第四章-第二幕- 汝、目指すは海洋なり
「はぁ!? 船が出ないってどういう事なの!?」
ソニアが早速怒鳴り声をあげている。
「ですから!」
と反論するのは港の係員である。
「スプレッダー事件による影響なんですって! あいつらが
海をも移動してのけるせいで、それを警戒して
民間客船は全て運航を停止している状況なんです!
しかもスプレッダーが病原菌をばら撒くってんで、
その感染防止の観点からも海路は使わないってのが
国の方針になってるんですよ、今はッ!
私等だって辛いんだ、あんたらも勇者軍なら
早いトコ、アレを何とかしてくれっての!!」
と、半ばヤケになって喚き散らす係員。
「だからそれを何とかするために船出してっつってんのに、
それが駄目だったらどうしようもないでしょが!」
見苦しい口喧嘩だったので、とりあえず止めにかかるジルベルト。
(一般市民に迷惑をかけては駄目)
とばかり、しがみついて引き剥がす。
「ちょっと! ジルベルト君! 何で止めむぎゅっ!?」
またしてもソニアは言い終わらないうちにシエルに小突かれた。
「もっと確実なツテがあるからよ……シルヴィア、いる?」
と、シエルは彼女を半ば放置して、通信状態に入った。
「はいはい。もう絶対何事かですよね?」
もう見事に会話が噛み合っていないが、
そこは気にしなくてもいいだろう。
それが
シルヴィア=スターリィフィールドなのだから。
「ワイズマン・ファミリーへのアドレスコード、
あなた持ってたわよね?
悪いけど、大至急ヴェール・シティへ来てもらえるように
連絡してもらえるとそりゃあもう助かるんだけど」
「実はそのワイズマン・ファミリーの旗艦が今、補給物資の
全領域対応型重機『ビーム・カーテン改』を積んだところです。
どうせなのでそちらと合流されるとよろしいんじゃないかなって」
「あら、手間が省けて一石二鳥って奴かしら」
「石一個で鳥二匹落とすってよく考えたら凄いですよね!
それじゃ、頑張って下さいね!!」
と、微妙にズレた事を言いながら通信を切るシルヴィア。
「……あの娘も相変わらずだこと」
と、半ば呆れながら、シエルも通信を終了した。
「じゃあ、俺達はここでワイズマン・ファミリーの旗艦を
待ってればいいっていう事なのかな?」
と、ライナス。その問いには、
「はい。非常に船足の速い海賊船ですよ」
と、ユイナ姫が答える。その答えに安心して、
主力部隊のメンツは一日休息を取ったのだった。
ずずん!!
――翌日の早朝、大きく地面が揺れた。
爆発音だ。ただし瞬間的である。
スプレッダー幼生体の歩行による振動とは音質を異にする。
「行ってみる?」
と、レイリアが言ったのだが
「当たり前だ、馬鹿!」
と、エイリアに叱責されてしまった。
港の外に出てみると、スプレッダー幼生体の一体が死骸になっていた。
更に空中を見ていればジェット戦闘機の飛行音と、飛行機雲。
そして全然関係の無い方向へと飛び行く戦闘機群であった。
「あれは……
ザン共和王国民政部所属の戦闘機ですね」
と、ユイナ姫が言ったので間違いない。
「撃破してくれた、という事でいいのか?」
ジークが疑問を口にするが、まず間違いないだろう。
ミサイルの弾痕らしき命中の跡がくっきりと残っているからだ。
しかし死亡せしめたまでは良かったが、彼等には
除去手段がまったく無かったようなので撤退したのだろう。
また、海の中で死亡してしまったため、
あくまで現状は陸上重機に過ぎない勇者軍所有の
ビーム・カーテン部隊も除去行動に移る事が出来ない。
「ど、どうしよう……?」
と、ユイナ姫。
「落ち着いて。ワイズマン・ファミリーを待てばいい、と言ったのは
あなたでしょ? しっかりしてよね」
と、あくまで手厳しいシエルであった。
「はい、ここで問題」
と、更にシエルは辛口に全員へ問題を出そうとする。
「各員手持ちの情報端末から旗艦
レッド・ワイズマンの
スペックを見て考えて。
アーム城からヴェール・シティまで
何日で到着出来るか、考えてみなさい」
と、言われて全員一斉に情報端末とにらめっこを開始した。
「えーと、えーと」
「むう……」
「俺、あんまり自信無いんだよな、こういうの」
と、ユイナ姫、ジーク、ライナスが懊悩する。
「だああああッ!? やってられるかこんな事!」
と、エイリアが痺れを切らしそうになったところで、答えは出た。
「計算上は一日半ぐらい、かな?」
