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二者択一のジョーカー

◆◇◆

―――――バトルロワイアル開幕より半日前

◆◇◆


今日の仕事が終わった。
私は一息つきながらも、自分への褒美として愛好する『ミルクセーキドリンク』を自販機にて購入する。
周囲をうろついている善良な一般市民が『うわ……こいつあれ飲むのかよ』というような奇異の視線で見てくるが、いやはや愚かなことだと思うよ。
この胸焼けを通り越して吐き気がするような甘さ、果実が恋しくなるようなくどさ。
私は決して甘党ではないが、昔からこういった『不味い』ものが大好きでね。今でも時折こうして悪食に浸るのだが、意外なことにこの行為、ひどく目立つ。
コンビニなんかで続けていれば、レジの店員に顔を覚えられるし。
こうして自販機でやっていても、道を通る善良な一般市民に『いつもの人』とか認識されてしまう。
それは困るのだよ、少なくとも私、銀丘白影にとっては職業柄絶対に避けたいことだ。

銀丘白影はそちら側の界隈ではそこそこ名の知れた『玩具』の売人である。
拳銃、薬物、時には情報、技術さえ金額次第で提供する、誰にでも平等に味方する中立の人間だ。
拳銃なら安くて三万円。
……破格だろう?これには訳があってね、私はそれより遥かに安い額で商品を仕入れている。
スポンサーだ。
私が弱味を握り、いつでも破滅させられるような人間から買っている。
薬も、情報も――――な。
勿論警察に見付かればやばいってレベルじゃない、間違いなくお縄だし最悪消されてしまうだろう。
いやまあ、『そうならないための』手段くらいなら用意しているんだが――何分、目立つのでな。
普段からこうやってこそこそと、絶対に目立たないように心掛けて行動することが大切だ。
買っている恨みだって数えきれない、私は詐欺師でもあり霊感商法のインチキ霊媒師でもある。
一度は刺されたこともあったな――闇医者の世話にならなければいけなかったのはあれが初めてだ。

長々説明してきたが、そういうことだ。
ミルクセーキドリンクを飲み干し、缶を適当にその辺に捨てて歩き出す。
今日も旨かった。
そろそろ顔を覚えられたかもしれない、次の町に移るか―――なんてことを考えているとき。


目の前に一人の少年が躍り出た。


年齢は推定18くらいか、まだまだ青臭さが残っていてもいい年頃だろうに。
その目はどうしようもなく覚悟を決めている目で、しかもどうやら私に用があるらしい。


(…………ふむ。私を殺しに来たか……いや、少し違うようにも見えるが)


殺しに来たならば、私のような闇の人間を殺すのに素手で足りるとはまさか思っているまい。
ナイフでもまだ足りない、能力のことを考慮すれば拳銃でも少しばかり物足りないといったところだ。
ならば、購入か。
このくらいの年ならば近頃流行りのドラッグがあった筈だ、今も上着のポケットに入っている。
相場は百グラム辺り五千円くらいだが、四千円でも損はしないか。
私が上着のポケットに手を突っ込み、薬を取り出そうとしたその時。
少年は静かに、口を開いた。


「四百億です」

「………なに?」

「ボクに協力してくださったなら、確実に、間違いなく四百億円をお支払します」


――――――――馬鹿な。四百億だと?

私が今まで稼いできた額よりも二百億ほど大きい額、それをこんな餓鬼が支払えると言うのか?
御曹司?
いやいや、有り得ん。
某国民的アニメの特徴的な髪型をした彼だってそんな額は払えまいよ。
しかもこの餓鬼の目はどう見たって親に金を工面してもらうような『甘ったれ』には見えない。
何があろうが金を用意する、どんな手を使っても。
これはそういう目だ。
はてさて、如何にするか銀丘白影。
恐らくはこれから依頼される仕事はこれまでやってきた仕事の中でも最悪級の大仕事になるだろう。
生きて果たせるかどうかすら怪しい程の、危険な仕事だ。
断っても私には何のデメリットもない。
金なら稼げばいいし、別に目下大金が要る用事があるなんてこともない。
親孝行するにも親は死んでいるし、家族と呼べるのは双子の姉くらいだがーーー三年間音信不通だ。
募金なんて糞食らえだし、それだけの額ともなれば持っているだけで嫌でも目立つ。
リスクを冒して一攫千金を狙うか、それともこのまま堅実に仕事をこなしていくか。
私はしばし黙り―――言った。


「八百だ」
「………え?」
「八百億円。それでお前の話に乗ってやると言っているんだよ、少年」


倍額。
この条件に乗ってくるならば、私も覚悟を決めよう。


口座の金が二百億、そして今回の仕事をこなせば夢の四桁だ。
この際五百億は投資にでも回してみるのも面白い―――隠れる生活も終わらせられるだろう。
少年はしばらく呆然としていたが、やがて静かに笑った。

