終章-第一幕- それぞれの未来(前編)
勇者軍におけるスプレッダー女王体討伐作戦の成功後、
数週間後にはスプレッダーの絶滅が確定的な状況となり、
更に数日後、汎
惑星アース連合軍の名義において、
銀河暦1245年、
スプレッダー戦役の終結が宣言されたのであった。
その半年後、各々は各自の生活へと戻る事になる――
ラティシアは
亜人族の里で復旧工事の陣頭指揮を執っていた。
破壊された区画は自らの種族、
ワーキャット族が一番大きい被害を受けたのだ。
族長として陣頭指揮を執らないわけにはいかないのである。
「姫様ー、昼食の時間ですぜー!」
現場の棟梁が勢いのいい声でがなり立てる。
「分かっている。各員、休憩だ! 一時間後に作業再開!」
ラティシアが大きな声で宣言すると、
作業員達が食事のために散っていく。
これはこれで平和な光景と言えた。
「姫様ー!」
作業員の一人がやって来る。
「勇者軍研究部のビーム・カーテン改の部隊の隊員達が、
亜人族の里を休憩場所に貸して欲しいって言ってますけどー!?」
「何!? 分かった、今行く!
お前はいいから食事だ! 行け!!」
「へい!!」
作業員は勢い良く去って行った。ラティシアは急行する。
「勇者軍の研究部というのはお前達か?」
「はい。スプレッダーの死体の除去作業がなかなかに大変でして。
期間もそこそこ長引きそうなんで、ここで休憩させて下さい。
流石に除去作業の過程で出る悪臭の中の食事は嫌なんです」
「ああ。分かった。好きに使ってくれていい。
ただ、建築現場の中はやめてくれ」
「ありがとうございます!」
ビーム・カーテン改搭載重機の搭乗員達が嬉しそうに立ち去った。
よほどの悪臭地獄に苛まれているのだろう。気の毒に。
「ひーめーさーまー!!」
更に作業員の声。また何かあったらしい。
「今度は何だ!」
「
ミノタウロス族のバーンガスト族長が、人手が足りないから
いくらかこっちから人員をよこせって騒いでますー!」
「人員が欲しいのはむしろワーキャット族の方だろ!
叩き出せ! いや、むしろラティシアが行くからいい!」
「姫様ー! 第11番区画の
建造物コードB-38で事故発生です!」
「姫様ー!
ワーウルフ族の者との喧嘩と、
それに伴う苦情ですー!」
「姫様ー! ミゼラブル様直々の召喚要請です!
事後処理を手伝え、との事!」
「ラティシア様ー!
ケット・シーの
大使さんご一行が来訪されましたー!」
次々と来るわ来るわ、報告、苦情、要請、来客の報告。
「だああ、もう! 後にしろ後に!
ラティシアもごはんが食べたいのだ!」
忙しさのあまり、抱えた書類を放り投げ、
ラティシアは地団駄を踏むのだった――
一方、シエルとジークはようやく互いを認め合うところまで来ていた。
シュライク・シティの一画である。
「なあ、シエル」
「早く言いなさいよ。さっきから、なあ、なあって」
わざわざ遠くの
ストレンジャー・タウンから呼び出され、
不機嫌そうにシエルが呟いた。
「私……私は……お前の事を好いている。
もし、迷惑でなかったら、受け入れてはもらえまいか?」
古風な物言いに、シエルの表情も緩んだ。
「馬ッ鹿じゃないの?」
「……やはり、駄目か?」
「あなた、私の能力をお忘れかしら?」
「?」
真意を計りかねて、ジークが戸惑う。
「私の能力は
エスパー。そして
テレパスの能力を持つのよ。
あなたが私を好きな事ぐらい、少し前から知ってたわ。
それに好きじゃないのなら、心を読んで、私から断るわ。
いっそ、清々しいでしょ? その方が」
「はは……慰めなんだかフォローなんだか、な」
思わず苦笑いしてしまうジークだった。
「受け入れるも受け入れないもないものね。
好いた惚れたを互いでどうこう言うだけ野暮ったいでしょ?
