第二章-第三幕- ぽんやりお目目のポメ
ウォルフ王子がゼン・ヴィレッジ消滅や、
クロカゲのあれこれで悩んでいるうちに、
ロバート、エナ、レオナの三名は
一気に距離を引き剥がし、名も知らぬ村に滞在、
その後出発して、更なる南下を進めていた。
恐らくは座標的に
妖精の森も通過しているはずだ。
少し進んでいると、温暖な草原へと到達した。
辺りには特に何も無い。ただ草むらがあるだけだ。
他にはせいぜい、樹がまばらに立っているだけ、という風情。
まさにサバンナそのものであると言って良かった。
ロバートも、エナも、レオナも
ザン共和王国への来訪経験有り、
ないしザン共和王国の住民であったりするのだが、
こういう土地があるのを、まったく見たことが無かった。
辺りにはちらほらと、野生動物の姿がある。
肉食獣、草食獣、昆虫、野鳥と実に様々だ。
ここには
自然生命族の縮図があるのだ、と言っても良かった。
だが残念なことに、特に地名などは付いていないようである。
この名も無き草原に留まってみたい気持ちはあったが、
一応追われる身なので、広さを逆用して
敢えて堂々と行動してみせる事にした。
すると、飢えた状態なのか、オスのライオンが
こちらを狩りの獲物として狙ってきているのが分かった。
数は1頭。
勇者軍にとっては鬱陶しいだけの相手である。
「うがぁぁう!」
「きゃあッ!?」
エナが襲い掛かられたのに驚いて、周囲の結構大きな石10個を、
反射的に念動力でコントロールし、散々に打ち据える。
使い手がこの性格でなければ、もっと恐ろしい威力なのは違いない。
エナの
念動干渉力は
サイキッカー基準で見ても、
かなり高いものだった。
「ぐぎゃぁう!?」
一旦退くが、すぐに再攻撃を仕掛けるライオン。
「邪魔だ」
ごがすっ!
「あっち行ってよー」
どごすッ!
ロバート、そしてレオナの拳が炸裂する。
あっという間に二人の拳で叩きのめされるライオン。
これでも、めいっぱい手加減しているので死にはしないだろう。
「ふぎゃー!!」
まるで蹴飛ばされた猫のように逃げ去るライオン。
「はぁぁ……びっくりしました」
そんなエナをジト目で見つめる二人。
「いや、あれだけ叩きのめしておいて
びっくりしたは無いだろ貴様」
「いや本当に。それだけ強くて
よくまあそれだけ気弱でいられるッスね」
「あぅぅ……」
二人の暴言に露骨にうろたえるエナ。
だが、マイペーストークもそこまでだった。
新たな気配を察知したのだ。
次はハイエナか!? それとも虎か!?
そう思って急に振り向いたロバートとレオナの目の前にいたのは、
どう見ても体重2kgも無さそうな、特に小さな虎柄の猫だった。
「……なんだ、猫か」
「わー、かーわーいーいー」
「待った!! 危ない!」
のこのことエナが近寄っていくと、レオナが制止する。
「ふぎゃー!!」
凄まじい剣幕で、エナの頚動脈をピンポイントで狙ってくる。
「世話焼かせんな、貴様は!」
エナの襟首を引っ掴んで引き寄せるロバート。
そのおかげで致命傷は免れたが、引っかき傷を負った。
それだけでなく、余波で地面や石ころにも傷が入っている。
「この威力、
遺伝子調整動物ッスか!?」
レオナの警戒レベルが最大に引き上げられる。
「待て、俺がやる。こう見えても俺は猫が大好きでな?」
指をバキボキと鳴らしつつ言うロバート。
「こういう負けん気の強い奴は叩き伏せて
服従させてから、ペットにするに限る。
というわけで、こいつは俺がもらうぜ」
どのツラ下げて言うのかコイツは、と内心レオナは思ったが、
仮にも上司なので、一応自制しておいた。
「おらぁッ!」
拳打を叩き込むが、容易く回避される。
必死にエナは送られてきた端末で情報を検索する。
どうやら
クロアシネコと呼ばれる小型猫らしく、
その獰猛さは
キリンを狙いにいくほどである。
しかも遺伝子調整措置された挙句捨てられたのなら、
その戦闘能力は勇者軍予備役の人員を上回るかもしれない。
「うぎゃう!」
クロアシネコが引き続き爪での連続攻撃を仕掛けるが、
どうにかこうにかロバートも必死で回避する。
それでもいくらかの負傷は免れなかった。
「やるじゃねぇか! いい反逆だ!」
ロバートは敢えてクロアシネコに噛み付かせてから、
その首を掴んで強引に捻じ伏せた。
「ふぎゃー! ふぎゃ! ふーっ!」
なおもジタバタもがいて抵抗するクロアシネコ。
隙あらばいつでもこちらの首を掻き切りに来るつもりだ。
「抵抗するんじゃねぇぞオラぁッ!」
さらに力を込めて押さえつける。
やがて体力の尽き果てたクロアシネコはその場でぐったりとなった。
息は荒いが、どうやら自分の負けは理解したようである。
ただし押さえつけるのはやめない。やめたらまた攻撃するであろう。
「へへ、力の差が分かったようだな」
「もうやめましょうよ、可哀想ですよ」
と、エナがしゃしゃり出てくる。
さっき殺されかけたというのに、とんだお人好しであった。
「ほら、ジッとして下さい。
ヒールバスター!」
エナの治癒魔法によって、ロバートの傷が消えた。
「こんな技能も隠し持ってやがったのか」
「ちょっと片手間に覚えたんです、ほら、ネコちゃんも」
エナの治癒魔法で、クロアシネコもすっかり傷が消える。
痛みが消えたのがエナのせいだと分かると、
途端に凶暴性を消し去り、エナをジッと見つめる。
エナが見つめ返そうとすると、ロバートがその首を横に捻る。
「何するんですかー!」
「ネコに向かって見詰め合うな。敵意を示すのと同じだ」
「そ、そうなんですか?」
エナに敵意が無い事が分かると、まずクロアシネコは
目つきすら変えてエナに懐き始める。
その次にロバート達にも懐き始めた。
実力差も理解できたし、保護しようというのが分かるらしい。
遺伝子調整動物は知能の出来からして違うのである。
「ぽんやりしたお目目が可愛いですねー」
「これぐらい最初から愛嬌がありゃいいのにな」
と、クロアシネコを撫でつつ言うロバート。
確かに彼が愛猫家だというのは本当のようだった。
かなり手荒いが、飼い慣らした後の扱いは異常に上手である。
「よし、名前付けました! ぽんやりお目目で、ポメです!」
「犬じゃねーッスよこいつ!?」
勿論レオナが真っ先にツッコんでくる。
ポメラニアンとの誤認を懸念しての事らしいが、当然である。
「ポメちゃん……にゃん♪」
「にゃん」
「にゃん、にゃーん♪」
「にゃんにゃん!」
なにやら通じているらしかった。すっかり仲良しである。
「どうでもいいけどクロアシネコって飼っても良かったっけか?」
「いやあたしに訊かれましてもね……」
すっかり頭を抱えたレオナに、
ロバートがどうでもいい質問をするので、
レオナは殊更に脱力してしまうのだった。
こうしてクロアシネコのポメを加えた一行は、
より賑やかになり、一路大都市である、
ヴェール・シティを目指すのであった。
いよいよ物語は本格的な開始の様相を見せ始めるが、
彼らがそれに気付く術は未だに無い――
最終更新:2011年12月11日 00:56