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序章-第二幕- 苦戦





アルマ・タウン。
そう呼ばれる町がある。共和制と王政を同時に敷く類稀なる国家、
ザン共和王国の王城に比較的近いものの、
さして大きくもない町ではある。
しかし昨今の発展目覚ましく、かなり立派になっていた町でもある。

しかし、そのアルマ・タウンの一部がいびつに歪み始めた。
崩壊して出来た瓦礫などによるものである。
それの発生源たる謎の物体は幾多の障害物である
建物を破壊しながらも、なお、前進を続行、いや強行していた。

その物体は、巷で噂になっている病原菌媒介物質、
コードネーム<スプレッダー>に酷似していた。
恐らくは強固であろう貝のような外殻。
節足動物とも甲殻類とも区別の付きにくい醜悪なる多脚。
そして何より特徴的なのはこの惑星アースに存在する
いかなる生命体からも類推出来ない程の奇怪な顔である。
顔の中心に十字型の口、そしてそれを囲むような無数の赤い複眼。
恐らく気の弱い無力な市民であれば失神するであろう
その無慈悲なる迫力は、町をパニックに陥れるには充分過ぎた。
ただ<スプレッダー>報告との唯一の差異はそのサイズである。
<スプレッダー>については、少なくとも全長数十メートル規模との
報告があったはずであるが、それに関して言うならば
全長十メートルあるかないかがせいぜいというところであろう。
人間で言うところの『子供』。すなわち『幼生』なのかもしれなかった。

しかしその程度の体躯とは言え、多大なるパワーを秘めた生命体、
一般家屋を薙ぎ倒す程度の芸当は当然のように行う。
そしてまた、一軒の家屋が薙ぎ倒された。
その中からかろうじて這い出したのは、
幼き赤子、そしてその母親であった。
母親は何が起きたのかも分からず、
ただ弱き命を守ろうと歯を食いしばる。
「私は……いいの。誰かこの子を! この子をお願い!!」
母の愛情が、避難を終え、誰もいない虚空を揺るがした。
むなしく声もかき消されそうになり、スプレッダーの幼生は
あくまで前進のためにのみ、その親子の命を踏み潰そうと足を――

がぎゃっ!!

踏み出す事は出来なかった。
何故ならそこにいるのは、人類の勇気と、機知と、技との象徴たる、
人類史上最強の私設軍隊を率いる、絶対勝利の勇者、
その名もジルベルト=ストレンジャー。
彼の目の届くところに来てしまったからである。
彼の剣が、あまりにも鋭い勢い、
そして刀線刃筋(とうせんはすじ)をもってして、
その多脚のうちの一本を、一撃で切断してしまったのである。
「ぎききゃぁぁぁぁがぁぁゃぁぁぁぁ!!」
人間の可聴音域ギリギリの金切り声をあげて、
スプレッダー幼生体と思しき生命体はのたうち回る。
その悲鳴に、救助されたばかりの親子は
たちまち恐慌状態に陥りかける。
(まずい)
ジルベルトは一言も発さず、親子を守る態勢に入った。
巻き添えで怪我させるなどもってのほかである。
とりあえずは庇う形で間に入り、剣を構える。
(逃げて)
一言も発さず、遠くを指差し、母親へと指示した。
「あ……ありがとう! ありがとう!!」
すぐさま母親は子供を抱いて一目散に駆け出して行った。
(後は……)

スプレッダー幼生体が怒りの形相のまま、ジルベルトを
重大なる脅威と認識し、攻撃を開始するべく残った脚で動き始めた。
(軽く踏み潰して進むつもりだろうけど……させない)
ジルベルトは構わず、攻撃を続行しようとした。
しかし――
「がぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
スプレッダー幼生体による攻撃は予想外のものであった。
蜘蛛のような粘性の糸と呼ぶべき物体を突如として吐き出し、
動こうとしていたジルベルトをがんじがらめに巻き取る。
「!?」
予想外の動きに対処の取れなかったジルベルトは、
もがこうとするが、やはりパワーの違いは歴然としており、
動く事など不可能に近かった。
(捕食行動ッ!?)
だが、ジルベルトの予想は外れた。
多脚のうちの一つから鋭い爪が現れ、粘性の糸ごと
ジルベルトを切り裂いたのである。
そのままの勢いでジルベルトは地面に叩きつけられた。
完全なる油断である。
(これは……まずいかな……!)
ジルベルトは流血も激しい腹部をかばいながら、
幾分か頼りない機動のまま、必死に逃げ回る。
恐らく力量的には一人でも勝てない事はないだろう。
だが、怪我とそれに伴う痛みがまずかった。
否応無しに集中力が落ち、危機も増えてくる。
(せめて、せめて痛みさえ和らげば……)
彼は一人の限界を知る事になってしまった。己が身をもって。
(やっぱり……増援ぐらい呼べば良かったね……)
回避不可能な一撃を繰り出され、
やむなくダメージ覚悟での防御を
繰り出そうとしたジルベルトであった。



序章-第三幕-へと続く
最終更新:2013年03月25日 21:11