不束な娘でよければ、末永くよろしくお願いします」
ぺこり、と小さく頭を下げるシエル。
「まあ、あんなチビのお兄ちゃんを、義兄と躊躇なく
呼べるだけの度胸と根性と肝っ玉が
あなたにあれば、の話だけど?」
どことなく意地の悪い笑みを浮かべるシエル。
「呼ぶさ。実は隊長にも話は通してあるからな」
「……そうなの?」
心底驚いた表情で、しかし、冷静を装って切り返すシエル。
それがことさらに痛快だったのか、ジークは大笑する。
「ふははッ! 初めて俺が一本取った感じだな、シエル!
生きていればこういう面白い瞬間にも出会えるものだ!
あの時馬鹿みたいに突貫しなくて正解だったぞ!」
「調子に乗らないの、馬鹿!!」
ごかッ!
シエルの杖が鈍い音を立ててジークの頭にクリーンヒットした。
コンラッドは
レッド・ワイズマンMk-Ⅱを係留させ、
一時的にまた指揮を義父カーティスに任せ、
自らは久々の本格的な休暇を取るために港町へと下り立った。
ここは
ヴェール・シティである。本拠地と言える場所。
つまり庭と言っても差し障り無いのである。
「んと、とりあえず銀行で金でも下ろすか」
そう呟いて、銀行に立ち寄り、現金自動預け払い機に近寄り、
機械操作をする。
ぴこん。
警告音と共に以下の表示が成された。
『一日100000ゲル以上のお引き出し及び振込みは、
直接行員へとお申し付け下さいますようお願い申し上げます』
「……やっぱり無理か」
額が大きすぎるようである。100000ゲルといえば、
一般の労働者の賃金四か月分ないし五か月分に匹敵する金額だ。
もちろん、少し大きな買い物をするための金額なので
そんな大金を引き落とそうとしているわけではないのだが、
やはり機械に頼りすぎるのも難がある、という事だろうか。
「すんませーん、現金の引き出しいいッスかー?」
「はい、こちらの用紙をどうぞー」
事務的な処理を済ませ、現金を引き取る。
そしてさっさと立ち去ろうとしたコンラッドの目の前で事件は起きた。
「騒ぐな、殺すぞ! 金を出せ、バッグに詰めろ!!」
「ひっ……!!」
行員、客、全ての人間が凍りついた。典型的な強盗だ。
男はナイフのみならず、銃で武装している。
かなり気合が入っていると言えた。
(はあ、やれやれ……)
コンラッドは溜め息をついた。久々の休暇だというのにこの騒動だ。
呆れ果てると同時に少しだが腹が立ってきた。
「おい、おっさん。金が欲しいのか。俺のも要るか?」
持っているアタッシェケースを差し出してみるコンラッド。
「おーし、いい心がけだ! 命が惜しいようだな!?」
それを喜々としてもぎ取ろうとしたのが隙である。
コンラッドは腕を下げて強盗の腕を回避。その遠心力でケースを回す。
ゴン!
そしてそのまま脳天に叩き込んだ。重量物なのでかなり痛いだろう。
「おがあぁぁぁぁぁぁッ!?」
ゴン!!
「ほら、遠慮すんな、受け取れよ?」
ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!
