第十章-第五幕- ただ、破り砕くのみ
勇者軍主力部隊は、
ドルカス=ウィンチェスターの持ち出した、
人材運搬専用射出支援兵器、デリバリーランチャーの力を借りて、
スプレッダーの女王体を空中から叩き落とす事に成功し、
また、メカ・スプレッダーのマスター防衛機能に基く自爆という
切ない犠牲を払いながら、何とかコアを目視する事に成功。
最後の一撃を叩き込む算段を整えつつあるのだった。
「ジルベルト君、あれがコアよ、見える!?」
(うん)
ジルベルトの目も、確実にコアを捉えていた。
「僕はあいつを潰す。これだけ痛めつけられれば、
もう手段は選べない、ってお兄ちゃんが……」
悲しそうな目で兄を見つめながら翻訳するシエルだった。
「そう悲観する事も無いだろう、隊長」
と、テディ。
「そうです、私達が一緒にいます……
マスター・ブースター!」
シルヴィアも同意しながら、ジルベルトを強化した。
「あたし達の力をあげるから。それを叩き込めばいいと思うよ」
「そうね。あなたにはその砲剣と、最強の剣技があるもの」
レイリアとエイリアが、ジルベルトの手を取った。
魔力を直に送り込んでいるのだ。
「皆もジルベルト君に魔力を送ろう。ユイナ姫も、ほら」
ライナスが促し、自らもジルベルトの手に魔力を送る。
「ジル君。この一撃で勝負を決めてね!」
(うん)
ジルベルトは
メインメンバー達の厚意に感謝した。
「でしたら
サブメンバーの魔力も全部です!
それで、きっと勝てます!!」
リゼルが、ジークが、メイベルが、コンラッドが、
更にジルベルトの手を取った。
「押し付けがましくて迷惑かもしれないけれど……
よければ、私の力も持って行ってくれないかしら。
私じゃ、あの子の仇は討てないから……」
ドルカスまでもが参加する。
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
シエルもそこに手を重ねる。
「お前はエリシャの子、だから強い、行って来い!!」
ラティシアもしっかりと手を重ねる。
最後にソニアが手を重ねた。
「ごめんなさい、ジルベルト君。
あなた一人に最後の重責を押し付けて。
でも分かって。あなたはそれほどまでに、私達の希望なの。
この混沌とした状況においての最後の希望なの……」
(分かってる。これで最後にするの)
みるみるうちに、ジルベルトの小さな体躯に魔力が溢れ始める。
十数名分の魔力を全て吸収しても、
まだキャパシティには余裕がある。
これこそが
ストレンジャー家が
封神封魔流を振るえる最大の理由だった。
禁術を使ってなお、耐えられる体躯が無ければ、
この剣術の最大限の力は引き出すことが出来ないのだから。
しかし、スプレッダー女王体一体を倒すのに、
理論上の最大限の出力など必要無い。そんな事をすれば、
この
惑星アースそのものが根底から破壊されてしまうのだから。
その一万分の一に満たない出力で、露出しているコアを
破壊するのには充分なのだ。
それが分かっているからこその使用である。
スプレッダーが辺り一体に酸を撒き散らし、無差別攻撃を始めた。
いよいよ本気になって怒り狂った証拠であろう。
まずはこれを防がねば話にならない。
「任せて! これぐらいの魔力は残しといたから!」
シエルが前に出る。シルヴィアが後に続く。
「二人分の魔力なら何とかなるでしょうね……」
ふらふらと、しかし何とか確実に詠唱を行った。
「リフレクト! フォース!!」
二人同時に発動させた魔力障壁が、
スプレッダー女王体の酸をほぼ無効化する。
酸がほとんど通用しない事実にスプレッダー女王体が驚愕する。
次は、接近しなければいけない。
ジークがジルベルトをひょい、と掴む。
「よし、
チトセは既にボロボロだ。俺の
エンテで連れて行こう!」
(ジークさん、お願いします)
「うむ!」
二人と一頭はスプレッダー女王体めがけて全力疾走する。
その最中、小声でジルベルトにだけ聞こえるようにジークが訊いた。
「隊長、そのうちアンタを兄貴って呼ぶ事になれたら俺は嬉しい」
(兄貴?)