「承諾しました……じゃあ、契約は成立ですね」
「ああ、これで私は君の駒だ。好きに使い潰すがいいぞ」


◇◆◇


「驚いた……流石の私も、こう来るとは思わなんだ」


私は、驚きを通り越してもはや感嘆に近い感情を抱いていた。
少年――人無結と人無つなぎの二名を主催者に据えた、ルール無用のバトルロワイアル。
『目的』が何かは話してくれなかったが、どうも単なる物好きな好奇心が起因となった訳ではないようだ。
このバトルロワイアルは所詮前座。
人無の兄妹が真に目的とするはその先にあることは、想像するに難くない。
しかしそんな、思い描こうが誰もが妄想の中で終わらせてしまうような突拍子もない蛮行を、実行しようとする――――それほどに重大な、未だ成人にさえなっていない少年が人間のルールに背いてまで叶えんとする目的に、興味が沸かない訳ではない。
これは、久方ぶりに抱いた好奇心という感情だった。
要らぬ詮索は身を滅ぼす。
そんなこと、私らの世界では幼稚園児の知識と同じくらいに当たり前の一般常識である。
只、己の役目を果たすことだけを考えていれば長く生きられる、当然私もそれに則ってきた。
その私が今、心の底からこの兄妹に好奇の念を抱いているのだ。
金額云々の問題ではない。
このバトルロワイアル、結末を見届けたくて堪らない。

「そこで、貴方にはこのバトルロワイアル―――『ジョーカー』となって貰いたいのです」

ジョーカー。時に死神となり時に救世主となる、対極の二面を持ち合わせたイレギュラーのカード。
スパイや工作員のことを評したりもするし、とにかく重要な意味を持つ単語なのだ。
私が、ジョーカー。
いやいや、ちょっと待て。
幾ら何でもこれは聞かずには居られない――逃げる気など毛頭ないが、意味が分からない。

「……おいおい。役不足ってもんじゃないのか、私では。不意討ち闇討ち上等の銀丘白影、はっきり言うが『サイキック』に頼ったとしてもまだましな人材が居るだろう」

「そうですね。確かにもっと優れた人材なら何人か居ます。この『ジャック・ザ・リッパー』なんかを起用した方が、より多くの屍を積み上げてくれるでしょう―――しかし」


人無結は目を鋭くして言う。


「ジョーカーの意味するは大量殺戮者ではありません。言ってしまえば『ゲームを盛り上げ、殺し合いを誘発してくれる人材』のことです」

殺し合いの誘発、ねえ。
良く言えば『ジョーカー』だが、私らの世界の言葉でなら『サクラ』と呼ぶべきだろうな。
参加者達の中に潜り込み、不穏と不信、時には殺戮を振り撒いてぬるい仲間意識を、善意を、内側から徹底的に掻き乱して、より多くの殺し合いを誘発する。
結果的に『ジョーカー』が生き残るかどうかは別として、『ジョーカー』はそういう役目らしい。
成る程。自画自賛のようだが、それなら私が選ばれるのも何となく頷ける話ではある。
職業柄、騙し合いには慣れているのだからな。

「『ジョーカー』の特権として、他の参加者に装着される反逆防止用の首輪の装着を免除します。禁止区域などに縛られていれば、動き辛いでしょうしね」


なかなか破格な特権だ。
首輪の詳細とやらは分からんが、こいつらのことだ、どうせろくでもない物に決まっている。
危険な因子は一つでも多く潰しておくに限るからな―――それをあちらからしてくれるとは有難い。
うむ、こうして考えれば、この話。
意外と悪い話でもないらしい。

「いや、出来れば支給される品も私に選ばせてほしい。私の力はさっきも言ったが余り強くなくてな、まだ足りないというのが本音だ」

人無は暫く考えるような素振りを見せていたが、暫くすると『やれやれ』と言った風に笑った。

「分かりました。貴方の言う通りの物を用意しますよ」
「ガソリン、対戦車用ライフル……後はこの首輪を一つ」


■◇■


そして私は今、此処に居る。
あの悪趣味な―――『どう考えても異常としか思えない』開会式を終え、表向きには参加者の一員として、しかし裏では主催者から密命を受けたサクラとして、殺し合う為に。
デイパックの中身を確認したところ、確かに言った通りの品が入っている。
ガソリンの量が少し予定していたより足りないが、爆破に用いるなら申し分はない。
後は爆弾にもなり、参加者達との交渉材料になり得る首輪型爆弾、そして一撃で相手を根絶やしに出来るであろう超火力の対戦車用ライフル……十全だ。
これでなら、正面から参加者を狩っていくことだって容易に出来る筈だ。
私の爆弾能力と併用すれば、戦術次第では十分に勝ち抜ける―――だが、しかし。

