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第十章-第三幕- 支援の手





メカ・スプレッダーを撃破し、ドルカスを降伏させた
勇者軍主力部隊の前に、スプレッダー達は
遂にその生態の真の姿を見せた。
巣、及びその中にいる女王体と推測される存在を防衛するべく、
組織的に動こうとしていた。それに対し、勇者軍は
一点集中による強行突破作戦を決行しようとしていた。

勇者軍主力部隊は目の前に立ちはだかる
多数のスプレッダーの弱点を察知した。
すなわち飛行が出来ない事だ。しかし、勇者軍主力部隊にも
ペガサスナイトやドラゴンナイトといった、
飛行可能な人材はいなかった。
唯一飛行可能と言えば、スカーレット・アーマーのブースターで
一時的な飛行が出来る、メイベルだけである。
しかしそんな無謀な賭けを決行するわけにはいかなかった。

「さて、どうしましょうか」
ユイナ姫が困り果てていた。
(僕がこれで道を開けるから、
 左右から押し寄せるのを相手にして欲しいの)
と、ジルベルトはストレンジバスターを掲げた。
確かに強大な火力のストレンジバスターの砲撃なら
瞬滅が可能かもしれない。もっとも現実的なプランだろう。
どうやら弾数も何故か無限に近いようだ。ジルベルトの魔力が
反映され、勝手に生み出されてくるのだろう。
「じゃあ、詳細なプランを立てよう」
と、ライナス。
「まず先頭にジルベルト君。次いで俺とユイナ姫がそのフォローだ」
「分かりました」
ユイナ姫も頷く。
「その後方には私とラティシアさん、コンラッドが付くわ」
ソニアがそう決める。
「中央に、私、シルヴィア、リゼルの魔法部隊よね」
シエルが察してそう語る。役割を熟知しているようだ。
「更にその後方に、テディとあたし、それからエイリアが付くね。
 あたし達の役割は、魔法部隊のフォローかな」
レイリア達が第四波へと回った。
「で、殿が俺とメイベル、だな?」
と、ジーク。メイベルも頷いた。
殿には機動力も要求される。瞬間機動力に優れたメイベルが、
ジークを緊急時に抱えて脱出出来るからこその配備だろう。
マスタープランは決まった。あとはジルベルト次第である。
『じゃあ隊列を組んでね』
ジルベルトの指示に従い、速やかにフォーメーションを組む一同。
「覚悟はいいかしら?」
皮肉たっぷりに言うシエルに、ジークが笑う。
「ここまで来ておいて覚悟も何も無いものだ!
 言うまでもない!」
「そうね……生きて帰りましょうね、ジーク」
そう言うと、シエルも微笑んだ。
「ならば!」
ライナスが先頭を切って高らかに叫ぶ。
「勇者軍の力の御旗の下に!」
他の者が後に続いた。次はユイナ姫である。
「勇者軍の知の結晶と共に!」
更にテディが続いた。
「勇者軍の愛の誓いの為に!」
次に、レイリアとエイリアが唱和する。
「勇者軍の夢の矜持と前に!」
シルヴィアが続く。
「勇者軍の友情と信頼を糧に!」
そしてジルベルトが珍しく口数の多い事に、叫ぶ。
「勇者軍の勇気の命ずるままに!」
そして最後に、サブメンバー一同が唱和する。
「そして我等、勇者軍の支柱となりて、この艱難辛苦を
 全て支えきる事を今、ここに誓わんとする!!」
「なればこそ、我々は勇者軍なり!
 その威光と矜持に基き、最終作戦、開始!!」
ユイナ姫がジルベルトの代わりに宣言。
フォーメーションを組んだまま、各員が全速力で突撃を敢行した。

