第十六章-第三幕- 傀儡
隔壁で分断されたロバートは、なんとか隔壁をぶち破って、
サキ、ソルと合流しないといけないため、やや焦っていた。
が、彼の火力は本来建造物破壊に適していないため、
聖剣
エンジェルランプを酷使するわけにもいかず、
しょうがなく立ち往生していたのであった。
「……ったく、小賢しい罠仕掛けやがって……
しゃあねぇ、迂回するか?」
ロバートは愚痴を言いながら迂回路を探そうとした。
すると、天井から
サキ=ボラッシュが降ってきた。
「はぁぁぁぁぁッ!」
「っと!」
分断された時点で奇襲は予測出来ていたので、
サキの鎌による初撃を危なげなく回避してのけるロバート。
ややバランスは崩したが、第二撃を回避するのもわけない。
「ふぅぅぅ……! ふぅぅぅ……!」
また目が血走っている。明らかに尋常な状態ではないサキ。
「また手前ぇか! なんか俺に恨みでもあんのかオラ!」
「うぅぅぅぉおおおおお!!」
だが、サキは一切を聞かず、更なる追撃をかける。
「だから人の話を聞きやがれつってんだろうが!」
ロバートは何とか回避し、反撃に移る。
サキの攻撃は荒々しく、パワーも凄まじいが、
結果的に平常心を失っているであろう状態のため、
ひどく直線的で、剣を握ったロバートには容易にいなせるものだ。
もっとも剣を握っていなければいくらかは危ないかもしれないが。
「このっ!」
「ぎゃあッ!?」
サキはロバートの鉄拳により大きく吹き飛び、転倒する。
苦労して飛び回るサキの脛を殴ってやったので、
身体的な痛みは相当のものになるはずだった。
が、それを無視してサキはまた飛び跳ねる。
痛覚が途切れているかのように人間離れしていた。
「うおおおおおおおおおッ!」
今度は鎌と繋がったハンマーを叩き込んでくる。
「うおっと!」
またもや危なげなく回避するロバート。
だが、そこからが今までとは違っていた。
「……うおおッ!」
ばちばちばちぃッ!
ハンマーから壮絶に気流と火花が噴出。
ねずみ花火のように出鱈目に回転したりと、無軌道な動きをする。
「あああああああああッ!」
もちろんそのハンマーと鎖で繋がっているのは鎌であり、
それを握っているサキも、無軌道な動きを取る。
動きに規則性が無さ過ぎて、まったく読む事が出来ない。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!」
サキは更に目を血走らせて振り回されたままで突撃をかける。
「ちいッ!」
手甲でガードする構えを取ったが、サキはそれを一度スルーし、
再突撃をかけて時間差攻撃をする。
「ぬわッ!!」
まともに斬られた。幸いにしてエンジェルランプが
即時治癒してくれるので、出血だけは最小限で済んでくれた。
「……なんて厄介なんだ……!」
痛みをこらえつつ、なんとか打開策を探すロバート。
だが打つ手はあまり無い。殺さないでと
なるとなお難しい。
「万事休すか……!? いや、まだ早ぇ!」
「そうね。まだ早い」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
急に隔壁が開き、イノを先頭にソル、ゲイリー、ターレットが
ロバートを救助しに来たのであった。
「一人で無理なら四人で。それなら出来るでしょ。
人海戦術も立派な戦術よ、ロバート」
「おう、助かるぜ!」
喜ぶロバートだったが、ゲイリーもターレットも驚いていた。
「ターレットよ、サキの奴、あんな危ない奴だったっけか?」
「いやゲイリー、俺に訊かれても困るっての。俺は新参だぜ」
「いいからやれよ。お前の
リールナックルなら出来るだろ」
「分かってるよ! 狙いが逸れるから黙ってろ!」
相変わらず仲の悪い二人だったが、ソルは意見を取り纏めた。
「ターレット、要はサキを引き付けていればいいんだろ?」
「おう、ソル! やってくれんのか!?」
「まあな。イノ、いけるか?」
「ええ」
イノとソルは意見を固めた。が、その間ロバートは
ずっと攻撃されっ放しだったりする。
「いいから早くしろ! マジでどっちか死ぬぞ!」
ソルはロバートと一緒に嬲られる囮の役を引き受けるが、
ソルの姿を見ると、そもそも攻撃が躊躇われるサキ。
それはイノに対しても同じであった。
「ゲイリー、今だ!」
「分かってる!」
ゲイリーの弭槍の矢がサキをかすめる。
回避機動を取ったところでターレットが叫ぶ。
「今だ、リールナックル!」
リールナックルがサキを絡め取り、地面に叩きつける。
「あうっ! ……けほっ! けほっ!」
一瞬気を失ったようにも見えたが、すぐに意識を取り戻すサキ。
「サキ、正気に戻れ、何をやっている!」
ソルの叱責が飛ぶと、サキの顔が通常に戻る。
「……俺は何をやっていた? 何故こうも身体がだるい……?」
自分の異常性を察知していないのか、気だるげに起きる。
すると、傷だらけのソルが目の前にいるではないか。
「……またやっちまったのか」
サキは自嘲気味に呟く。
「何故だか知らないが俺は時々こうなっちまう。
味方を怪我させたり、死なせたりする事もしばしばある……!
俺の身体はどうなってやがるんだ、畜生……!!」
サキは震える声で呟く。
「この異常な環境がそうさせるのかもしれない。
サキ、あなたもここを、
魔神王教団を抜けるべきよ」
そのサキに向かい、あくまで冷静にイノは告げた。
「俺にずっと良くしてくれたあんたの言葉だ。俺は信じるぜ。
あんたのために、今は戦ってやる。頑張ろうぜ」
「ええ、一緒に戦いましょう」
がっちりと握手するイノとサキ。
「なんか随分と印象が違うんだな、あいつは」
ロバートは一人呟く。
「あっちが本当のサキなんだ。ていうか今のは何だ?
俺はあんなの見た事ないぞ?」
ターレットが恐々と話しかけてくる。
「俺にも分からねぇ。だが可能性がある。洗脳のな」
「誰にだよ」
ゲイリーも口を尖らせて加わる。
「教皇に決まってるだろう。反乱分子の処刑を
やらされているのかもしれねぇ。俺達の医療施設で
マインドコントロールを解除出来ればいいがな」
「教皇ならやりかねねぇだろうな」
ソルも概ね同意してきた。
「だが、サキ本人にそれは告げない事だ。
無事脱出出来たなら秘密裏に連れて行って、
何も知らせないまま解除してやるのが一番好ましいだろう」
「ああ」
ソルとロバートの間で意見がまとまった。
「ともあれ、これで幹部が全員参加した事になる。
後は一足先に脱出するなり、味方が来るまで耐えるなり、
かなり好き放題やれるだろう。俺としては
ここで教皇を叩いて、こんな馬鹿げた事は終わりにしてぇがな」
ロバートは言う。
「なら待つべきだろう。より多大な戦力をもって
教皇と
イグジスターを合同で潰しにかかるべきだ。
イグジスターという難物が待ち構えている以上、
俺達にとって教皇はもはや障害でしかないからな」
ソルの意見に皆が頷いた。
「泳がされていることは重々承知している。
だからこそ彼に一泡吹かせてやれるとも言える。
やるべきよ。私達の自由と未来のために」
イノが突き出した握り拳に、全員が拳を突き合わせる。
一つの目的に向けて動き出した元魔神王教団幹部とロバート。
そして
勇者軍の道も、そこにようやく交わろうとしていた。
最終更新:2012年03月06日 16:49