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初期不良


ふぅ。全く面倒臭いことに巻き込まれてしまったものですねぇ。
今まで行ってきた行為のツケが回ってきたとしても私は別に驚きませんが、まさか我が護衛たる信者共の目を掻い潜ってこの私を拉致するとは、只者ではなさそうですが。
重火器で武装させ、全員が全員害悪の討伐に何の躊躇いも持たない狂人共。
例えば私が『人を1日十人殺すと救われる』なんてとんでもない出鱈目を宣おうが信じるような連中ですよ。悪く言えば只の馬鹿ですが、信じる者ってのは余りに恐ろしい。
教団の為になら一つの一族を根絶やしにして、教団の為になら町一つを数時間で灰にする。
この世で最強のテロ組織なんて驕る気はありませんが、彼らを敵に回すと思うと今まで幾つもの戦場を越えてきた私とて背筋に冷たいものが走りますよ。
私こと阿見音弘之が『白鷺教』に行ってきた詐欺行為が発覚すれば、顔を変えなければならないでしょう。
む。つい暴露してしまいました。
では此処で宣言しておきましょう。
阿見音弘之は『白鷺教』のタカ派教祖としてこの日本に潜伏する活動家――いわばテロリストです。
目的なんてものは―――悪役らしく、世界により多くの絶望と嘆きをもたらすこと、で構いませんかね。

信者達は先程言ったように、私をすっかり神格の存在と信じきっている狂人共です。
おめでたい連中ですよ?良ければ『神の友人』とでも言って紹介してみましょうか?きっと貴方の命令なら何でも忠実に聞くようになるでしょうよ。何てったって阿見音弘之は『神』なのですから。
しかも質が悪いことに。彼らは自分達を弱者であると自称するんですよ。
弱者を必ず神は救って下さるだとか、訳の分からない論理も何も成り立っていないことを並べて。
私は無神論者ですので神様の感覚などちっとも分かりませんが、自分のことを弱者であると自覚してそれを主張するような人間が『弱者』な訳がないことくらいは理解できますからねぇ。
愚かです。
全く、何故彼らでなくこの私が――おっと。そういえば私はテロリストでした。

おっと、少しばかり話が逸れすぎてしまいましたねえ。
誰も私の身辺事情など聞きたくもないでしょうし、そろそろ本題に移らねば。

私、阿見音弘之は単刀直入に言ってしまえば《殺し合いには乗りません》。
何故って?私はテロリストですが、別に何の誇りもなく何年も手を変え品を変えて犯行に及んできたわけではないのです。少なくとも、誰かのプラン通りに動くなど不愉快極まりない。
潰しますよ?あの人無とかいう餓鬼共は、我が《白鷺教》が責任を持って取り潰させて貰う。
我が教団に入信したいというなら止めはしませんがねえ、……そうだ、この場で信者を増やすことだって別に悪いことではないのではないでしょうか?
ふむ、我ながら名案と言わざるを得ませんねえ……殺し合いを潰すにも楽そうだ。
やるからには勝たせて貰いますよ、私負けることは大嫌いなのでね。
売られた喧嘩は買いますし、《関わらなきゃ良かった》と相手に思わせる勝ち方を心掛けています。

―――正義だの希望だのと喚く理想主義者。

殺し合いに背く連中など、どうせそういった愚か者共でしょう。
幻想にすがり付き、更にその幻想を他人にまで押し付けて優越に浸る―――詐欺師もいいところだ。
逆に殺し合いに乗って貪欲に、現実的に生きようとする奴等こそ人間らしいと言えるでしょうね。
私は幻想にすがり付く人間が大嫌いで、冷たく欲望のままに生きるリアリストを好みます。


故に、理想主義を並べ立てる詐欺師共と同列に見られるのは大変心外なのですが―――殺し合いを潰すにあたって、彼ら詐欺師は今こそと奮起する筈なのです。
私はそこにつけ込んで散々掻き回し、絶望させ、幻想を徹底的に殺して見せましょう。
最後に何が残るのか?幻想が死んで理想を亡くした彼らが、理想だった主催転覆を実現したとき、彼らが勝ち取るのは清々しさも爽やかさも皆無、只の虚しさと悲しみが残る。
私はそれが見たいのですよ。
全てを終えて、多くを喪った者達の――絶望さえ通り越した、只の伽藍の洞となった表情を!

