第一章-第一幕- 旅は道連れ
ロバートはエナに案内されて、かろうじて破壊するのを止めた
ギャラガー家に立ち寄っていた。中では困ったような顔をした
エナの両親が一応、二人を出迎えてくれた。
「で、これはどういう事ですかな?」
「簡単な事だ。村の迫害を止めただけに過ぎん」
と、あくまで横柄な態度を取るロバートに、エナの父親は苦笑する。
「……大体仰りたいことはわかります。そして村長からも聞きました。
あなたが一体、何者であるか、という事もね」
エナはおろおろするばかりだ。
「しかしこういった大事になってしまった以上、
どの道我々もこの村にはいられますまい、覚悟を決める時でしょう。
幸いこんな事態に備えて、引越しのための貯蓄だけはしてきました」
「……準備がいいじゃないか」
「私達は私達なりに考えてはいたのです。
このままでは、村の皆さんも、エナも私達も
不幸なままではないか、と……
迫害なんてせずに済むならそれが一番いいでしょうし」
娘に似ているのだろう、エナの母親も遠慮がちに呟いた。
「それは違うぞ」
「え?」
ロバートはきっぱりと否定した。
「奴等はきっぱりと迫害を肯定し、それを状況のせいにした。
それがのうのうと許される方が、よっぽど不幸だ。
俺がやらなくても、いずれウォルフがやったさ」
「ウォルフ……王子の事ですか?」
「知り合いだからな」
ロバートはそう言って軽く嘆息する。
「引越しをするのはいいだろう。だがもう少しだけここに残って
この村の行く末や顛末といったものを見届けてもいいはずだ。
奴等はいずれウォルフ王子に泣きついて
村の再興を要請するだろう。
まあ、俺の予想では突っぱねると見ているがな」
「そういう方なんですか?」
エナの父親が驚いたように目を開く。世間一般でのイメージは
ウォルフ王子は八方美人で人当たりのいい人間となっているからだ。
「自分でも言っているようにクソ真面目な男だ。
すぐボロが出て迫害行為が表に出れば、あいつは怒るだろう。
災害補償するにしても、村ごと解体してバラバラにさせるはずだ」
「何もかも、お見通し、という事ですか……」
「ああ」
そこまで言うと、ロバートは軽く出された茶をすすった。
「この村にとって何より不幸なのは勝手に生まれた偏見にまみれて
生きてきた事と、外の世界を知らな過ぎた事だ。
これはあんたたち二親にも例外ではないし、この女も同様だ」
「……その言葉で決心がつきましたよ。ありのままを
ウォルフ王子にぶちまけて、堂々とこの村を出て行きます。二人で」
「……言っている意味が分からねぇ。二人、とは何だ?」
「私達夫婦です」
ロバートが更に訝る。
「じゃあこの娘はどうするつもりだ」
「
ロバート=ストレンジャー勇者軍次期総帥閣下に
謹んでお願いします。どうか、気の弱いこの娘に
外の世界を見せてやって下さい。
あなたの庇護の下であれば、私達の下に置いておくより安心です」
「勇者軍次期総帥の立場なんぞクソ食らえだ」
と、ロバートは吐き捨ててから、寂しそうなエナを見る。
「だが……俺個人としてはそれ自体は断ろうとは思っちゃいねぇ。
この俺の名の下に、反骨の魂を叩き込んでやりたいと考えている」
「エナ、お前はどうしたいのだ?」
ロバートの同意を取りつけて、エナの父はエナへと問う。
「私は――私はこの人の事をもっとよく知りたい!
出来れば、私もこんな風に強くなってみたいです!」
「決まりだな」
エナの父は微笑む。
「我々はしばらくしてから
アーム城城下街に引っ越してみようと思う。
会いたくなったら、いつでも尋ねてきていいんだぞ、エナ」
「身体には気をつけるのよ、エナ」
「行ってくるね、お父さん、お母さん!」
エナの新たな門出を祝福するように、硝煙の臭いと黒く燻る煙が
周囲の瓦礫を微妙に見にくくしていた。
「えと……
エナ=ギャラガーです。
不束者ですが、よろしくお願いします」
まるで嫁入りだが、とりあえず改めて挨拶するエナ。
「……まだまともに名乗っちゃいなかったか。
俺ぁロバート=ストレンジャーだ。
今日付けでお前さんは俺の権限により、
勇者軍の伍長待遇だ。
サブメンバーという奴だが、
詳しい説明が必要なら、後日ウォルフに端末を送らせるぞ」
「あ、はい……なにぶん勇者軍が
何をするところかも分かっていないので……
今まで何度も世界を救ったヒーローだと聞いていますけど」
「そんな格好いいモンじゃない事だけ今は覚えとけ。
あと、最低限自分の身は自分で守れよ。
せっかく
サイキッカーなんて貴重な技能を持ってんだからな」
「は、はい……頑……張りますッ!」
小さい声で精一杯返事するエナに対して返事もせず、
ロバートはすたすたと歩き出す。
「これから……ど、どこへ行くんですか?」
「任務中じゃないからな。訓練以外では基本的に自由だ。
だから、しばらくはそこいらの街をうろうろするさ。
その間に、せいぜい世間の広さというのを見つめ直せ」
「はい……! じゃあ行きましょう!」
恋人、保護者と被保護者、友人――
どれにも該当しないどこか奇妙な関係性の二人が大地を歩く。
解き放たれた枷を打ち捨てて逃げる囚人のように――
最終更新:2011年12月11日 00:44