第十三章-第一幕- 皮肉混じりの機械神
新たに
ゼクウ=ユウキを加えた
勇者軍主力部隊は
のんびりと宿に戻って一泊。ジルベルトが起床して食堂に向かうと、
勢揃いしているいつものメンバーに加えて、
目をまん丸くしてびっくりしているキョウカ王妃を見かけた。
(どしたのー?)
「いつの間にか、一人増えてますわね……」
よく考えればキョウカとは直接まともに会わずに
加わったゼクウに対して、起きて見て驚くのも無理は無いと言えた。
しかしキョウカは思いの他、冷静であった。
「ひょっとしてゼクウ君? ゼクウ君なんですか?」
「肯」
「やっぱりその喋り方。相変わらずですわ。
しばらく見ない間に大きくなりましたわねぇ」
キョウカは元々
バイオレット・ヴィレッジの出身である。
何らかの接点で面識があっても、まあおかしくは無かった。
「ゼクウ君も来てくれたなら仰って下されば良かったのに。
前に奇襲してきた時からまさかとは思いましたけれど……」
「謝」
どうやら謝っているらしかった。
「ともかく、よろしくお願いしますね。
この子達をフォローしてあげられるのは、
現状ではルシアさんとあなたしかいなさそうですから」
「了」
それだけ言うと、また部屋の隅っこに戻っていった。
朝食を済ませ、速やかに行軍を再開する。
「あっ」
バスクがいきなり声をあげる。
「どしたの? バスク」
「
アーム城と連絡が取れたぞ、通信網が回復したか……?
今連絡を取ってみる。歩きながらでいいよ」
バスクがそういうので、フローベールも聞き流す形で、
全員に促し、行軍を続ける事にした。
「シルヴィア主任、俺です、バスクです。聞こえますか!?」
「はい、聞こえますよ。船はもう出してますから」
「……船?」
話が上手く噛み合わないのはこの娘にしていつもの事だが、
いくらなんでも今回のこれは唐突過ぎる。
「戦力を集めるなら海洋戦力を用いての移動も必要だと、
作戦部と協議した上での決定です。コンラッドさんが
レッド・ワイズマンMk-Ⅱを
カルナード港に
停泊させて待機しているとのことなので、
速やかに合流してもらえれば、と思いますー」
「こっちに無断でそんな大事そうな話決めないで下さいよ。
いや、助かりますけどね? では、了解しました!」
ぶつん。
「ったく、あの主任は……」
頭をばりばり掻いて困り果てるバスク。
「イライラすると健康に悪いよ、いりこ食べる?」
どこから取り出したのか、
フローベールは大量のいりこを取り出した。
「もらうけど、それまだ持ってんの?」
「うん、お父さんの
非常食袋。色々便利なの」
と、自慢げにフローベール。
『それを運ばされる私は大変なんですけどね』と言わんばかりに
ベアトリスが無駄に一声鳴いたのはご愛嬌なのか何なのか。
よく分からない光景が後方で繰り広げられている中、
ジルベルトとゼクウは、左右の林に何らかの気配を感知した。
二人とも足を止め、同時に端末のレーダーを動かした。
割と近い位置に左右に生命反応が多数。恐らく人間サイズ。
「無」
ずどんどがん!!
無意味だ、と言いたげにゼクウは発破を二個取り出し、
それを左右の林に投げ込んで破裂させた。
その破裂音と炎に慌てて兵士達らしき人間が飛び出てくる。
勇者軍予備役の正式鎧や制服などではない。
ならば敵の可能性が高かった。待ち伏せのつもりなのか。
だが、ゼクウによってその目論見は脆くも潰えた。
もちろん破裂音に驚いたのは敵だけではない。
キョウカ王妃も事態の異常さを察知し、速やかに退き、
代わりにソニア、ルシア、フローベール、バスクが前に出る。
メイベルは王妃の直接護衛に回った。
「誰なの!?」
「うむ、我輩こそは『
ネイチャー・ファンダメンタル』の首魁、
ラッカード=ジモンであぁぁるッ!!」
無駄に強い語気で自己紹介をするラッカード=ジモンなる人物。
「ネイチャー・ファンダメンタル?」
直訳すると自然原理主義者集団――という事になるが。
「うむ! 我等の理想は自然的に生まれた生物だけによる
理想郷の創立にあると知れ!