ああ―――楽しみだ。



河田遥は、夜の森を出せる限りの速度で疾走していた。
顔に浮かんでいる僅かな困惑と、何かを案じるかのように潤んだ瞳は何処か扇情的でもある。
現に彼女は今、とても焦っている。
一刻も早く探さなければ。そして、《あの時》のお礼を言わなければならない。
疲労に悲鳴をあげる体に鞭打って、河田はひたすらに走る。
河田遥。
少しばかり電波系であることを除けば、さして変わったところのない普通の少女。
超能力やら魔法やら、人外の怪物やらなど影すら見せないほどに、平穏な日常を送ってきた。
あの時―――二人の女によって、殺し合いをさせられるまでは。
唐突に呼びつけられ、何が何だかよく分からないままに殺し合いの舞台へ飛ばされ、彼女の平穏な日常は完全に崩壊してしまったのだ。
この《バトルロワイアル》の参加者としてそんなことは然程珍しいことではないが、彼女は少し違う。
河田は、優勝者だ。
不本意であったし、進んで殺し合いを行おうともしなかったのに、彼女は勝った。
殺人に何の躊躇いも抱かぬ連中や狂った殺人者達を凌いで優勝したことは、まさに奇跡とさえいえよう。もしも普通に戦ったなら、彼女は殺されていたっておかしくはない。
ゲーム開始後も余り危険な相手に出会さず―――逆に、河田遥が命を後に救われる相手と出会った。
それが結果的に河田遥という少女の幸福に繋がったのかは彼女にしか分からないが、彼女は丹羽雄二という青年に身を挺して命を救われたのだ。
結果丹羽は死に、河田は優勝者となった。
嫌悪を隠せなかった殺し合いで、皮肉にも殺人者を押し退けて頂点に立ってしまった、そんな終わり。
優勝した知らせを受けて―――その後直ぐに、割り込んできたかのように、殺し合いの《第二ラウンド》が始まった。またも、訳も分からぬままに物語の登場人物に選ばれた。

しかし、全てを失い総てを手に入れた少女は、名簿に記載されていた有り得ない名前を見た瞬間には、もう無我夢中で走り始めていた。何もかもかなぐり捨て、ただ、走る。
丹羽雄二―――自らの恩人。死んだはずの彼の名がどうしてとは思わなかった。
礼を言わなければ。自分と出会わなければ、少なくとも彼は死ななくてもよかったかもしれないのだ。
確かめなければ。あの時、丹羽が死んだ時に感じた、悲しみとも別の感情が一体何なのかを。
それが好意だとは分かっている。
だからと言って、丹羽にもう一度会いでもしなければ、本当にそうなのかは分からないままだ。
会いたい、その一心で少女は走っていた。
だが彼女は別にプロの陸上選手などではないのだから、幾ら大切な人にもう一度会うためとはいえ、無尽蔵の体力で走り続けられる筈がない、当然バテが来る。
近くの樹木に寄りかかろうとするがバランスを崩し、地面にへたり込む形となった。

「………っ、過剰、運動」

少しばかり無理な運動をし過ぎた、とでも言ったのだろう。
現に河田は、かなりの体力を殺し合い開始早々で消費してしまっている。
当てもなく、この広いエリアの中で特定人物を探すために走るなど失笑モノの愚策だ。


だが、策だとか殺し合いだとか、そんなことは先程まで河田の頭の中からは消失していた。
冷静になってみると、自殺行為とさえいえる暴挙だったことに気付き河田は苦笑する。

