第十七章-第二幕- 逆撃の芽は出で、しかし未だ大輪咲かず
一人でいるところをテナントトラックもろとも襲撃され、
イグジスターに襲われ、危機に陥っていたローザは
知らずに新竜王
ヴァジェス=バハムートⅡ世を召喚。
合流してウォルフ王子達の主力部隊の元へ向かおうとしたところ、
無差別信号をキャッチし、端末を調整するのだった。
ヴァジェスは乗られたまま、端末をいじられている事に不服を感じた。
「おい、降りてからやれ。
ドラグーン化するぞ!」
「あ、ああ。分かった分かった」
ヴァジェスは力を温存するために人型形態、ドラグーンとなった。
それを聞き流し、周波数の調整に難儀するローザ。
ザザ……
わずかなノイズと共に、ようやく調整に成功する。
『ローザ、この近くにいるのなら返事をするのじゃ!』
声はアンリエッタ姫である。恐らく副官アイゼンカグラも一緒だろう。
「アンリエッタ姫、あんたも合流すんのか?」
『うむ。
イグジスター識別装置もだいぶ完成に近付いてのう。
あとは実戦でデータを取り直して、仕上げというところなのじゃ!
というわけで、ここからはわらわも合流するぞ、しばし待つのじゃ!』
「分かった、近いか?」
『座標データを送るのじゃ! こちらと照合するのじゃ!』
「おうさ」
すぐに双方の座標照合が始まる。幸運にもほど近い場所にいた。
「よし、俺達が迎えに行ってやる。見晴らしのいい場所で待ってろ」
『ローザは頼りになるのじゃ!』
『では、よろしくお願いします』
アイゼンカグラが一言締めて、通信は切られる。
「……というわけだ、分かったな、ヴァジェス?」
「おうよ。じゃあもっかい乗れ。今度こそ行くぜ!」
ヴァジェスは再度変身し、
ワイバーン形態になった。
それに乗り、二人は飛翔。一気に十五分ほど南下すると、
やたらと見晴らしの良い草原に二人の女性を確認した。
姫様的な格好と和装の秘書である。間違いない。
アンリ姫とアイゼンカグラだ。
「うおーい、待ったか!?」
「大丈夫なのじゃ! 大して待ってもおらぬぞ!」
可愛らしい声で溌剌と答えるアンリ姫。
隣のアイゼンカグラはやはり、やたら冷静だ。
「ローザはいつ、
ドラゴンナイトになったのじゃ?」
「そうじゃないそうじゃない。こいつは……」
説明しようとすると、ヴァジェスは着陸し、ドラグーン化する。
「わひゃ!?」
「……誰?」
「新竜王ヴァジェス=バハムートⅡ世だ。
お前さんも
勇者軍メンバーなら、聞き覚えは無ぇのか?」
「メゴ、ヴァジェスとは何じゃ? 教えよ!」
「このチビスケはまた授業中に寝ていましたね?
言う事聞かない悪ガキはこの場で課外授業+おしおきです」
こめかみを軽くぐりぐりしながらアイゼンカグラは淡々と言う。
「痛い痛い痛いのじゃ、やめ、やめよ! メゴ!」
「ヴァジェス=バハムートは
セレナ=カレンに恩義を感じ、
以降
カレン家の
守護竜を務めて下さっている方の事です。
この方はその二代目という事になりますね」
「分かった! 分かったのじゃ! だからやめよと言うに!!」
振りほどくと、頭を押さえるアンリ姫。
毒舌だけでなく、実力行使までするようになったようだった。
「まあそういうわけで勇者軍の最古参だ。よろしく頼むぞ、小娘共」
「分かったのじゃ! よろしく頼むのじゃ!」
「……光栄です。足手纏いにならないようにします」
ブンブンと握手する元気の良さに若干呆れるアイゼンカグラ。
「それで、識別装置ってのはどれだ?」
「プロトタイプですまないのじゃ」
アンリ姫がそれを取り出し、ローザに見せる。
かなり小さいメカだ。びっくりの技術力である。
サイズはポケットに楽に入るぐらいだろうか。
「……どう見ても完成品に見えるが」
「わらわはイグジスターと何度か接触するうちに、
