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第十九章-第一幕- 散り逝く戦友(とも)に未練など無く





勇者軍主力部隊と合流するために動いていたロバート達だったが、
それ自体が敵の罠であり、分断されてしまった隙を突かれ、
地雷原に突撃する狂信者達の攻撃により、
ターレットは既に致命傷を負ってしまった。
「ターレット……しっかりして!」
イノの叫びに、ターレットはもう答えない。
心肺停止、脈拍停止、生命は途絶えてしまった。
「ふざけんな! よくもターレットをやりやがったな!」
激したゲイリーが自ら地雷源へ突っ込んでしまう。
「よせ、単独行動を取るんじゃない!」
ソルの制止も聞かず、ゲイリーは狂信者達を斬り散らす。

ずばぁぁぁぁぁん!!

ゲイリー自身の迂闊な行動により、自ら地雷を踏んでしまうゲイリー。
それでもまだ生存していたが、間も無く槍で突かれてしまう。
エナの治療を与える暇も無く、ゲイリーもまた絶命してしまった。
「ゲイリー!」
イノ、サキの悲痛な絶叫が響く。
「おのれ……これ以上やらせはせんぞ、俺の部下を!」
ソルはあくまでも冷静に、狂信者達を蹴散らした。
それがゲイリーの死に対する手向けになるからだった。
ロバートもエナも消耗が未だに激しく、態勢が整っていない。
イノやサキは、それを守るしか出来なかった。

しかし――
「うぉっ!?」
狂信者の残りの半数を単独で蹴散らしたソルだったが、
一瞬の隙をイグジスターに突かれ、丸呑みにされた。
「うぉぉらぁぁああ!」
身体のあちこちを溶かされながらも武器を振り回して
イグジスターを寸前で内部から破壊して脱出する。
その気迫に、一瞬イグジスターが怯んだ。
「ソル!」
「ふ……ざまぁ無いな。だがただでは死なん、死ねんな……!」
ソルが取り出したのは投擲用の爆弾だった。
両足を消失させられ、歩く事も出来ないソルは
その投擲用爆弾をイグジスターに呑まれながらも、
地面へと叩きつけた。

ずどどぉぉぉぉぉぉん!!

多数の敵がソル一人に密集する中、大爆発により
狂信者及びイグジスターが、かなりの数死滅した。
「ソル……!!」
イノは落涙する事も無く、ただ粛々と覚悟を決めつつあった。
自らも死ななければならないかもしれないという覚悟だ。
「魔神王様のための贄を、一刻も早く……
 エッセ教皇に逆らう者には、全て死を……」
狂信者達はイグジスター相手に防衛のために戦いつつも、
何かに取り憑かれたように呟き続ける。
ロバート達は一旦ターゲットから外れたようではあるが、
その代償に、別の脅威が顔を出す。
「う……ううッ!」
突然、唸りだすサキ。
「サキ!?」
イノが違和感を感じるが、やや遅い。
「がぁぁぁぁぁッ!」
「うおッ!?」
サキが突然、加護を受けて回復中のロバート達に襲い掛かる。
「やめなさい、サキ! あなたは洗脳されている!
 私と一緒に脱出して、大人しく洗脳を解除しに行くの!
 でなければ、誰一人生き残れなくなるのよ!?」
イノが斧でサキの鎌を防ぐ。
「ぐ……ぐぐぐ……!」
洗脳されている自覚が出てきたのか、サキの顔が苦痛に歪む。
「俺は……どうやら誰かに操られているらしい……
 悔しいのは、それが分かってもどうしようもねぇ……事だ……」
とはいえ、力は緩められている。それが彼女の、サキの抵抗らしい。
「信者の呟きに染められては駄目! 自分を保ちなさい!
 あなたはロバートの反逆の毒を浴びたはずでしょう!?」
「そう、だったな……! すまねぇ、ロバート、イノ……」
するとサキは、ロバートの方を見る。
「悪いがロバート、今から反逆をする……銃を貸せ」
その意味する事を理解はしたが、それでも敢えてロバートは承諾した。
「駄目、あなたは死ぬ気でしょう!?」
エナが必死に制止するがもう遅い。

ずだんずだんずだん!

一発は喉に、一発は心臓に、一発は胃袋に正確に叩き込まれた。
サキは銃による自殺を図ったのだ。魔神王教団幹部の
頑強極まる身体を持ってもこのゼロ距離三点急所射撃は
確実に致命傷となってしまった。
「サキ!」
「……いいか、イノ……死に逝く友に未練など無いはずだ。
 あんたは……夢を見出したんだろ……? 勇者軍にも負けない
 最強クラスの独自の軍閥を作るんだって言ったんだろ?
 ならやってみせろよ……その代わりを頼む……
 俺をこうした奴に対して、必ず……仇を……!」
そこまで言うと、イノの胸の中でサキは息絶えた。
「ロバートさん、なんで銃を渡したんですか!?」
「……それが奴の反逆だ。俺がサキの立場でも、そうする」
「……私は許しません。彼女をこうした人を!」
エナの中に明らかな敵意が芽生えた。
それはエナの中で新たな活力となり、彼女は立ち上がる。

「ソル。あなたは幼い私の父親のように振舞ってくれて、
 本当に色々な事を教えてくれた。私はそれが嬉しかった。
 ゲイリー、あなたは度々独断行動が過ぎたけれど、
 この中で誰より情に厚く、みんなに義理立ててくれていた。
 ターレット。あなたは気が小さく、本当に可哀想だった。
 だけど、隠れた才能と努力を決して惜しまない人だった。
 そしてサキ、あなたは粗雑に振舞っていたけれど、
 皆の中で一番純粋に、素直にいつも動いていた……」
イノは安らかな死に顔が出来なかったサキの目を閉じてやる。
そして、イノは立ち上がる。ロバートと共に。
「……サキの言う通り、死に逝く友に未練など無いはず。
 けれど、あなた達はこの世の誰よりも、
 誰一人残らず、私よりもよほど人間らしく生きた。
 その生命の尊厳を穢した者に、私は反逆する……!!」
イノの目は静かな殺意に揺れていた。
エッセ教皇を殺す決心に、イグジスターを滅ぼす決心に……
共に、もう揺らぎは無かった。

絶望と血と悲しみのみが吹き荒れるこの戦場、
上ではウォルフ王子達が、下ではロバート達が
それぞれの地獄を無理矢理堪能させられる事になる――



最終更新:2014年09月07日 02:16