「丹羽君……私如何良?」

《丹羽君、私はどうすればいいの――――――》
いざ冷静になれば、自分が今置かれている状況がどれほど理不尽なものかがよく分かる。
優勝した瞬間に他の殺し合いに参加させられるなど、あんまりだ。
丹羽雄二にもう一度会うことが出来るかもしれない望みが無ければ、彼女は絶望していただろう。
一難去ってまた一難、なんて次元ではない。

「少休憩後……丹羽君捜索、戻」

どちらにせよこのままでは丹羽の捜索など出来ないだろう。
走れメロスじゃああるまいし、刻限が定められている訳でもないのだから、休んだっていいはずだ。
しかし、丹羽にもしものことがあったらと考えると、言い知れぬ不安が込み上げてくる。
一人不安と疲労、そして殺し合いへの苦悩が螺旋を成したようにぐるぐると頭の中を回る。
はあ、と深い溜め息を吐き顔を上げたとき――――、其処に男は、居た。

白髪か銀髪か判別不能なまでの色素の薄い頭髪。
全身を研究者の如く白衣で包み、右の眼は翡翠色の瞳孔―――義眼。
見るからに怪しい、絶対に普段ならお近付きになりたくないような男だと河田は思った。
男はにやにやと、まるで値踏みするように河田を見つめ、顔面だけで、笑っている。
河田と数秒間視線を交わし合うと、根負けしたかのように笑い声をあげて、男は僅かに頭を垂れた。

「少しばかり盗み見させて戴きました……すいませんねえ、相手はよく見定める性格なんですよ。
神経質とも言えますし人間不信とも言える、或いは自意識過剰とも言えますねぇ―――自己紹介が遅れました、私阿見音弘之と申す者です」

「阿見音、弘之?」

そうですよ、と阿見音はまたも、にやにやと笑う。
一方の河田遥は、この阿見音弘之と名乗る男を信じていいものかまだ計りかねていた。
恐らく殺し合いには乗っていないだろうが、笑顔ばかりを浮かべるその表情が、何故か不安にさせる。
フレンドリーさなど微塵も感じられない。確かに阿見音は笑っているのに、重圧さえ感じるようで。
言うなれば、この男は殺し合いに巻き込まれた不幸な《被害者》に見えない。殺し合いを楽しみ愉悦さえ覚えているような、どちらかと言えば《加害者》にさえ見えてしまう。
しかし明確に彼は加害者でなく、被害者なのに被害を被っているようには見えない。
得体の知れない感覚に襲われながらも河田は自らの名を名乗った。

「ふむ、河田遥さんですか。殺し合いには乗っていないようですしお仲間ですね……さて、一つ質問させて貰いますねぇ……貴女は息切れをしている、どうも体力を消耗しているようですが。
《体力を消耗せざるを得なかった程の理由》が有る筈です。殺されかけるなり、色々とね。
思い出すのは辛いかもしれませんが、情報を提供して戴ければ後々色々助かりますので」

生憎、そんな大それた理由はない。
人探しの為に走っていたとしか言えないのだが、丹羽のことを教えても良いものか迷う。
そもそもこの阿見音弘之、まだ一度も《殺し合いを行うか否か》を語っていないのだ。
丹羽のことを教えて、後々丹羽が危害を被るような目に遭っては笑えない話だ。
しかし、河田にはこの男を完璧に騙せる自信がどうしてもなかった。


「捜索、丹羽雄二。現在休憩中」

丹羽雄二。
阿見音は名簿で丹羽の名前を指し、河田に確認を取った。
珍しい喋り方をするんですねぇ、と阿見音は若干苦笑混じりにまた、笑う。

「その丹羽くん。貴女にとってどんな存在なのですか?恋人とか、ですかねぇ」



予想外だった。
てっきり《この人物は信頼するに足る人物なのですか》などと聞いてくると思ったのに、まさか丹羽雄二という人間が河田遥にとって何なのかを問われるとは思わなかった。
いざ答えようとして、詰まる。詰まってしまう。
丹羽雄二が河田遥にとってどんな存在なのか。決まっている、命の恩人以外の何だと言うのだ。
だが、答えられない。
言葉が思い付かない。
恩人なのは確かなのだが、何故か《それだけではない》と河田の深層心理が語りかけてくる。
何だと言うのだ?
自分の命を、文字通り命を賭して救ってくれた青年を他にどう形容する?
本当はもう答えなど出ている。
ただそれから、目を背けているだけなのだ。
自分は、丹羽雄二に間違いなく好意を懐いている。もはやそこに、揺るぎはない。