然るに勇者軍は遺伝子工学を弄び、
不埒な生命を多数創造していると聞く。
そのような蛮行、断じて我等の許すところにあらーず!」
妙に熱くなっている。
「ちょ、ちょっと待ってよ、じゃあそれだけの理由で、
アーム城や
妖精の森を襲撃したっていうの?」
ソニアが苦情を言うと、律儀に応じる。
「当然だ。我々の理想の極地は、
自然から生まれた生物だけによる理想郷の創立!
遺伝子工学から生まれた生命は勿論許さんが、
遺伝子工学自体も撲滅するし、
遺伝子操作を行う者達も社会的に抹殺する!
そうして我々の望む理想郷が成立するというものよ!」
「馬鹿な事を言わないで! あんた達が遺伝子工学を
目の仇にして、反対運動を繰り広げるのなんて
あんた達の勝手だけど、既に生まれた命まで
勝手に殺そうなんて、私達が許さないわよ!」
「貴様等にッ! 許してもらおうなどとは考えておらぬわあぁぁ!
いでよ、我が忠実なる下僕、
デウス=エクス=マキナぁ!!」
ずんッ――!!
凄まじい地響きが響いたかと思えば、それは巨大な足音だった。
周りの木々をへし折って現れたのは、
従来の
亜人族の代表種族、
ジャイアント族より
明らかに大きい巨人だった。
「何だ、あれは!?」
思わずバスクが悲鳴をあげる。
「これこそ、我がネイチャー・ファンダメンタルが作り上げし、
対遺伝子工学用遺伝子調整生物、デウス=エクス=マキナ!」
「って、ちょっと待ちなさいよ! 遺伝子工学に関わる代物は
全て叩き壊すんじゃないの!? 本末転倒でしょうが!」
ルシアが全力でツッコむ。
「然り――」
急にジモンはトーンを落として語り始める。
「何故ならそもそも、この我輩こそが
遺伝子工学の権威と称された人物。
誇りも驕りも無かったが、技術の行く末に戦慄したのだ!
だからこそ、我はこのマキナを育て上げた!
これで全ての遺伝子に関わる技術を滅ぼして、
その後我輩がこやつを滅ぼせば良い!
それが出来ぬとしてもこやつ一人では世界に勝利するのは無理よ!
最後に人類が勝利してこやつが消えれば、それでカタは着く!
こいつの存在など、所詮通過点、捨て石に過ぎぬのだぁ!!」
狂っている。正気の沙汰ではない。
まずデウス=エクス=マキナと言う名前自体が既に皮肉っぽい。
『機械仕掛けの神』すなわちデウス・エクス・マキナは
演出技法の名前だが、その技法の欠点と粗は
既に西暦時代から指摘されていた事である。
機械仕掛けの神でこの世をリセットするような演出は禁句に近い。
その皮肉をたっぷり込めての命名であろうが、悪趣味に過ぎる。
「滅!」
敵の異常さを感じ取り、ゼクウがまず真っ先に動き出した。
鎌による一閃がマキナの急所を確実に抉る。
だがそれはあくまで人間スケールの話であって、
無傷ではなく、マキナは少し痛がりはしたが、
すぐにその豪腕を振るい始めた。
ごがっ!
地面がめくれ上がり、その風圧だけで
飛行しようとしたフローベールが押し戻される程であった。
ゼクウはかろうじてかわしたが、受け身を取るのが
精一杯だったようで、息があがっている。
だがジルベルトは冷静にマキナの心を読んだ。
(私はこの運命を受け入れた……だから君達が私を殺すのだ。
でなければ、自然生命のみになるまで
私は命を殺めなくてはならん――)
そのマキナの真意はジルベルトの戦意を奪うには充分だった。
「駄目――駄目なの! デウス=エクス=マキナ!
その悲しみは、他の命に
ぶつけちゃいけない性質のものなの!」
ジルベルトの絶叫が戦場に響く。
その一言にマキナは一瞬怯んだ。
「どうした、マキナ。やれ」
「…………この男は私が手を下してはいけない命かもしれぬ。
この男はある意味、我が悲しみを
真に理解し得る者かもしれぬ」
「気が削がれおったか、未熟者めが……まあ良い。
どうせ今回は挨拶代わり、マキナのために
退いてやるとしよう。だがマキナ、忘れるなよ?