突撃を開始してすぐに最初のスプレッダー成体に接触する。
しかしジルベルトは慌てず、騒がず、跳躍。
ずどむ! ずどむ! ずどむ!
ただの三連射で、メカ・スプレッダーと違い、
オリハルコニウムセラミカルチタン装甲に保護されていない
ただのスプレッダーなど、呆気なく死亡していく。
ガシャコン!
それに構いもせず、致命的に挟み込まれる前に
これを繰り返し、リロードもしつつ勇者軍主力部隊は、
ジルベルトのストレンジバスターを軸に突撃を強行する。
「マスター・ブースター!!」
それを補強したのがシルヴィアの奥技魔法だった。
各員の能力が最大限以上に引き出される。
斬り、突き、叩き、殴り、撃ち、払い、そして駆ける。
ありとあらゆる技が繰り出され、スプレッダーの海を
二つに割るかの如く、勇者軍は怒涛の進軍を続行していた。
しかし、それでもスプレッダーの数は尋常ではなかった。
その威圧感に次第に勇者軍も行軍速度を緩めざるを得なかった。
「くぅッ……!?」
次第に傷だらけになるメイベルのスカーレット・アーマー。
殿だけに集中攻撃を食いやすいのだ。
「あうう……ッ!!」
動きの止まったメイベル。
「メイベル、大丈夫か!!」
「ジークさん……大丈夫、です……」
メイベルの声から覇気が消えていく。
「離脱だ! 第四陣へ合流するぞ、行けるか!?」
「はい……!」
メイベルがジークを抱え、ブースターで空中へと舞う。
しかし、巣の方から何かが光った。
危険を本能レベルで察知したメイベルは、第四陣の方向へと
ジークを放り投げた。しかしその瞬間、巣から大量の液体が
射出され、メイベルを直撃した。
じゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
武器だけは庇ったが、たちまち腐食していく
メイベルのスカーレット・アーマー。
「やだ……ッ!」
液体の正体は極酸性の消化液だった。巣に穴が開き、
うっすらと女王体のスプレッダーらしきもののシルエットが見える。
下ではスカーレット・アーマーに当たらなかった酸が
スプレッダー達に直撃し、何体ものスプレッダーが
それだけで絶命していた。
味方を犠牲にした一撃と言えるだろう。
しかしそんな事を確認している間にもメイベルのアーマーは
みるみる溶けていき、ブースターさえも消化されてしまった。
遂には鎧全体が溶けてしまいそうになり、やむなくメイベルは不時着し、
急いでスカーレット・アーマーを脱ぎ捨てた。
「お父様からもらったアーマーなのに……」
しかしそんな事を気にしている場合ではなかった。
かろうじて第四陣に追いついたメイベルはことの次第を報告した。
「メイベル、大丈夫か!?」
「ごめんなさい……ジークさん。空中へ上がったら狙撃されました。
 スカーレット・アーマーも台無しです……」
「空中は危ないって事か……」
泣きそうな声で言うメイベルをエイリアが慰めにかかる。
「いえ、よく守ってくれたわ。まだ距離があるけど、
 メイベル一人程度なら、私とレイリアで守ってあげる」
「本当は禁じ手なんだけど、使っていい? エイリア」
と、レイリアも物騒な銃を取り出した。
「レイリア、何だ、それは?」
「個人兵装サイズのビームランチャー。かなり効くよ、これ」
「そんなのがあるなら最初から出せ!!」
「だから本当は禁じ手なんだってば!
 人間相手に使えないでしょ!?」
見苦しい言い訳を始める二人だが、
四の五の言っている場合ではない。
「分かった、私が許す! 使え、レイリア!」
「いくよ!!」
ばしゅん!!
派手な閃光と共に、一部のスプレッダーが消し飛ぶ。
再チャージに時間がかかるものの、
局地的にはストレンジバスター並みに
頼りになる兵器とも言える。しかしそれにもお構い無しに
スプレッダー達は一番無防備となったメイベルへと襲い掛かる。
「スカーレット・アーマーさえあれば……!」
珍しく愚痴のようなものをこぼし始めるメイベル。

ずどがん!

しかし、そこへ輸送カプセルらしきものが叩き込まれた。
「何なの!?」
第三陣のシエルが騒ぎ始めた。
輸送カプセルはスプレッダーの一体へと見事に突き刺さり、
奇しくも見事に固定されていた。蓋が開くと、
中にはスカーレット・アーマーと同型、同サイズの鎧が現れた。
完全にメイベル専用という感じの意匠である。
「お父様……!?」
「その通り!」
更に別の蓋から、多くの人員が現れる。
ケヴィン=アイリーンだった。その他にもいるわいるわ、
既に惑星アースを離れていた勇者軍メンバーなどまで確認出来る。
「こんな事もあろうかと密かに用意させた
 スカーレット・アーマーの予備だ! 受け取れ!!」
「はい!!」
メイベルが喜色満面に鎧を受け取り、すぐに装着する。
先程と遜色の無い状態に戻ったメイベルは絶好調となった。
ケヴィンは更に指示を出す。
「各員、主力部隊をフォローする為に遊撃に移れ!!」
「了解!」
多くの人員が動き出し、要所要所で暴れ始めた。
その動きの凄まじさたるや、主力部隊と比べても遜色が無い程だった。