ジルベルトは首をかしげた。
「シエルが好きだからな。俺としてはそれが理想の関係になる。
いつか、はっきりとシエルに言ってやるつもりだ。
だから隊長も、ソニアの奴をあんまり怒らせたりするなよ?
あまり泣かされてるとメンツも何もあったもんじゃないからな」
(分かったー)
こくり、とジルベルトは黙って頷いた。
「よーし、それじゃあ行って来い! これで締めだ!」
ジークはまたジルベルトを雑に猫掴みすると、思い切り投げた。
ばしゅッ!!
しかしスプレッダー女王体は空中へと
飛んだジルベルトに即座に対応し、
またしても酸をふきかけてくる。
今度は
リフレクトフォースの範囲外だ。
食らえばひとたまりも無いだろう。
「
マグマロックストライク!」
「
フロストゲイザー!!」
「
クロスアイアンメイデン!!」
テディ、ライナス、リゼルの奥技がそれぞれカーテン代わりとなって、
ジルベルトを守る形で酸を浴び、そして瞬時に溶解する。
しかし、ジルベルトが接近する暇を作るだけの時間は容易に稼げた。
あとはコアの零距離まで到達するだけだった。
勝利を確信した全員が、各々の魂の叫びをぶち撒ける。
「隊長、今です!!」
まずはリゼルが。
「ぶっ飛ばしてやれ!」
コンラッドが。
「お兄様!!」
メイベルが。
「俺達の分の力を運べ!!」
ジークが。
「頑張れ!!」
ラティシアが。
「負けたら承知しないわよ!」
シエルが。
「にゃーッ!!」
大福、
きなこ、
みたらし、
黒ごま達が。
「私達の希望……ジル君!」
ユイナ姫が。
「勝利を、掴み取るんだ!!」
ライナスが。
「人が人を愛せる平和な世界を取り戻せ!」
テディが。
「不幸な忌まわしい過去と決別して!」
「未来を自らの手に取り戻すの!」
レイリアとエイリアが。
「そのために、今、最後の一撃を!」
シルヴィアが叫ぶ。そしてジルベルトはコアの零距離に到達した。
ざぐっ!!
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
スプレッダー女王体がもがいて振りほどこうとするが、
ジルベルトの技はもう発動しようとしていた。
「ジルベルト君……」
(ソニアさん……)
ソニアが、ただ呟いた。ジルベルトも一瞬振り返る。
「行ぃぃぃぃぃッけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ソニアの叫びが、ジルベルトに届いた時、技は発動する。
どどどん!!
ストレンジバスターの三連射でわずかに浮くジルベルト。
がしゃこん!
そして即座に空中でリロード。剣が発光する。魔力によるものだ。
「封神封魔流・最終究極奥技!!」
ジルベルトも今ばかりは無口というわけにはいかない。
「惑星! 両! 断! 剣!!」
ガカッ!!
猛烈な閃光の後、地割れでも起こるかの如く、高エネルギーにより、
コアは勿論、女王体丸ごとは当然として、巣さえもことごとく、
更には刀傷、としか言いようのない地割れが果てしなく続き、
地平線の向こうまで続いているのが確認出来た。
しかしコアを両断されたにも関わらず、あまりの切れ味に
切断された事すら自覚できず、女王体はなおももがいていた。
ジルベルトは再接近し、安全装置をレッドゾーンに移した。
魔力を全解放すると、ストレンジバスターの装填用弾丸が
ベルトリンク状態に連なり、その場に出現した。
ぶんッ!
