序章-第二幕- クソ真面目な男
ロバートは
アーム城の城下街を離れ、宿を取るのは諦めた。
彼とて最低限の倫理はあり、無関係の市民を巻き込んだりするのを
決して好んでいる性質ではないからである。
「今日は野宿かい……寒ぃこったな」
と、そこらの枯れ木を集めて焚き火をしながらロバートは呟く。
そんなこんなで一晩経過、朝になって目を覚ませば……
「おお?」
しっかりと両手両足丁寧に荒縄で拘束されていたりする。
視線を上に上げてみれば、そこには見知った部下の顔。
アーム城次期城主にして
ザン共和王国王政部の王子、
ウォルフ=テオ=ザン=アームⅣ世である。
階級は向こうの方が遥かに上だが、次期総帥で隊長という
立場上、どうしても彼から見ればあらゆる人物は部下同然だ。
「三ヶ月ぶりぐらいですか、隊長」
「おう、ウォルフ。何の真似だこいつは?
まさかお前、上司に対して反逆する気か?」
「あなたが
勇者軍軍規に対して反逆すると言うのなら、
私としてもそうするまでですが、返答は如何に?」
「上等だ! その反逆、買ったぁ!」
なんともないようにロバートは荒縄を強引にむしり、千切る。
ウォルフの随行者達はその力技に思い切りドン引きであった。
「では、過剰防衛の罪状により隊長を拘束だ、かかれ!」
「了解!」
ウォルフの指揮で後ろに付いていた護衛が動き出す。
「マリー! エリックのおっさんもかよ!」
「度を越した悪戯が目に余るようだな、ロブ!」
マリー=ジーニアスと呼ばれた女性。
ジーニアス家筆頭だが、ロバートとは口論する事も多く、
しばしば内部対立を引き起こす原因ともなっていたが、
互いにその実力を認め合う、という女傑であった。
槍を握ってこちらへ全力突撃してくる。
「抵抗するんじゃない! ロブ!」
エリック=ルスト。
ハーフエルフの男性で、むしろロバートの母親と友人同士であり、
面倒を見るようにしばしば頼まれていることから、
今回の拘束を自ら買って出た、三児の父親である。
エリックは杖と魔法でマリーをサポートする。
その一方でウォルフ自身も斧を構えて向かってきた。
「いきなり三対一たぁ、やってくれる!
確実に俺を捕らえるつもりかよ、ウォルフ!」
「私はクソ真面目な男なので、これ以外の方法を知りません、
少々痛いとは思いますが、少し反省していただきますよ、隊長!」
「ちぃぃっ!」
ロバートは拳でマリーの槍を打ち払い、
続けざまに飛んできたエリックの攻撃魔法を速やかに回避、
更に大きく距離を取って、ウォルフには飛び込ませない。
「手を抜くな、ロブ! 死にたいのか!?」
得意であるはずの剣を使わない事をなじるマリー。
「うるせぇ、これでも食らいやがれ!」
ロバートはホルスターから
リボルバーマグナムを
二丁取り出し、両手に握る。
どだんどだんどだんだんだんだんだだんッ!
精密射撃とはいかないが、速やかな照準で十二連射。
ウォルフには一発かすっただけ、マリーにはすべて弾かれ、
エリックに対してはまったくかすりもしなかった。
いかんせん、応射程度だったので仕方が無いだろう。
「牽制にしてもお粗末過ぎる! 大怪我は覚悟しろ!」
マリーが高い声でキンキンと喚き散らすのにうんざりして、
ロバートは素早く買ったばかりのマントを翻す。
「展開!」
ぶぁさっ!!
すると、人間サイズだった布は、
超絶特大サイズのマントとして広がり、
辺り一面を覆いつくしてしまった。
更に、風も無いのにゆらゆらとなびいている。
「何の冗談ですか、隊長!」
ウォルフが勢いに任せて斬りかかって来るが、
ロバートはそのまま遠心力を付けてマントを振りかぶり、
そのまま布そのものを三人に向けて叩き込んだ。
「うぉわー!?」
「そんなの有りかぁぁぁー!!?」
あまりに巨大なサイズの布の津波ともいうべきものに巻き込まれ、
踏むわ転ぶわ頭を打つわ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す周辺。
ひとしきり転倒させ終わると、ロバートはマントを縮小収納し、
速やかに脱兎の如く逃げ出していった。
流石の彼も、三対一では正攻法での勝ち目は薄い。
「待て、ロブ! 逃げるな!!」
マリーが怒り、その俊足で追いかけるが、
既に凄まじいほどの距離が開いており、
まず追いつくのは不可能だった。
「ちぃっ、また逃がしたか、奴め!」
心底悔しそうに吐き捨てるマリー。
「王子、追撃部隊を再度編成しよう、このまま彼が暴れ続ければ、
勇者軍の信用や信頼は地に堕ちる事になりかねないからね」
「…………勇者軍の信用、信頼ですか」
「王子?」
エリックはウォルフの態度を訝る。
「誰に対しての信用、信頼なのでしょうかね。
あくまで独立した一人狼の勇者軍、信用や信頼など
誰から必要なのかも得体が知れないというのに……
それに私は彼の事を嫌いきれる事は出来ませんよ。
彼にも言い分があるし、それは概して正論ですから」
「……なるほど、確かに王子はクソ真面目な男だ。
だからこうやって衝突するのを苦々しく思うんだな?」
「ええ。エリックさんは違うんですか?」
「違わない。彼の言っていることは概ね正論だ。
だがその我を通すために手段を選ばないところに問題がある。
だから今は、ロブを止めなければならない。
汚れ役は我々に押し付けてくれていい。
ウォルフ王子、君はすぐに政務に戻る事だな」
「すみません、お任せします……」
悔しそうにウォルフはアーム城へと戻っていく。
「我々も一度作戦本部へ戻るぞ、エリック殿」
「ああ。僕達二人だけでは流石に彼は拘束出来ないだろう。
出来ればもう二、三人見繕っておきたい。
可能ならカイトを同行させられれば言う事は無いな。
それで海上、海中までフォロー出来そうだ」
「それでいい、行こう!」
二人も速やかに一度アーム城へ戻る。
我を通し貫き、暴れ動くロバートを止めるために。
一方のロバートはというと、アーム城どころか近辺区域からも
大きく離れ、ゼン・ヴィレッジと呼ばれる
ザン共和王国領土内でも僻地中の僻地であろう土地に
立ち寄るコースを取ろうとしていた。
「……こんなところに村なんかあったっけか?
まあいいや。食料とか売ってるだろ、行くか」
この決断が、ロバートの運命を生涯レベルで
変える事に
なるとは、もちろん誰も予想していなかった。
最終更新:2011年12月11日 00:38