と、あっさりレイリアが正解を導き出す。
「流石にレイリアさんは冷静ね。スペック上はそうなるはずだわ」
と言いながらも、まともに計算に参加さえしていなかった
ジルベルトを、杖でごんごん殴るシエルであった。
「じゃあ、ここであと半日以上も足止めって事なの?」
と、ソニアから無理もない発言が出る。
「そうなるわね……苛立たしいけど」
シエルが呟くと同時に空気は変わった。
「その心配はありません」
と、突如として周囲にいた民間人と思しき群集の中から、
一人の男が現れた。飾り気一つ無い格好、
しかし素顔が見えないので妙に不気味ではあった。
「ワイズマン・ファミリーの底力を甘く見てもらっては困りますよ」
男は余裕綽々、という感じで一言付け加える。
「ワイズマン・ファミリーの関係者なんですか?」
というソニアの問いに、男はただ頷く。
しかしあくまで素顔を見せるつもりは無いらしい。
「私は既に引退した身なのでご意見番というところなのですが、
お困りのようなので、敢えて口出しをする非礼、お許しを」
「あ、いえ、それはいいんですけど」
と、丁寧に応対されてちょっとソニアがうろたえた。
「でも、このスペックだとどうしても一日半は
かかる、と姉も申しておりますが……」
と、妙に下手に出るエイリア。
「従来のレッド・ワイズマンなら、ですな。御覧なさい」
謎の男が指し示す先は海、そして赤い戦隊の海賊船が
堂々と、港へ入港してきた。
「資料と形が違う?」
と、シエルが訝るのも無理はない。全体的な形の印象が
より鋭角的なシルエットに見えたためである。
「待たせたな! 次代の大船長、コンラッド様の登場だ!」
船から何故か大ジャンプで飛び降りて、一発で
勇者軍主力部隊の間近までやってきた男が名乗った。
コンラッド、という名前らしい。
「大船長?」
と、謎の男の眉間にシワが寄った、ような気がした。
「お、親父!? なんでここにいるんだ!?」
コンラッドと名乗った男が露骨にうろたえる。どうやら父親らしい。
「その程度の操船技術で大船長と呼ばれようとは
おこがましくて笑ってしまいますね。図に乗る人はこうです」
ごんごんごんごんごんごんごん!
「ほぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
どこから取り出したのか全くワケの分からない斧が取り出され、
その柄で嫌というほどコンラッドは殴られた。
「わ、悪かった……親父、勘弁して……」
「分かればいいのです」
と、悪びれもせずにコンラッド父は斧を引っ込める。
「では、不肖の子ですが、彼が現在の船長
コンラッド=ワイズマンです。
旗艦『レッド・ワイズマンMk-Ⅱ』共々
好きに使ってやって下さい」
と、それだけ言い残して、男は未練も何も無く立ち去り、乗船した。
どうやらコンラッドがいない間は彼が……
父親が操船を行うのだろう。
「おー、痛ッ」
コンラッド=ワイズマンはようやく立ち上がった。
「あんたが
リーダーか! 俺はコンラッド=ワイズマン!
レッド・ワイズマンMk-Ⅱの艦長だ、よろしく頼むぜ!」
と、ライナスと真剣に握手するコンラッド。
「違う違う。俺じゃない俺じゃない」
「何? 違うのか?」
周囲を見渡すコンラッド。
「そうか、アンタか!」
今度はユイナ姫と握手する。
「いやいや、私でもなくてですね?」
「むう」
納得がいっていないのか、今度はジークに接近する。
「いや、私はたぶん一番下っ端だから」
と、握手される前にジークは釘を刺した。
「じゃあアンタなのか!?」
と、レイリアとエイリアを指差す。
「いや、リーダーが二人っておかしいでしょ!?」
「さもありなん」
と、ちょっと身を引いて答えるレイリアとエイリア。
「じゃあ一体リーダーは誰なんだ!?」
と、本気で困り始めているコンラッドを見かねて、
ソニアが本気の指摘をしてやる。
「アンタの目の前にいる一番ちびっ子がそうよ」
「お?」
コンラッドの目の前にいるのはひときわ小さい子だった。
たぶん身長は140cm台前半だろう。ほとんど子供である。
「コレが?」
「そう、それが」
と、ソニア。
「ぼ……」
「?」
何か言いかけているのに反応したのか、ジルベルトが
コンラッドをジッと見つめてきた。
「ボウズ、いくつだ!? 親はどこだ? 探してやるよ」
「ウチのお兄ちゃんを迷子みたいに言わないで!」
ばちっ!