(これで良いのか)

本当に、人無の兄妹は信用するに値するのか?
それだけがどうしても、心の何処かで不安感として巣食っている。
あの齢にして殺し合いのゲームなんぞを考え付くような、あんな目をした彼を――信用していいのか?
残念ながら私には彼の『催眠術』に対して打つ手がない。
成す術がない、と言ったっていいな。



改めて考えてみれば、私が正面から参加者を狩っていくことは容易ではないのかもしれない。
爆弾、火力、兵器、交渉。
私は全てを保持している―――だからこそそれが、私の爆弾となる。
驕るな。
悪人が何故敗北するかなど古来より決まっているのだ。
自らの力に驕り、警戒を怠って些細な危険因子を見落とし、下らない理由で命を落とす。
私もまた例外ではない。策を巡らせる蜘蛛は、獲物の最後の抵抗で死する。
何が言いたいのか。そんなものは簡単だ――――『ジョーカー』になるか、否か。
私は素直に今回の仕事に応じてやろうなどとは思っていないし、何より我が身が可愛い。
首輪は外れた。
装備は十二分、おまけに皆が欲して止まないであろう首輪のサンプルまで私は所有している。
勝つための鍵は、ある。

(しかし、な。あの人無がまさか何の手も講じていないなんてことはないだろ……それに、対主催を掲げる勢力だってどれほどのものか分からない以上、まだ早いか)

虐殺を敷くか、偽善を名乗って騙し欺き、あの二人の思惑を打ち砕くか。
ここが、早くも山場だな。
選択を誤れば間違いなく私の首が飛ぶ、慎重に、よく考えて決めなければならないだろう。
うんうんと唸りながら私は何の気なしに、一軒の工場に辿り着く。
戦況が分からない今、迂闊に出歩かずに此処に潜伏しておくというのも良い。
敵が来たなら殲滅、対主催思想者なら情報交換程度に止めて適当にお帰り願おう。
第一回の定時放送を聞くまでには、『ジョーカー』か『偽善の勇者』かを決めておかねばなるまい。
ねちねちと悩むのは性に合わない、悪巧みをすることなら大好きなのだが。


「……何者だ」


声がした。
男の声、経験で分かるが相当な場数を踏んだであろう強者のもの。
このバトルロワイアルという極限の場でさえも臆せず、既に動き出しているであろう人物。
完全なニアミスだ。建物ごと吹き飛ばしてしまうという手もあったが、それは幾ら何でも早計過ぎる。
まずは会話――相手に、私が信頼の出来る、味方側の人間だと認識させなければならない。

「済まない。不躾だったな……私は銀丘白影と申す者だ、殺し合う気はない」

私の返答を聞くなり姿を現したのは、何ともまあ、時代錯誤な風体の男だった。
その傍らに居るのは小学生くらいの小さな少女……しかしながら、その周囲には無視できない、余りにも異常すぎる違和感が蠢いている。
ゲル状の、水色をした物体―――触手。
恐らくこの少女は私と同じ異常能力者であるのだろう……まさか、本物の怪物と思うとでも?
私の奇異の視線に気付いたのか、少女は私に向けて向日葵のような笑顔で微笑みかけた。
私もまた、慣れない笑顔で笑いかける。
この陰鬱さ漂う目元の隈とかのせいで子供には怖がられるのだが、ちょっと感動した。

「こちらこそ、いきなり喧嘩腰に済まない。儂は加藤清正という者じゃ……こちらは璃神妹花殿。この触手のような物体はうにゃー殿……多少奇異なる存在だが、儂らの仲間だ」


「よろしくねー、銀丘おじちゃん」

おじちゃんかよ。
結局私はおじちゃんですよ悪かったですね……む。私はこんなキャラではないぞ。
それにしても、加藤清正と璃神妹花か……最初にしては幸先の悪いスタートだ。
この二人、両方を同時に相手取ることなど完全に不可能。
ましてやこちらが首輪を付けていないこと―――それはもう気付かれているだろうが、もしも不審な行動を取れば『ジョーカー』であることに気付かれる可能性もある。
それだけは避けたい。
そんなことになれば――こいつらを、捨て身で殺しにかからなければならなくなる。
そうすれば、こちらも無傷では済むまい。
九割五分殺される、もしくは倒されて尋問されるだろう。