「我々も手伝わせてもらおうか」
とその時、第一陣の前にその時、レオンハルトが躍り出た。
愛馬エルトリオンや、直属の指揮下部隊も随伴している。
「おじさま! いつの間にここへ!?」
ユイナ姫が驚く。
「……ふ、我等が母なる星の危機、
 敵も味方も現役も隠居もあるものか。
 さあ、勇者軍よ、我輩達が引き付けている間に進むが良い!」
「はい! じゃあ行きましょう! ジル君! ライナスさん!!」
(うん)
「ありがとうございます、助かります」
しかし、レオンハルト指揮下の部隊に
ライナスは見覚えのあるような人物を発見した。
何故か仮面を被っているが、髪型や輪郭、武器が明らかに
同じなのだ。自らの母親と。まさに失笑ものであった。
「母さんも来たんですか?」
「私は謎の女。私は何もしないんだよ。早く行っといで!」
自称謎の女は、めいっぱい剣を振るい、幼生体を一撃で
切り倒しながら、無造作に応じた。
「はいはい」
苦笑して、ライナスも走り出した。

第二波の前には、ルシア=メーベルヴァーゲンが現れていた。
「お姉ちゃん!?」
「手伝いに来たわよ。死んじゃったら一人前も何もないもの。
 お願いだから、今だけは、まだ姉でいさせてほしいかな」
「当たり前じゃない! お姉ちゃんはお姉ちゃんだもの!!」
その彼女が引き連れているのは、亜人族の精鋭達と、
亜人王タイタン、そして息女ミゼラブルだった。
「ラティシア、手伝いに来たの!」
「ミゼル! 本当に助かる!!」
「行って! お父様と私が抑えるから!!」
「分かった!!」
ラティシアも駆け出す。その近くにいたコンラッドの隣には
いつの間にか、義父、カーティスが姿を見せていた。
「親父!?」
「レッド・ワイズマンMk-Ⅱを近くに係留させました。
 全火器によって支援を行います。もちろん私自身も。
 ですから、必ず生き残りなさい、コンラッド……
 全力で砲撃! 目標は無差別で構いません!!」
ずどんどかんばこんどがぁぁぁぁぁん!!
レッド・ワイズマンMk-Ⅱによる無差別射撃が
スプレッダーの大部隊を大混乱、いや、恐慌状態に陥れる。
「おっしゃ、行くぜ!!」
コンラッドも続いて走り出した。

そして第三陣の方にはレノール=スターリィフィールド――
すなわちシルヴィアの母親と、三体のスーパーマシンノイドが
姿を現したのであった。
「シルヴィア、リゼル君、お久しぶり……大丈夫ですか?」
「お母様!」
「レノールさん!」
レノールは微笑むのをやめると、戦いの目の色へと変わる。
「ウチの自慢のスーパーマシンノイドが久々に帰ってきました。
 三体揃うのは、何気に初めてじゃないでしょうかね?」
「そうだな、マスター・レノール」
「マスター・レノール、速やかに指示を!」
「我々スーパーマシンノイド、
 マスター・シルヴィアを守り抜くための力となりて!」
「でしたら、各員遊撃。近付く敵を片端から叩いて下さい!」
「イエス、マム!!」
三体のスーパーマシンノイド、1号機マシンゴーレム、
2号機ディザイア、3号機アドマイヤーはそれぞれに散った。

