第四章-第三幕- 狐が如しカイト
「やあ、来たね。みんな」
何やら朗らかな笑顔で一同を出迎えるカイト。
その様子に、ジト目で見つめるロバート。
「やあ、君がロバートだね?」
「あんたがあのカーティスの子孫、カイトか。
一度会ってみたかったんだ」
「ははは」
本を畳んで立ち上がるカイト。
「僕は子孫と言っても拾われっ子だからね。
ワイズマン家の慣習なんだけど、知らないかな?」
「……そうなのか?」
「いや、本当に知らなかったんですか?」
ロバートの問いに呆れてツッコむウォルフ王子。
「そんな事はどうでもいいんだ。あんたはこれについて、
何か感銘を受けたりしないのか? カイトさんよ」
そう言ってロバートが取り出したのは、
カイトの遠い祖先である、カーティスの著書だった。
当時の
勇者軍に対する彼の立ち位置などを記した自伝であった。
これには彼が反逆者であったこと、
その状態から再度勇者軍に迎えられ、以降尽くしたこと、
反逆者であった独自の経験から常に重宝されたことなど、
後の世の若者のための指針として名高いヒット本である。
だが、読む事無く、カイトはその本も返した。
「今更読む必要は無いよ。僕も読んだことがあるからね」
ニコリと微笑むカイト。
「僕としては、この本から感銘を受けることはないよ。
僕の座右の銘は『安全第一』だからね。
反逆なんて危ないことはしないに越した事はない。
でも君は違う。僕とは違うからね。そうだろ?」
「俺の反逆は……する必要があると感じるからだ。
惰性で生きていれば、きっと、俺は堕落する」
「ならば君はそれでいいんじゃないかな。
……あるいは、君は不満かもしれないけど」
「いや、いい。絡むようにして悪かった」
素直に頭を下げるロバート。
「ロバートさんが謝った……」
その光景に驚いたエナ。彼女の知っているロバートは
そんな事をしそうには見えないからだった。
とりあえず進路は旧
シャンゼリー王国領内、
カルナード港へ。
深度800メートルほどを保ったまま、巡航速度で移動開始した。
カイトは、何やらロバートと楽しげに話している。
「ロバート、悪いがそのマントを見せてくれないかい?
君の趣味のものだと思うが、僕も気になる」
「おお、このセンスが分かるのか。
いやぁ、あんた粋な男じゃねぇか」
「来る者拒まず、去る物追わずでニュートラルに、
粛々と任務遂行していると、面白みが無くてね。
こういう物は好きなんだ。あと歴史書とかもね」
「いい趣味じゃないか」
「そうかい?」
何やら意気投合したようである。
ロバートなりに、何か感じ入るものもあったのだろう。
憧れていたカーティスの一族とあれば、無理も無い。
「にこやかな人ッスねー」
レオナが感心するが、ローザとエリックが首を振る。
「あれはポーズだ、新入り」
「あれで恐ろしく計算高い策士だからな。
未来でも予知してるんじゃないかとたまに思うぐらいだ」
「そうなんスか?」
「さっき、俺がシアンナイトに襲撃された話をしただろ。
俺を市街地の外に誘導しつつ、外部操作型の誘導
ミサイル8発を
全弾、奴に向けて叩き込ませる準備をしていたんだ。
最終的に8発とも命中している。俺への被害は無しで、な
ぶっちゃけて言うなら、俺は敵に回したくない。あんな腹黒は」
「……人は見かけによらないモンなんスねー」
「まあ、味方への人当たりはいいしな。敵に回すと怖いけど」
エリックも嘆息する。
マリーはクロカゲと話していた。給料の話だ。
「お前は……この船に乗っている間の全ての時間に対して
給料を請求するつもりでいるのか? 流石にあつかましいだろ」
「我……寝る……時間……給料……省け……!」
「……まあそれなら構わんのだが」
「使い道の無い……金……忍び……無用!」
「わ、分かった」
圧倒的な迫力にちょっと引くマリーであった。
ウォルフはエナと話している。
「ところでこれから探す予定のアンリエッタ王女って、
一体どんな人なんですか? 知っています?」
「いや、私も知らないんですけど……
まだ年端もいかない少女らしいですよ」
「亡国の王女ですか……大変ですねー」
実際、そのアンリエッタ王女と会ってからが
大変だという事を、この時点のエナに知る術は無かった。
そして、そのまま2日経過。
カルナード港近海まで到着したブルー・ワイズマンは浮上、
速やかに接舷の準備に入るのだった。
シャンゼリー王国は滅び、新たな国家が始まる。
だがその新国家も既に亡国への道を辿ろうとしているとは、
誰も予想していない状況の推移であった事だろう……
最終更新:2011年12月10日 21:02