第九章-第五幕- 残されたままの謎
勇者軍は、白虹騎と呼ぶ馬に騎乗した
ホワイトナイト相手に、
隙の無い攻撃を連続で叩き込まれ、攻めあぐねた勇者軍に対し、
カイトが事態の改善を促すべく、一時撤退の構えを取った。
だが、ホワイトナイトはそのカイトを逃がすまいと、
今にも全力疾走の構えを見せ始めていた。
「カイト、逃げるんなら早くしろぉーッ!」
エリックもまた必死に叫ぶが、本人は聞こえているのかいないのか、
時々足を止めて振り返りながら戦場を離れようとしている。
「遅いわ!
フラッシュ・アサルト!」
ホワイトナイトは奥技の構えを取り、武器を銃に換装し、駆ける。
乱射して勇者軍を牽制しながら、カイトへと一直線に走る。
「止めろぉーッ!」
マリーも言いながら接近するが、初速が違いすぎた。
既に追いつこうかというタイミングで、またカイトは振り返る。
「かかったね」
誰にも聞こえないような小さな声で、彼は呟いた。
「死ねぃ!」
ホワイトナイトがカイトを射程圏内に入れた瞬間――
ばごん!
特注の捕縛用対人地雷が炸裂した。ネットが展開される。
白虹騎が足をもつれさせ転倒、ホワイトナイトが投げ出された。
「所詮は匹夫の勇、よく頑張ったほうだけどね」
と、カイトは初めて武器を取り出して、白虹騎の首を斬り落とす。
すると鎧も、鎧の中身も黒いゲル状の物体と化し、やがて飛び散る。
散り際までも不気味極まりなかった。
「機動力と攻撃可能範囲が問題なら、どちらかを削げばいい。
それでこちらの勝率はグンと跳ね上がるだろうからね」
「よくやった、カイト! 流石の腹黒だ!」
ようやく追いついてきたマリーがカイトを誉める。
「うーん、腹黒はひどいなあ」
と、カイトはただ苦笑いした。
「ちいっ、小賢しい!」
ホワイトナイトは転がっていたが、すぐに起き上がり、
白虹騎を使うことをようやく諦め、ロバートを狙う。
とにもかくにも
リーダーを討たねば
戦況が変わらない、と見ての行動だ。
「せっかくの切り札も策一つでおじゃんか! ざまぁ見ろ!」
「おのれぇッ!」
ホワイトナイトは
マルチプルブリンガーを剣に換装し、
真っ向からロバートの剣と打ち合いをする。
基礎スペックも優れているだけに、競り合いは互角以上で、
ロバートは少しずつだが押されつつあった。
「我々は飲み込んだ相手の能力を己が者とする事に長ける!」
「ンだと!?」
「
グリーンナイトが
ルスト家の家宝を使えるのも!」
がつん!
深く踏み込まれ、ロバートが怯む。
「
イエローナイトが
ジーニアス家の秘技を使えるのも!」
どごす!
キックが叩き込まれ、ロバートはかろうじて受け身を取る。
「
ブルーナイトが
ストレンジャー家の剣技を使えるのも!
他の勇者軍
メインメンバーに伝わる家宝を使えるのも!
アンバーナイトが色々多数の技能を保持しているのも!」
更にホワイトナイトが踏み込む。
「全てはこの特性故の事だ! 貴様等を倒して、
貴様等のその優れた力も我が物にさせてもらう!」
「させませんよ!」
ウォルフ王子がロバートに加勢する。
「んな事を聞いちゃますます見逃せねぇんだよ!」
ローザがホワイトナイトを叩き伏せた。
「ぬぐっ、邪魔をするな! ロバート、貴様を食わせろ!
貴様を食えば、より我々は強くなる!!」
「ロブ、食われてはならぬのじゃ!」
こっそり持ち込んでいたありったけの魔道書を開放し、
多数の攻撃呪文が叩き込まれる。
畳み掛けるように、マリーが、クロカゲが、エリックが、
レオナが、エナが、攻撃を仕掛ける。
おかげで拘束しようとするホワイトナイトの手から、
かろうじてロバートは逃れる事に成功した。
「すまねぇ、助かったぜ……!」
「おのれ、やはり正攻法では歯が立たんか!」
残ったエネルギーを使って、再び白虹騎を生み出す。
「フラッシュ・アサルト!」
またも魔力弾を機雷代わりに生み出す。
「エナ君、
リフレクトフォースは使えるかい?」
「あっ、はい! 覚えたてですけど……!」
「ならありったけの魔力を使ってもいい。
出来るだけ多くの味方にかけてやってほしい。
エリックさんも、出来れば頼めますか?」
「おう……消耗はきついが、やるぞ!
