第十七章-第三幕- 兵は神速を尊ぶ
未だに
イグジスター識別装置を完成させきれないまま、
アンリ姫とアイゼンカグラを迎えたローザとヴァジェスは、
カイトの指揮の下、全員集合を待つウォルフ王子達の元へ急ぐ。
数時間もすると、既に人気の無い廃墟が見えてきた。
「……あれか、旧
グラード・シティとやらは……ひどいな、これは」
ヴァジェスは着陸態勢に入りつつ、その惨状に唸る。
建物はボロボロ、人気という人気はまったく無いに等しい。
「お待ちしていましたよ」
と、物陰からこっそりウォルフ王子が姿を見せる。
後ろにはエナやマリーなども一緒にいた。
「おう、待たせて悪かったな。だが味方が更に増えたぜ!」
と、ヴァジェスを指差すローザ。
「……あなたは? まさか!?」
「ちっとは勉強家もいるか」
驚愕するマリーに、頷くヴァジェス。
「頭が高いですよ! このお方を誰だと思っているのです!?
かの二代目竜王
ヴァジェス=バハムートの
ご子息にして、現竜王です!
どれだけ長い間、
勇者軍を守ってきたと思っているのです!
平伏なさい、今すぐに!! 早く!!」
慌てるウォルフ王子。それに従う一同(ローザ達は除く)。
「やめれ。俺ぁそんなつもりでわざわざしゃしゃり出たんじゃねぇ。
カレン家を守るのは確かに俺の宿命みたいなモンだが、
今回のイグジスター討伐には俺自身の事情も絡んでいやがるんだ。
それにそう気を遣われちゃあせっかく城から降りて来た意味がねぇ。
勇者軍の無礼講気質はいつもの事だ。今更気になるかよ」
と、少し意地悪そうに笑うヴァジェス。
「そ、そうですか……では、ご厚意に甘えさせてもらいます。
とにかくこれで全員が揃ったわけですね……アンリ姫、さては既に?」
アンリ姫が持っている小さな物を見つめてウォルフ王子が尋ねる。
「機材としてはほぼ完成形に近いのじゃ。
イグジスターと一戦交えれば、すぐに完成するのじゃ」
「ですか。それは幸い」
安堵するウォルフ王子。これで市民達を落ち着けさせ、
防衛体制を確固たるものにする事が出来るだろう。
「じゃが、これはわらわの力だけではないのじゃ。
そなた達が故郷から叩き出した
純血者と呼ばれる者達の助力なのじゃ」
「え……?」
エナが心底驚愕する。彼等にそんな度量があったとは思わなかった。
「以前王子が言ったとされるとおり、
人に塗れて世界を知ったのであろう。
彼等は実に協力的に技術開発に勤しんでくれたのじゃ。
おかげで、随分早くここまでこぎつけられたのじゃ。
わらわ達は、またロブの深謀遠慮に助けられておるのじゃな。
こうして、彼等が更正した様を
遠慮なく見せてもらってるのじゃからな。
無論、決定打は王子の鶴の一声であろう」
「そうですか……それは何より」
ウォルフ王子のわだかまりが、これで一つ消えた事になる。
「そうして出来たこのマスターハードを何としても守らねばならぬのじゃ。
これに解析したデータを挿入する事で、このハードは完成するのじゃ」
「分かりました、では大事に持っていて下さい。
さあ、まずはロブを救出しましょう!!」
ウォルフ王子とカイトの指揮で編成が急がれ、
シェルターに避難した市民を残して出立。
勿論、イグジスター嫌疑の晴れぬ
グロフィスも檻の中で、そのまま同行させる。
一時間ほどであっという間にクロカゲによる案内は終わり、
森林のド真ん中に建っている地下施設を発見するに至った。
エリックがグロフィスを警戒しつつ、更に周囲に気を張り巡らせる。
「……!? この気配は殺気じゃないのか!?」
「ええ!?」
レオナが驚いた時にはもう遅かった。
擬態相手を求めてだろうか。今までに無い数、
それこそローザを襲った時を遥かに上回る、数千という数の
原型イグジスターが茂みに紛れて接近してきていた。
「くっ、ロブの救出を目の前にして……!
エナさん、貴女が突撃してロブの救出をしてきて下さい!」
ウォルフ王子の指示が飛ぶ。
「ええっ、
ヒーラー一人でですか!?」
「メンバーを三人まで連れて行く事を許可します、急いで!」
「えーっと、んーっと、じゃあ頭脳労働担当カイトさん!」
「はいはい」
ゆらりとエナを護衛するように近付くカイト。
「それから道案内にクロカゲさん!」
「分かった……!」
出たり消えたりを繰り返し、
投擲でイグジスターを牽制しつつのクロカゲ。
「それからアタッカー担当で、マリーさん!」
「ジーニアスの誇りにかけて!」
一気に突撃するマリー。
それら三人を連れて、エナは半ば強引に
イグジスターの群れを突っ切る。
勿論
ソーサーは常に動いており、イグジスターを切り刻んでいる。
エナ、カイト、クロカゲ、マリーの四名は施設内に突入した。
ウォルフ王子とエリックはグロフィスの檻を入り口の蓋代わりに使う。
これで、施設内への直接侵入を防ごうというのだ。
「総員、グロフィスの入った檻を死守!
エリックさんを軸に戦います!
アンリ姫とヴァジェス王は遠距離砲撃、
レオナさんは
ナノ・マシンで撹乱!
私が指揮、ローザがアタッカー、
アイゼンカグラさんは空中支援と偵察!」
「了解!」
全員の声が唱和する。
「勇者軍
特務戦技教導隊指導要項31番<背水之陣>!
侮るなよ、イグジスター共……! 貴様等にも教えてやる!
俺達勇者軍の恐ろしさをな……!!」
絶対に退けない状況にあって、エリックはいよいよ覚悟を決めた。
イグジスターを必ず滅ぼし、息子がそうであったなら
必ず我が手で討つ、という覚悟をである。
既に千匹以上のイグジスターが交戦を開始しているが、
誰もが抗う事をやめるなど、考えもしていなかった。
そう、獄門の如き戦いは今ようやく始まったのだ。
そしてエナやマリー達は必死に駆けていた。
何の手がかりが無いながらも、ロバートに再び会うため。
勇者軍の勇気を、知を、力を、愛を、夢を、そして絆を
魔神王教団及び、イグジスター双方に叩きつけるために。
「待っていて下さい、ロバートさん……
どんな怪我をしていても、私の魔法で……!!」
緊迫の眼差しで、エナ達は必死に駆ける。
兵は神速を尊ぶのだ。故に彼等は兵器神速を掲げ、駆ける。
それはあたかも。それしか知らぬ獣の如くに。
最終更新:2012年03月11日 21:58