第四陣にはフェイト=ヴァジェスⅡ世が到着した。
「可愛い息子が大変だっつって
 自分で来ないで俺を寄越しやがったんだ!
 テディ、この貸しは小さくねぇぞ、覚えときやがれよ!?」
「分かってる! でも助かる、すまない!!」
短い言葉ながらに、お互いへの信頼が読み取れる二人だった。
更にレイリア、エイリアの前にはかつての宿敵が姿を見せる。
コード<ゼクロス>と名乗るサイボーグだった。
「ゼク……ロス……!」
「今更、何しに来たのだ! お前という男は!!」
レイリアは恐れ、エイリアは激昂しかかるが、
あくまでゼクロスは冷静だった。
「何もかにもない。せっかく自分で自分を封印して
 静かに寝ていたものを、なんだか知らんうちに
 得体の知れん化け物が私の封印を破壊したのだ。
 おかげで叩き起こされて途方に暮れている始末だ。
 事情を聞こうとうろうろしていたら、
 なんか知らんがこの男がいた」
と、猫でも掴むように、ゼクロスが無造作に抱えているのは
ハンドドッグこと、ジャック=ウィリスだった。
「聞けば惑星アースはあの化け物どものせいで
 とんでもない事になっており、このジャックとか言う男も、
 そして勇者軍も化け物狙いだそうではないか。
 ならば、八つ当たりついでに手を貸してやろうというのだ」
「……他意は無いのか?」
エイリアが用心深く訊いてくる。
「断じて無い。そもそも叩き起こされて迷惑しているのだ。
 今、お前達勇者軍に敵対したところで、意味が無いからな」
そう言うと、ゼクロスはこれまた無造作に
近寄るスプレッダー成体を殴った。
「では、行け。アレを片付ければ済むのだろう?」
「うん、女王体を潰せばほぼ終わるみたい」
と、レイリア。
「任せる!」
それだけ言って、ゼクロスは敵の真っ只中へと突入していった。
「元々奴等は絶滅させるつもりだったんだ!
 だったら結果は同じだな!!」
と、ついでにジャックも遊撃の為に近くで暴れ始めたようである。

第五陣にも更に救援が登場した。と言っても馬である。
しかしその馬はジークにとっては懐かしい愛馬である。
成り行きで乗って来れなかったが、今になって追って来たのだ。
「エンテ!!」
「ひひぃぃぃぃん!!」
よく見れば、愛馬エンテには手紙が付いている。
愛する家族達による手紙だった。派遣されてきたのだろう。
直接表舞台に出るのを嫌った故の処置だろうが、
それでも本来ナイトであるジークにはありがたかった。
何より欠けていた機動力が補えるのは大きい。
「よし、駆け回れ、エンテ!」
ジークと愛馬エンテは戦場を縦横無尽に走り始めた。

更に増援部隊は続いてきた。ザン共和王国正規軍、
シャンゼリー王国正規軍、惑星アース連合防衛軍、
レイクリッター財団傭兵部隊、ギルド制式チーム、
果ては何故か敵対していたはずのケット・シー軍団まで
現れたのだ。特に有効なのはケット・シー軍団であり、
その数による威圧感もさながら、集団で一斉に鳴き始め、
聴覚の優れたスプレッダーに対する有効打となったのであった。
そのうちの一頭がラティシアに近寄ってきた。
「にゃにゃー!(ワーキャットのお姉さん、お久しぶり!!)」
どうやらラティシア及び、勇者軍の連れている猫に反応して
救援に来た模様であった。というより知り合いであった。
「にゃー!(ケット・シーのみんな! 来てくれたのか!!)」
どうやらラティシアもケット・シーと会話が出来るらしい。
これは思いのほか有効な技能となった。
(この場合に限り、ではあるが)
「にゃーにゃ、なー!!(ワーキャットのお姉さん、急いで!)」
「ふみゃー!(すまない、助かる!!)」
一見間抜けに聞こえる会話だが、本人達はいたく真剣である。
こうして文字通り万軍の支援を得た勇者軍主力部隊は、
そのほぼ全てを囮とし、主力部隊は
変わらずストレンジバスターを軸に、
先頭のジルベルトだけを目標に追いつくべく、ひたすら走り抜けた。
そして巣の前の最後の一頭の成体が見えた。
ジルベルトのストレンジバスターが赤く光る。
(終撃砲、発射!!)
ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
ジルベルトは跳躍し、空中から直接真下のスプレッダーへ剣を刺し、
そこから射撃し、反動で再跳躍する。
地面が振動し、爆風が周囲を大混乱に陥れる。
もちろん直撃したスプレッダーは即死状態だった。
高い位置にある巣の入口へと真っ先に到達したジルベルトは、
最初に追いついて来たユイナ姫とチトセをリールで引き上げ、
次いでライナスを入口へと引き上げる事に成功。
次々とやってくる第二陣、第三陣、第四陣、第五陣も
ほどなく全てリールで回収する事に成功した。
(途中からはコンラッドも手伝っていたため、作業が早くなった)

そして主力部隊全員が到着したのを確認すると、
眼下の戦いを見渡し、ジルベルトは入口の方へと向き直った。
中に女王体がいるのは間違いない。
ならば、今こそ決戦である。
「行きましょう、ジルベルト君!」
(うん――みんな、後をお願いします)
後ろの者達を振り返る事無く、勇者軍主力部隊は
いよいよスプレッダー女王体の待つ、
広大な巣へと足を踏み入れる。



<第十章-第四幕- へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:25