第2部 序章-第一幕- 魔神王教団
勇者軍主力部隊と、
ダイギン城付近にて
シドミード王国軍が決戦を繰り広げていた頃、
世界中の誰にもほぼ知られていない区域の地下、
巨大な施設で宗教秘密結社が本格的に動き始めていた。
そも、宗教という概念自体がC・C時代の
惑星アースに無く、
設立した本人も当初は宗教にするつもりはなかったのだろう。
だがその目的や本質を追求するにつれ、次第に宗教じみてきた。
その名は『
魔神王教団』という。
その教義は、惑星アースそのものの守護者である魔神王を
出来るだけ速やかに復活させ、かつ魔神王の意に添うように、
大地を豊潤たる存在にする事。そして最終目的として
魔神王の手によって完全管理された惑星アースで、
人類が穏やかに暮らす、というプランを達成する事であった。
まず、その第一目的である魔神王の復活を果たすため、
一度消滅した魔神王が次に復活する時期を
正確に予測せねばならず、
それが可能であろう高い技術を持った者を彼等は欲していた。
その最たる存在、教皇
エッセ=ギーゼンと名乗る赤毛の女性の前に、
一人の小太りの男が拉致され、連行されてきたところである……
「ひぃぃっ、お前達、俺をここに連れてきてどうするつもりだよぉ!?
金なんか無いからな! 誘拐したって無駄なんだぜ!?」
完全に顔が引きつっている小太りの男。
それを無視して、教皇エッセ=ギーゼンは諭すように言う。
「
ターレット=チャックだな。我々が用があるのは金などではない。
お前自身と、お前のその技術を高く買おう、どうか?」
それを聞いて、ターレットは更に顔を引きつらせる。
「帰してくれよ! 俺こんな所で働くのなんか嫌だぜ!」
「ゲイリー」
傍にいた体格の大きな男に向かって、名前呼びだけで指示を出す。
ゲイリーと呼ばれた男はターレットに近付き、無言で殴り倒す。
「ふごっ!?」
「答えはYESか、OKだ。いいな?」
有無を言わさない言い草で、更にもう一回腹部を蹴る。
「うごっ……! だ、誰が手前ぇ等なんぞに……」
それでも逆らうターレットに、ゲイリーは呆れ顔だ。
「任せていいか、サキ?」
拷問は専門外と見えて、サキと呼ばれた少女に丸投げするゲイリー。
「これで従わないなら、死ぬしかないぜ、あんた」
ザシュッ! ズバッ!!
「ぎぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
耳をつんざくようなターレットの絶叫に、
エッセ教皇の横にいた少女が、露骨に顔をしかめる。
「慣れろよ、イノ」
「ソル……駄目……私、苦手……こういうの」
イノと呼ばれた少女は目をそむけ、ソルと呼ばれた男性にすがりつく。
どこか保護者と被保護者の関係を彷彿とさせた。
「やってもらう事は単純だよ。ターレット君。
ここの機材の整備に加え、もう一つ。
君の技術の髄を尽くし、この惑星アースの魔力の流れから、
魔神王復活までの期間の予測をしてもらおう……
それも、出来るだけ精密なものを、な。
それが嫌なら、君はここでそこの少女の鎌の餌食だ」
そして、後ろに建っている墓の群れを顎で示す。
「そしてそこの哀れなる骸共の仲間入りだ。返事は如何?」
「わ…………かった……だから……殺さないで……」
息も絶え絶えのターレットに対して、エッセ教皇は
ソルに、無言で連れて行くように指のみで指示する。
ソルも、一応は気遣う素振りをしつつも、冷徹に連れて行く。
それが自分の役目だとしっかり分かっているからだ。
「……彼の腕は治癒して差し上げないのですか?」
睨むようにエッセ教皇に訴えるイノ。
「イノよ、そなたは優秀だが、情に流されすぎる。
我等が悲願、魔神王による人類の永遠の楽園と平穏のため。
それに腕は義手を渡そう。武器としても使える優秀な義手だ。
このために、わざわざ特注したのだよ……ふはは……!」
斬り落としたターレットの腕を、サキから受け取ると、
墓の群れに向かって放り投げた。
