序章-第三幕- 出会い
勇者軍主力部隊から逃亡を続けるロバートは、
ゼン・ヴィレッジなる村に到着していた。
なにやらひっそりとしており、物静かである。
人によっては息を潜めているかのようだ、という感想を抱くだろう。
ロバートは、その街の物陰で泣いている女性を見つけた。
何故だか生卵まみれになっている。
お節介だと分かってはいるものの、放置してはおけなかった。
「…………女、どうした?」
びくり、と肩を震わせ、過剰反応する女性。
物言いが物言いなので仕方が無いかもしれないが、
敵意が無い事が分かると、一転して警戒を解く。
「すん…………」
とはいえ、泣いたままではあるが。
「泣いていても分からん。何故生卵まみれだ?」
「私に近寄らない方が……いいと思います。
あなたも苛められますよ。離れて下さい……」
どこか寂しそうに微笑む女性。
「苛められる? 貴様は苛められているのか?」
「ええ……私や母は『純血者』ではありませんので……」
「純血者?」
聞き覚えの無い
専門用語なので、おうむ返しに答えるロバート。
「はい。私は
惑星アース人類の純血者の父を持ちます。
一方、惑星アースの人類のほとんどは何らかの形で
アルファ=ストレンジャーの血を引いており、
母はそれらの部類に入ります。このゼン・ヴィレッジは
純血者のみが住める、と定められた保護・隔離区域なんです」
あまりの馬鹿げた構想に、ロバートは一瞬黙る。
「するとアレか。貴様が純血者でないから、
出て行くように迫害を続けている、ということか?」
「はい……」
流石に泣き止んで、明確に答える女性。
「村の連中はそれで当然と思っているんだな?」
「はい……」
「貴様はそれが許せるのか?
貴様の親父やお袋はそれが許せるのか?」
「……分かりません。掟を破って婚姻し、
故郷を離れるに忍びないまま、惰性の生活……
そんなところなのでしょう。私個人としては……
こんな迫害され続けるだけの人生は……嫌です」
「だろうな。ここを出て行ったからといって
その先どうすべきかも見えていない。だからそうなる」
「え?」
「だが出て行ったら出て行ったで、案外どうにでもなる。
しばらく前の俺が実際そうなんだからな」
「…………」
「だが、許せんのは村の連中だ!」
どだん!
急に激昂して、足を踏み鳴らす。
「人を迫害し、無辜の貴様等を叩き出しておいて
自らが正義であるという愉悦に浸っているだけのクズめ!
女、貴様が取るべき態度は恭順か!? それとも服従か!?」
「え? な、何を……?」
「違う! 貴様の取るべき道は反逆だ!
めいっぱい逆らい抜け! そうしてから堂々と出て行けばいい!
俺が見ていてやる、行くぞ、女!!」
「え、え、えっ!?」
手を引かれるまま、ロバートと女性は村役場へと向かった。
そして、村役場で村長に直談判する。
「貴様が村長か……」
凄まじく威圧的なロバートの態度に、村長も若干身を引いている。
「エナか! まだお前は村にいたのか!
しかも純血者でなどないと見える男を連れ込んで何のつもりだ!
黙ってこの村から家族もろとも出て行くがいい!
ここは惑星アース純血者のための村だと
いくら言っても分からんか!」
村長も負けじと、何故か女性――エナに向かって怒鳴りたてる。
びくりと身を震わせ、そして周囲の湯呑みやら何やらが浮き上がる。
「ほれ見ろ! その怪しげな力が純血者でない何よりの証拠だ!
それが惑星アース純血者を滅ぼす力であると断言出来るな!」
純粋な防衛反応からエナのサイキック能力が発動したのだ。
上級の念動力であるが、本人は意識してはいないようである。
「待てオラ! ただ静かに住みたいって言ってるだけだろうが!
一人の例外も認められないっていうのかよ! えぇ!?」
「お前も黙ってろ! 異能者めが!!」
どこから取り出したのか、リンゴを投げつける。
エナは決死の覚悟でリンゴを念動力で止めた。
「や……やめて……」
「あぁん、聞こえんな!?」
村長は更にリンゴを投げつける。
「やめて下さい! 私は……私も人間です!
あなたと同じ、人間です!! この方も、あなたも人間です!」
それは精一杯のエナの反抗、いや反逆であった。
「エナ! それが貴様の取っていい態度か!
守衛! こいつらをまとめて叩き出せ!!」
どこに隠れていたのか、守衛と呼ばれた者達が
何名かエナに向かって警棒で殴りかかろうとする。
「よく言った、女!!」
ロバートはむしろどこか嬉しそうに、守衛を一人殴り倒す。
「わっ!? 抵抗するのか、貴様!」
「抵抗じゃねぇ、反逆だ! そして女!!
いい反逆っぷりだったな、その反逆、俺が引き受けた!」
「おのぉぉれぇぇぇ……かかれぇぇぇぇーッ!!」
守衛に加えて一般の役人までもが襲い掛かる。
「俺を敵に回してただで済むと思うなよ!!」
ロバートは敢えて銃は抜かず、拳で対応することを決めた。
こんな雑魚相手なら、それで充分だと判断したからだ。
「人が右向きゃこの俺ぁ左! 白と言われれば黒と叫ぶ!
花も嵐も踏み越えて、ひたすら歩くは茨の道よ!
宿命反逆ストレンジャーとは
俺の、事だぁぁぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁッ!!!」
「なぁにぃぃぃぃぃぃぃッ!?」
全員がこの場にいるわけが無い人物の姓に驚く。
それは勇者の姓、異能者代表の姓であったはずだからだ。
「俺に目をつけられたら未来は無ぇ!
身をもって肝に銘じやがれぇぇぇぇッ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
この数十分後、
ザン共和王国の
アーム城に
ゼン・ヴィレッジ壊滅の報が届き、その犯人が
ロバートだという事実が発覚したのであった。
だが、当のロバートはエナの手を引いて、
唯一無事だったエナの実家に向かっていたのだった。
最終更新:2013年08月27日 20:39