第二章-第二幕- 急襲の黒影
アーム城へ急いで戻ったウォルフ王子は、
顔パスで警備を素通りし、走りながら城の中央部へ向かう予定だ。
そこが制圧されることは、城そのものの制圧と同義である。
それだけは
アーム王家の面子にかけて、許すわけにはいかない。
とりあえず武器庫で手近な斧をひっ掴んで全速力で駆ける。
辺りには倒れている兵士達が気を失って、呻いている。
どうやら鈍器で殴り倒されたようであった。
中にはリールで拘束されているものもいる。得意なのだろうか。
どのみちかなりの数の兵を倒しているので、相当の手練れであろう。
「どこだ……!?」
気配がまったくない。感じられないのだ。
既にいないのか、分からないようにしているのか。
恐らくは後者だろう。
バツン!
「……照明が!?」
ブレーカーを落とされたようだ。城内の照明が一斉に消えて、
まさに暗闇に近い状態に陥ってしまった。
この状態で奇襲でもかけられれば、あからさまに不利である。
相手は一人とはいえ、一切の油断は出来なかった。
「ちいッ!」
一瞬感じた気配が敵かどうかは分からないが、
遠慮なくウォルフ王子は斧で斬り払う。
味方なら、恐らく気配を消してなど来ないはずだからだ。
敵と思しき人物は素早く回避する。
見事な跳躍だ。恐らくは一瞬壁に貼りついただろうが、
すぐに離れたのが音などから分かる。
それと同時に察した事もある。
最初からこの侵入者が自分を最大の標的として
忍び込んできたであろうということだ。
自分が来るなり真っ先に動いてきて、
ピンポイントで狙ってきているからだ。
それが証拠に、自らが建物に入ってからというものの、
他の兵士が倒れたりする音や悲鳴などがまったく聞こえない。
「…………」
神経を集中させて狙いを定めるウォルフ王子。
飛び込むタイミングを狙う侵入者。
まったく動けぬまま、約六十秒が経過する。
「!」
先に動いたのはウォルフ王子であった。
非常用に持っていたフラッシュグレネードを
放り投げたのである。
ビカッ!
「ぬう!?」
凄まじい閃光と爆音が周囲を包む。
城の人員の悲鳴が一部聞こえたが、それ以外の声が聞こえた。
その声が侵入者で間違いない。
ちょうど折りよくブレーカーを誰かが再度入れたようで、
照明の全てが点灯、
ニンジャらしき者が見えた。
「腕前は認めますが、一人とはいささか無謀でしたね!」
ウォルフ王子が一撃を叩き込もうとするのを
敵ニンジャはかろうじて回避。反撃姿勢を取るが、
そこへ
マリー=ジーニアスの率いる作戦部が到着した。
一般兵士が主だった人員だが、マリーの実力は本物である。
もはやこのニンジャに勝ち目は無いだろう。
すると、ニンジャは初めてまともに口を開く。
「我の……実力……認める……か?」
異様な片言である。違和感と威圧感が半端ではなかった。
低く、野太く、恐ろしい声色である。それに加えて
鬼瓦のような独特な仮面も、他人の恐怖を増幅させる。
「何を今更!」
問答無用で斬りかかろうとするマリーを、
ウォルフ王子がとりあえず止めておく。
「王子、何故止める!?」
「あなたは本気ではありませんね?
何か目的があると見ましたが、真意を聞きましょう」
何か要求があって、ここまで来たのだろう。
それを察してウォルフ王子は訊いたのであった。
「我……名前……
ホムラ=クロカゲ……
ニンジャ……ギルド……所属!!」
「クロカゲさんですね、ご用件は?」
「我……
勇者軍……入りたい……入れろ!
実力……認めさせる……だから……忍び込んだ!」
「分かりました。では手続きを行いますので、人事部から人を呼びます」
「本気か、王子!? こんな危ない奴を入れるのか!?」
マリーは制止しようとしたが、
それをウォルフ王子に再度止められた。
「実力は本物ですよ、マリー。
このように癖のある人は入れておいて損は無いと思います」
「……確かにそうかもしれんが……すぐには信用出来んぞ。
それでなくてもロブという頭痛の種を抱えているのだ」
「まあ、様子見といきましょうか。
彼が何らかの差し金で来ているのか、そうでないのかは
人事部が聞き出してくれると思いますから」
あくまでストレートな意見のみを通して、
ウォルフ王子は、ようやく自分の玉座に座った。
が、ウォルフ王子は早速がっくり肩を落とすことになる。
志望動機はこういう事らしい。
『出来るだけ世俗から隔絶された世界でひっそりと暮らしたくて、
フレックスタイムで勤務出来て、なおかつ自分の修行の成果が
存分に発揮出来るであろう場所が欲しかった』からだそうである。
これを聞いて、マリーなどは膝から崩れ落ちるほど脱力した。
「そ、そんなアホな理由で勇者軍に……」
「ここは……勇者軍は修羅の生きる道だぞ。馬鹿か、奴は……」
こういった両者の態度も、勇者軍の任務内容を考えれば
無理からぬことだった。いくら自衛目的とはいえ、
超強敵とばかり戦うことが多いのだから、当たり前である。
ともあれこれだけの実力を示した者を
無下に追い返すわけにもいかず、
ホムラ=クロカゲは勇者軍情報部の人員として採用となった。
その後、彼はひっそりと誰にも気付かれずに出勤して、
誰にも気付かれずにマイペースに仕事をこなし、
誰にも気付かれずにひっそりと退勤するという生活を送るが、
勿論、非常時には出撃する事になる事は確実な人員となる。
しかしまあ、それはまた別の話である。
一方でウォルフ王子はマリーと共に、いよいよロバート達一行を
追撃するための部隊を編成し、出撃準備を始めるのだった。
一応、マイペースでもいいのでクロカゲも共に出撃する予定が入る。
彼は嫌がってはいなかったが、少々面倒そうに了解してくれた。
そして彼は、
エリック=ルストとの合流を急ぐ――
最終更新:2012年08月25日 23:31