後ろで作業員と思しき者達が土を掘っている。
さっそく、ターレットの腕を埋めてしまおうというのだ。
「これでまた少し、大地が豊潤となろう……
イノ、この世に無駄な行為などない。分かろう?」
「はい……」
しかしそれでも不愉快そうに、イノは顔をしかめる。
「ふふ……イノは本当に純粋な子よな。
君を子供のままに埋めず、育てて我が右腕としたは
我が解が如何に正であるかという証明よ。
我が悲願、達成し暁には、君のような子や、我々こそ、
魔神王に祝福されし子として、真っ先に安らぎを得るべきだ。
そのためならば、誰を何万人犠牲にしようが、構わぬ。
何故なら、我々魔神王教団はこんなにも努力しているのだから。
我等が母なる惑星アースと、魔神王様のために、な」
「しかし、贄は誰でも良い、というわけではありません。
エネルギー量が高く、かつ勇者軍に関わらない者でなくては。
でなくては、たちどころに我が教団は潰されてしまいます」
ゲイリーは半ば、怯えるように言う。
「違うな、ゲイリー。むしろ奴等の
リーダーを……
今、確か外で戦っている
ロバート=ストレンジャーとやらを
人質に取れ。筆頭が人質とならば、奴等も迂闊には
手を出せまい。それで後は、我等のやりたい放題だ。
それに、勇者軍に気付かれなければ、あの勇者軍のリーダーを、
そのまま大地の栄養分とする事も可能だ。なんと魅力的か」
それは、埋めるという事であった。
その空恐ろしさに、ゲイリーは内心戦慄するしかなかった。
「可能でしょうか。確かに単独行動を好む輩と聞きます。
ですが今は軍事行動中にて仲間も大勢おります。
それに、勇者に勝てる人物などいますか?」
ソルは、ターレットを処置室に運び込んで、戻ってくるなり言う。
「別に今すぐでなくとも良い。単独行動を好む輩なら、
いずれ一人になる好機もある。手段が問題だがな……」
「……私が行きます」
イノが申し出た。
「イノ、手前ぇ小娘のくせにしゃしゃり出るんじゃねぇ!」
「私一人が外の世界も知らないのに悲願を達成するなど出来ない。
私は、外の世界を知る必要がある……それに私とあなたが
手を組めば、ロバート一人ならどうにかできるかもしれない」
「そ、そりゃあそうだけどよ……」
思わぬ正論にたじろぐゲイリー。
「悪い、ゲイリー。連れて行ってやってくれないか?」
ソルも頭を下げて頼む。もう完全に保護者にしか見えない。
「わーった! わーったよ! その代わり上手くやれよ!?」
「分かってる……親衛隊長イノ=ヘレティック、出ます」
イノはエッセに向かって敬礼する。
「行っておいで。私も少し一人になりたかった。ちょうど良い」
「まずはロバートの監視だ。遠距離から行うぞ!
情報収集も怠るな。奴が一人になるまで、我慢だ!」
「ええ」
ゆっくりとイノとゲイリーは去っていった。
「大丈夫なのか? ソル」
「大丈夫だ、サキ。イノの腕は知っているだろ」
「そうじゃない。ゲイリーの過剰独断」
「……だからイノなんだ。いいお目付け役だろうが」
「……そうだろうな」
「はっはっは……! 愉快な組み合わせよな。座興よ」
二人の会話を聞き、愉快そうにエッセ教皇は笑う。
自らの玉座の後ろに建っている血の海と墓の山を見て。
地下にこれだけの施設を作ることも狂気じみているし、
宗教はそもそも惑星アースで違法の存在であるが、
それだけでは済まないドス黒い怨念と瘴気が、
この地下施設には渦巻いていた。
まるで近付くたびに、教皇エッセへの復讐を
誰かに懇願するかのように――
幾百、幾千の救われぬ魂達が泣き声をあげる。
どうせ滅びるなら、この地下組織ごと滅ぼせ、と。
だがその怨嗟の声がエッセの力をより強くする。
それが、皮肉という事なのだろうか。
時はC・C3537。
シドミード王国が滅びた当日。
事態は勇者ロバート及び、勇者軍本人の知らぬところで、
勝手に進行し始めていた。彼等は戦いを終え、
各々の休息に移ろうとしていたのに――
最終更新:2012年03月11日 20:53