り抱きしめようと両腕をまわす。
爆風が穴持たずの体を打った。
予想外の出来事、そして自然には見られない爆発現象。
ヒグマ、科学にはとんと疎く。
爆風を縫って飛来する無数のクッキーを避けられない。
強い香辛料の臭いが穴持たずの五感を妨げもしていた。
ヒグマの名前は穴持たずドリーマー。
ラリホーの杖の誤射にて眠りに落ち。
未知の何かによる人為的睡眠によって常在野生なれど
体の不調は否めなかったのが無様に食らってしまった原因かもしれない。
本能的に背を向け、縮こまれば背中に爆風と体表が溶ける酸の感触。
食虫植物、アマゾンの奥深くでもかくやといわんばかりの攻撃に穴持たずの顔がゆがむ。
そして叩き込まれるclick(抉る)、click(掬う)、click(こねる)!
穴持たず逃げようとするが瞬間に背骨をこつん、と小突かれ
体が自動的に立ち上がってしまった。
武術にある人体の反応を利用した技、ババアはクッキーを作る以外のあらゆるは不純物と断じ。
クッキーを焼くために武術を習うなど武術を極める者、
クッキーを極める者、どちらの誇りにも過剰な蜂蜜をかけることだと信じてやまない。
だがババア、味覚のみならずあらゆる人体の力学を学び識った女。
達人であるが故の数奇な武術とのリンク!
穴持たずの目の前には腰の曲がりかけたババアが立ち。
腰だめに構えた凶器の三本指が穴持たずの顔面に刺さらんと!
「ぐぅぉぉぉぉぉ!!」
無言で交わされた闘争にて初めて音を発したのは本能に突き動かされたヒグマ!
やぶれかぶれに腕を振り回すと胸元が抉れ、肋骨が五本クッキー型に切り抜かれた!
だがババアも痛打と引き換えの代償は相当なもの
3フィート離れた距離にて穴持たずの肉と骨が抉れ。
ババアは光速に耐える肉体であれど左腕がぐしゃぐしゃにひしゃげ、骨が肉を突き破っていた。
老婆の厚く塗られた真紅のルージュが蠱惑的に歪む。
それは年老いて醜くなったはずの女なれど、
言語絶する官能さ。本宮ひろ志漫画の性豪ならば股ぐらが直立した程に。
穴持たずは理解する。
この戦いはババアの望みなのだと。
目の前の自分より遥かに小さく脆いはずのババアは、
自分と戦う、拳交えるためにこの場に立っているのだと心で理解した!!
野生に生きるヒグマの心に不思議な充足感が満ちていく。
強者との闘争には恵まれながら、このヒグマ、常にどこか足りないものを感じていた。
それが野生、一期一会の歓喜と引き換え醍醐味であるとぼんやりと知りながらも。
求めていたのは自分を狙い、立ちはだかる理性の強者!!
もちろんクッキーババアは闘争には興味が無い。
あるのは飽くなき探究心、狂い世界をクッキーアポカリプスに導いてなおやまぬ想い。
幼心に焦がれた穴持たずとの邂逅なれど、ババアにとってはこれすら通過点にすらなりうる。
だがこの場においてふたりの想いは合致していた。
それは互いへの興味、愛情めいた好奇心。
負けられぬ相手のためにもという高潔たる誇り!
世界がふたりに注目し静観しているのではないかという
無風、無音の世界。
穴持たず、手を差し出す。
攻撃ではない、触れるための手を。
ババアもまた同じ想いであった。
遂に相見えた汚れと狂気なき少女の頃より思い馳せた相手への敬意。
そして訪れるだろう別れへの少しばかりの哀愁。
ババアと穴持たず、シェイクハンド。
老眼鏡の奥の瞳が乙女のように優しく清らかに。
野生と血に染まった眼光がその時だけは穏やかに。
手は離れる。そして最後の戦いが始まる!
互いのclickを超えたラッシュ。
ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!
ババアのひしゃげた腕はクッキー作りの要領で激痛に耐えられれば使用できるよう調整され。
穴持たずの傷は出血を本能で乗り越えれば戦えるものとなっている。
穴持たずの拳がババアの頬を掠め。
その刹那にババアの両手がヒグマの腕より肉と骨を露出させていく!
ヒグマの噛み付きがババアの頭を捉え、ババアの頭部の3分の1が消失する!
だがふたりは止まらない!
二十兆個のクッキーが戦闘の余波によって砕け、
ライスシャワーのように降り注ぎ、天へと唸り浮上する。
そのエリアにてクッキートルネードがあった。
ババアの指が内側に大きく曲がり、その上に親指が乗る。
穴持たず、ここにきての意趣替えかと混乱がよぎるも
この相手に疑念は無礼と思い、止まらず打撃を繰り広げる。
ババア、ガードを捨てた。
負傷した腕が消し飛んで。
片足は膝から下が消失し、
脇腹が大穴にくり抜かれた。
穴の形は皮肉にもクッキーのように丸かった。
ババアの拳がヒグマの頭部、いや口へと叩きこまれた。
すべてを捨てたclick1でもrushでもないcrash(破壊)。
ババアの手の中にあったのは全身全霊の麻酔クッキー。
口の中で握りつぶして、口内から食道へと叩きこむ。
穴持たず、膝が崩れた。
ババアの余命は後数秒。
ヒグマは意識がなくなったのみ。
しかし、ババアの大願成就には十分な時間。
ババアの瞳に涙が一筋落ちた。
それは、これから行う友への非道な行いをすることへの申し訳なさか。
あるいは、そう――――――
【クッキーババア 死亡】
ウォーズマンは一部始終を見ていた。
木々がなぎ倒され、大地割れ、空荒れ狂う激闘を。
そして、その終わりにてババアが穴持たずへと恋人のように覆いかぶさり
如何なる術を持ってか穴持たずをひとつのクッキーにしたことを。
ウォーズマンは何も知らない。
だが彼とて戦闘に生きる機械超人。
ロビンマスクには最も優しい男と称されるほどの人情家。
言葉はいらなかった。
安らかな顔で事切れたババアの手に握られたクッキー。
それは生きながらクッキーに改造することで
穴持たずの野生と残虐性を再現しきったババア最高傑作のクッキー。
ヒグマで出来たクッキー、ヒグマッキー。
ウォーズマンは静かに今は亡き誇り高き勝者ふたりに敬礼した。
【E-6町/黎明】
【ウォーズマン@キン肉マン】
状態: 健康、強い決意
装備:ベア・クロー@キン肉マン、ベルモンドのオーバーボディ@キン肉マンⅡ世、ヒグマッキー(穴持たずドリーマー)
道具:基本
支給品、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、マイケルのオーバーボディ@キン肉マンⅡ世
基本思考:殺し合いを粉砕し、脱出する
1:まずは仲間を集める
2:ヒグマや殺し合いに乗った者は迎撃する(参加者はなるべく説得したい)
※クッキーババアはジョーカーでした
※ヒグマッキーを食すと穴持たずドリーマーは死にます。
ヒグマがこれを食べてどういうリアクションとるかは知らない。
最終更新:2015年01月17日 11:32