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第九章-第二幕- 回顧される過去





勇者軍サブメンバー一同が、足止めをされている最中に、
メインメンバー達はウィルスユーザーズ幹部の誘いを受け、
それぞれ、指定されたゲートへ突入し、
個々人の領域へと足を踏み入れたのであった。


ライナス=ジーニアスは情報幹部のアイズオウルの待つ、
特に情報端末やコンピュータの多彩な部屋へ侵入した。
「ようこそ、ライナス=ジーニアス! 待ってたぜ!!」
「俺もだ。あなたの下らない逆恨みもこれまでにさせてもらう!
 組織の力が無ければ何も出来ない小物程度に、
 これ以上ウチの親を侮蔑されてなるものか!!」
そう言って、ライナスは剣を構えた。
「小物か。俺があのチームの小物だったというなら、
 あンの小娘はただの新米だっただろうが!!」
アイズオウルも鉄爪を構える。
前に見た時は戦闘しなかったし、スプレッダー成体防衛戦の時も
アイズオウル自らは戦わなかったが、
爪や甲こそが彼の武器らしかった。
「アイズオウル! 当時、何があった!?」
「この期に及んでコードネームなんざ関係あるか!
 俺の名はザック=ゴードン!!」
アイズオウル改め、ザック=ゴードンが怒鳴る。
「俺のチームのリーダーはな、代替わりを起こしたんだよ。
 あこぎな真似をやらかす新リーダーが俺達のリーダーだった!
 だが、あの女は追い出された旧リーダーに心酔してやがった!
 だから俺達は敵対せざるを得なかった! 足を洗うだけなら
 放置しても良かったものを、事もあろうか、ご丁寧に
 あの女――ロゼッタ=ジーニアスはチームを壊滅させやがった!
 これが逆恨みなら、手前ェのは何だ!?」
「親孝行に決まってるだろう!
 ついでだからその旧リーダーとやらの
 名前も聞かせてもらう!
 終わったらお礼を言いに行かないとね!!」
売り言葉に買い言葉、次第に両方喧嘩腰になっていく。
「いいだろう! 恐らくあの野郎がロゼッタが勇者軍なのを知って
 入れ知恵したに違いねぇんだからな、後でそいつも潰す!
 覚えとけ、そいつはアストール=フライシュッツってんだ!!」
そこまで聞くと、ライナスはニヤリ、と人の悪い笑みを浮かべた。
「ならお礼を言う手間は要らないな! 親孝行と一まとめだ!
 何故ならそれは、俺の父さんの名前だからな!!」
「な、な、何だとぉッ!!?」
露骨に動揺するザック。どうやら知らなかったらしい。
「情報担当の幹部にありながら、私怨の相手の情報さえ
 掴み切れていないとは、力量不足にも程がある!
 程が知れているよ、ザック=ゴードン!!」
「なら手前ェを人質にロゼッタ達を
 探して逆襲といけばいいだけだぁ!!」
ザックは激昂して襲い掛かってくる。
「ふん、ふん、ふんッ!!」
素早く連打を回避するライナスだが、ザックが一気に接近する。
「もらった! ボルティングパンチャー!」
ザックの爪から放電が始まり、それが一直線にライナスへと走る。
「うわッ!!?」
ライナスが大きくよろけるが、それだけで終わった。
「何ぃッ!?」
今度はザックが驚く番であった。よく見ればライナスは剣を放し、
それを避雷針代わりに使ったのだ。
「剣士が剣を捨てるとは愚かな!」
それを好機と見てか、ザックは更に勢いを増して襲い掛かってくる。
「いいや、既に布石は済んだ……フロストゲイザー!!」
ばしゅん!!
剣に伴う魔力が解放され、氷の棘が地面から飛び出て、
ザックの纏う鎧の隙間を縫うように、拘束する。
「しまった……!」
ザックがまた露骨に動揺し、それで勝負有り、となった。
「待ッ……!!」
しかしライナスの剣は止まらない。
「疾風剣!!」
ざしゅッ!!
数多の傷を刻み込まれ、ショックでザックは気絶した。
「安心してくれ。その程度の出血で死ぬ奴なんかいやしない。
 ただし、無事で済むなどとは思わないことだ。
 身体的にはともかく、社会的に君は抹殺する」
あくまで冷酷に、しかしどこか穏やかにライナスは言ってのけ、
すぐに中央ホールへと戻るのであった。