「……銀丘殿。少しいいかな」

加藤清正は私が他とは異なる立場にあることに感付いたらしいな。
璃神妹花を混乱させることのないためにわざわざ個人的な話を装うか―――面倒な。

「ああ」


□□


「貴様は何者だ」


おおう、単刀直入。
何の前置きもなしに言われると流石に驚くってもんだ。
根拠など問うまでもない。
私の首に、本来あるべき違和感がない。
首輪の無い参加者、銀丘白影……この男が、私に不信を懐かぬような人間だとは思えない。
つまり此処が正念場というわけだ、この男を欺くか、利用できれば私は対主催チームに潜り込める。
未だ『ジョーカー』か『偽善者』かは決めかねているが、どちらにしろ対主催思想者である、という先入観を相手に抱かせることで随分と私の生存率は上がってくれる。
こいつさえどうにかすれば。
手練れの加藤にサイキッカーの璃神、同じくサイキッカーである私ならば戦力にも問題はない。

「私の首輪はこのデイパックに入っている」
「何故じゃ、よもやこの短時間で首輪を外したとは言わないであろうな?」
「私は主催者の内通者、言ってしまえば『ジョーカー』だ」

何だと、と加藤は僅かに声を荒げた。



ジョーカーであることを暴露する予定は無かった。
隠し通して、最悪首輪が壊れていたとでも言う筈だった―――全てはこいつのせいだ。
こいつは馬鹿じゃない。騙すには、相当上等な虚言を吐かなければならないだろう。
失敗すれば間違いなく拘束される、逃走も叶うか分からないような連中相手に、そんなリスクを犯してまで自分の正体を偽り続けなければならないとは思えない。
予定変更だ。
加藤の協力を漕ぎ着けさえすれば、後暫くは順調に進めるだろう。
こいつにだけは真実を話す。
勿論、端々に小さな嘘のピースを交えて――私の本性には気付かれないように、慎重に。

「しかし私は従う気は無い。保証が無いからだ、人無結とかいうあいつが、契約を守るかの」
「銀丘殿……信用して良いのか?」
「自己責任だよ、加藤さん。私はこう見えてもちょっとした隠し芸を持っている。それさえあれば大抵の相手は一度限り殲滅できる……これをどう取るか、だな」

加藤清正は静かに頷いた。
しかしその眼に宿る疑念の色は未だ捨てきれてはいない、か。
つくづく面倒な奴だ……一歩誤れば、私を破滅させる。
まあいい。まだ、時は早い。
殺すか守るか、決めるまでは―――偽善者気分を満喫しておくのも悪くない、か?


【B-7/工場/一日目/朝】


【銀丘白影@サイキッカーバトルロワイアル】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[装備]なし
[所持品]基本支給品一式、ガソリン(5リットル)、首輪のサンプル、ラハティL-39(10/10)
[思考・行動]
基本:今は偽善者気分
1:一回目の放送までには『ジョーカー』か『偽善の勇者』かを決める
2:加藤清正には最大限の注意を払い、璃神にも今は警戒しておく
[備考]
※ロワ参加前からの参加です
※主催者と契約した『ジョーカー』なので首輪の解除と支給品での援助を受けています

【加藤清正@DOLバトルロワイアル4th】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[道具]基本支給品一式、同田貫正國、ランダム支給品×2
[思考]
基本:殺し合いやらを止める
1:妹花殿とうにゃー殿と一緒に行動する
2:銀丘殿にはまだ警戒
[備考]
※ロワ参加前からの参加です
※うにゃーの存在を良いモノと認識しました
※銀丘白影から『ジョーカー』について聞きました



【璃神妹花@サイキッカーバトルロワイアル】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考]
基本:殺し合いなんてしない
1:このおじちゃんたちと一緒にいる
2:うにゃーの≪食事≫を探そうかな?
[備考]
※ロワ参加前からの参加です
※うにゃーは少しだけ空腹のようです
※うにゃーを認識してくれる者は≪食事≫として見られません




支給品説明

【ガソリン】
銀丘白影に支給。
車などの燃料に用いられる液体で、火気にあてると激しい爆発を引き起こす危険物。

【首輪のサンプル@オリジナル】
銀丘白影に支給。
参加者たちに装着されている首輪の精巧なサンプル、爆発はしないだけで他は本物同然。

【ラハティL-39】
銀丘白影に支給。
対戦車用ライフルで、65口径長と言う長大な銃身を持つことから“ノルスピィッシィ”(象撃ち銃)とのニックネームが付けられている。


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007:信頼できるヒト 加藤清正 055:アンハッピーリフレイン(前編)
007:信頼できるヒト 璃神妹花 055:アンハッピーリフレイン(前編)
GAME START 銀丘白影 055:アンハッピーリフレイン(前編)

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最終更新:2012年05月16日 20:57