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誰もに秘められた愚か

相も変わらず濡れた衣服と言うのは気持ちの悪いものだと、
勇気凛々と名乗っている少女は思う。
不快感もさる事ながら、肌にべったりと纏わりつく布は水分を吸っている分、重い。
おまけにこれは海水であり、真水よりもべたつくのだ。
それはきっと同行している自分より年下の少女、榎本瞳も同じであろう。
しかし、警戒は怠る事は出来ない、いつ襲われるか全く分からないのだから。

「ええと、榎本さん、その、愛崎一美さんでしったけ、貴方の友達……」
「はい、かずみんと呼んでますよ」
「他に知っている人はいないんですね?」
「まあ、そうですね、なのでかずみんが無事なのかいささか気になる所です。
少女Aさんは誰も知っている人いないんですか?」
「知っている人はいませんが気になるのはいますよ」
「そう言えば名簿には貴方の『勇気凛々』の他にも『紆余曲折』とか『切磋琢磨』とか、四字熟語がありましたけど」
「……そうです、気になるのはその、私と同じ四字熟語で載っている人達です。どうしても、ではありませんけど、
出来るなら会ってみたいとは、思っています」
「ふぅん、そうですか……」

余り興味が無い、と言った様子で瞳は凛々の返事を聞く。
自分で質問しておいて、と、凛々は眉を顰めたが、この少女はこういう性格だから仕方無いと抑えた。

「ショッピングモール遠いですね」
「歩くのも億劫ですが、我慢して歩くしかありませんね……」
「私が濡れる必要はどこにも無かったと思いますがねぇ」
「はぁ、まだ根に持ってるんですか、いい加減にして欲しいんですが」
「根になんか持ってませんよ? ただ私まで海に落とすと言う選択肢を選ばなくても良かったのでは、
と言う『If』の話をしているだけです」
「それを――――」

『根に持っていると言う』と、凛々が瞳に反論しようとした時だった。

シュッ!

二人の間を何かが勢い良く突き抜けた。

「?」
「い、今のは……ッ! 危ない!」

何かに気付いた凛々が、目の前にいた瞳を突き飛ばす。
直後、鈍い音と共に、凛々の右上腕に棒のような物が突き刺さる。

「ぐあっ……あ!」
「少女Aさ、」
「ふ、伏せて!」

激痛に耐えながら、凛々は瞳の頭を押さえ自分と一緒に地面に伏せさせた。
瞳は凛々の右上腕を見る。
刺さっていたのは矢だった。
赤い血が濡れた衣服に染みて、地面に流れ落ちる。
凛々は痛みに耐えているようで、息が荒く震えていた。濡れているのは海水のせいだけで無く脂汗もかいているのだろう。
顔を歪めながら、刺さった矢を引き抜く。
血が噴き出し緑色の雑草が赤く染まった。

「だ、大丈夫ですか……」
「大丈夫、では無いですが、何とかしないと」
「でも、こんなに血が……」
「言ったでしょう、必ずあなたを生きて還すよう、戦って見せるって、この程度の怪我でへこたれてたら、
ヒーローになんて、なれないでしょう……」

そう言う凛々の目には強い意志が宿っているように瞳には見えた。
それを見て瞳は安心する。

(良かった、戦意喪失にはなっていないようですね、まああんな事言っていたんですから、
右腕に矢が刺さっただけで駄目になられては困りますよ。頑張って貰わないと)

もっとも少しベクトルの違う「安心」ではあったが。

ガサ……ガサ……。

伏せている二人に近付く足音。

「来ますよ!」
「伏せられて狙いが付けられないから近付いて止めをって、所ですか、浅はかですね……。
私に、任せて下さい、榎本さんは伏せていて」
「……」

瞳にそう言うと、凛々は熱にも似た激痛に眩暈を覚えつつも襲撃者が接近するのを待った。

ガサ……ガサ……。

まだだ。

ガサ……ガサ……。

まだ。

ガサ……ガサ……。

もう少し。

ガサ……。

今だ。

凛々は、己の能力によって具現化させた武器「りんりんソード(凛々命名)」を左手で持って一気に飛び出した。


ガキィン!!!