そのベルトリンクを大きく振りかぶり、
露出し、かつ両断したコアへと
向けて投げつける。長い長いそのベルトリンクは
両断部分へと大部分が放り込まれた。
それを切り離し、ジルベルトはパージされたベルトリンクに向け、
最大出力での放射準備を展開した。
ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
ただでさえ無茶な
終撃砲にベルトリンクが加わり、
その爆発力は更に増加。コアを跡形も無く吹き飛ばしたが、
ジルベルト自身も反動で吹き飛んだ。
姿勢制御も何もあったものではなかった。
勝利はしたが、このままではジルベルトは大怪我をしてしまう。
しかし、ソニアは動いた。誰よりも早く。
がしっ!!
反動と爆風で吹き飛んできたジルベルトの腕を、
自らの片腕で掴まえる。勢いのまま横向きに一回転し、
そのままジルベルトを優しく抱き上げた。
体躯が小さいジルベルトと、大きめのソニアならではの技だろう。
即興にしては見事という他無いのだった。
「お帰りなさい、ジルベルト君!!」
(ただいまー)
何とか少し黒焦げながらも、ジルベルトは微笑んだ。
その笑顔の何と幼く、無垢なる事か。
暴力の塊のような武器を抱えながらも、無垢な子供のように
生きてみせるからこそ、ここまでストレンジャー家の勇者達は
惑星アースに順化出来たのだ、ということを、
ソニアは内心、理解したのであった。
外では、司令塔を失ったスプレッダー達がパニックを起こし、
右往左往する事で、災害が起こった時の人間のように、
お互いを踏み潰しあう結果となり、大半以上のスプレッダーが
圧死し始め、戦局はほぼ人類の側に傾き放題となっていた。
そして残ったスプレッダーも、
そのほとんどが汎惑星アース連合軍により駆逐され、
わずかに逃げ延びた成体や幼生体も、
各国の自前の戦力だけで駆逐し尽くせる程度となっており、
事実上の完全勝利という形で幕を閉じるのであった。
しかし、その場にいた
ウィルスユーザーズ幹部達は
勝利を祝う頃には既に、レオンハルト副大統領の手によって、
全員が惑星アース防衛軍に出頭するという行動に出ており、
姿を見せなかった。
噂によると、最終決戦で勇者軍に手を貸した
レオンハルトとドルカス、ジャックには
温情措置が施されたそうである。レオンハルトは辞職、
ドルカス、ジャックの両名は
それぞれの組織で除名となるところを、
降格処分のみとされたようである。
また、アモン、ザックの二名はそれぞれ社会的に厳しい罰を受け、
立場としては、ほぼ社会的抹殺と
言っていい状況に追い込まれたらしい。
ルシアは実妹ソニアが勇者軍サブメンバーだという事、
また、好意的に勇者軍に協力していた事実から、
一切の事柄を不問とされ、
後に勇者軍サブメンバーとして正式編入される運びとなったが、
いずれも、かなり遅れての話であり、
本来ここで語られるべきではない――
「さあ、後の処理はビーム・カーテン改がやってくれるわ。
キリキリ帰るとしましょうか!!」
と、全てが終わって、景気良くシエルが笑う。
「帰るってどこへ?」
と、テディ。どうやら今日の寝床の心配らしい。
「寝床が無いならウチに来ればいいだろ!」
コンラッドが自信満々に船へと案内を始める。
どうやら義父から停泊地点を聞いていたらしい。
「船の上は酔います~」
半泣きのユイナ姫を軽く無視して、一行は歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ~」
ユイナ姫も後を追い始める。
そして凱旋の宴は、
レッド・ワイズマンMk-Ⅱの中で
行われる事になるのだった。
こうして、
銀河暦屈指の大戦争となる、
スプレッダー戦役は、
人類の勝利によって何とか無事に幕を下ろしたのだった。
そして勇者達の舞台は半年後へと移る――
最終更新:2011年02月18日 13:26