しつこくしつこく、実にしつこく遠心力で回し続けて延々と脳天に
アタッシェケース(札束満載)を叩き込む。
むしろケースは少しへこんでいる。
「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
やめ、やめて! やめぇぇぇぇ!!」
強盗があっさり無抵抗になったので、
持っているリールで拘束してやった。
もっとも抵抗など不可能だった事は容易に理解出来るのだが。
「勇者軍の住んでる場所で要らん事
しでかすのが悪ぃんだ。反省しやがれ」
「なんで勇者軍のいる時に来ちまったんだよ、俺ぁ……!」
半泣きどころか、完全にボロ泣きの不運な強盗だった。
こうして、ヴェール・シティ強盗事件は事件発生後、2分での
超スピード逮捕で幕を閉じたのだった。
が、これはどうでもよかったりする。
その帰り道に本当の事件は起こった。
いつの時代も捨て子は橋の下に
捨て置かれるのが定番なのであろうか。
「ふぎゃー! ふぎゃー!!」
やっぱりというか何と言うか、
通りがかった橋の下からは泣き声が聞こえてきた。
コンラッドは慌てて駆け寄る。どうやら
親もいないらしい。見事に捨て子だ。
しかし、勇者軍特有の勘が働く。この子には才能がある、らしい。
「……これも因果かねぇ」
コンラッドは元々捨て子だったのを拾われている。
義父カーティスも、そして祖母シルヴィレンテもそうなのだ。
これもワイズマン家の宿命なのかもしれない、
と何となく思ってしまった。
流石に四代続けて、と
なると
笑う気も起きなかったコンラッドである。
「しゃあねぇ! 俺が死ぬまでぐらいは面倒見てやる!
行くぜ!! 俺の個人的な買い物は後回しでいいしな!!」
コンラッドは赤子を連れて母艦へと戻るのだった。
メイベルは自宅に戻っていた。
アーマーも脱いでおり、完全に私服だった。
懸命に布で、自慢の
スカーレット・アーマーを上機嫌で磨いていた。
「メイベルは本当に気に入ったんだなぁ、そのアーマー」
「はい……お父様の下さったアーマーですもの……」
静かに笑うメイベル。父親冥利に尽きる一言を聞かされ、
ケヴィン=アイリーンという名の父親は気になる事を聞いてきた。
「赤色、好きなのか? 前から気になってたんだが」
「はい。私の好きな曼珠沙華の色です♪」
「まん……何だって?」
「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)です……正式名称は彼岸花」
「ああ、彼岸花か……しかし、また渋い……」
どうやらケヴィンには植物の知識は少ない模様だった。
「一生の宝物にしますね……このアーマー」
「おおっと、それで満足されてもらっては俺も困る!
今度は勇者軍の技術を結集して製造させたアーマーがある!
これを受け取ってからにしてもらおう!!」
ケヴィンが自信満々に取り出したのは一回り巨大なアーマーだった。
色はそのままだが、何やらゴテゴテと付属品があるようだ。
「スカーレット・アーマーの発展型、その名も
スカーレット・アーマー・コロナバースト仕様だ」
「コロナバースト?」
疑問に思ってメイベルが首をかしげる。
その仕草たるや、ジルベルトそっくりである。
「おう! メカ・スプレッダーの報告を参考にして、
アーマーの肩に
ミサイルを、腰にはグレネード散布装置を、
足には火炎放射器まで搭載しているぞ!
