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第十六章-第二幕- 身の置き所





ソルがターレットを降し、説得する直前の時刻、
イノは分断された隔壁を何とかしようと四苦八苦していた。
だが隔壁は容易に破壊出来ず、砲撃を駆使しても
打破するには結構な時間を覚悟しなければならなかった。
まったくもってよく出来た隔壁である。
「一人になるのを待っていたぜ、イノ!」
突如として、ゲイリーが天井から急襲をかけてきた。
弭槍で斬りかかってきたのである。
「!」
イノは強引な態勢で回避する。
そのせいでゴロゴロと無様に転がる事になったが、
何とか一の太刀は回避に成功した。
すぐさま砲斧を砲撃モードから斧モードに戻す。
「ゲイリー……!」
「イノ、今ならまだ間に合うぜ。
 悪い事ぁ言わねぇ。ここは最後のオアシスなんだぜ?」
「血生臭く、陰気で、命令を強要されるここがオアシス?
 無理ね。私には、もうそうは思えなくなってしまった」
「確かにそうだが、ここには動乱の気配は無ぇんだよ。
 少なくとも、表面上は平和だ。教皇の庇護を受けてりゃ、
 少なくとも動乱に巻き込まれる心配は無ぇんだよ!」
ゲイリーが激昂して言う。
彼なりにイノの身を慮っての事であろうが、
内情を知っているイノには、むしろ彼は哀れに見えた。

「俺は他人になりすまして敵国に潜入する任務をしばしば行う
 スパイとして活動していたんだ。そこでは様々な策謀や陰謀、
 とにかく汚い事が渦巻いていやがった……
 俺達の暗躍の甲斐も無く、俺の故郷では動乱が絶えなくてよ。
 俺はそれに絶望して魔神王教団に入信したんだ。
 魔神王教団でもやる事はそう変わらなかったモンだが、
 決定的に違うのは人間の支配でなく、魔神王の支配を
 教皇が目指していたことなんだよ」
一度武器を収めて、ゲイリーは話を続ける。
とりあえず即抹殺という流れではなさそうなので、
イノも大人しくそれに従った。
「魔神王様が人間社会を支配してくれるなら、
 それはそれで強圧的であっても平穏が来ると信じたからだ。
 お前もそれを信じて一緒に戦ってきたと信じてたんだがなぁ……!」
「ゲイリー、哀れな人……」
「俺のどこが哀れだってんだ。あぁ?」
どこか気だるそうに応答するゲイリー。
「あなたの元々の気質がそうさせるのかは知らないけれど、
 あなたは教団内で独断行動を取り過ぎているわ。
 親衛隊長だからこそ閲覧できるデータもあったの。
 あなたは……残念ながら粛清候補に挙がっている」
「なっ!?」
驚愕の事実にゲイリーは言葉を失う。
「他にはターレットなどもいた。もちろんロバートも。
 私はたまたま載っていなかっただけ。
 調子に乗っていたら消すぞ、っていう意思表示なのね。
 私が反抗しないように、わざとそれを見せていた節があるの」
「馬……鹿な……! 嘘だ!」
遂に本気になって弭槍を構えるゲイリー。
イノも砲斧を構えて応戦態勢を取る。
「イノ、冗談も大概にしな!」

ゲイリーは弓で一方的に射る。
イノは斧を盾に、砲撃で反撃を行う。
「おらぁ!」
それにも怯まず、双方激しい射撃戦が展開された。
「……くっ……!」
威力はともかく、斧盾を構えながらのせいで、
狙いがロクに定まらない。防御をかなぐり捨てて
精密射撃にこだわるゲイリーの方が有利のようだった。
「まだだ! ステッピングアサルト!」
巧みなステップを織り交ぜつつ、一気に距離を詰めるゲイリー。
至近距離で直撃を食えば、相当な痛手になるだろう。
そのまま射撃とステップを繰り返しながらゲイリーが接近。
たちまち近距離まで詰めて来た。
「でぇぇい!!」
ゲイリーが射撃をやめ、弭槍で斬りかかる。
「……ゲイリー!!」
斧盾で受けつつ、イノは砲身を床に向ける。

ずがぁん!!

「うっ!」
「ぬおッ!!」
砲弾ではなく、床からの爆風で攻撃したのだ。
イノ自身も相当のダメージを受けたが、ゲイリーはそれ以上だ。
下手に近寄ったせいで回避もままならないところへの諸刃の剣だ。
ゲイリーは負傷し、思い切り膝をついてしまった。
「がはッ……! はぁ……はぁ……!!」
「ふぅ……ふぅ…………!」
両者とも死力を尽くし、息が上がりきっている。
「私には……夢が出来つつある」
イノは、静かに口を開く。
「私が、私と近しい人を守り、教皇なんかの手でなく、
 自らの手で平穏を掴み取るための軍閥の結成。
 それこそ、第二の勇者軍とまで呼ばれるほどのものをね……」
「……しょ、正気か!?」
突拍子も無いイノの発言に驚愕するゲイリー。
「正気だから言っているの……あなたが動乱を好まず、
 自分のために平穏を得たいというのなら、私と共に来て欲しい。
 真の自由を掴み取るため、あなた自身の力で、
 あなたの身の置き所を、私と一緒に作って欲しい」
なんと甘美な誘惑であろうか。ゲイリーの発想からは
思いもよらない方向性からの誘惑であった。
「……お、俺は……」
ゲイリーは一瞬躊躇い、そして腹を括った。
「俺は、俺の身の置き所を探していただけだったんだな……
 だとしたら教皇の傍にいて、粛清候補に挙がっているのなら、
 そこは身の置き所じゃないって事にならないか、イノ?」
「私は少なくともそう思っている。あなたが今気付いただけ」
「お前の傍でそれを見出せるなら、それも悪くないかもしれねぇな。
 自分の身の置き所なんてモンは自分で作るんだって事を、
 まさかこんな年下から教わろうとは思いもしなかったぜ」
ゲイリーは愉快そうに笑う。そして交わされる握手。

「あの野郎にも謝っておかないといけねぇなあ」
「……ロバートの事?」
「だなあ。随分な事をしちまったもんなあ」
いくらかバツが悪そうに言うゲイリーに、イノは笑う。
「……笑うなよぉ」
「いえ……ごめんなさい。でも必要無い事にこだわっているからよ。
 でも、あなたの暴行がきっかけで、私も触発されたのよ。
 むしろお礼を言わないといけないのかしら、と思って、ね」
「それこそ余計な世話だ!」
照れながら抗弁するゲイリーがなんとなくおかしくて、
イノはまた少し、微笑むのだった。

「ところで、この隔壁どうにかならないかしら」
「うーん、俺にはちょっとなぁ」
困り果てたゲイリーとイノだったが、
急に隔壁が開きだす。その奥には
ソルとターレットがいた。隔壁を開けて来たのだ。
「ソル! それにターレットも!」
「おう。無事か、良かったな」
ゲイリーとターレットは気まずそうではあった。
この二人、しばしば口喧嘩を行っていたのである。
「……よう、お前も誘われたクチかよ」
「へん。臆病者の割には思い切ったモンだな」
「なんだと!?」
それをソルが必死に宥める。面倒そうではあるが。
「お前等、覚悟決めたんだろ。喧嘩すんなよ」
「いつもの私達に戻ってきたかしら」
それを見て、イノは優しく微笑むのだった。

が、依然としてロバートは分断されており、
危機的状況は脱していなかった。首謀者の彼がいなくては
脱出、というわけにはいかないのは事実である――



最終更新:2012年03月06日 16:47