いつでも微笑みを

「……ふむ」

まだ遠方ではあるが、ほんの僅かに、人工物のような物が見える。
阿見音弘之は森の中を歩き続けようやっと人工的な物を発見した。

「行ってみましょうか……」

人がいる可能性は高い。
遭遇したらその相手をどうするかはまだ未確定だが、行ってみる価値はある。
弘之は人工物に向けて足を一歩踏み出す。
その弘之の背中を狙い、背後から息を殺して接近する者がいた。
その手に持っている物は葬儀・法要に使われる黒いネクタイ。
先刻、彼女――――緑川美紗子はとある老人を襲った。老人相手なら難なく勝てると踏んで。
しかし結果は無惨に敗北、武器を奪われ悔恨の涙を流す事になった。

(今度は……今度は失敗しない、絶対に)

狙うは前方にいる、銀髪を肩まで伸ばした男。
背後から迫り、ネクタイで一気に首を絞め上げる。一気にやる。さもなければ、
相手は男でこちらは女、力の差は歴然なのだから返り討ちに遭うのは明白。

(やってやる、やってやる!)

そして美紗子が動き出す。
一気に男の背後に迫り、男の首に向け黒のネクタイを巻き付け――――。


……

……


「があ……がはっ……」

数十秒後、そこには腹を押さえて悶える美紗子の姿があった。
押さえている手の間から赤い液体が滲み出ている。

「危ない危ない、背後から不意討ちとは考えましたね……しかし、私もそう甘くは無いのですよ」

美紗子を見下ろす男、阿見音弘之の右手には、血に塗れた小型の折畳ナイフ、
肥後守ナイフが握られている。
美紗子が弘之の首にネクタイを巻き付けようとしたその瞬間、弘之は屈み込んでネクタイをかわした。
そして腰の辺りに隠していた肥後守ナイフで、美紗子の腹を突き刺した。

「ぐぅ……ぎぃ……」

またしても自分は仕損じた。
しかも、今回は前回とは違い、命に関わるような深手を負った。
悔しさと無念さ、そして傷の痛みで頭が一杯になる。

「貴方は、殺し合いに乗っているようですね」

美紗子の苦しむ様子等お構い無しで弘之は話し掛ける。

「はぁ、はぁ、だったら、何……」
「いえ、どうもしませんけどね……何か、理由がおありですか? 殺し合いに乗る、理由が」
「……そんなもの、無いわよ」
「ほう」
「はぁ……はぁ、私は、私のために行動して、私のために殺そうとしただけ……仲良しごっこなんて御免、よ」
「……成程」

それだけ聞くと、弘之は美紗子の髪を掴み、ナイフをその喉元に当てた。
覚悟したのか、ふっ、と自嘲気味な笑いを浮かべて美紗子が弘之に言う。

「……殺すなら、殺しなさいよ。どうせ、一度は死んだ身よ」
「……貴方の名前を、お聞かせ願いしますか」
「緑川、美紗子」
「……私は阿見音弘之。緑川美紗子さん……名残惜しい気もしますが、お別れです、さようなら」

美紗子の喉に、ナイフが突き刺さる。
すぐに刃が引き抜かれ、大量の血液が溢れ出し、美紗子は崩れ落ちた。
溢れ出た血液は地面に染み渡り草を赤く、土を黒く染める。
薄れ行く意識の中、美紗子が最期に見た物は、自分を見下ろす銀髪の男の顔だった。

緑川美紗子の死を見届けると、弘之はナイフの血を美沙子の衣服で拭い取り、彼女の持物を調べる。
しかし、特に使えそうな物は無い。デイパックの中には基本支給品以外何も入っていない。
彼女の支給品はネクタイのみだったのか、それとももう一つ、或いは二つあったが何らかの理由で失ったのか。
ともかく美沙子の荷物からは使えそうな物は何も見付からず、弘之は再び遠くに見える人工物目指し歩き始めた。

「自分のために行動し、自分のために殺す、慣れ合いは不要……緑川美紗子と言う女性は、
孤独な人生を歩んできたのか……まあ、最早知る手だてはありませんし、興味もありませんが……ね。
さて……あれは……学校、ですかね」

目指していた人工物が、学校の建物らしいと言う事に気付ける位置に弘之はやって来た。
地図にも載っていた施設であり、人がいる可能性はますます高まる。

「……ふふふふふふ、ふふふ」

これからあるであろう出会い、遭遇に弘之は期待を寄せる。
先刻出会った「河田遥」、先刻殺した「緑川美沙子」、さあ、次は誰が来るのか。
殺し合いに抗う理想主義者、偽善者か、それとも殺し合いに則る現実主義者、異常者か。

阿見音弘之は、とても楽しみにしていた。


【緑川美紗子@需要なし、むしろ-の自己満足ロワ3rd  死亡】


【F-5/学校周辺の森/一日目/朝】

【阿見音弘之@愛好作品バトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:肥後守ナイフ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:≪白鷺の神様≫として祟りと称し愉悦を求める。
1:学校に行ってみましょう。
[備考]
※愛好作品バトルロワイアル参加前からの参加です。


※F-5学校周辺の森に、緑川美紗子の死体、及び葬儀・法要用ネクタイ、デイパック(基本支給品一式入り)が放置されています。


≪支給品説明≫
【葬儀・法要用ネクタイ】
緑川美紗子に支給。
葬儀や法要の時に使う黒色無地のネクタイ。

【肥後守ナイフ】
阿見音弘之に支給。
日本で戦前から使われていた簡易折畳式の小型ナイフ。


時系列順で読む


投下順で読む


021:初期不良 阿見音弘之 056:メカクシコード
022:リーチの差なんて Pt.2 緑川美紗子 GAME OVER

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年06月16日 12:33