人間で言う『脳波』のようなものを出している事に気付いたのじゃ。
もちろんこの
惑星アースの生物には出しえない『周波数』のものをな」
「……それに反応する装置だってのか?」
「そうなのじゃ。だがわらわの目の前にイグジスターが来ぬのじゃ。
故に、イグジスターの発する特殊超音波の解析が出来ぬのじゃ。
そのデータが解析出来ればすぐに何らかの手段は取れるのに……」
希望の芽が今ひとつ育ちきれない事にがっかりするアンリ姫。
「気にすんな。何がどうあっても奴等は必ず俺達と戦う。
その機を待つしかねぇだろう。それに必要な力を持つ
ロブが捕らわれてる事も重大な懸案事項だ」
「ロブ?」
事情を今ひとつ掴みかねているヴァジェス。
「
ロバート=ストレンジャー。俺達の隊長だよ」
「
ストレンジャー家の当主が捕らわれたか。それは確かに重大だな」
ヴァジェスはさもありなん、という具合に頷く。
「ですが、ウォルフ王子は反撃の準備中です。
我々の合流を待ち、即時動くと思われます。
また本人の生存も未だに確実視されていると……」
アイゼンカグラが口を開くと、急がなくてはならない事実を
改めて突きつけられたような気分になり、皆の顔が締まる。
「よし、全員俺に乗れ、目的地に向かうぞ!
案内はローザ、お前がやってくれ!」
「おうさ!」
全員、ワイバーン化したヴァジェスに乗ると、
一気に飛翔、凄まじいスピードで旧
グラード・シティへ向かう。
「わわわ、落ちるのじゃ!? メゴ、メゴ~!」
そのスピードに慌てたアンリ姫はアイゼンカグラにしがみつく。
「鱗を掴めばよろしいかと思います。仮にもトカゲの親玉ですし、
鱗の一枚二枚剥がれたところで大して痛くもないでしょう」
「誰がトカゲの親玉だオラ! あと痛いに決まってるだろうが!
もう一枚剥がれたんだ、これ以上剥ぐな馬鹿野郎!!」
苦情を叫びつつ、ヴァジェスは更にスピードを上げる。
「距離は大体五千キロメートルほどだ、どれぐらいで到着する!?」
「長く見積もって五時間ほどだ! くつろいでろ!」
「推定マッハ1前後の速度でくつろげる馬鹿がいるか!
戯言を言っている暇があったら飛べよな!!」
「やってるだろうがオラ!」
口喧嘩するヴァジェスとローザをアンリ姫が止める。
「二人共喧嘩はやめるのじゃ、ツレなら仲良くするのじゃー!」
あまりの騒音と風圧に、アイゼンカグラは一人顔をしかめる。
「…………やかましい餓鬼共だこと…………」
これ以上喋ると風圧で顔が見苦しい事になるので、
アイゼンカグラはそれっきりしばらく喋らなくなった。
「……くっそー、あのテナントトラック高かったんだぞ。
平和になったらあれで儲けてやろうと思ってたのに……!
勇者軍経費で何とかならねぇかなぁ……」
しばらくしてローザは大破させられたテナントトラックを惜しんでいた。
「平穏になってからなら保障システムが稼動するでしょうから、
それから総帥あるいは人事部にかけあってみてはいかがかと」
あくまで冷静に返してくるアイゼンカグラ。
「そうか。じゃあ何としてもイグジスター共を根こそぎ潰さないとな。
そんで、俺のケバブを世界中の皆に食わせてやるんだからよ!」
夢溢れる台詞を吐きつつ、大笑するローザ。
それを横目に、ヴァジェスは一人不敵に笑うのだった。
「セレナ、シオン……血は争えねぇよなぁ……
勇者軍のごはん係は未だに健在じゃあねぇか。嬉しくならあ」
そして四人は一気に海原の上へと躍り出て、
大陸をまたぎ、旧グラード・シティへ一直線に向かう。
その希望は未だ大輪を見ず。しかし確実に芽は出ていた。
後はその芽を時に慈しみ、時に荒々しく育むのみ。
ローザ達の戦いは、今から始まろうとしていた。
最終更新:2012年03月06日 17:31