一方、レイリアとエイリアは、ハンドドッグと相対していた。
医療器具がやたらとある部屋であり、関連施設が豊富である。
「私のオペ室へようこそ、レイリア、エイリア」
ハンドドッグが言ってのける。
「ハンドドッグ、ここで終わりだ!」
エイリアが威嚇する。投降勧告であろうか。
「コードネームにさしたる意味ももうあるまい。
 私はジャック=ウィリス。ドクターギルド所属の
 ドクターとして相手をさせてもらおう」
「なんでそうやって勇者軍に突っかかるの!」
レイリアが言う。
「この間も言った通り、過去に起こったウィルスが絡む事件は
 我々ドクターギルドが相手をし、そして解決するのが常だ。
 その手柄を、根こそぎ勇者軍が奪い取ったことこそ、罪」
「出遅れたのが悪いんでしょ!」
無茶な言い様に、レイリアが激怒する。
「戦争屋は大人しくドンパチだけやっていれば良かったものを!
 ドクターの領域にまで踏み込んだ事を後悔するが良い!」
「その言い分、納得できるものではない!」
エイリアも、勿論納得出来ていないので怒っている。
「我々の仲間とて、ドクターのスキルを持つ者は少なくない。
 いわば同僚的存在であろう。それを味方と見なさぬのなら、
 所詮、貴様の物言いは私利私欲に過ぎんという事だ。
 勇者軍としてそのような意見を容れる謂れは無い!
 ジャック=ウィリス! 貴様を捕縛する!!」
しかし、ジャックはニヤリ、と笑う。
「私利私欲結構。スプレッダー撃破の手柄は勇者軍でなく、
 その大半を我々が、いや私がいただいて終わろう!
 その上でブレインフォックスなどを出し抜いてくれる!
 生物兵器化? そんな事私が許しておくものか!」
「それだけスプレッダーの危険性を理解してるのに
 我欲だけで動けるなんて、おかしいよ!!」
レイリアが悲しそうな目でジャックを哀れむ。
「そうかね。だが私は構わない。ところで私の趣味はダーツでね、
 少々今回に備えて鍛えなおしてきた所だ。味わっていくといい」
ジャックが動き出す。そして姿を消した。
凄まじいスピードで動いているのだ。レイリアやエイリアの
超感覚反応でも捉えきれない。ライナスと互角かもしれない。
ふっ!
突然空中に、角度、高さ共に問わず、大量のメスが現れる。
「オーロラダーツ!!」
それらが二人めがけて、一斉に飛んでくる。
「こんな物!」
エイリアが鞭を振るい、大量に巻き取る事で防御するが、
それでも凌ぎ切れず、何本かが二人をかすめたりした。
「まだまだメスは大量にある。これからが本番だ。
 存分に味わってくれたまえよ? ふふははは!!」
再び、空中に出現するメス。凄まじい動きで
再び消えたかと錯覚するほどに、ジャックが動き回る。
しかしレイリアは知恵を使い、奥技を叩き込む。
「ロシアンルーレット!」
彼女の奥技、風の魔力弾が彼女自身の足下に炸裂した。
地形に沿ってそれが気流となり、メスのことごとくを弾き返した。
ばすびすッ!!
自らが投げたメスのダーツに撃ち抜かれ、服を縫い付けられた。
「エイリア、ゴー!!」
「分かっている!!」
エイリアが動けなくなったジャックに急接近。
「根性を! 叩き直してから挑みに来い!
 その程度では話にならん!」
「ひっ!?」
ジャックが目を背けるが、もう遅い。
「闇ホ長調3番『英雄』!!」
びしばしびしばしびしばしびしばし!!
あまりにシンプルな鞭の猛連打がジャックを打ち据える。
「あ……がが……!」
アザだらけで気を失ったジャックに対し、二人は黙って背を向け、
振り返りすらしなかった。
「傍流とはいえ、メインメンバーのルスト家二人相手に……」
「雑魚に毛の生えた程度の人が一人ってのはねぇ……」
エイリアの声に、レイリアが応じる。
「馬鹿だな」
「無謀だね」
息の合う静かな罵倒は、ジャックの耳には届いていなかった。
二人はゆっくり歩いて、ロビーへと戻るのだった。