大きな金属音が響く。

「……っ!?」

凛々は驚いた。
驚いた理由は自分の攻撃が防がれたからでは無い、防がれる可能性は流石に凛々も考えていた。
問題はその防いだ相手、つまり自分達を襲った人物の容姿。
狼を二足歩行にした――ファンタジーの話の中の「ワーウルフ」と呼ばれる、それ。
そんな生物が、自分の攻撃を、両手で持ったバールで防いでいたのだ。

(何ですか、この生物は、わ、ワーウルフ? 胸があるから、女、いや雌? い、いや、そんな事より――――)

目の前の生物が何であれ、ただ一つ分かっているのは、このワーウルフが自分達に明確な殺意を持っていると言う事だ。

「……貴方は殺し合いに乗っているんですか?」

言葉が通じるかどうか分からなかったが一応凛々はワーウルフに尋ねてみた。
すると、雌狼の口から驚く程流暢な人間の言葉、しかも日本語で返事が返ってくる。

「乗っていなかったら貴方達を襲ったりなんかしないよ」

そしてその返事は殺し合いの肯定。
二人は一旦互いに距離を取る。

「殺し合いに乗る理由は何なんです? 死ぬのが怖いから? それとも殺しがしたいから?」
「どっちでも無い……ある人を生き返らせたいの」
「……生き返らせたい?」
「……私の大切な人」

凛々は考える。
この人狼――性別は雌で、声色から察するに恐らく自分とそう年は離れていない――は、
決して恐怖に負けている訳でも無い、殺しを楽しむ快楽殺人者でも無い。
明確な意志を、目標を持って殺し合いに乗っている。
大切な人とやらを生き返らせるために。
その大切な人が彼女にとってどんな人物で、どんな経緯で死に至ったのかは分からない、が――。

「貴方はあの得体の知れない主催の言う事を真に受けるんですか。
仮に優勝したとして、こんな狂った殺し合いを開催するような人物が、あんな口約束なんか守ると思っているんですか?」
「……」
「それに、貴方が他人を大勢殺してまで生き返らせたいと思う程の人なら、余程素晴らしい人なんでしょう?
そんな人が、大勢の犠牲の上に自分が生き返る事を望むとは思えませんよ」
「……」
「今からでも遅くないです、そんな馬鹿げた事は――――」
「……何も知らない癖に、偉そうな能書きばかり垂れないでくれる」
「……ッ」

敵意を剥き出しにした目で雌人狼は凛々を睨み付ける。

「私にとってその人は、私の全てなの。その人がいない世界なんか意味が無い。
だから、生き返らせる事が出来るなら、その可能性が少しでもあるなら、私はその可能性のために全力を尽くす。
犠牲? そんなの知った事じゃない。お兄ちゃんは喜ばないかもしれない。
そうよ? 自己満足だよ? エゴだよ? でも、私は、お兄ちゃんが幸せになってくれれば良いのよ。
一生かけても償えない罪が出来たって良いよ。私はお兄ちゃんを生き返らせるって決めたのよ」

途中から生き返らせる相手の正体を明かしてしまっている事に気付かず雌人狼は、
狂気さえ読み取れる口調で言い放った。
ぞくり、と、凛々は背筋に悪寒が走るのを感じる。
人――厳密に言うと人間では無いが――の「狂気」と言うものの片麟に触れたような気がした。
「自己満足」「エゴ」その言葉には凛々自身も覚えがある。
先刻、瞳に自分の行動指針を似たような言葉で辛辣に評価されたためだ。

「お兄ちゃんって、貴方の生き返らせたい人と言うのは……」
「……喋り過ぎた……もう良いよ、今回は貴方達は見逃してあげる」

雌人狼は踵を返し立ち去ろうとする。

「! 待ちな……」

我に返り引き止めようとした凛々に、雌人狼はバールを突き付け鋭い目で睨み付けた。

「……貴方の名前、聞いておく」
「……私は……勇気凛々……名簿にはそう載っています……あちらにいるのは、榎本瞳さんです」
「私はリーヴァイ……勇気凛々に、榎本瞳、今度会ったら、絶対に殺すからね」

それだけ言うと、リーヴァイと名乗った雌人狼は北の方へと走って行った。
あっと言う間に姿が見えなくなる程の早さであった。

「……行ってしまいました、か……うぐっ」

リーヴァイとのやり取りの最中に忘れていた右腕の痛みが今になって蘇る。
右上腕の傷口を左手で押さえながら、凛々は瞳の元へ戻る。

「少女Aさん! あの狼は……」
「逃げられまし、た……リーヴァイと言う名前らしいです。死んだ兄を生き返らせるために殺し合いに乗ったと、
言っていました」
「何と言う……」
「……止める事が出来れば良かったのですが……」
「いや、少女Aさんは良く頑張ったと思いますよ、もしかしたら私達二人共殺されていたかもしれないんですから。
それより、酷い怪我ですね……何か手当て出来そうな物は……」