全ての遺伝子技術と遺伝子調整の生命を屠らぬ限り、
お前と同じ悲しみを持つ命が生まれ続けるという可能性をな」
「分かっている……退かせてもらうぞ、ネイチャー・ジモン」
どうやらニックネームらしかった。
「呼ばれ慣れぬ……ジモンで良いわ。だがせっかくだ。
ここで遊んでいくがいい、勇者軍よ」
去り際に、ジモンは右腕を振り上げた。
代理の指揮官を呼んだらしい。
すると、現れたのは細身の男性だった。身長が高く、
面影は美しいが、どこか鋭利で、生理的嫌悪感も感じさせた。
平たく言うと妙にくねくねした動きが気持ち悪い。
「私は――美しいッ!」
「は?」
ルシアを筆頭に、全員がぽかんと口を開けた!
「私は――強いッ!」
「はあ」
「私は――正しいッ!!」
「…………」
何やら自己陶酔に浸っているようだが、
すぐにこちらを睨み据えると、
ようやく自己紹介に入ったようである。
「私の名は
ジーネ=フォーゲル。
栄光ある『ネイチャー・ファンダメンタル』の幹部にして、
ああ――『美しき白薔薇』とはっ! 私の事なのです!」
ジーネと名乗った変なナルシストは、何故か感涙し始める。
あまりの変人ぶりに、珍しくまたジルベルトが口を開いた。
「変な人ー」
ご丁寧に指まで差す。
「こらっ、ジルベルト君、指差しちゃ駄目よ!
変人が伝染するわ!?」
ソニアが嗜めるが、ゼクウも頷く。
「変」
まんま一文字で的確に表現する。身も蓋も無い。
「黙りなさい!」
ジーネは剣を抜き、ヒステリックに叫ぶ。
「遺伝子工学などといびつな技術に頼り、
己が繁栄を勝手に謳歌する勇者軍などに、
ジモン殿の理想など分かるはずもありません!
この美しき白薔薇が、今こそあなた達の血で
赤く、美しく染まるのですよ!
さあ、全員勇者軍へ向けて、華麗に、美しく攻撃を!!」
「おおーッ!」
何故あれで士気が保てるのかは分からないが、
ジーネ指揮下の兵士達が一斉にジルベルト達に殺到する。
マキナに事実上敗れたショックを嘆いている暇も無く、
またも戦場の渦中に放り込まれた形になる。
だが、通常の敵と
なると、滅法勇者軍は強かった。
フローベールが空から、バスクが陸から敵を存分に引っ掻き回し、
その二人を狙う弓兵や銃兵はルシアが片端から狙撃し、
またゼクウもそれらの兵の制圧に専念していた。
それでもキョウカ王妃や猫達に殺到する兵士がいたが、
それらはメイベルが雑に、しかし的確にあしらっていた。
思いのほか、統率が取れているが勇者軍の敵ではない。
ジルベルトはソニアの腕を引っ張ると自ら前に殴り込む。
ソニアが意図を察して手を放し、コンビで大暴れを始めた。
すると前線はたちまち崩壊し、
敵兵は散り散りになって逃げ始めた。
これなら人数が多かった分、最初の奇襲の方がよほど怖かった。
「ここは不利ですか……美しく撤退を!!」
ジーネが状況不利と悟ってか――しかし速すぎるタイミングで
撤退命令を出した事により、敵は全員撤退を始めた。
その命令のタイミングを勇者軍も疑問に思い、一旦立ち止まった。
「流石に見事ですが、その少数精鋭で我等の戦力に
どこまで立ち向かえるものか、これからがお楽しみです。
ウフフフフフ……アハハハハハハハ!!」
捨てゼリフだけを残すとジーネも素早く撤退していった。
釣り野伏の類の計略かとも思ったが、見事に誰もいなくなった。
林道は再び静けさを取り戻したが、あの捨てゼリフに
誰もが疑問と不安を拭い去れないのは事実であった。
しかし止まるわけにはいかない。
キョウカ王妃とメイベルを呼び戻し、
ジルベルト達勇者軍主力部隊は、
林を超え、アルボ森林と呼ばれる
フロックハート・タウン付近にある
大森林へと足を踏み入れようとしていた――
最終更新:2011年03月05日 22:05