一方、レッグホースに対してはシルヴィアが対していた。
大量に物資の置いてある倉庫のような部屋だった。
「レッグホースさん……でしたね」
「私の名は、正しくはアモン=ガイナクス。
 マクスフェル王国の幹部、アビゲイル=ガイナクス――
 通称『螺旋のアビゲイル』の息子と言えば分かるか?」
何度か聞き覚えのある名前が出てきたので、
関心を抱いたシルヴィアだった。
「つまり、逆恨みという事でよろしいわけですね?」
「何故いきなりそういう結論になる!?」
どこかズレた発言に、激昂するアモン。
「マクスフェル王国の解体は、勇者軍との和解の末に
 行われた行動にある、と母からは聞いています。
 現にアドマイヤー……古く呼ぶなら
 ストラグルもそう言っていますし」
アドマイヤーはスーパーマシンノイドと呼ばれる、
設計思想をたどればシルヴィアの祖母、シンシアに行き着く、
人型のロボットの一つの究極系の3号機である。
もっとも、アドマイヤー自身は一度は敵対し、
シルヴィアの説得によって勇者軍に帰順した経緯を持つが、
その過程で、マクスフェル王国の衰退に
大きく関わっていたのだった。
その当時の名称が『ストラグル』である。
「そのストラグルのせいで我が王国は滅んだに等しい!
 これが逆恨みなら、世の中のクレームの大半は逆恨みだろうが!」
「特に私の知ったことではありませんので、諦めて下さい」
無茶な物言いに、流石にアモンも耐えかねて襲いかかる。
「貴様ァ!」
しかし、シルヴィアも必死だった。
積極的な攻撃を仕掛けなければ、
奥技が攻撃用でない以上、勝ち目が薄いのだ。
ぼこぼこぼこぼこ!
思ったよりも雑に杖で殴りまくるシルヴィア。
「ええい、鬱陶しい動きを!!」
アモンが剣を構える。
「奥技・螺旋炎熱砲!」
火炎の筋が螺旋を描き、シルヴィアに襲い掛かる。
「きゃああッ!!」
水の守護精霊を纏うシルヴィアには痛恨の痛手となる。
誰から見ても不利は明らかだった。
ふらふらで、倒れる寸前のシルヴィアも見て、アモンが爆笑する。
「ははは! ひ弱なヒーラーが一人で来るとは愚かだな!
 せめて、パートナーの一人でも連れて来れば良かったものを!」
「ヒールシューター!!」
呪文一発であっさり傷を癒し、立ち上がるシルヴィアを見て、
呆然とするアモン。彼女の魔力の高さは折り紙付きだ。
回復量も通常のヒーラーなどとは比較にならない。
ぼこぼこぼこぼこ!
そしてまたしつこく杖で殴りかかるシルヴィア。
「ええい、鬱陶しい! 螺旋炎熱砲!!」
「ヒールシューター!!」
ぼこぼこぼこぼこ!
「螺旋炎熱砲!」
「ヒールシューター!!」
ぼこぼこぼこぼこ!
何度もこれを繰り返し、次第に疲弊してくるアモン。
どうやら魔力に余裕が無くなってきた模様である。
反面、まだまだシルヴィアには余裕があった。
「ぜはーッ! ぜはーッ!!」
いい加減アモンも力尽きようとしていた。
「螺旋……ぐほっ、炎熱砲!!」
最後の力を込めて渾身の一撃を叩き込む。クリーンヒットだ。
大きく吹き飛び、今度こそ決まったか、と思いきや……
「マスター・ヒール!!」
奥技により、瞬時に立ち上がるシルヴィア。
「えぇーい!!」
ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ!
抵抗する力も失ったと見るや、シルヴィアがここぞとばかりに
とにかく一心不乱に杖で叩きまくる。
「ちょ、ちょっ……待って……やめ……!!」
ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ!!
聞こえていない。もう何百発殴っているか分からないが、
地道なダメージは確かにアモンの体力を奪っており、
ついに、アモンは無言でくず折れ、気を失った。
その後しばらくしつこく殴り続けていたが、
いい加減飽きてきて、ようやくシルヴィアも腕を止めた。
「ふう、楽勝でしたね」
あちこち焦げながらも、どこかズレた言い方のシルヴィアだった。
「リゼル君が心配ですね。ズタボロにやられてないといいけど……」
ズタボロになっているのは自分なのだが、それもお構いなしだった。
彼女はのん気に、しかし彼女なりに遅い足で急いで戻り始めた。

これで三つの部屋が制圧された事になる。
戦いの部隊は、残り三つの部屋へと移る――



<第九章-第三幕- へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:20