瞳は自分のデイパックを開け中身を漁る。
すると、何やら白い帯紐のような物を取り出した。
鉢巻である。根性と言う文字が書かれていた。
瞳はそれを凛々の右上腕に巻き付け、縛る。

「応急処置です」
「ありがとうございます……すみませんね、こんな無様で」
「お気になさらず」
「……行きましょう。泥だらけにもなってしまいましたから」

凛々と瞳は、再び替えの服を調達するために歩き出した。

(やれやれ、この人と言いさっきの狼と言い、自分のエゴで動く人が多いですね……)

心の中で、瞳は愚痴を零す。
この殺し合い、自分自身の「エゴ」で行動している人はどれだけいるのだろう。
それが本当に幸福に繋がるかどうか分かっているのか分かっていないのかはさておき。

(まあ、とにかく、少女Aさんはまだ使えそうですからね……それは良しとしましょう)

またも心の中で、瞳はほくそ笑んだ。




「また殺せなかった……はぁ」

海沿いの草原で、リーヴァイは溜息を付く。

「いや、まだ二回目だよ、次こそは上手く行くよ! 三度目の正直って言うし」

自分を鼓舞するリーヴァイ。
その様子だけを見れば可愛いものだが、思想は危険なものである。

「……あの城……みたいな建物の方、行ってみようかな」

遠方に見える城を模した建物。
恐らく、最低でも一人は参加者がいるだろうと、リーヴァイは目星を付け、装備を弓矢に持ち替え建物へ向かった。



【G-2/野原/一日目/朝】

【勇気凛々@四字熟語ロワ】
[状態]:右上腕に矢傷(応急処置済)
[服装]:水浸しのセーラー服(右上腕付近が血塗れ、全身に泥付着)
[装備]:《りんりんソード》、根性鉢巻(右上腕の応急処置に使用)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:殺し合いの打倒。
1:榎本瞳と行動し、守る。
2:自分の名前など情報について得たい。
3:できればおなじ四字熟語の名前の人に会ってみる……?
4:リーヴァイを警戒。
[備考]
※四字熟語ロワ参戦前よりの参戦です(正確に言うと前日の就寝後)。
※《りんりんソード》に制限はありません。
※リーヴァイの名前と容姿を記憶し、危険人物と判断しました。

【榎本瞳@数だけロワ】
[状態]:健康、眠気
[服装]:水浸しの私服(全身に泥付着)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考]
基本:だるいので、殺し合いには乗らない。
1:寒い……。
2:少女Aさん(勇気凛々)と行動。
3:早く変えの服に着替えたいです。
4:かずみん(愛崎一美)に会う。
5:……ふわぁ。
6:リーヴァイを警戒。
[備考]
※数だけロワ参戦前よりの参戦です。
※リーヴァイの名前と容姿を記憶し、危険人物と判断しました。


【F-2/野原/一日目/朝】

【リーヴァイ@個人趣味ロワ】
[状態]:脇腹にごく浅い刺し傷(処置済)
[服装]:脇腹付近に血が付着
[装備]:弓矢
[道具]基本支給品一式、予備の矢(6)、バール
[思考・行動]
基本:優勝して、お兄ちゃんを甦らせる。
1:北にある城みたいな建物に行ってみよう。
[備考]
※個人趣味ロワ死亡後からの参加です。
※兄のヴォルフは死んでおり、自分はゲームを盛り上げるために呼ばれたと思っています。
※勇気凛々、榎本瞳の名前と容姿を記憶しました。



≪支給品紹介≫
【バール】
リーヴァイに支給。
工具の一種で、梃子(てこ)の原理を利用する金属製の棒。
重量のある長尺の物が今回のロワの支給品。

【根性鉢巻】
榎本瞳に支給。
「根性」と書かれた白い鉢巻。


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014:少女不十分 勇気凛々 064:自覚なき悪―――(希薄な記憶)
014:少女不十分 榎本瞳 064:自覚なき悪―――(希薄な記憶)
017:背中刺す刃 リーヴァイ 069:その先にある、誰かの笑顔の為に

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最終更新:2013年01月02日 19:36