ならば―――答えなど一つしかない。

しかし河田遥は、阿見音弘之と言う人物の――《悪意の深さ》を《現実主義》を、見誤っていた。
丹羽雄二に河田遥が懐く《好意》を言葉にして表せば、それこそ阿見音の餌になる。
もう、遅かった。


「私、丹羽君、明確好意」


私は、丹羽君に明確な好意を懐いています。


「―――――っ、はははははははははははは」


返答は感嘆でも嫉妬でも感動でも呆れでもなく、今度こそ心の底からの爆笑だった。
ひとしきり笑い終えると、阿見音弘之は元の《空の笑顔》で、にやにやと河田を見据えた。

「私、貴女とは仲良くなれそうだと思ったのですがねぇ……うふふ、貴女はどうやら私のような人間と、幻想で出来たような人間と会わない方が面白そうだ」

それでは、とその白さが目立つ体を翻した。
最後に一つ、とまるで思い出したかのように阿見音弘之は立ち止まり、河田に顔だけを向ける。

「神様からのアドバイスです、丹羽雄二という人物が大切なら、守った方が良いですよぉ。それこそ――――"何を犠牲にしても"守り通すくらいの覚悟を持つといい。
大丈夫ですよ、貴女が最悪の方法を執ったとしても、きっと丹羽君は《憎まない》」



河田遥は、静止している。
脳で阿見音の《アドバイス》を反芻しながら、自らの道を見定めるように、静止している。
彼女の辿る道は如何なものかはまだ誰も知りはしない。
神を名乗った阿見音弘之さえも、何も知りはしないのだ。

「私、如何?」

呟きが空しく、河田の鼓膜を揺さぶった。



【朝/森/一日目/G-5】


【河田遥@DOLオリジナルキャラバトルロワイアル】
[状態]疲労(中)、困惑
[服装]特筆事項なし
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
基本:丹羽君、捜索。
1:私、如何?
[備考]
※DOLオリジナルキャラバトルロワイアル、優勝直後からの参加です



面白い。
なかなかどうしてこの殺し合い、見世物としては超一級品ではないですか。
ナンセンス極まりない、粗雑で下らないものかと少し侮っていましたよ……いやぁ、たまらない。
河田さん、でしたね。あの子はなかなかの逸材だと思いました。
あれは慣れている目でした。彼女、殺し合いに巻き込まれたのって此が初めてではないのではないでしょうか?何か、まだまだこの殺し合いには深い闇がありそうです。

「ふふふ、ふふふふふふふふふ」

心が躍る。
こんな感覚は久し振りですねぇ……最近はここまでの愉悦には、浸っていませんでしたから。
そういえばこの殺し合い、うちの深雪も参加させられているんでした。
あの小娘は愚かなことに、私に対する信仰も安定してはいない……言ってしまえば役立たず。
ほんの少しで揺らいでしまうような、宙ぶらりんな彼奴は――多分私の敵になるでしょう。

「ふふふふふふふふふ、っふふ」

良い。良い。良い。良い。良い。良い。
殺し合いへの反逆など取り止めですねぇ、これは。
散々引っ掻き回して、理想主義者を現実で塗り潰して、時には殺して、生きましょう。
愉悦の為に。
白鷺の神である私が人を導かない――これは《祟り》と言ってもいいでしょうかねぇ。

「ふふふふふふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ」

神とはすべからく悪辣であるべし。

【阿見音弘之@愛好作品バトルロワイアル】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考・行動]
基本:《白鷺の神様》として祟りと称し愉悦を求める。
1:ぶらぶらしましょうか
[備考]
※愛好作品バトルロワイアル参加前からの参加です


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最終更新:2012年05月04日 00:13