激怒したシエルからプラズマ系の呪文が飛んできた。
「うげッ!?」
コンラッドが感電し、ダメージを受けている間も
当のジルベルトはのほほんと握手を求めてくる。
「お、おう。アンタがリーダーなのは何となくよく分かった。
って事は、メイベルの事も知ってんだろ?」
(メイベル?)
ジルベルトは従兄妹であるはずの名前を反芻し、そして頷いた。
「メイベルと友達か何かかしら?」
シエルの問いはジルベルトの代弁を兼ねていた。
「おう、幼馴染みでな。まあいい、
ところで逆に質問したいところだが」
と、コンラッドがジルベルト達の後方を指差した。
「アレは……あんたらのダチか何かか?」
全員が一斉に振り向くと、そこには
土煙と共に大挙して押し寄せてくる
ケット・シーの団体がいた。数は一万は下るまい。
「げっ、もう追いついてきた!?」
レイリアが本気で嫌そうに悲鳴をあげる。
「簡潔に説明するとあれは追手。急がないとマズい。
しかもルール上、こっちからは手を出せないらしいんだ。
悪いけど、すぐに出航できるかな、コンラッド艦長」
と、ライナスの懇願に、すぐコンラッドは元気を取り戻した。
「おう、ビーム・カーテン改のテストは既にそこにあった
例の怪獣の死骸で済ましてある。すぐ出られるぜ!」
と、勇み足で乗船するコンラッド。
何だかんだで頼もしくはあった。コンラッドによると持ってきた
ビーム・カーテン改重機は水・陸・空を自由に動けるらしく、
既に幼生体を除去していたとの事である。
「おーし、野郎共、全員乗ったか!?」
「おー!!」
主力部隊と、船員の元気な声が無責任にあがる。
とりあえずノリという奴なので、ソニア達もノッておいた。
「出港準備、急げよ! 航路調整は後でもいい!
とにかく出来るだけ早く港を離れるんだ!」
コンラッドの指示で出航に必要な手順を一部すっ飛ばしながら
かなりの速度で準備が整う。しかしそんな事をしている間にも
ケット・シー軍団は港へと迫りつつあった。
「コンラッド、急いで!」
ソニアが急かすが、コンラッドは慌てない。
「慌てるんじゃねぇよ。今準備完了だ。さあ、出航!」
細かい指示は飛ばしてとりあえずレッド・ワイズマンMk-Ⅱが
ヴェール・シティから出航した。
その直後、ケット・シー軍団が係留エリアへ到達するが
時既に遅し。手を、いや前足をこまねいて喚くしか出来なかった。
とりあえず直接交戦だけは避ける事が出来たのが幸いであった。
「ふー、危なかったー」
と、ようやく一息付いたシエル。
「で、港を出たはいいが航路はどうするんだ?」
コンラッドから航路決定の指示を要請されたジルベルトは、
メールをもって要請に答える。
(
カルナード港。
シャンゼリー王国領に入りたいの)
という文面を見て、デジタル海図とにらめっこを始めたコンラッド。
「よし、方位修正! 11時の方向だ!
目標はシャンゼリー王国領、カルナード港!
通常巡航速度を維持しつつ、移動するぞ!」
「進路、クリア!」
「カルナード港への受け入れ要請、受理!」
「簡易索敵、開始!」
船員の報告が矢継ぎ早に繰り出され、すぐにコンラッドは得意気に
一番重要な指示を繰り出した。
「よし、レッド・ワイズマンMk-Ⅱ、前進!」
船による移動が開始され、ケット・シー軍団の脅威からは
一時的とは言え逃れる事が出来た勇者軍なのであった。
コンラッドを迎えた彼等は、シャンゼリー王国領、
カルナード港へ向かう――
新戦力を迎え、敵対勢力へと立ち向かうために。
最終更新:2011年02月18日 13:01