リフレクト・フォォォォォス!!」
二人は対魔法用結界『リフレクトフォース』を展開する。
前衛のメンバーの対魔法能力が一気に引き上げられる。
並大抵の魔力弾などものの数ではないだろう。
「あれだけの魔力弾の数だ。きっと一発一発は弱いはず。
リフレクトフォースを使えば、問題にもならないだろうね」
「よし、一気に行くぜぇ!」
囮に使っていた魔力弾を無視できるようになり、
今度こそ決定打に等しい戦況変化を与えたカイト。
次々とメンバーが雪崩れ込み、袋叩きに遭うホワイトナイト。
「ここまでだな、ホワイトナイト!」
「おのれ……おのれぇぇぇッ!」
「俺を怒らせた事を死んで後悔してやがれ!
封神封魔流・攻の秘剣!
四大精霊元素爆裂剣!!」
ぼごぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
全員が離脱した瞬間に炸裂する。真なる必殺技が、
遂にその頑強な鎧を叩き割り、中身に直接ダメージを与えた。
決定打になり、遂に中の黒いゲル状の何かは動かなくなった。
「ぐ……ぬぬ……!」
あれだけの猛攻を受けて、ようやく動かなくなった
ホワイトナイトだが、中身はまだ喋る。
「もう少し力を蓄える時間が与えられていたなら……
勇者軍とて……相手にならなかったであろうものを……
だが、忘れるな……我々の脅威はまだ終わらぬ……
我々の死が、新たな乱の引き金となろう……
それが終わる時、生きていられるとは思わぬ事……だ……!」
ぶじゃッ!
不気味な音を立てて、ホワイトナイトだった
黒いゲル状の何かは飛び散り、消えた。
「よし、やってやったぜ!」
剣を鞘にしまうロバート。歓声が上がる。
「全員、無事ですね!?」
一応分かってはいるものの、点呼を取るウォルフ王子だった。
「いやあ、本当に疲れたッス!」
賑々しく、しかし爽やかに汗を拭くレオナ。
「でもアレ、
惑星アースの生き物じゃないってだけで、
結局何なのかよく分からなかったッスね。
まだ続く、みたいな事も言ってたみたいだし」
そのレオナの言葉に、エナが軽く震える。
「まだあんなのが続くんですか……」
少々怯えるように震える。ついしばらく前までは
戦うことすら想像していなかった身では仕方が無いだろう。
「心配するんじゃねぇ、エナ」
ロバートはマントを使ってエナを抱き寄せる。
「ひゃっ?」
「貴様には仲間がいる。普段は争い、いがみ合っていても
味方にすればこれ以上無いほど、すげぇ頼もしく、
敵に回せば地獄を見るほど恐ろしい仲間がな。
怯える事は無い。貴様は反逆する事を知ったんだ。
これは貴様の反逆の成果だ。胸を張れ。咲き誇れ!」
「はい……」
何やら嬉しそうに、エナが呟いた。
マリーがそれを悲しそうに見るが、言葉には出さない。
「よし、じゃあまずは
ダイギン城の城下街に戻ろうか。
一泊して疲れを癒したいし、事後処理もある。
何より、市民達が不安にかられていないかが気にかかる。
なにせ、王国の花も実もは滅びてしまったからね……」
「そうね。まずは全てをあるがまま、民に伝えなければ。
それが
シドミード王国の臣としての最後の仕事かしら」
今まで黙って静観していたアイゼンカグラもようやく前に出る。
怪我も軽くなく、前線に出なかったのは正解だっただろう。
「よし、転進だ! 進路、ダイギン城!!」
「了解!」
ローザの元気な声に応じ、一同、歩き始めた。
だが、もう少しだけこの乱は続く。
乱というほどのものでもないのだが、
争いの当事者が当事者だけに、穏やかで済むはずもなかった――
最終更新:2011年12月11日 20:49