背中には更に補強したブースターを三基増設した代物だ。
重量は更に百五十キロ増だが、機動性はむしろ向上したはず!」
……流石に性能が疑わしいのか、メイベルは黙ってその
コロナバースト・アーマーを装着する。
「お父様……」
「何だ?」
「……動けません……」
「……ミサイルは外すか?」
「初期型のままで結構です……」
よたよたと、何とかアーマーを脱ぎ捨てるメイベル。
父の愛が何やら物理的に重い状態の中、メイベルは時計を見た。
「あ、そろそろ行かないと……」
「情報部の友達と約束があったんだっけな。
悪い遊びを覚えるなよ?」
過保護気味ではあるが、彼は彼なりに真剣なのだった。
「マフィアの家で生まれた私に言う事……なんですか?」
「減らず口はいいから早く行って来い」
「……はい……」
父が照れた表情をするのが何やらおかしくて、
しっとりと笑うメイベル。
ぱたぱたと、間抜けな音を立てて家を出るのだった。
「……まったく、俺よりエリシャの奴に年々似てくる。
やれやれ、女の子の扱いは難しいよな?」
「……私ほどじゃないと思いますので、
今のままでいいかもしれませんね」
物陰からこっそりと覗いている女性が笑って答えた。
恥ずかしがりのこの女性は、ケヴィンの妻、
そしてメイベルの母である。ぎこちないながらも、
幸せな家庭は順調に育まれているのだった。
リゼルは、ルシアとの密会をしていた。
会ったのは偶然であり、別に逢引という類の浮ついた話ではない。
大体、リゼルにはシルヴィアという恋人がいるのだ。
カルナード港から
デス・ボルガノンへの道中でのことであった。
「今にして思えば、やっぱり、とも思うんですよね」
リゼルは納得、という表情をしてみせた。
「あなたが、
勇者軍主力部隊の居場所を知っている、とわざとらしく
声をかけてきた時に、僕はあなたの声色を完全に覚えました。
そして、見事に僕を誘導してみせた。不自然なぐらいにね」
「その時からバレていたのかしら? 私がソニアの姉だってこと」
リゼルは首を振った。
「確信に至ったのは
ネイルキャットとして出てきた時です。
一緒にスプレッダーの幼生体を潰した時ですね。
仮面以外の変装は皆無でしたし、声もくぐもっていたとは言え、
何とか分かる範囲でしたからね。僕はむしろソニアさんが
気付かなかったのに疑問を覚えたぐらいです」
「しっかりしているようで、どっか抜けてるからね。
本質的には隊長と同じで天然さんなのよ。
ありがとうね。ソニアに黙っててくれて」
よほどその時に笑いを堪えていたのだろう。くすくすと笑う。
「なんとなく、その方がいいように転ぶ気がしただけですよ。
しかしあなたも随分と乱暴な人です。成長を促したい一心で、
敢えて敵に回ってやらなくても良さそうなものでしょうに」
「あの子は昔から本質が甘えん坊だからよ。
こうしてやらないと、私と決別出来ないでしょう?」
「実に厳しいお方ですよ、ルシアさんは……」
リゼルが苦笑する。自分が身内となるであろうシルヴィアに対して、
ここまで厳しく出来るかと問われれば、答えはノーだからだ。
「ルシアさんはこれからどうするんです?」
「もうちょっとだけ、ちゃんと姉をやってようかと思うわ。
清く正しいお付き合いが出来るかどうか、一応隊長を
見張ってやろうかと思ってるの。いけないかしら?」
「人畜無害な隊長に婚前の手出しが出来るかと言われれば、
たぶん出来ないし、しようとも思わないんでしょうけど……」
「それじゃいつまで経っても進展しないじゃないの。
そんなの建前で、あの二人をちゃんとくっつけに行くのよ。
あと、ソニアが隊長可愛さのあまり暴走とかしないように、
っていうのも多大に含んではいるけれどね?」
と言い切り、ルシアはニカッと景気良く笑う。
「下世話なのも程々にしないと、また喧嘩になりますよ?」
「喧嘩ならいくらでもしてきたわ。殴り合いじゃ勝てないけどね」
「まあいいですけどね。じゃあ、僕もそろそろ帰ります」
「あなたは
アーム城勤務だっけ?」
「ええ、研究部へ直接勤務です。いい加減帰らないと、
シルヴィアさんがムクれてしまいますので」
「パートナーに弱いのはリゼル君も同じなのよね」
「返す言葉もありませんよ」
リゼルは席を立ち、ルシアも席を立った。
しかし互いの歩む方向は真逆である。
リゼルはアーム城の方向へ、ルシアはストレンジャー・タウンの
新しい
ストレンジャー家邸宅の方向へ。
最も遠い距離、惑星アースの反対側同士へ、
互いの歩みを向ける二人なのであった。
最終更新:2011年02月18日 13:29